ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート 作:らっきー(16代目)
「やあ嫌われ者の少年。元気かい?」
「……ウール先生。わざわざ嫌味を言いに来たんですか?」
「半分正解。もう半分は、君の幼馴染に頼まれたからさ」
「リリーに?」
スリザリンへの組分けにより幼馴染と引き離されて、孤独な学生生活を送っていたセブルス・スネイプと、彼の幼馴染と同じ名前を持つリリー・ウールの交流が始まった。
「スリザリンはどうだい? 気取った純血の金持ちばかりでムカつくだろう?」
セブルスがその発言に驚いたのは単純に口の悪さだけではない。そんな言葉は、セブルス・スネイプが純血の子供ではないと確信していなければ出てこないからだ。
スリザリンにおいては、混血の誰もが純血のふりをしている。純血主義とマグル生まれで対立しているこのご時世ではなおさらに。
純血主義の中でも極右派の子女が多いスリザリンで、わざわざ半分マグルの血が流れていることを喧伝するのは、余程の愚か者ぐらいだろう。
「その言い方、まるで僕が純血ではないようですが」
「そう聞こえなかったなら、私の言い方が悪かったんだろうね。……純血は、そんな風に人の顔色を伺って過ごさないよ」
どうにも、根本的なところでミスをしていたらしい。セブルスはそう心のなかで嘆息する。尤も、幼少期から身についたこの癖を治せと言われても無理だろうが。
下手に誤魔化したところで無意味だろうと思い、素直に言ってしまうことにした。或いは、思わず吐き出してしまうほどストレスが溜まっていたのかもしれない。
「……ムカつくかと言われれば、そうですよ。家柄だけの無能が大威張して、それ以外はご機嫌伺いだ」
「君のほうが優れてる?」
「少なくとも、同級生よりは。僕の方が呪文の技術も、知識も……魔法薬学だって上だ」
誰にも言っていないことだった。だが、事実としてセブルスは平均的な七年生より多くの呪いを知っていたし、教科書よりも効率的に魔法薬を作ることが出来た。誰にも──スラグホーンにも、見向きもされなかったが。
「なら、ルシウスを……監督生を頼ってみると良い。本当に優秀なら、君は後ろ盾を手に入れられる」
流石は教師というべきか。言われたとおりに頼ってみれば──正確には自分がいかに役に立つかを示してみれば──実に容易くルシウス・マルフォイを旗頭としたグループに入ることが出来た。それは将来純血主義者の側に加わるという意思表示だと思われることでもあったのだが、元々望むことであったし、それでスリザリンでの居場所を手に入れられるなら文句はなかった。
自分の能力による成功体験は麻薬のように甘美なものだった。
セブルスは、幼馴染の少女はそのグループへの所属を絶対に良く思わないことも、将来を誘導されたことにも、気づいてはいなかった。
スリザリンの居場所という問題が解決したことと入れ替わるように、今度はグリフィンドールとの関係性という問題が現れだした。
特に反目しあっていたのは、ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラック。どちらも、大のスリザリン嫌いだ。
元々、グリフィンドールとスリザリンは険悪なのだ。それこそ、創始者であり寮名にもなった二人が袂を分かった時から。
それに加え、今の時勢。
グリフィンドール生はその勇敢さ故か、危険な仕事──闇祓いに就くものが多かった。現在においては、ヴォルデモートの勢力に立ち向かう者達である。一部はダンブルドアの結成した抵抗組織『不死鳥の騎士団』への所属もしている。
一方スリザリン生は、その血統故に死喰い人へと加わる者が多い。両親が死喰い人で、親戚もそれに準ずるようなもの。そんな子供に選択肢のあるはずもないだろう。最右翼であるブラック家の癖に反死喰い人として生きているシリウス・ブラックは例外中の例外である。
そんな状態で何が引き起こされるか。
親を殺した相手の子供と共に授業を受ける。親を捕まえた相手の子供と廊下や教室で顔を合わせる。諍いが起こらないはずがない。
グリフィンドールもスリザリンも、集団で行動するのが当然となっていた。一人で行動していては、何をされるか分かったものではないから。
時に呪いで。時にマジックアイテムで。時にマグル的な暴力的行為で。それぞれの大義名分を胸に相手を傷つける。最も人を残酷にするのは、正義だ。
そんな中、時折とはいえ一人で行動している──マグル生まれであるリリー・エバンズと過ごす時間は彼にとってかけがえのないものだったが、代わりにスリザリンでの立場を少しばかり微妙なものにした──セブルスは、グリフィンドール生にとって格好の獲物だった。
それとなく守ってくれていたルシウスは卒業してしまった。スリザリンの友人にマグル生まれに会いに行っているなど言えるはずもない。
特にセブルスを苦しめていたのは、グリフィンドールの人気者グループ、マローダーズだった。
たとえセブルスの方が優れていたとしても、四人相手では勝ち目がない。だというのに、彼ら──ジェームズとシリウスは、業腹だが自分以上に呪文に長けている。
結果、いつも負けるのは。グリフィンドール生の憂さ晴らしに使われるのはセブルスだった。
校長はグリフィンドール側だ。教師も『不死鳥の騎士団』を兼ねている者が多い。スリザリンの寮監は、死喰い人には冷淡だ。
頼れるのは、幼馴染と同じ名前の教師だけだった。
「『フィニート』……またこっぴどくやられたもんだね、セブルス」
「……ありがとうございます、先生。助かりました」
一人で行動するのは止めろとは言わない。もっと早く助けてくれとも言わない。その単独行動が大事なことだと知っているから。未練を捨てきれない自分が悪いのだと理解しているから。
「……やり返さないの? 呪いは、得意分野なんでしょう?」
「出来るのならやってます! ……四人相手に、勝てるわけが」
「うーん……君はどうにも……グリフィンドール的だね。四人に勝てないなら、一人ずつ潰せば良い。それか、個別に動けなくしていくか。狡猾にいこうよ」
「一人ずつ……?」
「そう。まず覚えた方がいいのは、無言呪文かな。それで石化なり浮遊なりさせて、後はご自由に」
言われてみれば、何故正々堂々とした決闘に拘っていたのだろうか。敵対している相手に情けをかける必要もないだろうに。どうせ、いつも過激なのは向こうなのだから。
「ちょっとだけど、良い顔になったね。……やるなら、私に見えないところで。立場上、止めなきゃいけないからね」
「あの、先生……」
「ん?」
一つだけ、聞いてみたいことがあった。
彼女は、基本的には中立だ。諍いの解決手段として、その場の全員を呪うくらいには。現に、セブルスに親切にしつつも、マローダーズと仲良くしている……とまでは言わないが、例えばシリウスが部屋に入っていく所を見たことがある。
「先生は、どっちの味方なんですか?」
出身寮なら、死喰い人。ホグワーツの教師という立場なら、『不死鳥の騎士団』。スリザリンにもグリフィンドールにも肩入れしている彼女は、一体どちらなのか。
「……私は、誰の味方でもないよ。私なりの考えのもとに、私のために動いているだけさ」
セブルスはそれを、中立の宣言と受け取った。少なくともホグワーツの中ではどちらの立場にもならないという意味であると。
二分化されつつある世界で、どちらも壊そうとする人間の存在など、思いもしなかった。
その日、セブルスは生涯最悪の日を迎えることになった。
ふくろう試験の日。優秀であれ劣等であれ、かなりのストレスであることは間違いない、そんな日。
セブルスは一般的な生徒と同じように、試験で頭がいっぱいになっていた。つまり、退屈なくせにストレスだけたまるふくろう試験の憂さを晴らしてやろうと自分を狙っているマローダーズに気が付かなかった。
スニベルスという蔑称での呼びかけに反射的に杖を取り出し──それは、最初から攻撃するつもりでいた彼らに対しては、あまりにも遅かった。
杖を弾かれ、動きを止められ。抵抗の出来ない状態で嘲弄される。周りに居るのもグリフィンドール生ばかりだ。スリザリン生は……居たのだとしたら、仲間を集めに行ってくれたかもしれない。希望的観測だが。
呪いをかけられるだけなら、嘲弄されるだけなら、耐えられた。悲しいことだが、いつものことである。
耐えられなかったのは。我慢できなかったのは。割り込んできたリリー・エバンズへのジェームズの言葉。
あろうことか、自分への虐めをダシにして、交際を迫っていた。初めて見た時からリリー・エバンズに恋をしていたセブルスにとって、それは何よりも許せないことだった。
呪いを、怒りが上回った。とある教師の言葉を思い出す。──守りたい物があるなら、躊躇うな。命より大事なものがあるなら、誰を殺してでも守り通せ。
シリウス・ブラックが気がついたが、もう遅い。杖を構えたセブルスは、呪いを唱える。中立と言い張るくせに妙に甘い教師と作り上げた呪いを。
『セクタムセンプラ 切り裂け!』
ジェームズ・ポッターの体中から、血が吹き出した。
想像していた以上に、爽快な気分になった──一瞬だけ。
罪悪感に襲われただとかではない。リリー・エバンズが最初に駆け寄ったのが、ジェームズだったからだ。
ジェームズ・ポッターを打倒した暗い喜びと、自分のしたことへの恐怖と、それらを遥かに超える裏切られたという思いが、絶対に口にしてはいけない言葉を口にさせた。
「僕より、そっちの方が大事なのか……『穢れた血』め!」
セブルス・スネイプとリリー・エバンズが、決定的に仲違いした瞬間だった。
それから。セブルス・スネイプがホグワーツを卒業し、ヴォルデモート卿の配下となった後のこと。
とある、一つの『予言』を主に伝えた。
ヴォルデモート卿を打倒する者が産まれると。
闇の帝王はすぐにその予言のもとに行動することを決心した。即ち、ポッター家に産まれる子供を殺すことを。
セブルスにとって、ポッターの子供などどうでもよかった。共に殺されるであろうジェームズ・ポッターもどうでもよかった。寧ろ死ねばいいとも思っている。
だが、リリーにだけは死んでほしくなかった。
絶対的な力を持つ者に、自分の大事な人が狙われる。最早、慈悲に縋り付くしかなかった。自分の功績も、未来も、命も取引の材料として、彼女の命だけを見逃してくれと。
「……セブルス。貴様は混血だったな?」
何故そんなことを、などと考える余裕は無かった。ただ、そうです。と事実を告げる。
「いいだろう。ヴォルデモート卿は寛大だ。その女が邪魔をしない限り、見逃してやる。その後はお前の好きにすると良い」
「……有難き、幸せ」
これでは、駄目だ。リリーが自分の息子を見捨てて、自分だけ助かろうとするはずが無い。このままでは、彼女が殺される。
しかし。頼れるような相手など誰一人──
「それで、私のところに?」
「貴女しかもう頼る相手がいないんです! ウール先生! どうか……どうかリリーを!」
「自分で死喰い人になって、自分で予言を伝えて。虫がいいとは思わない?」
「それは……その、通りです……何と言われようと……いえ、何を言ってもらう資格すら無いでしょう。それでも……!」
「悪いけど、私じゃヴォルデモートには勝てないよ」
そんな! と叫ぶ前に、彼女の言葉が続いた。
「だから、ダンブルドア先生に頼もうか。きっと代償は要求されるだろうけど……私も、出来る限りはとりなすよ」
「いいのですか……? だって──」
「これでも、教師だからね。自分の教え子は、いつまでだって可愛いものさ」
或いは。リリーの死の可能性を理解した時以上にセブルスが自分を恥じた瞬間であったかもしれない。
両親からも、学友からも、幼馴染からも貰えなかった無償の愛を、人生で初めて受け取った瞬間だった。
結論として。ダンブルドアの助力を得てなお、リリー・エバンズを守ることは出来なかった。
セブルスは、約束を果たしてくれなかったダンブルドアと、何よりも自分自身を憎むことになった。
リリー・ウールは、常に誰からも恨まれない場所に居た。
一度矛盾が生じないようにプロットを作ろうと思うので原作開始からは少々間を空けてから投稿を開始する予定です
今後について
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映画版の情報で書いていいよ
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ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス