ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート 作:らっきー(16代目)
勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、チャーミングスマイル賞五連続受賞。
そんな肩書きを引っさげて、新しい闇の魔術に対する防衛術の教師はホグワーツに姿を現した。
「紹介しよう。今年からホグワーツで闇の魔術に対する防衛術を教えてくれる、ギルデロイ・ロックハート教授じゃ」
そんな言葉と共に姿を見せた彼は、なるほど確かにそのような実績に相応しい見た目をしていた。もし外見と中身が常に比例するのであれば、彼は優れた魔法使いであるのだろう。或いは、その見た目だけでも鈍い者や優れた容姿の人間に弱い者の目をくらませる事は出来るかもしれない。
恐らくはかなり練習をしているのだろう。その所作や話す言葉の抑揚といった物も相対している人間を心地よくさせるようになっていた。尤も、ここにそのような小細工に騙される人間は居なかったが。
ロックハートに目をくらませられなかったのは、別に美的感覚だとか、人生経験の差だとか、そのような話ではなく、単純に学生時代のロックハートの事をよく知っていたからだ。
言葉を飾らずに言えば、彼がやったと主張しているような『偉業』を、彼が達成出来るなどとは誰も信じていなかったのである。
そんな空気感の中で、怯むことなく堂々と自分の『偉業』を自慢し、如何に自分が優れているか語って見せた彼は、少なくとも空気の読めなさ──若しくは読まなさ──については非凡であろう。
ロックハートが演説のような自己紹介を終え、スケジュールが詰まっているからと退室した後、ダンブルドアが今年の『注意事項』について話し始めた。
「さて、まずは皆が気になっていることから話すとしようかの。彼の著書じゃが……」
ダンブルドアが杖を一振すると、今年の闇の魔術に対する防衛術で使用する教科書……つまり、ギルデロイ・ロックハートの著書である自伝がホグワーツ教師陣の前に並んだ。
「疑問に思ったことじゃろう。あのギルデロイがこんな事を本当にやってのけたのか? と。無論、生徒というものは時に儂らの想像を超えて成長することはあるというのは否定せぬがの」
異論を挟む人間は居なかった。大なり小なりここに居る誰もがその疑いは持っていたし、ギルデロイ・ロックハートという人間がそのような成長を遂げられる人種だとも思っていなかった。フリットウィックやマクゴナガルといった何人かの教師はそれを今でも悔やんでいる。
「結論から言ってしまうが、ここに書いてある事は確かに事実じゃ。ただし、主人公が違うがの……そう。察しの通り、誰かの行為を盗んだという意味じゃよ」
その言葉を聞いて、教師陣の顔色は疑問から嫌悪へと変わった。それも当然だろう。どんな方法かは分からないが、誰かの『偉業』を盗用して、誰も声をあげない。ロクな方法でないことは確かだ。
「……そこまでわかっているのなら、何故捕まえないんです? 何か躊躇うような事情でも?」
代表して、リリー・ウールが尋ねる。悪行が分かっているのならさっさと捕まえてしまえばいいというのは、さほどおかしな考えではないだろう。事実、何人かの教師は同調するように頷いている。
「そうしたいのは儂もやまやまじゃがの。証拠が無い物は裁く事ができないんじゃよ」
ダンブルドアの語るところはこうだ。いくら怪しかろうと、ロックハートが何かしら──例えば、脅迫により自分の功績として語ることを認めさせていたり、記憶を奪ったりしている証拠があるのなら、それを罪として裁く事は出来る。
しかし、現実は違う。盗用された本人たちはそれを訴え出ることはないし、そもそもそれが自分から盗まれたものだと気づいてもいない。これは被害者の中のダンブルドアの知り合いに確認したから確かである。
くれぐれも注意しつつ、振る舞いに違和感が無いか気にしておいてほしいという言葉で締めくくって、解散となった。
「リリー、少しいいかの?」
が、他の者と同じように自室に帰ろうとした彼女は、ダンブルドアに呼び止められた。
「……何ですか? 近くにいることになるのだからより気を付けてほしい、とかだったら言われるまでもありませんが」
少し機嫌が悪そうなのは、証拠がないにしろ悪人だろうと推測できるような人物がホグワーツに迎え入れられたからだろうか、とダンブルドアは推測した。尤も、対立候補も元殺人鬼に、後ろ暗いスクイブと。大して差があるわけでも無かったが。それに、そもそもの問題としてそのような自己矛盾の極みとなるような嫌悪感を彼女が抱くはずもない……というのはダンブルドアには思いもよらないことである。
「それも無くはないが、お主にはもう少し詳しく伝えておこうと思っての」
「と、言うと?」
「ギルデロイの手口について」
「……それが分かっているのなら猶更……いえ、そうできないような手口ということですか?」
「恐らく、忘却術。それもかなり高度なものじゃ。違和感なく記憶を奪い、繋ぎ合わせる。少なくとも儂は、そんなことができる人間は一人しか知らぬ」
それが誰を指しているのかは、言葉にするまでもなかった。ロックハートがその人物に匹敵するような才──たとえ一分野だけでも──の持ち主であるとすれば、厄介なことになるのは間違いない。
「それは……また、面倒な。自白でもしてくれればいいのですが……どうしたものやら」
「決定的な証拠でも掴めれば良いのじゃがの。或いは、被害者の忘却術を破ってもいい……できるものなら、との但し書きは必要になるだろうが」
「まあ……無理でしょうね。無理というより、破ったことの証明が出来ないと言った方が正確かもしれませんが。下手を打てばこっちが悪者でしょう」
何かしら考えておきますよ。と言い残してリリー・ウールはその場を後にした。人を誑し込むことにかけては、彼女を超えられるのは魂を裂く前のトム・リドルぐらいだろう。
結局のところ、今は流れに任せるしかない。
「……ギルデロイ。このテスト、正気?」
最初の授業で使う小テストが出来たから見てもらいたいと言われ、渡された物は悪ふざけかと思わせるようなものだった。
そもそも、法律の関係上家庭学習も出来ないのに学期始めにテストなどしたところで無意味でしかないとは思うのだが……まあそこはいい。
問題なのは、そのテストの内容が闇の魔術に対する防衛術に関係したものでなく、ギルデロイ・ロックハート個人に関する問いしかなかったことだ。
「何かまずかったですか? 教科書をきちんと読んだか確かめるいい方法だと思ったのですが……」
本当に問題ないと思っている顔に、今年は相当に苦労しそうな予感を覚えた。正直に言って、彼が誰の記憶を奪っていようと関わりのないところでやっていてくれる分にはどうでもいいのだが、仕事を増やされるのは御免だ。
「……これ、本読んでなくても君のファンなら解けるでしょ? このテストで分かるのは君のファンかどうかだけだよ」
「な、なるほど……」
まだ理屈に納得……しているかは分からないが、反発してこないだけマシと思うしかなさそうだ。これでキレられでもしたら一年休職することを真剣に考えなくてはならないところだった。
「私はテスト自体要らないと思うんだけど……やるなら、せめて魔法と絡めようか。君の著書からなら、使った魔法とか、魔法生物への対処方法とかね。教科書の内容ならそこまで問題考える手間も無いし。……自己顕示欲も満たせるし。君の本音はそっちでしょ?」
「……見抜かれてますか。まあ、先生には誤魔化しても無駄でしょうね」
「君の在学中にしたことは流石に覚えてるよ。良くも悪くも、目立ってたのは間違いないし」
グラウンドに闇の印よろしく自分の写真を打ち上げたり、出来そうも無い大言壮語を常に口にしていれば、それは注目を集めるというものだろう。勿論、悪い意味でだが。
「まあ魔法省の教育方針なんて守ってない人のが多いし、ある程度は好きにしてくれていいんだけどさ。流石に生徒から苦情が来そうなのは……」
今までの努力が無為になる、とは流石に言えないけれど。これでもベテラン教師として結構ウケが良い方ではある……というより、そうなるよう振る舞ってきたのだから、それを壊されてはたまったものではない。
このままだと下手をすれば今年一年の授業がギルデロイの自分語りになりかねない。一部の彼の熱狂的なファン──或いは詐欺の被害者──以外からは苦情が来るだろうし、それを家で話せば教育熱心な純血の親などは抗議を入れてくるだろう。
「……とりあえず、授業やる前にどうやるか報告すること。そうしたら君の希望も取り入れてなんとか調整するから。……あんまり期待しすぎないように」
毎年教師が変わるような科目であるから、このぐらい癖のある人は過去にもいたのだけれど、流石に忘却術をかけてくる危険のあるような相手は初めてだ。
マトモな授業が行われるようにしつつ、彼の自尊心も満足させる。両方やらなくてはならないのが辛いところだ。
一月程経って、ハロウィン。
ギルデロイは失敗をしてくれて以来大人しくなっていて、少しだけ楽になっている。ハリー・ポッターのいるクラスで良いところを見せようと……つまり、彼より凄いと思ってもらいたくて無能を晒したらしい。身の程を弁えろ、なんて言葉を聞くのならこうはなっていないだろうからそこはもう仕方ない。
ただ、御しやすくなりつつあるギルデロイより気にすべき事が二つほどある。一つ目はハリー・ポッターだ。
無論予言の子だとか、ヴォルデモートとの因縁だとか、考えるべきことは色々あるのだけれど今回はそこではなく、彼の一つの特性について。
蛇語使い。サラザール・スリザリンに始まり、その血統に受け継がれてきた能力。現在扱えるのはヴォルデモート一人……の、はずだったのだけど。
別に蛇と話せる事が何か意味のある行為という訳では無い。何かの役に立たせられる蛇なんてバジリスクぐらいのものだろう。
問題なのは、蛇語を使えるという事実がスリザリンの血統の証明として認識されかねないこと、それに純血主義者と死喰い人がほぼイコールで繋げること。
最悪なのは死喰い人がハリー・ポッターに取り入ってしまうことだろうか。そうなればたとえヴォルデモートが復活しても手駒を失う事になる……というより、そもそも復活が相当困難になるだろう。残るのはハリー・ポッターを実質的に操るであろうダンブルドアによる平和な世界だ。流石に私一人でそれを覆せると思うほどに自惚れてはいない。
ただ、いつものあの三人組が揃っている時に蛇語を使った以上、最早隠す事は出来ないだろう。どこまで広まるかは子供たちのモラル次第だが。
今出来るのは彼の血統を調べておいて、死喰い人がかつぎ上げる事が無いようにするぐらいか。もし本当に蛇語の能力が血統から来るものなら、父親であるジェームズも使えたはずだろう。あの目立ちたがりが何も言っていないということは、恐らく血統から来るものでは無いのだろう。では何故? と聞かれても答えは分からないが。
一先ずはポッターの一族でも調べてみるとしよう。上手く違う血統だと判明すればよし。途中で辿れなくなれば、それはそれで疑念ぐらいにはなるだろう。
こちらはそれでよし。……いい加減目を背けるのを止めてもう一つに向き合わなければならないだろう。具体的に言えば目の前に置いてある黒い表紙の一冊の本。
呪いのかけられた本というのはこの世界では余り珍しい物では無い。これに関しても持ってきた人物の様子からして何かしら厄介な物であるのは間違いないだろう。そして中身が白紙である以上、恐らく鍵となるのは読むことではなく書くこと。
燃やしてしまう、という考えは開いた最初のページに書いてあった文字にかき消された。
T・M・リドル。ヴォルデモートの過去の名前。最後に少しだけ関わってみようと思った相手の名前。結局分かり合えなかった人。
……そう思うと、この本の意図なんてものは考えるだけ無駄かもしれない。どうせ、私には彼の価値観は理解できなかったのだから。ならば、さっさと行動に移すべきだろう。
『久しぶり、リドル。君からは私が誰だか見えているのかな?』
書いた文字は一瞬輝き、すぐに消えた。代わりに、自分が書いていない文字が現れた。
『久しぶり、ということは僕を知っている人でしょうか。残念ながらこちらからは見えていないので、教えていただけると有難いのですが』
『リリー・ウール。この名前を忘れていなければいいのだけれど』
今度の書き込みもすぐに消えたが、返答まではやや間があった。別に不具合が起きたという訳では無いらしく、また返答の文字は現れた。
『もし本当にそうなら僕にとって最も望ましい相手の元へ辿り着けた事になります。ただ、貴方がリリーだという証明が欲しい』
それに、少しばかり考える。自分が自分である事の証明とは、なんとも難しいことを要求してくれるものだ。
……いや、そんな事を真面目に考えようとすることこそ私らしく無いのかもしれない。古い友人との会話に、肩肘張る必要も無いだろう。
『あれだけ身体を重ねた相手にそんな事を言われるなんて、悲しいな。私は君が果てる時の顔も覚えてるのに』
効果は覿面。声にならない声というものを文章に起こすとこうなるのか、という光景を暫く堪能させてもらった。未来の自分に対して嫉妬している様が、面白さを孕みつつ哀れでもあったから、『冗談だよ』と教えてやる。しばらくこちらの人格を非難するような文字が並んだが、どうやらようやく落ち着いたらしい。
『そのジョークのセンスは確かに君なのだろう。君のところにたどり着けてひとまずは良かった』
今更平静ぶってそんな事を言うのは滑稽ではあったのだけど、指摘しないのが優しさだろう。
それから行ったのは現状認識の擦り合わせ。なにせ50年も前に作られた代物だ。ある程度はその時の持ち主から情報を得ているだろうが、偏りは避けられないだろう。
そして個人的には最も重要なこと。何故接触を図ったのか。この日記の……リドルの記憶の望みは何処にあるのか。破壊するにしろ利用するにしろそこが分からなくては決めづらい。
『僕が作られたのはホグワーツからマグル生まれを排除するためだ。だが、君がいる以上対処されて終わるだろうから、先に降参する事にした』
こちらの質問への返答はそんなものだった。目的意識は吹き込まれて作られているようだが、それに拘らない柔軟さも持ち合わせているらしい。
『なら、今は特に目的は無い?』
『そうなる。流石に破壊されるのは困るが、それ以外なら君の意志に従おう。見逃すならマグル生まれを消すし、出ていけというなら退散するさ』
『じゃあ、私を手伝ってよ。多分、君にとっても悪い話じゃないからさ』
分霊箱であり、ヴォルデモートの価値観を理解出来る存在であり、実体を持たない存在である。当時のリドルの記憶から作られているなら私に好意的でもあるはずだ。利用方法は幾らでもあるだろうし、既にやりたい事は何個か思いついた。
最高に使い勝手の良い道具が手に入ったことに、少しばかり口元が緩む。
別に、リドルとのある意味での再会だとか、この日記を壊さずに済みそうだとか、そういう事は関係ない。
関係していてはいけない。
今後について
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映画版の情報で書いていいよ
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ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス