お腹が空いたのでお金を稼ぎたいです。剣術極めた死神の無自覚ライフ 作:狂骨
『旅禍』それは死神の交通審査も受けずに尸魂街へ入り込んだ魂の事である。旅禍とは災いを招く者という意味で呼ばれ恐れられており知らせが入り次第即捕縛が義務付けられている。
そのサイレンを聞いた千弘とネムはマユリのいる十二番隊の屋敷へと向かった。
「局長〜サイレン聞きましたか?」
扉を開くとそこには寝起きなのか気分が悪そうに机に座るマユリの姿があった。
「勿論だヨ…はぁ…君の顔を数日見ないで安心すると思った直後にこれか…」
「まぁまぁ。それよりも万が一、旅禍がこの邸内に侵入したらどうしますか?」
「決まっているだろ。見つけ次第、即刻捕縛さ。相手によっては被験体として回収する。もちろん君はネムと共に私と行動だ」
そう言いマユリの指が千弘とネムに向けられ千弘は敬礼しネムは頷きながら答えた。
「分かりました」
「了解しました」
ーーーーーー
ーーーー
ーー
その後 夜中となった尸魂界。騒動は一旦収束したものの事態は収まらなかった。瀞霊廷にいる護邸十三隊は臨戦態勢へと入り各自が旅禍の侵入に備え始めていったのだ。
簡単な会合と作戦会議が開かれ、その後は千弘はマユリの屋敷の手前で他の隊員共々待機する事となった。
マユリが机に指を立てて何かを計算している中、近くで腰を下ろしながら座っていた千弘は尋ねる。
「局長。まさか隊員の皆さんに爆弾仕掛けて爆破させようなんて考えてませんよね?」
「おや、君も分かってきているじゃないか」
尋ねられたマユリは金色の歯を剥き出しにする程の笑みを向けながら答えた。その笑みを見た千弘は目を鋭くさせてマユリへ向ける。
「…」
「まぁ心配いらん。前までの私ならそんな事をしていたが、今はしないよ。闘いに勝つための手段に過ぎないし…私も命は惜しいからネ」
「なら安心しました」
マユリの答えを聞いた千弘の目が元の幼い少年の目へと戻る。マユリは今でこそ丸くなったものの、千弘が来る前までは平然と隊士達を囮や武器として扱い人体実験も犠牲を厭わないマッドサイエンティストであったのだ。
それを知っていた千弘はそれを危惧して敢えて聞いたのだ。
「それに君というこれ以上のない戦力があって囮などもう必要ないだろう」
「それ程まで私は有力ではありません」
それから時間は過ぎていくが一向に旅禍の知らせがくる気配がなく、遂には夜明けに差し掛かろうとしていた。
その時だった。
薄暗い空が突然と光だし辺りを照らし出した。
「…ん?」
その明りに気づいた千弘は外へと出る。見れば上空には白く輝く球状の物体がありそれは形を変えながら花火の様に弾け飛び出し大きな破片となって四方へと散っていった。
その直後に伝令が来る。
何でも旅禍が邸内に侵入した際に隊長である『市丸ギン』という人物が手を引いた疑いにより『隊首会』が開かれる事となったらしい。隊首会とは文字通り隊長達による会合であり月に一度の間隔で行われる。
その伝令を聞いたマユリは気乗りしていないかの様に残念そうな表情を浮かべると召集元である総隊長の元へと向かっていった。
残った千弘は辺りを見回すとネムに耳打ちする。
「私達で全員捕まえてしまいましょうか?」
「いえ…」
それに対してネムは首を横に振った。
「いくら貴方が強くとも隊長であるマユリ様の指示も無しに勝手に動いてしまうのは隊の調子を崩すため危険かと。それに…総隊長からも言われている筈です」
「確かにそうでした…」
ネムの注意に千弘は頬をポリポリと掻きながら引き下がる。彼自身は出撃し成果を上げたいのだが、総隊長である山本から無闇に前に出過ぎない様に言われている為にそうはいかないのだ。
「理由は分かりませんが…山本御大は多分、私の身を案じてくれているのか…それとも隊員が前に出過ぎる事が規律を乱すからそれを危惧しているのでしょうかね」
「両方かと思います」
「成る程。ではゆっくりと待ちますか」
千弘は頷くとその場にゆっくりと腰を下ろす。上記の理由にネムは頷くもののこれは建前でしかならない。
本当の目的は彼を隠し戦略にするためである。彼ほどの実力者は過去未来に置いてもう絶対に現れないだろう。初めて総隊長である山本と対戦した際には刀身を見せる事なく余力を残して勝利してしまったのだから。
仮にこの事が知られれば護邸十三隊と敵対する勢力は間違いなく彼を警戒し始め対策を講じるだろう。
ならばそれを防ぐ為に彼を隊員の立場へと止め前線にもあまり出さないようになったのだ。
まぁ当の本人にはその自覚がないのだが。
因みにこの事を知っているのは隊長と副隊長だけである。即ちネムも勿論知っている。
「もう少し自覚を持っていただきたいです…」
「何がですか?」
「何でもありません」
それから少し時間が経過するとマユリが帰還し、十二番隊へと指示を出したことにより、皆は散っていった。
千弘は勿論、ネムと共にマユリと行動である。何故かマユリは不機嫌であったが、何かあったのかは聞かない様にしていた。
◇◇◇◇◇◇
「…ん?何か感じますね」
マユリと共に出撃した千弘は路地を進む中、ある気配を感じた。その言葉を聞いたマユリは立ち止まる。
「…確かに。これはすぐ近くにいるネ。護邸十三番隊には見られない異質な霊力…どうやらビンゴの様だ」
そう言いマユリは歩き出した。マユリもどうやら感じ始めたらしい。そのまま進んでいき道を抜けると更に広い道へと出た。
現在彼らがいるのはルキア死刑囚が処刑される場所より少し離れた白い石で作られた場所である。
道へと出た千弘達は道の向こう側に見える分かれ道からこちらに向かってくる気配を感じ取った。
「来ました」
その時だった。
目の前にある分かれ道から自身らと同じ死神の黒い装束に身を包んだ眼鏡を掛けた青年が現れた。
「…な!?3人か…ついてないな…けど、井上さんと別れたのは正解だった…」
現れた青年は自身らを見ると歯を噛み締めながら立ち止まる。
その一方で青年を見たマユリは青年の発する独特な霊力を感じると驚きの声を上げる。
「ほぅ。死神には感じない霊力…これは驚いた。まさか旅禍の中に『滅法師』が紛れ込んでいたとは」
【滅却師】それは死神とは別に霊力を持った呪術師である。彼らは全員人間であり古の時代は現世で有名な術者であったとされている。だが、徐々にその血は絶えていっており、今では全く聞かなくなっていた。
マユリによるとこの青年がその滅法師であるというのだ。
その一方で、滅法師の青年は自身らを睨み付けて警戒していた。
「…道を通してもらえるか?」
「申し訳ないんですが、無理ですね。捕縛を命令されているので」
そう言い千弘は前に出る。それに対して滅法師の青年は眼鏡を掛け直すと両腕から霊力を放出した。
「そうか…なら…力ずくで通させてもらうよ…!!」
その言葉とともに青年の霊力は両腕を覆い尽くすと形状を変化させアーチェリーへと変わった。
練り上げられた霊力によって象られた形は極めて繊細であり、彼も滅法師の中では高い水準の実力を持つ事が窺えるだろう。
「やめたまえヨ。大人しく捕縛されて私の被験体になった方が身のためだヨ?」
「さり気なく被験体にしようとしないでください。もう興味はないでしょう」
「おっとそうだった。解剖する前に君が現れた事で興味を失ってしまったんだったヨ」
マユリの言葉に突っ込みながら千弘はこちらに向けて矢を構える青年に再度忠告した。
「もう一度だけ言います。めんどくさいので捕まってください。こっちも早く終わらせて研究所の手伝いしなくちゃいけないので」
「おいぃ!!それはしばらく禁止と言っただろぉ!?」
「だって落ち着かないですもの。大体休むっていっても何をするか分からないですし」
「それを考える為に数日の休暇を与えたんだろうがぁ!?君は本当にバカなのか!?バカ中のバカなのかネ!?」
「あ!今バカって言いましたね!?バカって言った方がバカなんですよ!!腐れ局長!!」
「誰が腐れ局長だ!それにバカと言われる方がバカなんだよ!!このバカバカ!こんなくだらない理由で怒ったのは生まれて初めてだよ!なんなんだネこの世界一くだらない体験は!?」
マユリと千弘が言い争っている中、後ろで待機していたネムが二人に声を掛ける。
「あの…お二人とも」
「「何だ!?(なんですか!?)」」
二人が振り向くとネムは自身らの背後へと指を向けた。
「滅却師の方…行ってしまいましたよ」
指を向けられた方向へと目を向けるとそこには駆け抜けていく滅法師の青年の姿があった。
それを見た千弘は瞬歩を使い一瞬にして追いつくと腕を振るい背中に当てた。
「失礼」
「が…!?」
腕がトンっと音を立てながら当たるとその青年はゆっくりと倒れ意識を失う……
筈だった。
そのまま青年は道を隔てる壁に向けて吹き飛んでいく。
「あ」
そして
_____ドガシャァァァン!!!
壁に激突していった。その衝撃によって道を隔てる壁が粉々に破壊され辺りに砂埃が舞い滅法師の青年は下半身を出しながら崩れた瓦礫に埋まってしまった。
「…」
その悲惨な光景を千弘は固まりながら見つめていると後ろから歩いてきたマユリがメモ帳を取り出す。
「修繕費は今月の給料から引いておくからネ」
「ちくしょぉおおお!!!!」
因みに壁を破壊した事で給料が減額されるのは結構あります。