お腹が空いたのでお金を稼ぎたいです。剣術極めた死神の無自覚ライフ   作:狂骨

70 / 74
絶望と希望

 

瀞霊廷にて。千弘の前に立った浮竹と京楽はあまりにも千弘の変わり様に冷や汗を流していた。

 

「あれが千弘くん…なのか…?普段と全く雰囲気が…もはや別人じゃないか…」

 

「こりゃ相当な事をされたんだよ。正直…時灘を千弘くんの前に差し出せば丸く治るとは思うけども、貴族様だから僕らじゃ無理だねぇ…」

 

「くっ…力があれば無関係な千弘くんさえも巻き込むというのか…」

 

「いや、思い切り関係はあると思うけど」

 

その一方で、京楽と浮竹のみならず、千弘を包囲していた元柳斎は杖を斬魄刀へと変化させると、大量の炎を纏わせ、千弘へと向けた。

 

「さて…止まってもらおうか…?」

 

元柳斎の言葉に千弘の血走った赤い目が向けられる。

 

「貴方も私の邪魔をするのか…!!!」

 

そして千弘は斬魄刀の柄を握り締めると斬魄刀を引き抜いた。それと同時に、鞘と刀が擦れる音と共に黒い霊圧が溢れ出し、その鞘の中からドス黒い血の色に覆われた斬魄刀が現れる。

 

禍々しいその斬魄刀を取り出して、遂に刀身を露わにさせた千弘に周囲の皆の目が注目する。

 

 

「それが貴様の斬魄刀か。随分と物騒なものよ」

 

初めて見る千弘の斬魄刀とその禍々しい状態に元柳斎は眉間に皺を寄せる。

 

 

その時であった。

 

「ハッハァ!!!嬉しいぜ千弘ぉおお!!」

 

高らかな笑い声をと共に上空から始解させた野晒を担ぎながら更木が飛来した。

 

「こうしてテメェとまたやりあえるんだからなぁ!!!」

 

その言葉と共に飛来した更木は歓喜の表情を浮かべながら担いでいた野晒を千弘へ目掛けて振り回した。

 

「オラァッ!!!」

 

「…」

 

振り回された野晒の巨大な刃を千弘は次々と斬魄刀で捌いていく。野晒は振り回されていくたびに力が強くなっていくのか、千弘が刀を受け止めたと同時に周囲の瓦礫へと衝撃が伝わり粉々に粉砕していった。

それもそうだ。更木は始解した状態で星十字騎士団の一角であるグレミィの生み出した隕石をも粉々に破壊したのだから。その威力は隊長格の中でも元柳斎に匹敵する程のものだろう。

 

そしてその実力は何度も何度も千弘に奇襲を仕掛けていた事で既に元柳斎

をも越えようとしていた。

 

 

 

だが、それが敗因であった。力任せという力量の戦法こそ、千弘にとってこれ以上にない程の有利なものである。

 

それを咄嗟に感じ取った元柳斎は更木へと叫ぶ。

 

「下がれ!!馬鹿者!!」

 

「あぁ!?」

 

その時であった。迫り来る更木の斬魄刀を、千弘は何と素手で受け止めた。

 

「さっきから言ってるでしょうに…」

 

「…!?」

 

更木は咄嗟に後退すべく野晒を引こうとする。だが、掴まれた野晒は決して千弘の手から離されることは無かった。故に更木は斬魄刀を諦め、自身のみで距離を取ろうとするが、それすらも叶わなかった。

 

「ぬ…!?」

 

見れば野晒だけでなく、自身の足までも踏みつけられていた。それによって更木は野晒を手放す事も、離脱する事さえも封じられてしまった。

 

 

そして

 

更木の野晒を受け止めた千弘はそのまま拳を握り締めると、彼のその鋭い目に向けて怒りが込められた目を向けた。

 

 

「邪魔だッ!!!!」

 

その直後 

 

 

___!!!

 

 

その場に肉を叩く脆い音が響き渡ると同時に千弘の握り締められた拳が更木の腹へと深く突き刺さった。

 

「がぁ…!!」

 

それによって更木の巨大な身体がゆっくりと地面に倒れた。護廷隊において、元柳斎の次に力を持つ歴代最強の『剣八』である更木剣八は一撃も与えられる事なく、拳によるたった1発の殴打によって打ち沈められたのであった。

 

 

更木の瞬殺。その光景を目の前で見ていた京楽は冷や汗を流した。

 

「ちょっとちょっと…幾ら何でもこれで“弱体化”なんておかしいって」

 

そんな中で京楽は数十分ほど前のマユリとの通信を思い出した。

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

それは数分前。暴走した千弘を止めるべく通信を介して彼の足止めを依頼したマユリが通信を切ろうとしたちょくぜんであった。

 

『さて、では頑張ってくれたまエ』

 

「ちょっといいかい?」

 

マユリが通信を切ろうとすると京楽は声を出して止めた。

 

「涅隊長、幾ら何でも千弘くんを止めるなんて無謀でしょう。彼の強さなんてここにいる隊長達は皆知ってるよ?」

 

その言葉に日番谷や白哉など、霊王護神大戦の時に隊長を担っていた皆は頷いた。

 

「それに今の千弘くんはド怒り状態…近づくのも危険なんじゃないかい?」

 

それに対してマユリは予想外の言葉を口にした。

 

「何を言ってるんだネ?奴は今この上ない程にまで“弱体化”しているヨ?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

マユリのその言葉に一同は硬直してしまう。

 

『弱体化』一瞬ながら彼はその言葉を辞書で引いて調べたことがあるのか?と疑う程にまで皆は唖然としていたのだ。

 

「あれで…普段よりも弱いのか…!?」

 

「そう言った筈だが?聞こえなかったのかイ?」

 

日番谷の言葉に再び返したマユリの言葉に皆は今度ばかりは現実として受け止める。だが、一向に信じることができなかった。

 

「奴の特徴である“剣術”と“体術”。それは奴がどんな状況下であろうと冷静かつ敵の動きを正確に見極める観察眼があるからこそできる芸当ダ。だが、今は怒りという感情により我を忘れ、冷静さが欠如しているために通常の抜刀術も見切れない太刀筋も君達が見切れる程にまでなっている筈だヨ」

 

「……その言葉…信用していいのかい…?」

 

「あぁ。過去のデータだが、偽りはないヨ。まぁくれぐれも攻撃には当たらないようにしたまエ。当たれば____まぁ言わずとも分かるネ」

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「こんなんが弱体化なんて…本当に本気出したらどうなっちゃうの?」

 

「今はそんな事を考えてる暇はないぞ!何とか涅隊長達が到着するまでに食い止めないと…!!」

 

浮竹の言葉に頷いた京楽は彼と共に斬魄刀を始解させ、千弘へと向かっていった。

 

「「…!!」」

 

先に駆け出した京楽は己の二刀流である斬魄刀『花天狂骨』を千弘目掛けて振り回した。

 

「うゔぁあ!!!」

 

それに対して千弘は此方へと目を向ける事なく、鞘に収めた斬魄刀を振り回し、二人を吹き飛ばした。

 

 

吹き飛ばされた二人はすぐさま体勢を立て直すと再び千弘へと向かっていく。

 

「千弘くん!悪い事は言わない!今すぐこんな事はやめるんだ!!」

 

「いつもやんちゃな君がこうも怒り狂っちゃうなんて一体何があったの!?詳しく教えてごらんよ!!」

 

そう言い二人は左右から次々と斬撃を放っていくが、それを千弘は全て斬魄刀で捌き切っていた。

 

 

そんな中であった。

 

「話して何になる?やめてどうなる?この怒りをどこで発散すれば良い…?」

 

「「!?」」

 

突如としてその場にとてつもなく低い声が響き渡る。それは千弘の声ではあったが、いつもよりもより一層低く威圧感があり、耳にしただけで全身から鳥肌が立ってしまう程のものであった。

 

「アンタらに何と言われようと私は止めるつもりはない。たとえこの身が滅ぼうとも…貴方方を蹴散らしてでも…私の愛する人を傷つけた時灘をこの手で惨く殺す…!!皮を剥いで肉を削ぎ落として死んだ後も苦しむぐらいになぁ!!!!」

 

 

そして千弘の全身から黒い霊圧が溢れ出した。

 

 

「だから私の邪魔をするなぁッ!!!」

 

その瞬間

 

 

千弘の全身から放たれた黒い霊圧が嵐となって周囲へと吹き荒れた。

 

 

「うぉお!?」

 

「京楽!?ぐぅ!?」

 

その激しさはもはや立つことさえも叶わず、付近に立っていた京楽と浮竹、そして雀部はその暴風によって吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

そんな中であった。

 

「ふふ…この程度では…私は怯みはしませんよ…」

 

その荒れ狂う霊圧の嵐の中を掻い潜りながら卯ノ花が現れた。その目はいつもの母性溢れる優しき瞳ではなく、1000年前の彼女の姿である戦いに飢える『剣八』としての瞳となっていた。

 

 

【卍解】《皆尽》

 

すると卯ノ花の持つ湾曲した斬魄刀が真っ赤な血で覆われた。

 

「フフ…!!」

 

「…」

 

その瞬間 卯ノ花の斬魄刀と千弘の斬魄刀がその場で衝突し、その場から一瞬にして消えると次々と周囲でぶつかり合った。

 

「…!!」

 

「ふふ…いつもよりも剣速が鈍い…いつのまにか少し見切れるようになってしまいました…」

 

次々と金属音を鳴り響かせながら千弘と斬り合っていた卯ノ花は何度も何度も彼と刃を交えていたためか、今ではその速度を微量ながらも見切り始めており、彼の剣速へと対応し始めていったのだ。

 

 

だが、

 

それでも千弘の剣術は彼女をより大きく上回っており、気づいた時には既に彼女の腹には千弘の拳が突き刺さっていた。

 

「がぁ…!!」

 

その痛みはようやく彼女へと伝わり、千弘の動きについてきていた身体はその場に崩れ落ちた。

 

「…」

 

ゆっくりと意識を手放す中、卯ノ花の目には倒れる自身に向けて涙を流す千弘の顔があった。

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

倒れた卯ノ花。周囲に残っているのは京楽、浮竹、雀部、元柳斎の4名のみであった。

 

「…」

 

そんな中であった。元柳斎は一瞬にして瞬歩で千弘の周囲を移動し、離れている京楽、浮竹の元へと卯ノ花、更木を届けると再び千弘の前へと移動する。

 

 

「3人とも…命令じゃ。虎徹副隊長の元へ行け。二人の治療じゃ」

 

「「「…!!」」」

 

その言葉に3名は即座に元柳斎の意思が伝わったのか、すぐさま瞬歩でその場から姿を消した。

 

 

そして、元柳斎は自身と千弘のみとなると腰に掛けてある斬魄刀を掴み引き抜いた。

 

すると元柳斎の斬魄刀から大容量の炎が溢れ出て千弘ごとその場を覆った。

 

「園原千弘…儂はただ規律に従うのみよ。貴様が恋人を傷つけられようと侮辱されようと…儂はここを通さぬぞ…!!」

 

その言葉と共に______

 

 

 

 

 

 

______周囲を覆っていた炎が一瞬にして斬魄刀へと吸収されると共に瀞霊廷の気温が上昇した。

 

《卍解》【残火の太刀】

 

過去現在において、護廷隊を創立した当初から鍛え続け、ユーハバッハを敗北へと追い込んだ元柳斎の【卍解】である。

 

そして、現在の姿は4つのうちの一つ“東”旭日刃である。

 

 

「行くぞ…!!!」

 

その言葉と共に元柳斎の身体が飛び出し、千弘目掛けて焼け焦げたその斬魄刀を振るった。

 

「…!!」

 

対して千弘はその振り回しを斬魄刀で受け止める。だが、

 

「な…!?」

 

受け止めた身体は突如として巨大な衝撃波と共に上半身の衣服が消え去り、そのまま近くの瓦礫目掛けて吹き飛ばされた。

 

「ぐぅ…!!」

 

吹き飛ばされる中、千弘は状態を立て直そうとするが、それを行う前に元柳斎の姿が現れた。

 

 

「この程度か…!?」

 

その言葉と共に今度は千弘の身体へと焼け焦げた斬魄刀が当たると共に彼の身体を再び大きく吹き飛ばし、倒壊しようとした瓦礫へと叩きつけた。

 

 

「……」

元柳斎はその場に降り立つと、ゆっくりと歩き出し、瓦礫の下で虚な目で虚空を見つめていた千弘を見下ろした。

 

「身体が動かなかろう。怒りや投獄によるストレス。そして監獄生活による睡眠障害…怒りによる単調な動きと隊長の皆との連続戦闘による疲労…もう主の身体の活動は限界に達しておるのじゃ」

 

「…」

 

そう告げる中、千弘の手から斬魄刀が零れ落ちると元柳斎はそれを拾えないように蹴り飛ばした。

 

「千弘よ。主は黒崎一護と同じくその力で尸魂界を何度も救った。儂としても感謝はしておる……じゃが…今回の事態とは別よ。たとえ恋人を傷つけられようと…貴族へと牙を剥き瀞霊廷を破壊した罪は許されるものではない」

 

 

彼の罪を咎めるように告げた元柳斎はゆっくりと、斬魄刀を振り翳した。

 

 

「しばらく____

 

 

 

 

______反省しておれ…ッ!!!!!」

 

 

 

 

その瞬間 元柳斎の斬魄刀が千弘へ目掛けて振り下ろされると共に、その地点一帯を巨大な炎が包み込んだのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「…」

大量の煙が舞う爆心地の中心で刀を振り下ろした元柳斎はその体制のまま煙が舞う目の前の光景を見つめていた。

 

すると、煙が晴れ、そこには倒れ臥す千弘の姿があったのだ。

 

「(許せ千弘よ…貴様の許せぬ気持ちは痛く分かる…じゃが、規律に従ってこそ護廷十三隊…しばらくは休んでおれ)」

 

そう言い元柳斎は心の中で彼への道場の言葉を向けると、刀を鞘へと納めた。

 

 

そんな中であった。

 

「〜!!〜!!」

 

「…?春水…?」

コチラに走ってくる京楽の姿があった。その表情は喜びではなく、むしろ何かを伝えたいのか叫んでいる様子であった。

 

「〜!!」

 

京楽は何を言っているのか?元柳斎は彼の方へと目を向けた。すると、彼の叫ぶ声が聞こえてきた。

 

 

「山爺ぃいいい!!!!!!!!」

 

 

その直後

 

背後から千弘が現れた。

 

「な…!?」

 

「この程度の一振りでは私を殺せませんよ」

 

 

 

その瞬間

 

 

「がぁ…!!」

 

千弘の拳が彼の腹へと深く突き刺さり、彼の身体が地面へと崩れ落ちた。

 

「山爺!おい!山爺!!」

 

駆け寄った京楽は山爺の身体を揺さぶるが彼の身体が起き上がる事は無かった。いや、それよりもなぜ直撃した千弘が無傷のまま立っているのかだ。先程、確かに残火の太刀の一撃をその身に受け、確かに倒れている姿を確認できた。

 

「なぜ無傷なんだ!?さっきは確かに倒れていたはず……まさか…!!」

 

そんな中、京楽は自身の技を思い出す。それは、纏っていた霊圧を服のように脱ぎ捨ててその場に自身の分身を作る技術だ。

 

「まさか君…僕の技を…!?」

 

「その通り。便利な技でしたので使わせていただきましたよ」

 

京楽の見解に笑みを浮かべながら頷くと千弘は刀を鞘へと納める。

 

「ですが、貴方方のおかげで少しばかり頭が冷えましたよ。これなら真心を込めた殺意で時灘を殺せます。じっくりと痛みを与えながら…」

 

「…待ってよ…」

 

千弘が告げて立ち去ろうとすると元柳斎を介抱していた京楽が呼び止めた。

 

「それ以上は…いくら君とて除名か投獄処分になっちゃうよ…!?僕らでもどうする事もできない…!!」

 

「結構です。眠さんをあんな姿にした奴を殺せれば後はどうでも良いです」

 

そう言い京楽の言葉を一蹴した千弘は彼を横切り、再び時灘の霊圧が感じ取れる流魂街へ向けて歩き始めたのであった。

 

 

そんな中であった。

 

「待ってください。千弘さん」

 

「!?」

 

突如としてその場に女性の声が聞こえ、その声を耳にした千弘は思わず振り返る。

 

 

「眠…さん…!?」

 

そこには自身が怒った元凶である時灘によって無惨に殺された愛する女性『涅ネム』の姿があった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。