お腹が空いたのでお金を稼ぎたいです。剣術極めた死神の無自覚ライフ 作:狂骨
『綱彌代 時灘』5大貴族の中でも特に規模のある綱彌代家の分家の末裔であるが、非常な手法により当主へと成り上がった男である。
幼い頃に一読した本によって、己の家が、そしてその5大貴族の罪が何であるかについて知った事で彼は変わった。
彼の目的はただ一つ。己の綱彌代家に記された通り、暴虐の限りを尽くすのみ。そして、混沌となりゆく世界に死神や虚の存在を知らぬ現世の人々や国がどのように崩壊していくのか見届けるためである。
全てにおいて常識とされていた概念が崩壊して混乱していく大衆を見る事こそ彼の目的なのである。
そのために時灘は千弘と元柳斉が投獄され、邪魔者が消えたと同時に動き始めた。
2人のうち、彦禰 は時灘が王悦から奪った斬魄刀『已己巳己』を使用し、虚圏で暴れ回っていたが、その際にその場にいたハリベルやクールホーン、そしてマユリによってパシリにされた元見えざる帝国の元星十字騎士団達が協力し、見事にその暴走した斬魄刀を撃破した。
そして、残る時灘も彼が断界にて楼閣を築いていた情報を事前に仕入れていた京楽は元柳斎に代わりに護廷隊を率い、数名の隊長達や破面そして特殊能力『完現術』を扱う者達と共に彼を追い詰めた。
だが、時灘は簡単に倒される様な玉ではなかった。
土壇場に追い込まれた時灘は自身の斬魄刀【艶羅鏡典】を始解させた。この艶羅鏡典には自身が見た斬魄刀の能力を全て扱えるという恐ろしい能力があり、威力ではなく人の五感を支配する藍染の『鏡花水月』や元柳斎の『流刃若火』を模倣し彼らを真正面から迎え撃ち圧倒した。
それでも、勢いづいた彼らを止める事は叶わず、京楽と共に同行した檜佐木によってその身体を貫かれ重傷を負ってしまった。
だが、重傷を負っても時灘は諦めなかった。どこからか入手したのか、懐からソウルチケットを取り出すと尸魂界へと戻ったのであった。
「な…アイツ…ッ!!!」
「こりゃ参ったねぇ…急いで戻ろう」
時灘がその場から消えた事で檜佐木は激昂し、京楽自身も傘の先端をつまみながら首を横に振るとすぐさまその場を後にし時灘を追い尸魂界へと向かったのであった。
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「ハァ…ハァ…ハァ…!!」
ソウルチケットによって自身の屋敷へと帰還した時灘は流血にまみれた身体を引きずりながらも、形勢逆転を図るべく医務室へと向かっていた。
「ふ…ふふふ…!!バカな奴らめ…!!この私がこの程度でやられる筈がないだろう…!?何度でもやり直せる…!!この程度の傷など…奴らがここへ来る前までに完治なんて簡単だ…!!!」
そして、時灘は自身の屋敷の扉を開いた。
そこには
「ん?おや、これは失礼」
「…え?」
椅子に座りながら本を読み漁るマユリの姿があった。
「なぜ…ここに…?」
突然と、まるで自分の家であるかのように平然と居座っていた彼の姿に時灘は思わず理由を問う。それに対してマユリは読書しながら答えた。
「どれもこれも興味深い本ばかりでネ。ついつい読み漁ってしまったのだヨ。あ〜気にしないで。読み終わったらすぐに出て行くから」
「泥棒の様な真似とは…冷徹な隊長殿も随分と薄汚くなりましたなぁ…」
「確かに、そこは否定しない。前は朽木白哉の車庫に不法侵入したからネぇ〜」
時灘の言葉に対してマユリは否定することなく受け入れる。
そんな中であった。
「だけどその前に、そんな口を叩いている暇などあるのかネ?」
「なに…?」
突如として本を読み漁っていたマユリの目が突然と時灘に向けられた。その動作に不穏を感じ取った時灘が身構える中、マユリは告げる。
「私がいるという事は___
マユリが言葉を言い掛けたその瞬間____
_________時灘の左腕が切り飛ばされた。
「え…?」
時灘は何が起こったのか理解できなかった。気づけば自身のぶら下がっていた腕が突然と空中に投げ出されていたのだ。
「私がいるということは、奴もいるのだヨ」
__ボト
そして切り飛ばされた腕が地面に転がったと同時に左半身から身体が弾け飛ぶ程の痛みが襲った。
「ぐぁぁぁああああ!!!!」
「全く霊圧で気づきたまえヨ。さっきからずっとそこにいただろうに」
ようやくその痛みに気づいた時灘は切り取られた左腕がついていた肩を抑え始めながらその場に崩れ落ちた。
「あ…ああ…!!くそ…くそぉおおお!!何故だ…なぜ…」
痛みと共に湧き上がる怒りに歯を食い縛りながら時灘が叫んだ時であった。
____ 時灘の背中を黒い霊圧が撫でる。それによって全身に寒気が走り、全身を駆け回っていた腕の痛みが一瞬にして掻き消えた。
「あ…あああ…」
背中を撫でた黒い霊圧によって、時灘の精神からは怒りという感情が掻き消え、置き換えられるように全身から大量の汗と寒気に見舞われる。
そして、全身から湧き上がる恐怖感に支配されながらゆっくりと背後へと目を向けた。
そこには______
「どうも。お久しぶりです」
ドス黒い霊圧を放ちながら満面の笑みを浮かべている千弘の姿があった。
「き…貴様は…!!!」
その顔を見た瞬間 時灘の全身から鳥肌が立ち、余裕の笑みを浮かべていた顔からは大量の冷や汗が流れ出る。
「園原ァァあ!!!」
「あ、名前覚えててくれたんですね!嬉しいですよ時灘さん」
「何故だ…なぜお前がここに…!?」
「いやぁ〜無間でカラオケしてたら局長が来てボーナスをやるって言ってくれましてね!まさかこんなに嬉しいボーナスをくれるとは思いもしませんでしたよ!」
その可愛らしい笑顔を輝かせる中、千弘は血のついた刀を撫で、その笑顔を目にした時灘はその場から腰を抜かした。
もはや京楽達に行った煽りなどする勇気も胆力も何もない。あるのは目の前の存在に対する『恐怖』のみであった。
「やめろ…やめろ!!!その顔を私に見せるな!!」
「えぇ?人の顔見てそれはないですよ〜!ねぇねぇ!そんなに怖がらないでくださいよ〜!」
そう言い千弘は血に塗れた斬魄刀を肩にのせながらゆっくりと歩み寄った。
「来るな!!来るなぁぁぁぁ!!!!くる____え…!?」
時灘は必死に斬魄刀を振り回す。だが、その腕も気づけば斬魄刀ごと粉々に切り刻まれていた。
「邪魔な腕ですね。斬りますよ?あ、もう斬ってました」
「あ…ああ…!!」
もはや痛みなど感じなかった。目の前の恐怖に顔を覆うことも振り払うことすらも出来なくなってしまった恐怖に掻き消されてしまったのだから。
「やめ…やめろ…!!やめてくれ!!私にその顔を見せるな…!!」
「大丈夫ですよ。すぐ終わります。その顔が見られて私は大満足ですから!」
小動物の様に震えた声で時灘が願う中、目の前に立った千弘は刀を握り締め、満面の笑みを浮かべながら時灘目掛けて振り下ろした。
「“さようなら”」
「うぁあああああ!!!!!!!!」
そして、『逃げることができない』という恐怖に飲み込まれながら時灘の意識は闇の中へと引き摺り込まれたのであった。
その後、後を追ってきた檜佐木達がその場に到着すると、そこには髪が抜け落ち、全身が真っ白になり廃人と化した時灘の姿があったという。