お腹が空いたのでお金を稼ぎたいです。剣術極めた死神の無自覚ライフ 作:狂骨
『抜刀斎』
なぜ千弘がその様に呼ばれる様になったのか。不老不死曰く、それは見えない抜刀術による敵の瞬殺する姿からである。
だが、それは一つの理由に過ぎなかった。もう一つ、そう呼ばれている由縁があった。
それは______
ーーーーーーーー
突如として発生した超巨大な霊圧。それは瀞霊廷のみならず霊王宮どころか尸魂界全域を襲った。
「何だ…この霊圧は…?」
霊王宮へと降り立ち零番隊である天示郎と会敵していたユーハバッハは突然の振動によって霊王宮が揺れたことに驚き、周囲を見渡していた。
感じられるのは数時間前に地獄へと落とした千弘の得体の知れない霊圧。即ち今下の方から感じ取れるこの霊圧も千弘のものと断定できるだろう。地獄から戻ってきたという事だ。
その点に関してはユーハバッハはある程度は予想していた。
だが、その霊圧の質と量が今までの比では無かったのだ。
尸魂界全てを揺るがす霊圧によって空中に浮いていた霊王宮がゆらゆらと揺れていき今にも制御を失い落下してしまいそうな勢いであった。
その揺れにユーハバッハを除いたハッシュヴァルト、雨竜に加えて精鋭中の精鋭である『親衛隊』に抜擢された四人の滅却師達は状況を受け入れきれず動揺していた。
「千弘のやつ…派手にやりやがって…まぁいい」
その一方で天示郎はその状況下で動揺こそしたものの、持ち前の胆力によってそれ程までに慌てる様子はなく、改めて侵入者であるユーハバッハ達へ意識と自身の得物を向けた。
「テメェラを張り倒すには代わりねぇぜ…!」
「東方神将 麒麟寺天示郎…貴様如きがこの私を止められると思うなよ?」
それに対してユーハバッハも目の前の敵へと意識を戻すと笑みを浮かべるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇
そして場所が変わり瀞霊廷にて。此方では生き残った隊長達が滅却師と戦闘していたが、発生した霊圧の暴風によりその戦いは中断を余儀なくされていた。
「な…なんだよこの霊圧は…!」
「これが園原千弘の霊圧だってのか!?こんなの本当のバケモンじゃねぇかぁ!!」
日番谷達と交戦していたバズビーやリルトット、そして残りの隊長、副隊長の皆も身体を震わせながら霊圧が感じる方向へと目を向けていた。
そんな中 二人だけ震えもせずその方向を見つめていた。
「随分と懐かしいネ。これ程の霊圧……お前を殴りつけようとした時以来じゃないカ?」
「はい…マユリ様」
◇◇◇◇◇◇◇
霊圧の発生源である千弘の周囲にはそれ以上の現象が発生していた。千弘の周囲からは霊圧と思わしき黒いオーラが溢れ出し、周囲の瓦礫は四散、建物は崩壊。その足元は殺された滅却師達の死体の山がペシャンコになりながらクレーターを形成していた。
「……」
荒れ狂う霊圧の嵐の中心地。即ち台風の目となる黒いオーラの中から覗く赤い瞳が目の前で腰を抜かしていたぺぺへと向けられた。それに見つめられたぺぺは腰を抜かしたまま動く事が出来なかった。
すると_____
____周囲へと溢れていたオーラの放出が一瞬にして止まった。
それによって先程まで尸魂界を襲っていた嵐が止み、空を覆っていた暗雲が晴れ快晴となった。更に周囲の振動も収まり瀞霊廷の崩壊が止まる。
「貴方…」
「ひぃ!?」
霊圧の嵐が止んだというのに未だ戻らない虚な瞳を持った千弘はその不気味な目をぺぺへと向ける。
「貴方今…眠さんを下僕にする……と言いましたか?」
「……!!!」
その問いにぺぺは頷くことも首を横に振ることもできなかった。仮に正直に答えたら何をされるのか、若しくは嘘をつき首を振ったらどうなってしまうのか。
先程の霊圧の嵐によって生まれてしまった千弘への恐怖感からどちらも行う事が出来なかった。
「い…いやそれは……」
「まぁいいです。普通に聞いてたんで」
「!?」
その言葉と共に突然と殺気が解かれ、千弘は背を向けた。それによってぺぺは驚きながらも、その直後に僅かながらの安心を得た。
「ほ…ほぅ…」
背を向けたという事は見逃してくれるという事なのだろう。情報によれば彼は無闇に人を傷つけない。故に威嚇のみで済ませたのだろう。
だが、そんな淡い期待は今の千弘には全く通じなかった。
すると
___ボトッ
「…ん?」
懐から何かが溢れ落ちる音が聞こえた。その音を耳にしたぺぺはすぐさま自身の腹部へと目を向ける。
「……!!!!」
それを見た瞬間 ぺぺの全身が凍りつくと共に震え出した。何と零れ落ちた音の正体は_______
_______自身の臓器であった。いつ切られたのか分からない腹の裂け目から重力に従うと共に血が混じり生臭い臭いを放ちながら溢れ出ていた臓器は地面へと接触すると、まだ滑りのある表面が砂を付着させながら広がっていった。
「ひ……ひぃ!?」
それを認識した瞬間に感じた事もない程の痛みが襲い始めた。
「うぎゃぁぁぁぁ!!!!!!」
凄まじい叫び声を上げたぺぺはその場に腹を押さえながら倒れ始める。
「あぁあ!!!何だよこれぇ!?いてぇ!!いてぇヨォ!!!!」
「あら、痛そうですね」
切り傷でも打撲でも骨折でも感じた事のない痛覚によって苦しむ中、彼の腹を裂いた犯人である千弘はその様子を見ると告げた。
「切腹って…なんで介錯人がいるか知ってますか?切腹するとすぐに意識は失わずしばらくは残るみたいで凄い痛みが伝わってくるんです。それを感じずに楽にさせる為に介錯人がいるんですよ。介錯人と言えば、山田浅右衛門とかが有名でしたね」
そう言い千弘は痛みに悶絶し苦しむぺぺへと笑みを浮かべると、なんと溢れ出た彼の臓器を踏み潰しながら迫っていった。
「貴方が悪いのですよ?冗談であったとしても私の大切な人を汚すような事を言ったんですから」
踏み潰した臓器が地面と擦れ合いながら聞こえてくる生々しい音と共に迫っていく。千弘が近づくにつれてぺぺの全身からは血液と共に流れる汗の量が増していき、さらなる恐怖へと襲われていった。
「来るな!!!来るなぁぁぁあ!!!!」
腹を裂かれ臓物を流出させたにも関わらず、ぺぺは何度も何度も叫びながら周囲の瓦礫を投げつけた。だが、それは千弘の身体に当たりはしたものの、彼の接近を止める事はなかった。
そして 千弘の迫る足が止まった時には、既にその身体は目の前まで来ていた。
「あ…あ…あ…!!!」
ぺぺを見つめる千弘の瞳には何も映っていなかった。耐える事のない痛みに苦しんでいたにも関わらず、千弘の姿を見て涙を流していたぺぺは身体を震わせ始める。その痛みよりも目の前に立つ千弘への恐怖心が勝っていたからだ。
「やめ…やめて…!!謝ります…!謝りますから!!た…たたたす…たたすけ……たすけて…!!!」
彼がいればその恐怖心に。だが彼が離れれば臓物の流出による痛覚に襲われる。もはや逃げ道などどこにも存在しなかった。故にぺぺは藁にもすがる思いで途切れ途切れになりながらも千弘へと必死に命乞いをし始める。
だが、
「嫌です」
それを千弘はアッサリと跳ね除け、倒れていた聖兵の腰からサーベルを引き抜き振り上げた。此方を見つめる目は何もないただの虚な瞳であった。
「貴方は医療にだけ徹する勇音副隊長を操り怪我人を守る為に闘っていた卯ノ花隊長と殺し合わせたのみならず私の大切な人を侮辱しました。私は貴方を絶対に許さない。故に極限なまでに苦しめて殺します」
そして
「さようなら」
その一言を終えると共に千弘の手に握られていたサーベルが振り下ろされた。
その瞬間 肉を断つ音が響き渡ると共に血を吐き出しながら、悲鳴を上げる事なくぺぺの身体だった肉の塊は地面へと倒れた。
「…」
肉の塊が地面へと崩れ落ちると、千弘はそれを見つめながら静かに合掌するのであった。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーー
突如として現れ、尸魂界を揺るがす程の霊圧を放つだけでなくぺぺを残酷な方法で殺害した千弘の姿に卯ノ花と勇音は瞳を震わせていた。
「卯ノ花隊長…あれは千弘くん…なのでしょうか…?いつもと雰囲気が…」
「……」
勇音から問われた卯ノ花は彼を見つめていた。肉片へと合掌している姿からいつもの彼に見えるが、先程の敵の苦しむ様子を見ていたあの時の目はまるで別人のようであった。
「ちひ……」
「お待ちを」
卯ノ花が彼に呼び掛けようと名前を口にした時であった。千弘は即座に手を出し、彼女を制すると後ろへ目を向けた。
その時であった。
「撃て!!!」
その掛け声と共に瓦礫の影から蒼い極太のレーザーが放たれ此方へと向かってきた。
「な!?あ…あれは…!!!」
その極太のレーザーをよく見ると一本一本が滅却師の用いる霊子兵装の際に放たれる弓矢であった。それが数千もの束となりながら此方へと向かってきたのだ。
「あ…あぶない!!」
「…」
勇音が千弘に向けて思わず声を上げる中、千弘は向かってくる矢の大群を睨みつけると誰にも見えないどころか認識できない程の速度で抜刀し、矢の大群へ向けて振り回した。
すると千弘の振り回した事によって発生した巨大な斬撃が此方へと向かってきた矢を全て掻き消していき、空気へと溶けて消えていった。
「お怪我はありませんか?お二人とも」
「は…はい……ありがとうございます……」
勇音が礼を言う中、卯ノ花と千弘は警戒を解かず再度目の前へと目を向けた。
すると
「見つけたぞ…!!ここが死神共の医療場だッ!!!指示通り山本重國を仕留めよ!!」
「「「…!!」」」
弓の放たれた瓦礫の影から号令と共に多数の滅却師達が姿を現した。その数は尋常ではなく、少なくとも数百名はいた。恐らく重傷を負った元柳斎を葬る為に大量に動員されたのだろう。
「こんなに…!!」
「落ち着きなさい勇音」
突如として現れた滅却師の大群に動揺する勇音を宥めると卯ノ花は立ち上がり刀を手に持つ。
「貴方は早くお戻りなさい」
「…!!わ…わかりました…!」
その言葉に、動揺しながらも勇音は頷くと立ち上がりその場から医療現場へと戻っていった。
その姿を見届けると卯ノ花は振り返り自身の役目を全うするべく千弘へも目を向けた。
「千弘くん。先程の事についてお尋ねしたい所ですが…今は私に任せて早く苦戦している皆さんの所へ向かってくださ____」
「黙っててください」
「…!?」
その時であった。
目の前に立っていた滅却師の大群のうち、前衛の数十人がバラバラに切り刻まれた。
突如として起こった惨劇と千弘から発せられた言葉に卯ノ花は驚きのあまり瞳を震わせながら硬直してしまう。見ると目の前には彼らに対して刀を振り回していた千弘の姿があった。
「申し訳ないのですが、攻撃してきた以上、この人達は生きては返しませんよ」
ーーーーーーーーー
その後、目の前の景色は惨状から地獄絵図へと変わった。
「…!!」
目の前の惨劇を目にしていた卯ノ花はただ立ったまま直視する事しかできなかった。
「うわぁぁ!!!やめ…やめろ…!!がはぁ!?」
「た…たすけ…!」
「いた…いたい…!!やめ…!!!」
周囲に現れた大量の聖兵と滅却師の一般兵士。彼らは自身らの同胞がバラバラに切り刻まれた事により戦意を失い、我先へと逃げ惑っていた。そんな彼らを千弘が次々と襲っていたのだ。刀身は見えないものの、逃げ惑う兵達を次々と追いかけ、衣服を掴んで引き寄せては首を刎ね、身体を真っ二つに裂き、果ては頭部をも切り裂いていた。
次。また次。千弘が駆け出す度に滅却師達の血が吹き出し血の雨を降らせていく。
それによって周囲は惨殺された滅却師達の血と肉に塗れ血の海を形成していた。
「…」
そんな血の海の上で無表情のまま滅却師達を次々と斬り殺す千弘からはもはやかつての純粋無垢な面影は見られなかった。あるのはただ目の前の敵となる者全てを斬り殺す初代護廷隊隊長達に似たものであった。
いや 下手をすればその残虐性は___
_____最も血の気の多かった初代護廷隊を遥かに上回るだろう。
血溜まりの上で敵を惨殺していくその姿を目にしていた卯ノ花はまだ十一番隊にいた頃、流魂街にて噂されていた話を思い出した。
“流魂街にはとてつもなく強い剣士がいる。
一太刀震えば粉微塵。更に振るえば塵も残らず___。
その刀を振るわばあまりの速さ故に誰も見えぬ。
人の命を奪う事を厭わぬ残虐性と不可視の抜刀術を持つ無双の剣豪。その名も“抜刀斎”と。
この御伽話は当時の瀞霊廷を騒がせ、我先に見つけ勝負しようと考えた者達が多発し、血眼になって探し回るようになった。
特に同僚である『鹿取 抜雲斎』の勢いは凄まじく、毎晩毎晩探し回っていた。だが、いくら探そうともそれらしき人物は見つからず、いつしかその噂話は嘘または御伽話へと変わっていってしまい、聞いても誰も反応を示さなくなってしまった。
そんな者がいるわけない。どんなに探しても見つからなかったのだから。
「ずっと……疑問に思っていました」
卯ノ花自身も信じなくなった部類であったが、彼と対面してからは疑い始め、今となってようやくそれが真実であると確信した。
「やはり貴方が……『抜刀斎』だったのですね…」
彼こそが瀞霊廷を騒がせた張本人『抜刀斎」であったのだ。
目に見えない程の抜刀術に加え、怒り時に自身に攻撃してきた者達を無差別に斬り殺す恐ろしい残虐性。それこそが、千弘が【抜刀斎】と呼ばれる由縁なのだ。
千弘のもう一つの姿を見た卯ノ花は虚な瞳の彼をただ見つめる事しかできなかった。
「ふぅ…」
それからしばらくして、叫び声が聞こえなくなった血の海の上で千弘は静かに息を吐くと合掌したのであった。
ーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
その後、敵兵が攻めてくる気配がなくなった為に千弘は卯ノ花と合流した。
「隊長、先程は無礼な言動をしてしまい大変申し訳ありません…お怪我はありませんか?」
「心配ご無用です。それよりも…数時間前に一度霊圧が消えたのですが…何があったのですか?それに懐かしい霊圧も感じるのですが…」
「あ〜その事については……」
その時であった。
___ピー
「ちょっとお待ちを」
千弘の腕に付けられていたブレスレッドから謎の通信音が鳴り始めた。それを聞いた千弘はブレスレッドを押すと顔を近づけた。
「はいもしもし。此方 千弘です」
『私だ。今すぐ卯ノ花隊長を連れて私の研究室に来たまエ。お前が連れて来た奴らと破面もいる』
「分かりました」
通信機からのマユリの指示を聞いた千弘は通信を切ると卯ノ花へと目を向けた。
「行きましょう。研究室にて局長と先生と“初代隊長達”がお待ちです」
「……は?」
主人公にもう一つの面がある事を追加しました。
千弘【抜刀斎モード】
普段ならば虚以外は殺さないが、怒りが一定値に達しこの状態となると霊圧の嵐を発すると共に一才の情けが無くなり自身や自身の仲間に攻撃した相手を容赦なく殺害するようになる。因みに過度な侮辱の言葉一つで覚醒する為に、変態なぺぺはこれで墓穴を堀った。正気を失ったわけではないので、殺した後はその相手の亡骸に向けて合掌する。
なぜ当時の護廷隊は見つけられなかったのか?
→噂が出始めてから既に探索領域以上もの地点まで移動していたから。