お腹が空いたのでお金を稼ぎたいです。剣術極めた死神の無自覚ライフ 作:狂骨
ネム「千弘さん…私と(バキューン)してください」
千弘「はひ!?」
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その後 各地にて倒れていた滅却師達が消えた事で闘いが終わり、本格的に復興作業と怪我人の捜索、治療が開始された。
滅却師達が現れてから7分で全隊員の三分の一である1000人が命の危機に晒されていたが、その点は千弘とネムの活躍によって解決されており、少なくとも500名以上もの隊士達の生存が確認されていた。
だが、全員が助かったわけではない。中には胴体と首が泣き別れ若しくは遺体さえも残らず消し去られ回道による回復が不可能な者もいたので少なくとも数百名もの命が失われてしまった。
更に今回の襲撃で隊長の殆どが卍解を奪われてしまっており、現在、マユリが解析を行なっているものの、それが知れ渡ってしまった事が原因で隊の士気を多く低下させてしまう事となった。特に元柳斎の敗北と卍解の強奪は影響が大きく、それが知れ渡った事で各地から諦めの声が出始めてきていたのだった。
◇◇◇◇◇
雨が降り注ぎ多くの隊士達が運ばれていく中、一護も医療施設へと脚を踏み入れ、平子の案内のもとルキアと恋次の病室へと赴いていた。
「…」
一護の目の前には二つの寝台が置かれておりそこには顔の殆どを包帯で巻かれたルキアと恋次が横になっていた。
見るからに重傷である。それを見た一護は表情を暗くさせると共に己の不甲斐なさに肩を落とす。ルキアが目を覚まし、来てくれた事に礼を言うものの、そもそも今回無事であったのは千弘がいたからであり、自身は何もできていなかった。
すると、病室の入り口から技術開発局の研究員が汗を流しながら顔を出した。
「く…黒崎一護様…涅隊長がお呼びです。至急 技術開発局まで…」
「え…あ、はい!」
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それから一護は職員に案内されるまま、技術開発局へと向かった。技術開発局へと到着し、呼び出したマユリがいる研究室へと入る。
なぜ一護がここへ来ているのか、それは折れた斬魄刀をマユリへ渡していたからだ。ハッシュヴァルトによってへし折られてしまい無残な姿となってしまった天鎖斬月をマユリならば治せるのではないかと一護は期待を抱いていたものの、それに対してマユリは首を横に振る。
「始解した斬魄刀ならば、持ち主の魂魄で再構成される。だが、卍解した斬魄刀は二度と戻る事はないのだヨ」
「そんな…嘘だろ!?」
残酷な真実を打ち付けられた一護は頭を抱え始める。斬魄刀は唯一の対抗手段であるのにそれが無いとなればどうしようもない。
「クソ...どうすれば...」
唯一の武器である斬魄刀を失ってしまった一護は歯を噛み締める。
すると
「あ!黒一さん!いらしてたんですね!」
「千弘!?」
後ろのドアが開き、千弘がネムに抱き抱えられながら入って来た。入って来た千弘は一護の顔を見るとその表情の暗さを疑問に思い首を傾げた。
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ」
「あぁ……実はな…」
千弘から尋ねられた一護は自身の斬魄刀がへし折られ、元に戻らない事を話した。その話を聞いた千弘は“ふむふむ”と頷きながらも首を傾げる。
「それは大変ですね…ですが、私にはどうすればいいのか分かりません…申し訳ありません」
「そうか……いや、気にすんな。それよりもルキアや恋次達を助けてくれたんだよな?本当にありがとな…俺がもう少し早く出てこれれば…」
そう言い一護は自身を悔やむと共に親友であるルキア達を助けてくれた事に感謝しながら千弘に頭を下げた。それに対して千弘はいやいやと手を振る。
「いえいえ!そんな気にしないでください!役に立てて何よりです!それよりもお二人のご容態はどうでした?」
「何とか意識は回復した。それよりも、お前の方こそ大丈夫だったのか?」
「私は全然!変質者に襲われましたけども何とか切り抜けました!」
「変質者…?」
「そうなんですよ!いちいち救助の邪魔して来やがりましてね!」
千弘は一護に頷くと数時間前の事を話し出した。
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数時間前
巨大な荷車を引きながら瀞霊廷を駆け回っていた千弘とネムはある地点へと到達した。因みにネムがなぜ千弘と同等の速度で走れるのかは触れないでおこう。
「ここも被害件数が多い場所ですね。早く救出して送り届けましょう!眠(ねむり)さん!」
「はい!」
眠というのはネムのもう一つの名である『眠七號』から因んだ名前だ。ネムと親しくなった千弘は最近になって、彼女からこの名で読んでほしいと言われ、そうしているのだ。
眠と呼ばれたネムは応えると、彼と共に周辺にて倒れている隊士達を次々と横にさせ、技術開発局特製の回復薬を投与していった。
だが、中にはやはり助からなかった隊士達もおり、彼らを見つけた千弘は身体を横にさせ、静かに手を合わせた。
「助けられなくて申し訳ありません…必ず後で迎えに来ます。なのでもうしばらく待っていてください…」
荷車は乗せる人数に限りがある。故に千弘はまだ生きている隊士達を優先的に乗せていった。
その時であった。
「…あれは!」
ふと目を向けた先に一人の隊士が頭から血を流しながら倒れていた。それは千弘がよく知る人物である。
「ルキさん!!!」
それは朽木白哉の妹である朽木ルキアであった。彼女は一護と交流を持ってから話す様になり、それなりの関わりがあった。そんな彼女が倒れていた姿を見つけた千弘は即座に駆け寄ると抱き起こした。
「ルキさん!お気を確かに!!!」
だが、何度揺すっても彼女が目を覚ます気配は無かった。
すると ネムが近づき胸元に耳を当てる。
「…鼓動が聞こえます。まだ間に合いますよ」
「よし…急いで運びましょう!」
その時であった。
背後から複数の影が現れると共に千弘の首に向けて剣を振り回した。
「特記戦力筆頭…その首貰った…!!!!」
その振り回された剣が首筋へと届こうとした時。
「救助の邪魔しないでください」
「グボヘェラァ…!?」
寸前にその手を指で受け止めると共にもう一方の拳によってその影を殴り飛ばした。
「見ぃ〜っけ…!!!」
「はいはい」
「ガハァ…!?」
更に上空から巨大な瓦礫と共に降りてくる影に向けて千弘は拳を突き出した。それによって接近していた瓦礫を粉々に砕き桃色髪の滅却師を拳圧によって吹き飛ばし、気絶させた。
『グエナエル・リー』与えられた聖文字は“V”(vanishing point)自身の存在を認知されなくなるという隠密に長けた能力であるが千弘の極限まで磨き上げられた感知能力には通じずそのまま殴り飛ばされ気絶。
『ミニーニャ・マカロン』与えられた聖文字は“P”(the power)超怪力を得て全身が筋肉の鎧と化すが、千弘には通じず拳圧だけで気絶。
それから千弘とネムは怪我人を届けると再び戦場に飛び出し、次々と怪我人達を回収していった。
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「…という事がありまして。いやぁ…本当に意味が分かりませんよね。なんで救出の邪魔なんてするんでしょう」
「いやいやいや!!!それ敵!それルキア達襲った奴ら!それ卍解奪った奴ら!!」
あたかも流れ作業の様に自身らが苦戦していた相手を殴り飛ばしている話に一護はもう耐えきれないのか目を飛び出しながら色々とツッこんだ。
「あ!お客さんが来てるにも関わらずお茶を忘れてしまうとは、ちょっと取ってきますね!」
「人の話を聞……行っちまった…」
話も聞かずにそのままネムと共に研究室を出ていった千弘に一護はハァと溜息をつく。
そんな中、一護は千弘の相変わらず無自覚な様子を見てから、ずっと疑問に思っていた事を隊長であるマユリへと尋ねた。
「…なぁ。なんでアイツ…隊長に抜擢されねぇんだ?頭はともかく強さならもうなっててもおかしくないだろ?」
「…ふむ」
一護から尋ねられたマユリは研究の手を止める事も振り返ろうともしなかったが無視する事なく答えた。
「まぁ、君には教えておこう。奴の強さは見ての通り異次元。ユーハバッハなど羽虫に等しいだろう。君の言う通り隊長どころか総隊長になっていてもおかしくはない。だが、それによって奴の強さが露わになったら、隊士達はどう思うかネ?」
マユリから尋ねられた一護は少しばかり考えながら答えた。
「え…と……追いつくために鍛錬を頑張る…とか?」
「バカかネ」
一護の方から出た答えを聞いたマユリはそれを一蹴すると更に続けた。
「そんなもの一部の者だけに決まっているだろう。大抵の奴らは千弘の力を知った途端に奴に頼り始める。『アイツがいれば全て終わる』『いざとなったらアイツが終わらせる』『自分達はただ頑張る振りをすればいい』我々の様なただ相手に対抗できる程度ならば多少の鼓舞にはなるだろうが、奴の様な一瞬かつ一撃で倒せる力を持っているならば鼓舞とはならない。ただ依存するだけだ。奴に依存した護廷隊など、ただのグータラ集団だヨ」
そう言いマユリは頭の被り物を直す。
「奴の強さが明るみに出ると言う事は即ち護廷十三隊の崩壊を意味する。だから奴は目立たない様にするためにいつまで経っても平(ひら)止まりなのだヨ。まぁ任務は隊長クラスのものばかりだがネ」
「へぇ…」
マユリの説明を聞いた一護はようやく千弘がずっと平隊士である事を納得した。
そんな時であった。マユリの被り物から通信音が鳴る。
「…私だ。………ッ…こんな時にか…黒崎一護、着いてきたまエ。零番隊様のお越しだヨ」
それからマユリは舌打ちをしながら通信を切ると一護を連れて瀞霊廷の入り口へと向かっていった。
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時を同じくして医療室。ユーハバッハによって全身を切り刻まれ、四肢を斬り飛ばされた元柳斎は医療機器に繋がれながら眠っていた。そんな中、彼は夢の中である景色を眺めていた。
それは 千年前、滅却師の始祖であるユーハバッハと尸魂界にて衝突した時である。
元柳斎は自身がユーハバッハの元へと向かっていた景色を眺めていた。覚える必要もない場面の記憶。今さらなぜこの記憶が呼び覚まされたのだろうか。
(これは…千年前の……ん?)
その時であった。
「あのすいません!流魂街から来た者ですが…死神の学院に…!!」
自身の元へどこからともなく一人の少年が現れ駆け寄って来た。
(…ッ!!!!)
その姿を見た元柳斎は目を大きく開く。
その一方で目の前に立っていた千年前の自身はどこから侵入したのか問いただす事なく額に眉を顰めると共に一喝した。
「バカモンがぁぁ!!!ここは戦場じゃァァ!!はよ消え失せぇッ!!!!」
「は…はぃいいい!!!し…失礼しましたぁぁぁぁ!!!!」
それによってその少年はそそくさとその場から走り去っていった。
(あの童…)
忘れていた記憶と今の記憶が重ね合わされた事によってその少年の正体が自身のよく知る誰かと重なったのだ。
(まさか……あ奴は…!!!)
記憶の中で現れた少年。その姿は自身が知る最強の死神である『園原千弘』と瓜二つであった。