ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート   作:らっきー(16代目)

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眠たいので初投稿です


おまけ8

「では、一年生三人に賢者の石の防衛を任せると?」

 

 ホグワーツ校長室。恐らくは英国で最も安全な──物理的にも、盗聴等の可能性の面でも──場所に、計画を詰める二人組が居た。

 

「不安かね?」

 

「それはそうでしょう。私は貴方と違って石が必要ですし……少なくとも、ヴォルデモートが死んだと確信出来るまでは」

 

「石は、クィレルには手に入らんよう仕掛けをしておる。『一年生に突破出来るような仕掛け』とは別での」

 

「では、それは信じるとしましょう。しかし一年生をクィレルの……死喰い人と思われる者の元へ行かせる。正気ですか?」

 

 言葉を飾らずにアルバス・ダンブルドアに懸念をぶつけるリリー・ウール。ダンブルドアは気を悪くした様子も見せずに応じた。

 

「無論正気じゃとも。儂は、ハリー達ならやり遂げてくれると確信しておる」

 

「愛の護りで? ……過大評価でなければいいのですが。ああ、それとも。これで負けるようなら、と試金石のつもりなのですか?」

 

「否定はせぬ。ハリーには、トムを打ち倒せるぐらい強くなってもらわねばならんからの」

 

「できれば、自分で片を付けたいんですがね。子供に頼らず。予言とはなんとも……厄介なものですね」

 

 今更子供を犠牲にすることに良心の呵責を覚えるような女性ではないが、そう言った方が好印象であることぐらいは理解している。

 

「そこで、頼みがある。ハリーを見守ってやって欲しい。万が一が無いように」

 

「まあ構いませんが……死なれても、寝覚めが悪いですし。ただ、出番があるようなら、ハリーではヴォルデモートに勝てないのでは?」

 

「そうなったら、計画の練り直しじゃな。儂らと違って若いからの。時間はあの子の味方じゃ」

 

「気の長いことで。……今考えても仕方のないことですね。精々ハリーを信じるとしましょうか」

 

 二人の話し合いが終わる。

 予言に従ってハリー・ポッターにヴォルデモート卿を殺させるというのは、二人が合意した基本方針である。尤も、ダンブルドアは魔法界とマグルの世界を守るためにヴォルデモートの殺害を目指しているのに対し、リリーの目指すものは違っているが。

 

 悪のカリスマなど、邪魔だから。正義を纏める存在も、悪を纏める存在も、どちらも不要だ。

 彼女が目指すのは、ただ混沌とした世界。統率された戦争でなく、個人による闘争を見たいのだ。

 理性を無くし、獣性に堕ち、それを見た時彼女はようやく安心して諦められるだろう。

 

 人間なんてこんなものだ、と。

 

 

 

 

 

 Xデーは彼らが思ったよりも遅かった。クィレルは三頭犬を出し抜く方法を見つけるのにかなり手こずったらしい。わざわざ口を滑らせやすいハグリッドに重要な役割を任せたというのに、期待外れという言い方は不謹慎だが、そのような思いを抱くのも仕方のないことだろう。

 

 夜間の見回り中。全身金縛り術をかけられていたネビル・ロングボトムから、ハリー・ポッター達三人組が『大事な用事』のために抜け出していったと聞いて、リリー・ウールは内心でようやくかと胸をなでおろした。

 もしクィレルが動かなければ、死喰い人へとつながるであろう糸が途切れることになっていただろう。闇の魔術に対する防衛術の教師となった者が一年続かないのは、最早公然たる事実だ。

 

 ヴォルデモートを殺すためには、情報はいくらあっても足りない。彼女はダンブルドアとは違い、ヴォルデモートの不死の秘密……分霊箱については知っている。しかし、現状彼がどのような状態なのか、何処に居るのかといったことについては無知である。

 

 まずは知らなくてはならないとリリーは考える。

 英国最強の魔法使いであるダンブルドアを、予言の子であるハリー・ポッターを、殺すためにどうしてもヴォルデモートが必要だから。利用しやすい相手であるという打算でもある。

 問題は、分霊箱の──魂を引き裂いた影響がどれほど出ているかだが、それを知るには本人と会うしか無いだろう。

 

 ヴォルデモートとの……トム・リドルとの再会を。望んでいるのか避けたいと思っているのか。本人にしか分からないことだろう。

 

 

 

 

 

 賢者の石防衛のための仕掛けは、所詮は一年生でもどうにか対応出来る程度のものだ。魔法の腕はホグワーツ教師の中でも上から数えた方が早い──自分で言うことでは無いが──私にとっては無いも同然と言っていい。どちらかというと実力より、わざわざ相手の都合に付き合う気のない性格のおかげかもしれないが。

 

 仕掛けの数々を力付くで強引に突破していく。少しだけ怯んだのはトロールだろうか。単純に見た目の醜さや悪臭にだけれど。

 配置されているからには一年生でも勝てるように何かしら用意されているのだろうが、生憎とそんなものを探すほどの律儀さはない。死の呪文を数発放って終わらせた。失神等に耐性を持つ魔法生物なんてこうしてしまえばいいと常々思っている。理解が得られるとは思っていないけれど。

 

 最後の、答えを既に知っている魔法薬学の仕掛けを終えて。最奥に辿り着いた時には全て終わろうとしていた。

 

 クィレルに掴みかかっているハリー・ポッターの姿。万策尽きた故の特攻でないことは、掴まれたクィレルの肌が爛れていることから察することが出来た。

 悲鳴が上がって、灰になるクィレル、倒れ伏すハリー・ポッター、それと灰の山から出てきたゴースト……いや、それ以下の霞のようなものを見た。

 

 何故ソレがヴォルデモートだと分かったのか、問われても答えることは出来ない。腐れ縁のおかげかもしれないし、何となく予感めいたものがあったからかもしれないし、かつて好きだった相手の成れの果てだからかもしれない。ただ、まぁ──

 

「女……貴様、何者だ?」

 

 向こうは覚えてはいないようだけど。

 

「うーん……なんて答えるのが正しいんだろうね。君の古い友人で、ダンブルドアの配下で、みんなの敵かな?」

 

「巫山戯ているのか?」

 

「本気なんだけどなぁ。疑心暗鬼は相変わらず?」

 

「……もういい。貴様の身体を寄越せ」

 

 ハリー・ポッターを殺してくれるならその選択肢を考慮に入れてもいいのかもしれないけど、それは前提から崩壊している。

 

「悪いけど、無駄死にはごめんかな。そのやり方じゃ同じことの繰り返しになるだけだよ」

 

 誰の目も届かないのを良いことに、ヴォルデモートが負けた理由をバラしてやる。愛の護り、なんて仰々しい名前が付いている命を使う古い魔法のことを。

 

「ならば、俺はそこの子供に手出しできないと?」

 

「今のままならね。……敵の血を取り込んで、肉体を作る儀式について調べてみると良い」

 

 霞相手の交渉というのは表情や声色がよくわからないけれど、おそらく説得には成功しているらしい。

 

「……よし、今は口車に乗せられてやる。……それより、女。俺に従わないか? 地位も名誉も、欲しい物はくれてやる」

 

 これは、魂を裂いた影響なのだろうか。それとも案外昔からこの程度の誘いで靡くと思われていたのだろうか。後者だとしたら少し屈辱的かもしれない。

 

「地位も名誉も興味はないよ。……ねえ、それよりさ。君の目的は何? 君は、何がしたいの?」

 

「俺は……穢れたマグル共を鏖にする。それが手段で……目的だ。殺さなければならない。屑ばかりの世界を少しでも綺麗にする。そうすればアイツも──いや、違う。俺は独りだ。……殺したいから殺す。気に食わないから殺す。それだけだ」

 

 使えるな、と思った。イカれてはいるのだろうが、それでも残滓はあるらしい。口車に乗ってくれたのもそのあたりが理由だろう。

 

 逃げていくヴォルデモートを見送り、今後のことを考える。

 マグル周りを殺させるのなら、彼ほどの適任は居ないだろう。実力も、思想も、憎悪も。全てがその為にあるようなものだ。上手に誑かせるようにしていく必要はあるだろうが。

 

 当面の目標はダンブルドアの始末か。それを終えれば予言の子もヴォルデモートに殺させて終わるだろう。

 

 ハリー・ポッターとアルバス・ダンブルドア。ヴォルデモート卿と死喰い人。アコライトの残党にまだ何も知らないマグル達。

 最後に笑うのは誰だろうか。或いは、私が笑う未来もあるのだろうか。

 

 一先ずハリーを回収することにして──見た者の望みを映す鏡が視界に入った。

 

 懐かしい青年が杖を振り上げている姿が見える。杖の先から緑の閃光が放たれて──鏡を砕いたから、そこから先は映らなかった。

 

「……どうせなら、君に殺されたかったんだけどね」

 

 一人も友人が居ないまま死ぬのも惨めかと思って、意識して作った関係だったけど。確かに居心地の良い時間ではあった。

 いや、正直に言って惹かれていた。ただ、彼は死にたくなくて、私は生きたくなかったから。結局解り合えなかったけど。

 

「……くだらない、未練か」

 

 どのみち、彼はもう成れの果てになっている。私は、もうアレに殺される終わりでは満足できそうにない。

 

 だから私が殺そう。愛故に。

 

 

 

 

 

「……それで、どこまで想定通りだったんですか?」

 

 賢者の石を巡る争いが終わった後。再びアルバス・ダンブルドアとリリー・ウールの二人が話している。今回は詰問に近いかもしれないが。

 

「どこまで、とは? ハリーが守りきってくれるのは儂ら二人の想定じゃろう?」

 

「では具体的に。貴方はクィレルにヴォルデモートが憑いていると知っていたのですか? 或いは、ヴォルデモートが生きていると」

 

「……確信していたわけでは無い。服従や記憶の植え付けも想定していたからの。生きているかは……お主も生きていると思っておったろう?」

 

「確信と想定は違うでしょう? ヴォルデモートの不死の秘密も、『想定』があるのでは?」

 

 そう問われた老人は、一冊の本を差し出した。題は、深い闇の秘術。

 

「儂がホグワーツの禁書の棚から回収した本じゃ。ここに載っている、『分霊箱』。聞いたことは」

 

 リリーは首を横に振って否定を示し、続きを促す。

 

「魂を引き裂いて物に保存し、死を免れる術じゃ。悍ましい……闇の魔法じゃよ」

 

「……では、それを壊さねばヴォルデモートは殺せないと?」

 

「その通り。そして問題は、物がいくつあるのか分からないことなんじゃ。それに、何に魂を込めたのかも」

 

 極端な話、何の変哲も無い石にでも魂を移していたら、それを探し出すのは困難を極めるだろう。砂漠で砂を探すくらいには。

 

「結局、情報が足りませんね。……だからクィレルのような人間を泳がせるのですか?」

 

「軽蔑してくれて構わん。しかしそれ以外に方法が無い。死喰い人を……トムを泳がせる。そうすることで見えるものもあるじゃろう」

 

「気の遠くなる話ですね……とりあえず、一つでも見つかれば推測も出来るでしょうが」

 

 彼女は分霊箱の正体を一つ知っている。必要の部屋に隠されたレイブンクローの髪飾りのことを。

 だが、それを明かすことは無いだろう。それがあればこそヴォルデモートがダンブルドアに勝つ可能性が生まれるのだから。

 

 逆を言えば、それさえ残っているのなら他を全て壊してしまおうと問題は無い。幾つかは予想も出来る。

 

「……そういえば、ハリーには、伝えるのですか? ヴォルデモートの秘密や……予言については」

 

「彼は……まだ、幼い。適切な時期とは言えんだろう。まだ、早い」

 

 ならばいつ? とは聞かなかった。

 

 アルバス・ダンブルドアは、過去は増長していたかもしれないが、現在は善なる人である。

 彼が即断即決といかないのは、選択の一つ一つを身を焦がすような苦悩と共に選んでいるからである。

 

 それは、きっと気高さと言えるものなのだろうが。

 

 蛇が、そこに付け込もうとしていた。

 




みぞの鏡の答えはトム・リドルが殺してくれることでした。君の予想は当たったかな?


追記
パソコンがぶっ壊れてデータが吹き飛んだので次回更新遅れます

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