ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート 作:らっきー(16代目)
毎週、毎週、死人や、行方不明や、拷問のニュースが入ってくる。魔法省は大混乱で、事態に対処しきれない。全てをマグルから隠そうとする一方でマグルも死んでいく。
そんな時代だった。
優れた者が支配者となるのが当然だと考える優生思想保持者。マグルを虫けら程度にしか思っていない純血主義者。魔法使いが隠れ潜んで生きていくことを許せないアコライト残党の極右派閥。
そんな人間達が、強力な指導者となったヴォルデモートに率いられ、世界に混乱を引き起こす。
優れた者による強い世界のために。穢れた血を排除して、魔法使いの血を守るために。より大きな善のために。
主義主張に違いはあれど、ヴォルデモートというカリスマの下で纏められている。マグル産まれの魔法使い、マグルを殺す。そんな単純な目的のために。
当然ながら、それを良しとしない者達と対立する事になる。世の中に単純な善と悪の対立などほぼ存在しないだろうが、今回は数少ない例外だ。
革命とすら呼べない虐殺を行う者と、それを止めようとする者。前者は議論の余地なく悪であったし、後者は……たとえどんな思惑があったとしても、その行動は善であっただろう。
穢れた血が殺された。マグル贔屓と噂される混血が殺された。たまたま居合わせたマグルが殺された。マグルとの融和を唱えた純血が殺された。
取り返しのつかない虐殺が起きていないのは、アルバス・ダンブルドアが組織した『不死鳥の騎士団』がかろうじて食い止めているから、というのも間違った評価では無いだろう。
アコライトの残党などはダンブルドアの名前を聞くだけで逃げ出す始末であるし、ヴォルデモートすらも彼だけは警戒していた。一対一の決闘でヴォルデモートに勝てる者が居るとすれば、それは彼だけだろう。
だから、ヴォルデモートは力を求めた。アルバス・ダンブルドアに勝てる力を。誰にも負けない力を。
彼にとって敗北とは死の事である。死ななければ、復讐の機会もある。生きていれば、自分より強い相手だろうと超えてみせる。──死にたくない。死ぬのだけは、絶対に嫌だ。
彼が分霊箱の更なる製作を行ったのも当然だろう。一つ二つ作って安心出来るのならば、そもそも初めて作った段階で終わりにしている。
目標数は六。多いほど死は遠ざかるし、七という数字は魔法界において力のある数字とされている。
魂を引き裂くには、最も邪悪な行為が必要とされている。
トム・リドルにとって、それは殺人だった。それは死を何よりも恐れ、分霊箱に頼ってでも避けようとしていることにも表れている。
自分が何よりも恐れている死を他人に齎すというのは、リドルにとって他に比べられるものも無い程に『邪悪な行為』であって、途方も無い罪悪感を──少なくとも、最初の一回を行った瞬間には──感じさせるものだった。
だが、何度も行えば何事も慣れるものだ。リドルにとって、一度の殺人は最早魂を引き裂く程の悪行と感じられる物では無かった。
だから、数を増やした。
汚らわしいマグル共を殺し続ける。死後も亡者として操り、尊厳を陵辱する。友だった物に友を殺させ、家族だった物に家族を殺させる。殺せば殺しただけ兵隊が増え、悲劇が増える。
魂が引き裂かれ、不死性と力を強めた。
代わりに、何かを失った。
常に後手に回り、正義であるが故に取れない手段があり、限界を感じた『善』の陣営は一つの決断を下した。
死喰い人達への。『悪』への許されざる呪文の使用の許可。服従で仲間同士相打たせることも、磔で情報を聞き出すことも、死で二度と『悪』を為せなくすることも。全てが『正義』の行為として行われた。
それを嘲笑うかのように。より悪辣な行為が返ってきた。
死喰い人と。ヴォルデモートと敵対して、死の呪文で死ねるのなら幸福な方だ。
マグルがかつて魔女を狩ったように、生きながらにして悪霊の火に焼かれる者。手足を一つずつ切り落とされて殺される者。精神が完全に壊れるまで磔の呪いを受ける者。
特に、おこぼれにあずかろうとする者達が加わり始めてからは、そんな行為が増加していた。
だが、それでも悪辣さでヴォルデモートには敵わないだろう。
闇祓いを服従させ、守るべきマグルや、共に戦った仲間を殺させる。最高に幸せな気分で。
服従の呪文が恐れられるのは、単純に人を意のままに動かせるからでは無い。本人が絶対にやりたくない事をやらせるというだけなら、拷問でも人質でも出来るだろう。服従の呪文の真骨頂は、命令に伴う多幸感。
幼い頃から友誼を結んだ相手を殺す。恩人を喜んで拷問にかける。父親が娘を犯す。母親が自分の赤子を絞め殺す。
全て、今までに感じたことの無い幸福感と共に。
ヴォルデモートは優れた魔法の使い手であり、開心術の達人である。
つまり、本人が一番やりたくない事を見抜き、それをさせ、ひとしきり楽しませた後で術を解く。
悍ましい行為を、楽しんで行った記憶が残る。
大半は、自殺のような戦死を遂げた。
そんな人々を見て闇の帝王は嗤う。
世界などこんなものだ。人間などこんなものだ。違うと言うのなら服従程度逆らってみせるがいい。
大切な──大切だったはずの、彼女が受けた悪意を世界に返す。何も知らずに笑っていた奴等にはお似合いだ。
嗤えて、暗い悦びが湧いて──酷く、虚しかった。
魂が引き裂かれた。力を強めて、何かを失った。
力は強まっている。勢力も拡大している。なのに、勝ち切れない。
アルバス・ダンブルドアを筆頭とする『不死鳥の騎士団』の精鋭達。ホグワーツを卒業した中でも優秀な生徒。敵対者を殺し続けた結果として、生き残った者たちは強力な魔法使いとなっている。
死喰い人にも、かなりの被害が出ている。木っ端でしかないチンピラは物の役に立たず、純血だと血を誇るしか出来ない無能共は自分より弱い相手としか戦えない。
ならば、俺がもっと強くならねばならない。結局信じられるものなど己のみだ。
魂を引き裂き、力を強め、敵対者を殺し尽くし。そして──
そして、何がしたかったのか。何のためにこんな事をしていたのだったか。
誰かの事を。もう顔も声も思い出せない誰か。ただ彼女の笑顔が見たくて──有り得ない。この帝王がそんな弱さを抱えているはずが無い。
俺は、闇の帝王だ。力を強めるのも、敵対者を殺すのも、頂点に立つために決まっている。支配して、俺を見下していた世界を見下してやる。
頂点は常に一人だ。隣に誰かがいて欲しいなど思うはずが無い。このヴォルデモート卿が、そんな弱い存在であっていい筈がない。
『予言』を聞いた。俺を滅ぼす存在が産まれると。三度も逃した相手というのはそう多くない。
ロングボトム、ポッター。候補は二つ。純血と混血。自分を滅ぼす可能性があるなら、混血だと直感した。
純血が自分より優れるなど認めたくなかったのか、或いは自分に匹敵するような混血でも知っていたのか……どうにも、近頃変な事を考える。そんな人間に覚えは無い。単純に死喰い人共のせいで純血の無能さを知ったからだろう。
ポッターの息子を殺しに行くと告げた時、予言を伝えて来た配下が嘆願をしてきた。
リリーという女だけは殺さないで欲しいと。
『予言』の内容からして、子供さえ殺せば問題は無い。散々に逆らってきた男の方は殺すが、リリーとかいう女一匹、どうなろうと構わないだろう。
だから。見逃していいと思ったのは『予言』を手に入れた、自分と同じ混血の配下への褒美だ。今更女一人殺す程度躊躇うはずも無いのだから。
ポッター家の守りは、裏切り者の存在により容易く突破出来た。学生時代の親友だったらしいが、力のある方に擦り寄る正しい判断をしたらしい。
立ち向かってきた男はあっさりと死んだ。一対一でこのヴォルデモート卿に勝てる筈も無いというのに、愚かな男だ。
赤子の前に、女が一人。
「退け、女。貴様に用は無い。命が惜しければさっさと消え失せろ」
「お願いします……! ハリーは……! ハリーだけは!」
「退けと言った。その赤子を差し出すか、二人とも死ぬか。貴様の選択肢はそれだけだ」
「お願いします! 私には何を、どんな事をしても構いません、だからハリーは……!」
「……何故だ? 命よりもソレの方が大切だとでも?」
答えを聞いては駄目だと、心のどこかが叫んでいた。
「……子供を守るのは、母親として当然のことです」
当然の事だと誇るように。怯えて震えている癖に毅然として。女は答えた。
衝動のままに杖を振り上げた。この女の言葉を認められなかった。認めたくなかった。
親が子を守るのが当然だと言う。ならば俺はなんだ? ×××××はなんだ? 親の愛を受けられなかった僕達はなんなんだ?
認めない。それを肯定するのは、自分が愛されなかった惨めな存在だと肯定することだ。愛されずとも生きた×××××を惨めな存在だと貶めることだ。
よりによって、それを。『親の愛』を『リリー』が語るなど。認めない許せない今すぐその口を閉じろ──
杖から放たれた緑の閃光が、女の口を永遠に閉ざした。
何が親の愛だ。そんな物は何の役にも立たないでは無いか。当然だ。そんな物に価値があってはいけないのだから。
後は最後に生き残った子供を殺すだけだ。正しく赤子の手をひねるような──それ以上に容易いことだ。
『愛された』子供に、憎悪が抑えきれない。死の呪文には強力な魔法力が必要なものではあるが、今はその何十倍も篭っているだろう。
極限の憎悪と共に放った緑の閃光は、跳ね返ってこちらの身体を砕いた。
何故、と思う反面、心のどこかで予期していたような気もする。
誰かの名前を呟こうとして、何も思い出せなかった。
ただ、ほんの少しだけ口元を緩めて笑う。少女の姿を幻視した。
分霊箱の製作時期について原作と異ならせています。
分霊箱の代償を独自設定として追加しています。
追記
感想、ほんとはちゃんと返したいんですけど、下手に返すとネタバレになるんですよね。お辞儀様・リリーの内心とかその辺は特に
今後について
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映画版の情報で書いていいよ
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ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス