狂兵でしょうか?いいえ、漂流者です   作:三途リバー

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ゆるぎないものひとつ

 

「わても戦に出たかっ!!」

 

「はン?」

 

間断なく空を裂いていた木刀の軌跡が、ふいに止まった。

呆れかえって振り向いた少年の視線の先には、縁側に座りながら足をブラつかせる幼馴染の笑顔がある。

 

「叔父上んごたる将になりたかち分不相応なこつは言わん!じゃっどん、槍働きにてそんお助けばしたかっ!豊ばかり初陣ば済ませずるかど!」

 

ぶおんぶおんと鍛錬用の薙刀を頭上で振り回す馬鹿の身体は、なるほど鍛え上げられ大人に見劣りもしない。健康的に日に焼けた肌からは若々しい生命力を感じさせ、言葉の通りに今にも駆け出していきそうな勢いである。

 

「………」

 

「なんじゃその顔ぉ!」

 

「フッ」

 

「ぶち殺しやっど糞餓鬼」

 

するりと薙刀の切っ先を躱し、少年は改めて一個歳上の幼馴染を睨め回した。

道着の上からでも分かる筋肉に、がっしりとした身体付き。

そして、隠しようもない女としての象徴。

 

「こ、今度ぁなんじゃ!そげにジロジロわてん体ば見よって……嫁にゃ貰われてやらんど!ぬしゃにだけは絶対にごめんじゃ!」

 

「おいかて金吾叔父上に頼まれてもごめんぞ!!……そもそも、おなごは子ぉば産み育てるが戦じゃろうが。わいらが幾ら首級重ねてん、兵子が育たねば話んならん」

 

「わては身体が強か!父上が戦に出れん分、わてが代わりに祁答院衆ば率いっ!猿と戦になっかもしれんちうのに、武庫叔父上と中書叔父上にばかり任せては未来の島津四兄弟ん恥じゃ!」

 

「未来てなんじゃ未来て」

 

「太守さぁは養子の久保!武庫叔父上はまだ幼かが忠恒!中書叔父上は豊と皆跡取りばおるではなかが!こいで、父上の跡を継ぐわてで未来の島津四兄弟じゃ!」

 

兄弟じゃのうて従兄弟じゃろう、などと言おうものなら再び薙刀の刺突が飛んでくる。

 

「最近はおまぁばかり名ば挙げてずるかど!沖田畷でん、又七どんが侍首挙げたち皆お祭り騒ぎじゃったど。ずるかずるか、わても首欲しかーーーー!!」

 

仮にも姉貴分を自称する阿呆が地団駄を踏んで悔しがる様を冷めた目で見つめ、少年は……いや、島津()()は木刀の素振りを再開させた。

 

「絶対、ずぇぇぇっったいに、京人ん首ば山ほど挙げておまぁに吠え面かかせちゃる!じゃからそいまで」

 

「死ぬど」

 

「ッ………」

 

「おいは死ぬ。手柄ば挙げて、首塚築いて、敵を道連れに黄泉路へ走る。それが兵子、それがおい。島津家久が息子の務めじゃ。お(まぁ)ん務めは子ぉば産み、強か兵子を育て、金吾叔父上の血ば残すこっじゃろう。そいがお前の戦じゃ。お前が死地を駆けるはお門違いぞ」

 

「……だから、おまぁにだけは嫁入りしとうなかじゃ。こんバカトヨ」

 

(だい)がバカじゃ!!」

 

「おまぁしかおらんじゃろこん馬鹿!頑固!猿頭!」

 

「首ば引きちぎっどアホチカ!!」

 

姦しくも、かけがえもなく燦然と彩られた原風景(おもいで)

だがそんな長閑な日々は唐突に、残酷に終わりを告げる。

 

 

 

 

『……………おいは間違うちょったか』

 

『若さぁ……』

 

『殴り飛ばしてでん止めるべきじゃったか。そいとも、こいでチカは本望じゃったんか。分からん。皆目分からん。……そいでん、一つだけ分かっど』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれを誇って晒す武士なぞ……犬畜生にも劣る非人じゃ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発的な勢いで繰り出される人外の斬撃を、赫を纏った波平が真っ向から迎え撃つ。

刃噛の火花に照らされた金色の瞳に反射するのはどこまでも冷めた豊久の顔だ。

 

「お前の首などいらねぇち言ってんだろ!」

 

「それはこちらとて同じこと。貴様の如き雑兵に用はない。故に、疾く散るが良い」

 

一撃一撃が絶死。

人の首など容易く飛ばし、どころか岩石すらも両断するであろう斬撃を、豊久は弾き、いなし、時に躱して距離を取る。

 

「オレらを忘れちゃいねぇか、セイバー!!」

 

「ちっ!」

 

セイバーが追撃の体勢に入りかけた絶妙なタイミングで、青の突風がその背中に襲いかかった。

常人ならば間に合わない杖の刺突を、セイバーは剣から魔力を放出することで無理やり身体の方向を転換・迎撃。

まさにジェット噴射の如き勢いの一撃に、キャスターの攻撃はあっさりと叩き落とされた。

 

「トチ狂っても、そのデタラメな戦い方は健在か!嫌んなるぜ全く!」

 

「そう言う貴様も、クラスが変わって尚馬鹿の一つ覚えの吶喊とはな」

 

「一つ覚え?は、それこそ馬鹿言いやがれ、森の賢者を舐めんじゃねぇよ!」

 

キャスターの言葉に応じるようにエクスカリバーの刀身から木の枝が伸び、セイバーの腕と身体を絡め取る。杖と打ち合った部分を起点として、凄まじい速度で成長する木の枝は瞬く間にがんじがらめの檻の如き様相を成した。

 

「賢しらな、この程度で私を封じたつもりか」

 

その檻も、セイバーの黒き魔力に灼かれて次第に崩れかけていく。

しかしその様子を見て尚、キャスターの顔から笑みが消えることはなかった。

 

「だから言ったろ、忘れてねぇかってな!かませ、嬢ちゃん!」

 

「はぁあぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

半ば焼け落ちた拘束ごと、突っ込んで来たマシュの盾がセイバーを吹き飛ばす。

轟音と共に真横一直線にカッ飛んだセイバーの身体は、壁に打ち付けられ、だけでなくめり込んで破砕音と土煙を巻き起こした。

 

「ふぅ……オイ、ドリフター!お前なぁ、聖杯戦争に好き嫌い持ち込むかフツー!オレだって女は殺さねぇと決めちゃいるが、この戦争に首取るに値しないヤワな女なぞ喚ばれやしねぇよ!しかも世界の危機だろ、この状況!」

 

「強かろうが弱かろうがおなごはおなご。そいに、これは好き嫌いではなか。おいの()()じゃ」

 

「あぁちくしょう、おめぇやっぱ最高だなこの大馬鹿野郎!」

 

「褒めちょるんか貶しちょるんかどっちじゃ!」

 

「どっちもだ!!」

 

「っ、適正反応未だ消滅を確認出来ず!来ます、お二人共!」

 

怒鳴り合う2人をマシュが制止した瞬間、黒い光が土煙を裂いた。

煙が晴れた後にあるのは、悠々と歩を進めながら血混じりの唾を吐き捨てるセイバーの姿。

傷は見えるが、大したダメージが通っていないことは聖剣から迸る魔力から一目瞭然である。

 

「どうしてもアレを殺す気はねぇか。テメェにその気がなくとも、奴は聖杯の前から退かねぇしテメェの主を躊躇なく殺しに来るぞ」

 

「火の粉ば払う。じゃっどん首は奪らん。そいだけぞ」

 

「喚ばれたのがまともな聖杯戦争じゃなくて良かったなぁ、逆に…」

 

軽口を叩く合間にも、セイバーは止まらない。彼女の姿がぶれ、黒い閃光が走ったその瞬間。

幾度目かも分からぬ火花が激しく散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島津豊久という人間は、異常という評価を下されやすい。

その思想、その行動原理、その在り方、ありとあらゆる彼の構成物は周囲の人間にとって理解しがたいものに写る。

 

だがその実、彼は狂ってもいないし精神が歪んでもいない。

彼なりの論理が、道理が、信義が存在し、それに則って行動しているのみなのだ。

 

ただ、その自身の「我」を、いついかなる場所においても押し通す。

 

ここがどこか、相手がだれか、状況はどうか。

常人ならば、いや人ならば誰しも持つであろうそんな思考は彼の中に存在しない。

 

世の理があるだろう。

人皆それぞれ義があるだろう。

信じるものがあるだろう。

 

理解はしている、肯定すらする、されどその上でそれら全てを薙ぎ払う。

 

それは英霊としてではなく島津豊久という()()の本質。

己を貫く頑徹さこそ、かの漂流者の最大の武器である。

 

(それが、それこそがサーヴァントという存在では決して太刀打ちできない災厄の、その間隙を突く鬼札足り得る。だからあなたを喚んだ。あなたを選んだ)

 

混乱に包まれる戦場の中で、錬金術師は目を細める。

呆れ、怒りながらもそれでこそと上がる口角を抑えきれない。

 

「一度経験済みなんだから、ちゃちゃっともっぺん世界救ってちょうだいな」

 

世界にあるべき形などなく、決まった終わりもまた駄作。

 

故に奔り、破り、穿ち、潰せ。

 

世界を掻き回せ、漂流者(ドリフター)





dアニメにHELLSINGのOVAが追加されたんで最近チマチマ見返してるんですが、やっぱ色々ひっくるめて『最狂』の一言ですね
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