お腹が空いたのでお金を稼ぎたいです。剣術極めた死神の無自覚ライフ 作:狂骨
千弘達が収監されてから数日。瀞霊廷はいつもの日常へと戻っていた。
だが、普通の日常に戻ったからこそ警戒しなければならなかった。千弘という隠れた抑止力が失われた事で時灘はついに行動へと身を移す。
「さて…ではそろそろ始めようか」
千弘達が収監された事で時灘はすぐさま貴族御用達の治療所へと赴き、先代の4番隊副隊長である山田清之助の回道によって傷を回復させすぐさま計画を開始する。
◇■◇■◇■◇
所変わって十二番隊隊舎にて。技術開発局は千弘が収監されてから空気が一変していた。
「ん?いつのまにか茶が切れてやがる」
研究室内で休憩のため、湯呑みに手を伸ばし口に運ぶが、中には既にお茶が無かった。
すると、それを察していたのか苦笑しながらニコが現れる。
「いつもは千弘ちゃんがいつのまにか入れておいてくれますからねぇ。私が入れてきますよ」
「おう、悪いな久南」
そんな中、ニコは今回の千弘の投獄の件に思うところがあるのか尋ねた。
「それよりも、なんで隊長は千弘ちゃんに全部責任をなすりつけたんでしょう…?それに最近では昔の隊長さん達も全員無間に収監したって聞きましたけど」
「う〜ん…」
それに対して阿近はしばらく唸り込むもすぐに首を横に振る。
「俺もソイツについては分からん。まぁ理由あっての事だが、無けりゃ千弘は災難だろうな…」
「また怒っちゃいますね…」
そんな中であった。
「前から思ってたんですけど〜千弘ちゃんって一回 隊長に激怒した事があったんですよね?」
「んん?まぁそうだったな」
ニコの疑問に阿根は頷くと、お茶を啜りながら思い出した。
「あれは確か副隊長が今のように成長したばかりの頃だっけか」
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それは数十年も前の事であった。
浦原喜助と猿柿ひよりが藍染の策略によって隊長職を退き夜一と共に現世へと逃亡した事で十二番隊及び技術開発局の局長の席に空席ができ、マユリが新たなる隊長及び局長となっていた。
その中でマユリは自身の研究者としての夢である命をつくる研究『被造死神計画』を開始していた。
それは困難を極め、出来上がった命は形になる前に死ぬ事もあれば、形になったとしても流産したときのように外の空気に触れた途端に死んでしまう者もいた。度重なる研究の末、遂に無から胎児へ。胎児から赤ん坊へ。そして赤ん坊から少女へと成長し、新たなる命を作り上げる事に成功した。
その少女こそ今の副隊長である涅ネムであり又の名を眠七號といった。どんな研究においても彼女は結果を残してマユリをして彼女を最高傑作と記すほどであった。
だが、ここである一つの問題点があった。
今でこそマユリはネムに対して素直になれない素っ気ない態度で接してはいるが、千弘が入隊して間もない頃は研究への執念のあまり彼女への態度は親子とは全く言えないほど残忍なものであったのだ。
ある日。マユリはネムへ実験の観察を任せていたのか、データの記録を求めていた。
「おいネム。前に言っていた実験のデータはどうなっている?」
「はい。此方に…」
ネムの懐から出されたデータの結果を受け取るとマユリは確認する。その内容は研究中の化学製品の日数経過による観察データである。
そんな中、観察日数が書き記されたデータの中である一日の欄のみに空欄が見られた。
「…この期間は何をしていた…?」
「任務の治療で四番隊隊舎にお世話になっていたため取ることが出来ませんで____」
その瞬間 ネムの頬へとマユリの拳が撃ち込まれた。その場に彼女の声と共に口元から血が飛び出し足元に飛び散る。
「なぜ診療所を出てまでデータを取らなかった…?」
「も…申し訳ありません…卯ノ花隊長と虎徹副隊長に監視を___」
細々とした声でネムは謝罪をするも、言い終える前に彼女の頬へと拳が撃ち込まれた。
「このグズがぁ!!誰がお前をここまで育てた?誰がお前を作った?卯ノ花烈か…?」
「いえ…マユリ様にございます…」
「ならば何故私以外の言うことを聞くんだい?」
「も…申し訳ありません…」
その後もマユリの拳が彼女の頬へと放たれていき、彼女の口元のみならず鼻からも血が流れ始める。
バキィ__ メキッ___
その鈍い音が周囲へと響き渡り、局員である皆がざわめき出す。だが、それでもマユリは止めなかった。
何度も何度も彼女の頬へと拳を打ちつけたり、彼女の頭を掴み揺らした。
その時であった。
「ち…ちょっと待ってください局長!娘さんに何やってるんですか!?」
マユリの肩を背後から現れた千弘が止めた。当時、彼はまだ十二番隊に所属したばかりなために皆と顔馴染みでは無かったのか、マユリの肩を掴んで止めた事に周囲の皆は驚き始めていた。
「うるさいヨ。これは親としての教育だ。部外者は引っ込んでいたまえ」
「だからってあんまりですよ!!血が出てるじゃないですか!!」
「…んん?」
千弘の言葉にマユリは手を止めると彼女の顔へと目を向けた。
「殴っただけでこれ程の傷か。これは一度…バラバラにして作り直すべきかナ?」
「…!!!」
その言葉を耳にした瞬間 後ろに立っていた千弘は固まってしまう。
その一方で、マユリはバラバラにするとは言いながらも何もせずただゆっくりと立ち上がった。
ネムに対する暴力。それはマユリの『自分の最高傑作がこの程度で壊れるはずがない』という自信からくるものであった。
それにこの姿になるまでにマユリは己の意識に反するかのような行動で多大な苦労をしており、仮に死んでしまえば最初からまた研究のし直しである。
故にマユリは彼女をバラバラにするつもりなどなかった。全てただの彼にとっての冗談である。
だが、冗談とは言えどその言動が______
________千弘を激怒させてしまう引き金となってしまった。
「テメェ今何て言った?」
その瞬間 千弘の全身から黒い靄と共に巨大な黒い暴風が溢れ出した。
「「「「「!?」」」」」
溢れ出た暴風は瞬く間に周囲へと広がり実験器具や書類、そして天井を破壊するなど次々と周囲へと影響を及ぼしていった。
「わぁぁぁ〜!」
「うぉ久南!?」
周囲に暴風が吹き荒れる中、近くの手すりに掴まっていた阿近は千弘の暴風によって吹き飛ばされたニコをキャッチする。
「阿近さん!!これは一体…!!」
「分からねぇ…!!」
「おい阿近!!霊圧の観測機が測定不能って出ちまってるぞ!!」
「なにぃ!?まずいな…このままこの霊圧の嵐が収まらなきゃ瀞霊廷がぶっ飛んじまう…!!隊長ッ…!!!」
ニコのみならず鵯州の言葉に阿近は理解が追いつかず、暴風の発生源である千弘に掴まれているマユリへと叫んだ。
「ぐぎ…ぎぎぎ…!!!」
黒い暴風の中、顔面を掴み上げられていたマユリは目を凝らしながら目の前の此方を見つめる千弘へと目を向けた。
その目は先程の落ち着きのある瞳とは全く異なり、まるで別人のように鋭くなっており、目玉も充血するほどまで開かれていた。
更に異様なのは姿だけではない。全身から発せられる霊圧の激しさだ。その霊圧は言うなれば地球全土を包み込むほどの暴風雨であり、その激しさから瀞霊廷全体が揺れ、近くに置かれていた計測器も次々と破壊されていった。
「き…貴様…これ程の力を宿していたとは…随分と横暴じゃないかネ…?まさかネムに情でも湧いたのか…?」
「えぇ。ネムさんには隊士としての職務を教えて頂いた恩があります。なので例え彼女が嫌でなかろうと血を流すならば見ている訳にはいきません」
「このガキめ…!!!ネム!!」
マユリが叫ぶと千弘の背後からネムが腕をドリルのように回転させながら飛びかかってきた。
それに対して千弘はその手を掴む形で止めた。
「次、ネムさんに攻撃させようとしたら顔面潰しますよ」
そう言い再び千弘の目が此方へと向けられた。
「ッ…面倒な事になったネ…」
掴み上げられていたマユリは次々と頭の中で思考を凝らし目の前の千弘から逃れる方法を模索していく。
だが、どの方法でも彼から逃れることなど不可能であった。しかも至近距離でこれ程の霊圧となればどのような攻撃も弾き飛ばされる可能性もある。
だが、模索していく中で、研究思考であるマユリは別の疑問に駆られた。
「(この霊圧…総隊長と戦った時の霊圧よりも桁違いだ…いや、これでもまだ完全ではないのか)」
自身を追い詰めているこの死神の全力はどれほどのものなのだろうか__?そして彼をいいように使えば自身の研究も捗るのではないか?そして新たなる研究へも進歩できるのではないか?
そう考えたマユリは霊圧の嵐が吹き荒れる中、千弘に右手を掴まれているネムへと目を向ける。
「ネム、お前にもう一つ任務を与えよう。コイツの監視役ダ」
「…はい」
ネムが頷くと今度は千弘へと目を向けた。
「ネムをお前の監視役にさせた。守りたいならば好きにしロ。その代わり私の研究にはとことん協力してもらおう」
「……分かりました」
すると、先程まで周囲を吹き荒れていた霊圧の嵐が止まり、千弘の全身から溢れ出ていた黒い靄も消え去っていった。
だが、その場を目にした技術開発局の局員達は決して忘れる事はなかったと言う。
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「あの時は瀞霊廷まるごと消す勢いだったからな。後から駆けつけた総隊長達への説明も大変だったし…それに今回の護神大戦の時もそうだったしよぅ。本当に焦ったぜ…」
「懐かしいですよね〜今じゃ副隊長のオモチャですし……私達よりだいぶ年上ですし…」
「まぁ1000年以上も生きてっからな〜」
そう言い阿近やニコは思い出を懐かしむ様に話していた。
そんな時であった。
「そんな昔の話を意気揚々と話すんじゃないヨ」
「「隊長!?」」
突然と背後から声が聞こえ、驚いた二人が振り向くとそこには相変わらず妙なメイクを施しているマユリの姿があった。
「ネムを見なかったか?」
「副隊長を?そう言えば先程から姿が見えませんね…」
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場所は変わり真央地下大監獄 最下層の無間。
「な〜…そろそろトランプも飽きてきたぞ…」
「確かにさっきからずっとババ抜きから始まって7並べ、ダウト、ページワン、とか色々やってますけども流石に飽きますよね…」
灯りのみの監獄の中、斎藤と千弘は退屈であるかの様に地面に寝そべっていた。
「おい抜刀斎〜他になんかねぇのか〜?」
「う〜んそうですねぇ…取り敢えず藍染隊長の耳元でカラオケでもしますか」
「やめろッ!!!」
千弘のふと口からこぼれ出た案に藍染は真っ先に拒否の声を上げた。それもそうだ。今ここで大声など出そうものなら手が拘束されている藍染自身の鼓膜が消し飛びかねないのだから。
すると千弘はその場に再び寝転がり、真っ暗な天井を見上げた。
「あ〜あ。眠さんどうしてるかなぁ〜…」
その時であった。
「…ん?」
突然と無間の入り口が開き、数人の貴族の護衛らしき男達が入って来た。それを見た斎藤は起き上がると刀に手を掛ける。
「なんだぁ〜?退屈凌ぎを察してサンドバッグでも放り込んでくれたのか〜?」
「いや、そうではなさそうですよ」
見れば男達のうち、一人は何やら巨大なタブレットを抱えており、その画面を千弘達へと向けた。
すると、その画面が突然と光だし、ニヒルな笑みを浮かべる男性を映し出した。
ジジ____
『居心地は如何かな?元隊長の方々に園原千弘くん』
「……誰?」
「綱彌代時灘……君が話していた男だ」
付近で同様に見ていた藍染が答えると、千弘は驚き目を向けた。
「貴方が東仙隊長の…何故にモニター越しですか?」
『四大貴族であるこの私がそんな薄汚い場所へ赴く筈がないだろう?』
「まぁ確かに」
『それよりも、私は君に会いたかった。園原千弘』
「私に…?」
千弘の質問に軽く答えると時灘は単刀直入と言わんばかりの様に手を差し出した。
『これからは護廷隊ではなく私に協力する気はないかな?』
突然すぎる提案に千弘は首を傾げる。
「いきなり何を?」
『前任の霊王そして、それを吸収し膨大な力を得たユーハバッハも死んだ事で尸魂界は更に荒れ始めた。滅却師の脅威が去ったと言えど、未だ我々に敵対する危険分子はまだまだいる。監視されている地獄など…ね』
「あ〜…」
地獄に関して、何か思い当たることがあるのか、千弘のみならず背後に立っていた鹿取や皆は顔を逸らした。
その一方で時灘は続ける。
『今この世界のバランスは前よりもとても不安定だ。だからこそ我々力あるものが結託しなければならない。特に千弘くん、君は既にそれを証明できるいくつもの功績を持っている。逆賊 藍染惣右介の捕縛そしてユーハバッハの討伐…表向きではユーハバッハの討伐は黒崎一護のみの功績となっているが、映像庁を取り仕切る私からすれば、君も功労者の一人である事も見通しているよ』
「いや別に私が相手にしていたのは分身体であって本当の強さじゃ__」
『さて、では返事を聞こう』
「全く話聞いてくれないじゃんこの人」
時灘は返事を待っているかのように千弘へと目を向けた。初対面である上に突然と世界規模の話をされた事で流石の千弘もすぐに信じる事も理解することもできていないのか首を傾げていた。
「どうするの?」
「いや断りますよ普通」
鹿取から尋ねられた千弘はアッサリと断った。
「貴方とは初対面ですし、確かに四大貴族という高貴な方なのであまり疑いたくはありませんが、私の性分じゃ会ってもいない人の話に乗るのは流石にできかねますね…」
『そうかそうか。いやぁ残念だ。純粋な君ならば私の考えを理解してくれるとは思っていたんだがねぇ』
「初対面の人の考えを鵜呑みにするなってお父さんとお母さんに教えられたので。それに、なんか貴方の言葉…真意がそれじゃない気がして何か別の目的がありそうでしたし」
『そうか。疑われてしまったか〜……う〜ん。どうすれば君と交流が持てるだろうね〜。君の隊長殿と親交を築くべきか…?いや、あの男が私の考えに同意してくれるとは思えないなぁ〜』
そう言い時灘は腕を組みながら考える中、ふと何か思いついたのか口にした。
『なら君の上司である涅ネムを口説き妻として迎え入れれば君も付いてきてくれるようになるのかな?』
ピキッ__。
その場に骨が軋む音が響き渡る。その音は千弘の腕から聞こえており、藍染自身は額から冷や汗を流しながら時灘へと忠告する。
「時灘…挑発をするならばやめておいた方がいい。奴は一度暴れ出せば手に負えなくなるぞ…?」
「黙っていろ逆賊め」
藍染の忠告を一周すると時灘は続けていく。
『迎え入れては逆効果か。なら_______
____酷く殺すのはどうかな?』
「「「「「…!!」」」」」
その言葉に今度は藍染のみならず千弘の後ろに立っていた斎藤や鹿取達の額から冷や汗が流れ出した。
時灘の特性。それは完全なる『煽り』煽って煽って相手を苛立たせていき、冷静さを欠かさせ最後に己の隠し持っていた実力で斬りふせる生粋の外道である。格上の相手であろうと毒口を交えながら怒りを仰ぐその『挑発』はたとえ総隊長である元柳斎に対しても抜かりない。
ネムに対しての侮辱や殺害の意図を交えた挑発__。
その挑発行為に対してこの場にいる全員が思った。『これ以上はやめろ』と。皆はその強さによる勘の鋭さから、あと一言で千弘の怒りが頂点に達してしまう事を感じ取っていたのだ。
だが、時灘はその意を知っているかのように笑みを浮かべながら最後の一押しを掛ける。
『おっと失礼。彼女…いや、あれは“人形”だから______
________“壊す”と言った方が適切だったかな?』
最後に放たれたその言葉。それはもはやネムを人としてではなくただの“作り物”と見做している醜い言葉であった。
その瞬間
「殺す」
千弘の目が血のように赤く光出すと全身から黒い霊圧が溢れ出した。