狂兵でしょうか?いいえ、漂流者です   作:三途リバー

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Pendulum work

 

『立香ちゃん!マシュ!それに所長、サンジェルミ伯爵!皆無事かい!?』

 

「これのどこが無事に見えるの!!シャドウサーヴァントには襲われるし藤丸がイカれたサーヴァント召喚するしかと思ったら急に気絶するし現地のサーヴァントと共闘することになるし気色悪いオカマがいるし!!何ひとつとして無事じゃないわよ!!!」

 

空中に浮かんだディスプレイに向かい、オルガマリーが怒声を浴びせかけている。しかしその声音は先程までのヒリついたものとは一線を画し、子供が癇癪を爆発させたかのようなある種微笑ましいものだった。

 

『あ、あはは……いやまぁ、伯と無事に合流出来たみたいでその点は良かっt立香ちゃんが気絶!?』

 

「反応が遅いですドクター、張り倒しますよ」

 

『うわぁん、マシュが辛辣!そんな子に育てた覚えは…いや今はそれどころじゃない!立香ちゃんの容態は!?』

 

セーフポイントに辿り着いたことで僅かに気が緩んだか、はたまた通信越しとはいえ見知った顔を見て安堵したか。

一気に騒がしくなるカルデアの面々を尻目に、サンジェルミは一人眉間を揉んでいる。

 

(リツカの昏倒……疲労か、魔力の枯渇か、或いはその両方か。トヨちゃんは派手にドンパチやってたみたいだし、そっちに魔力吸われたかしらね。あっちの世界でも魔法覚えず素の能力で立ち回ってたあの子が、語り継がれたとは言え英霊になっていきなり魔力適正ぶち上がるとは思えない。十中八九Eランクでしょうね)

 

豊久は魔術の才能に劣る…というレベルを遥かに下回り、欠落していると言って過言ではないであろう。

そんな彼が離れた距離からでも分かるほど派手に魔力を放っていたのだ。

自前で賄えない魔力を、どこから持ってきたのか。

 

考えられるのは、相手の魔力を吸収したか、マスターである立香から吸い上げたかという二つに一つである。

 

彼の生前の能力、功績を鑑みるに前者の可能性は限りなく低い。恐らくは立香の昏倒は豊久による魔力の吸収が原因であろう。

 

「厄介だわね…。リツカの魔力最大容量はお世辞にも褒めれたモンじゃない。トヨちゃんがいくら強くても、一々マスター気絶させてたんじゃ世話ないわ。ぬぐぐぐ……このコスパの悪さは問題よ……」

 

なんかあっちで髭眼帯と知り合った頃から常に気を揉んでないか。

いつになったら気楽に化粧して美少年漁ってヴェルリナ二丁目に店を構えることができるのか。

 

そんな詮無きことを考えながら、錬金術師はまた一つ溜息をつくのだった。

 

「首ば奪ってきたどー!」

 

と、噂をすればなんとやら。

それはそれは清々しい笑顔を浮かべた緋武者が、ブンブンと腕を振りながらこちらへ駆けてくる。

 

「大英雄サマのご帰還だな」

 

「は”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”……トヨちゃんに事情全部説明して、やること言い聞かすのが1番めんどくさい………アンタもちょっとは手伝いなさいよね」

 

「オレが話すのか?問答無用で切りかかられるのがオチなんじゃ…いや待てアイツ鯉口切ってるやべオイ待て止まrあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえる……明るくて、賑やかで、暖かくて…私を呼んでいるような…。

 

縫い付けられたように重い瞼を無理やりにこじ開け、私はゆっくりと意識を覚醒させていく。

頭は鈍痛に襲われ、胃はかき混ぜられたかのような不快感を訴えている。それでも起きなきゃいけない。今起きなきゃ、大変なことになる気がする。ここで起きなければ、一生後悔するような────

 

「ん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局おまぁは味方か」

 

「さっきからそう言ってんだろ!!オレが言うのもなんだがテメェマジで人の話聞かねぇな!ケルトの血がどっか混じってんじゃねぇのか!?」

 

「話聞かずに自分の子供殺した男の言は重いわねぇ」

 

「ライン越えだそこの男女ぶっ殺すぞォ!!」

 

「こここ殺し合い!?嫌だやめてよちょっと、また話拗らせないで頂戴!あぁもう全部妖怪首置いてけが悪いのよ!!」

 

「落ち着いて下さい所長!今のは100%フルスロットルでサンジェルミ伯が悪いです!」

 

『そうだよオルガ、怒鳴り散らしても問題の解決には…』

 

「戦場におなご放りこんじ、遠目に見ちょっだけの弱卒(やっせんぼ)は黙っとれ」

 

『フォローしようとしたのに!?!?もしかして僕終始こんな扱い!?』

 

「喧しいですドクター、怒りのあまり通信を切りたくなる前に黙って下さい」

 

「泣くぞ!?しまいには泣くぞ、大の大人が全力で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、私呼んでるってツッコミ的な意味で?ブレーキ役的な意味で?

 

賑やか通り越して五月蝿いし暖かさ通り越して炎上寸前だし、いや確かにこれ今私起きなかったら色々手遅れになりそうだけども。

 

「あぁ!?首置いてくかてめぇ!」

 

「上等だよ杖で殴り殺してやろうか田舎モン!」

 

「殺ス!!」

 

「あーなんかなついわーあの3人の取っ組み合い思い出すわー」

 

「浸ってないでどうにかしなさいよぉ!もう誰か助けてぇ!!レフぅぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

「ッスゥ──……もう一眠りするかぁ」

 

『いや立香ちゃん起きてるよねぇ!?現実逃避(僕を1人に)はさせないよ!?』

 

「チッ」

 

不本意ながら、ほんっっとうに不本意ながら意識を覚醒させた私の目に飛び込んできたのは中々強烈な光景だった。

ドクターは半泣きだし、所長はべそかいてるし、マシュはなんかツンツンしてるし、ジェルミさんは生暖かい目でニコニコしてるし、豊久さん、は……

 

「豊久さんッ!!」

 

「おう、起きたかます……なんじゃなんじゃ、おいはおまぁのおやっどではなかぞ」

 

にっかりと笑う豊久さんの顔は煤け、汚れているが目立った傷はない。

彼の無事を確認した途端、思わずその大きな懐へ飛び込んでしまった。嫁入り前の女がはしたない、なんて言われるかと思ったけど、豊久さんは茶化すように笑うとくしゃりと頭を撫でてくれる。ゴツゴツと硬い掌は、不思議と私に安心をもたらしてくれた。

 

「ごめん、ごめんなさい…私達だけ逃げてごめん…1人だけ…」

 

「そいは()ご」

 

「えっ?」

 

短いけれど、力の篭った否定。その重さに思わず顔が跳ね上がる。

 

「大将ば守るんは兵子の責、兵子の誉ぞ。そげん兵子に大将が投ぐっ言葉は謝罪ではなか」

 

そんなことはない、命を投げ出さないで…そんな言葉をかけるのは簡単だろうが、それを言ってはいけない気がした。

それは彼自身の生き様を、英霊としての在り方を否定してしまう気がして、どうしても言えなかった。

 

「…うん。ありがとう、豊久さん。殿(しんがり)、ご苦労さまでした」

 

「うむ!恐悦至極!」

 

そう言って、再び子供のように笑顔を弾けさせる豊久さん。

 

………なんか、吸い込まれそうなくらい綺麗な笑顔だなぁ。じっくり見ると顔立ち整ってるし…体も大きいし、あったかいし、安心するし…ふざけて自分でお父さんじゃないって言ってたけど、なんかほんとにこのまま甘えてたいような……

 

『あのぅ……』

 

「ひゃいっ!?!?」

 

『仲睦まじくしてるところ悪いんだけど…そろそろ話進めていいかなぁ?』

 

カルデアに戻ったら、取り敢えずドクターをしこたま殴って記憶を飛ばそうそうしよう。

固い決意を胸に秘め、私はよろよろと豊久さんから離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして始まった作戦会議。

豊久さんが1人奮戦し、私が眠りこけていた間に結ばれた同盟の件も含めて情報共有がなされていく。

 

「アンタらの目的は特異点の修復。オレの目的は聖杯戦争を終わらせること。つまるところ、やるこた同じだ。セイバーをぶっ倒して聖杯を手に入れる。これに尽きる」

 

「そんせいばぁ以外には敵はおらんのか」

 

「汚染されてるがバーサーカーが残ってるな。まともにやり合うだけ損だ、無視してセイバー本人を叩いた方が良いだろ」

 

ここで私と所長、マシュが目を見合わせる。

若干一名、嬉々としてそのバーサーカーの所へ突っ込んでいきそうな人が荒ぶるのを心配したのだが…

 

「ほうか。雑兵にかまけて大将首ば逃がすんは愚の骨頂、向こうが来んならそいでよか」

 

意外や意外、豊久さんはすんなりとバーサーカーのシカトに賛同した。まっさきに「そいつの首も纏めて取る!」とか言いそうなのに。

 

「ないだァ、そん狐につままれた面ァ!」

 

「いやだって…ねぇ?」

 

「島津さんは戦場の命を全て刈り取らねば気が済まないタイプかと…」

 

「バーサーカーもどぎがまともなことを…」

 

「ばぁさぁかじゃねぇって言ってんだろ!()()()()()じゃ、どりふたぁ!」

 

「自分の能力も分かってない猿頭英霊なんてバーサーカーもどぎで充分よ!」

 

エクストラクラス、漂流者(ドリフター)

本来聖杯戦争に喚ばれる七騎に該当しない特例が、豊久さんのクラスだという。

 

私は勿論のこと、マシュや所長、果てはドクターまで聞いたことも無いかなり珍しいクラスらしい。いやまぁ魔術師が知らないのも中々厄介だけど、同じサーヴァントのキャスターすら心当たりないってどういうことよ??

 

実際どのような特殊能力を持っているのか所長が問い質したところ、

 

『英霊ち大層なもんになって喚ばれるんは初めてじゃっで、おいもわがんねぇ』

 

とのありがたいお言葉をご本人から頂きヒステリーが再爆発したのはまた別の話。

 

纏めると、現状分かっているのは以下の点。

 

その1、豊久さんは近接メインの中距離ギリギリ。

その2、単独行動可能、ただしその際の魔力は(マスター)から自動吸収(と思われる)。

 

どっしり構えて大技ぶちかますというより、突っ込んで敵を掻き回すといった遊撃戦法が豊久さんの持ち味のように思える。

私達をひとつのパーティとして見ると、正直マシュとの相性が悪い。

無い知恵絞ってわたしが考えていたのは、マシュに矢面に立ってもらっている隙にアタッカーが魔力を貯め、チャージ完了と同時にマシュが退いてブッパという脳筋戦法。

縦横無尽に駆け回る豊久さんをマシュがかばいながら戦うのは相当無理があるだろう。

 

しかしそれ以前により大きな問題がひとつある。

 

「あそうだトヨちゃん、アナタちょっと魔力セーブなさい」

 

「あぁ!?」

 

「いやそれについては面目次第もありません…」

 

そう、1番の大問題はこれなのだ。

豊久さんの力を十全に引き出すには、私の魔力量が貧弱すぎるという致命的な問題。ドクター曰くカルデアとの通信が安定し、私との間により強固な魔力パスを流せれば解消の目があるらしいが現状それは難しい。

ロクな準備も出来ずに飛ばされたこの特異点では、カスみたいな元々の私の魔力でどうにか賄うしかないというわけだ。

 

「アナタが張り切りすぎてリツカがいちいち倒れてちゃ世話ないでしょ。幸いこっちには原初のルーン持ち魔術師が付いたんだから、トヨちゃんが張り切って宝具だのなんだの使わなくても中遠距離はカバーできるわ」

 

「ま、そこらへんは専門職にお任せあれってな。お前がシャドウサーヴァント共を片っ端から潰してったおかけで、こちとら殆ど消耗しちゃいねぇのよ」

 

「ないごてみすみす手柄ば譲らねばなんねぇ!?」

 

なおも言い募る豊久さんだが、私が頭を下げまくったことでなんとか納得してくれた。ほんとごめんなさい…へっぽこマスターですいません……

 

 

「それにしても…バーサーカーもどぎは全力を出せず、キリエライトは宝具を使えず。正直かなり厳しいわね……」

 

「っ…」

 

『オルガ、君はただでさえ人に誤解を与えやすいタイプなんだからもっと言葉を選んだ方がいいよ。……まぁ状況が厳しいという認識には、正直賛同せざるを得ないけども』

 

「あに死体蹴りしてんのよ、これだからモテないのよ独身アラサー童貞は」

 

どどど童貞ちゃうわとドクターが絶叫し、所長が不潔だ最低だと喚き散らす中で、マシュはやはり拳を握り締めて震えていた。

 

「マシュ…」

 

何か言葉をかけなければ。そう思うが、想いは喉に詰まって出てきてくれない。

 

結局、喧騒の収拾が付かなくなったことでその場はお開きとなり、夜明けの出発まで休息と相成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊脈からほど近い、半壊した校舎。セーブポイントとして選ばれたその屋上で、マシュは1人立ち尽くしていた。

 

「ここにおったか」

 

「島津、さん……」

 

ズンズンと歩み寄り、隣に立つ偉丈夫。マシュは無意識のうちに、彼に羨望の眼差しを向けていた。

 

「本日はお疲れ様でした、島津さん。お見事な武働き、私も見習わなくてはと…」

 

「何を焦っちょる」

 

前置きも探りも何も無い直球。

優しさや思いやりというより、本当に疑問だけで聞いているかのようなその無遠慮さがかえってありがたい。

くすりと笑みをひとつ零すと、マシュはぽつぽつと心中を吐露し始めた。

 

「自分が不甲斐ないんです…道を切り開く力もなく、マスターの守護すらままならず…挙句の果てに英霊としての本分である宝具すら使えない…」

 

曰く、英霊が築き上げた伝説の象徴。

曰く、サーヴァント達の生きた証。

曰く、その解放は伝説の再現。

 

そんなサーヴァントにとっての「当たり前」をマシュは使いこなせない。

デミ・サーヴァントだからとか、力を譲渡してくれた英霊の名が分からないからとか、事情は諸々あるのだがそれを一切口に出さなきあたりマシュの生真面目さが見て取れる。

 

「島津さんに比べたら、私は先輩や皆さんの重りになるばかりです。この身の価値は……」

 

「阿呆抜かすでなか」

 

否定の言葉は、けろりとしたものだった。

あまりにも真っ直ぐすぎるその言葉に、遠くを見つめていたマシュの瞳が思わずそちらに吸い寄せられる。

 

「右も左も分からん戦場でん、そん盾ば振るうてますたぁば守ったはおまぁではなかが」

 

「で、でも私は島津さんのようには…」

 

「おいは人を守れん。首級を挙げるこつしかできん。後ろのことなぞなんも考えず、たンだ突っ込むこつしか能がなか。じゃっどんおまぁは違う」

 

そこまで言って、豊久は漸くマシュへと顔を向ける。

そこにあったのは励ましや導きの意志などではなく、ひたすらに純粋な兵子への畏敬。

 

「藤丸立香の御身を、御心を、傍で守るはましゅ・きりえらいとにしか出来ん。じゃっで頼んど。わいらん主ば守ってくいや」

 

ろまにがメシば送って来たど、という言葉を残して豊久校舎の中へと姿を消していった。

 

(────しまづとよひささん)

 

尚も屋上に立ち尽くすマシュの胸に最早先程までの焦燥は無い。

代わりに残ったのは、無遠慮で不躾で、それでも真っ直ぐ人のことを見てくれる1人の不思議な男への感情。

 

世間知らずな少女には、それへの理解は未だ難しく。

 

「島津、豊久さん…」

 

吐息にも等しい小さな声が、宵闇に紛れて消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドリフターよぉ…確かにガッツのある健気な嬢ちゃんとは思うが、あの年頃の娘に粉かけるのはどうかと思うぜ…」

 

「くっ、こんなことならやっぱりヴェルリナで適当な王妃連れてきて性欲の捌け口を設けておけば…!」

 

「ひっ!よらないでケダモノ、不潔よ不潔!」

 

「全員殺ス!!というかなんで聞いてんじゃ貴様(きさん)らぁ!!!」





固定残業制は悪い文明。
疲れて頭回らんわボケェ!!!!
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