ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート 作:らっきー(16代目)
基本的に新任教師を除いてホグワーツ特急に教師が乗ることは無い。自室がホグワーツに用意されるのにわざわざ外部から通う物好きなど居ないし、そもそも成人した魔法使いであれば煙突飛行粉なり姿現しなりいくらでも別の手段があるからだ。
だというのにリリー・ウールが今年に限ってわざわざホグワーツ特急を使ったのは、今年の闇の魔術に対する防衛術の教師が古い知り合いであったからだ。
「やあ、リーマス。久しいね」
「お久しぶりです。卒業して以来だから……何年ぶりでしょうね」
「さあ? 歳をとるとわざわざ指折り年月を数えなくなるんだ」
闇の魔術に対する防衛術の新任教師、リーマス・ルーピン。とある事情を抱えた彼に助教として事前に会っておきたいと言えば、その理由を疑う者は1人も居なかった。実際リリーはそのことについても後々話すつもりではあったが、それ以上に話すべきことがあった。
「リーマス、会って早々嫌な事を思い出させて申し訳ないんだけど……」
「シリウスのことですか?」
「そう。話が早くて助かるよ。かつての友人としてどこに行ったか心当たりはないかとか、そもそもなんで今更? とか……まあ色々とね」
「……残念ですが、私にも分かることはほとんどありませんよ。何せなんでジェームズを例のあの人に売ったのかすら、今でも分からないんですから」
シリウス・ブラックによる、秘密の守人──特定の人物を情報の守護者とし、その人物以外からはどうやっても情報を得られなくする魔法──について知っているのは、今は亡きポッター夫妻を除けば当事者であるシリウスとピーターのみ。ルーピンは今でもシリウスが裏切り者だと思っているし、それを払拭しようとするのならピーターを隣に並べなければならないだろう。
「秘密の守人はシリウスだったんだよね? 実はリーマスでした……とか、ない?」
「……先生、それは私が裏切り者だと?」
「ああ、ごめんね? そんなつもりじゃなかったんだ。まあその反応からして君じゃなさそうだ。ピーターはもう死んでるしね。結局、シリウスを捕まえでもしなきゃ分かんないか」
さりげなく混ぜられた秘密の守人が別人であるという示唆。というよりはシリウス・ブラックが無実であるという可能性。それ自体を口にすることは決してないが。なにせ、今現在シリウスの無実を信じている人間など当事者の2人以外には居ないのだから。
「話は変わるけど、君の抱えている……そうだな、ふわふわとした小さな問題について──」
そこまで言ったところで、ホグワーツ特急の明かりが消えた。設備の不具合などが起こるような仕組みでは無いし、生徒のイタズラ程度でどうにかなるようなヤワな魔法はかかっていない。
「……厄介事かな。リーマス、手分けして様子を探ろう。入学前に生徒がどうこうなんて……いや、ホグワーツなら事故は良くあることか」
「言ってる場合ですか……『ルーモス』何かあれば守護霊を飛ばします。先生は……」
「こっちの安全は気にしないで。私でどうにもならなきゃダンブルドアでも連れてこなきゃ無理だよ。その時は潔く諦めるとしよう」
そんな軽口と共に別れ、停止したホグワーツ特急の中を見て回る。不安そうにしている生徒達から時折声をかけられたが(何故今年に限ってウール先生が? という疑問をぶつけるような余裕のある生徒はいなかった)、調査中とだけ返して先へと進む。
幾つか目のコンパートメントを訪れた所で、とうとう原因と対面することが出来た。
「吸魂鬼……そういえばシリウス対策に入れるって言ってたっけ……参ったな」
黒いフードと周囲にもたらす寒気が特徴的なそれは、対処法がたった一つしかない。そしてそれを使えないリリーにとっては、対抗する手段の無い厄介な相手である。
「リーマスが来るのを……いや、7年生とかなら守護霊使える人も居るかな……となると私は、時間稼ぎでもするか」
守護霊の呪文を習得している生徒なんて、闇祓い志望かアズカバン看守でも志望してる奇特な人間、もしくは余程熱心に首席でも狙っている人間くらいだろう。そういう人間が正義感なり点数稼ぎなりで来てくれることは……あまり期待できる可能性とは言えないだろう。
「あー……吸魂鬼に言っても通じないだろうけどさ。ここにシリウス・ブラックは居ないよ。ご馳走に飢えてたんだろうけど……ツマミ食いしたら帰ってくれないかな?」
吸魂鬼に発語能力は無いが、意思疎通は不可能では無い。それはアズカバンの看守という役目を任されていることからも分かるだろう。もっとも、意思疎通が不可能でないというのはコミュニケーションが取れることを意味しないのだが。
その証拠に、吸魂鬼はその場を去る様子も見せはしていない。
「うーん……『セクタムセンプラ』『ディフィンド』『アバダ──』これは不味いか。参ったな」
幾つかの放たれた呪文は精々が吸魂鬼のフードを切り裂くだけで、追い返す事には貢献出来ていない。生徒の手前無駄な抵抗をしているだけである。
「『フィーンド・ファイ──』」
「『エクスペクト・パトローナム!』」
呪文と共に飛んできたのは、輝く狼。今までは大した反応を見せていなかった吸魂鬼も血相を変えて──血が通ってはいないが──逃げ出した。
「助かったよリーマス。やっぱり守護霊が使えるのは羨ましいね。便利だし」
「そんなことより生徒は大丈夫ですか!?」
「私は……? ともかく、生徒は大丈夫……だと思う。まだ吸魂鬼のヤツもフード被ってたし。当てられやすい人は気絶ぐらいはしたかもしれ……ポッターかな、倒れてるのは」
リリーは吸魂鬼に気を取られて個人の判別にまで気が回っていなかったが、吸魂鬼に襲われかけていたのはハリー・ポッターとその友人の2人。要はいつもトラブルの渦中にいる3人組だった。
「先生! 今のは……いや、それよりハリーが! あの変なのが来て、気絶して──」
「『エネルベート』……『リナベイト』──おはよう、ハリー。気分は? ……答えなくていいよ。最悪だろうね」
そんな事を言っている間に、ルーピンは吸魂鬼の影響を受けた者への一般的な対応策……要は、チョコレートを取り出している。渡された3人が口にすれば、ほんのわずかながら身体に温かさが戻ってくるような心地がした。
「さて……少し早いけど授業だ。さっきのは吸魂鬼。アズカバンの看守をやってる魔法生物……生物なのかな? ともかく、人の幸福を食い物にするロクでもない奴さ。詳しい事は入学式が終わった後にこっちの先生に聞くといい」
吸魂鬼は、元々刑罰も兼ねて置かれるような生物だ。思春期の少年少女が接するべきものではないし、影響を受けたあとに小難しい話など聞きたくないだろう。リリーはそう判断して手早く話を打ち切る。こんな事が無ければジェームズの息子であるハリーとルーピンの出会いの場にもなったかもしれないが、最早それも望めまい。
いまだ死んだような顔をしている3人の対応をルーピンに丸投げして、シリウス・ブラックの脱獄は思った以上にホグワーツでの生活にすら面倒を持ち込みそうだと、リリーは内心で溜息をついていた。
ホグワーツでの学期が始まってさほど時間も経たないうちに、闇の魔術に対する防衛術の教授室に1人の来客があった。
「吸魂鬼の防衛法……ねえ。リーマス、君教えるのは得意だろう? 可愛い親友の息子のために一肌脱いであげたらどうだい?」
「親友の息子……? ルーピン先生は、父さんを知ってるんですか?」
「昔君のお父さんが悪ガキだったって話をしただろう? 何を隠そうこの新任教師はその悪ガキの一味だったのさ。私も手を焼いたよ」
「先生も時折けしかけてたくせにそういう言い方はどうかと思いますよ。……ハリー、ウール先生の言う通りで君とは……縁のようなものがある。だから君さえ良ければ吸魂鬼対策……守護霊の呪文の特訓をしてあげてもいいが、どうだい?」
「守護霊の呪文?」
「ああ、君は見ていなかったね。……そうだな、実際に見せた方が早いか『エクスペクト・パトローナム』」
呪文と共に杖から狼が現れる。そこに付け加えられる説明──吸魂鬼には守護霊の呪文以外一切の干渉が出来ないこと。幸福な感情を持って呪文を唱えることが条件であること。人によって姿は異なることなど──
「さて、やってごらん」
ハリーが幾度目かに挑戦した時にようやく杖先から銀色の霞のようなものが出てきた。勿論それだけでも充分な進歩であり、ハリーも少々自信を付けていたのではあるが、時間も遅いこと、自身で思っているより体力を消耗しているであろうことから今日の特訓は終わりを告げられた。
「そういえば、ウール先生はどんな姿の守護霊なんですか?」
「私? さあ……蛇になるとは思うんだけど、私は使えないんだよね」
「使えないんですか? やっぱりそれだけ難しい呪文ってことなんですね……」
「ああ違う違う。……いや、難しい呪文ではあるんだけど、私は単純に幸福な感情を集中させて云々っていうのが出来ないんだ。無いものに集中も何もないから……なんて言い訳みたいだから言いたくないんだけどね」
皆には内緒だよ? なんて軽い口調で放たれた言葉にハリーは素直に頷いたが、言葉の意味としては重苦しいものとも言える。自分の生きてきた人生を振り返って、幸せな思い出が一つも無いと断じてしまえるのは、あまりに哀れなことだろう。
「あれ? じゃあ先生は吸魂鬼が来た時にどうしてたんですか? ロン達は先生が普通の呪文を使っても吸魂鬼には効いてなかったみたいなことを言ってたんですけど……守護霊が使えないなら吸魂鬼の影響を受けてしまうってことですよね?」
「うーん……説明が難しいんだけどね。吸魂鬼が人の幸福を吸い取る生き物だってところは知ってる? それで影響を受けると嫌な事ばかり考えるようになったり、君みたいにフラッシュバックで気絶したりするんだけど、ここまではいい?」
こくり、と頷かれたのを見て言葉を続ける。
「それらは結局今の幸福を吸い取られて不幸なことしか考えられなくなる……落差みたいなもののせいなんだと私は思う。落差が酷ければ酷いほど、普段なら使える簡単な呪文も使えなくなったり、逃げることも考えられなくなったりね。だから、逆に私みたいな吸い取られる幸福が欠けらも無い人にはなんの影響も無いんじゃないかな。ま、こっちも何か出来るわけじゃないんだけど」
果たして子供にその内容がどこまで理解出来ただろうか。別に守護霊の呪文の習得に関係のあることでは無いのだからどうでもいい事とも言えるのだが。吸魂鬼対策としても真似のできるようなものではない。
リリーも語っているうちに自分でも気がついたのか、少し気まずそうな顔をして締めに入る。
「……ともかく。今はリーマスから習うといい。今回ばかりは私は力になれなそうだからね。リーマスもきっと喜んで時間を割いてくれるだろう。こういう縁は利用できるだけしておくものだよ」
吸魂鬼対策には役に立てないという言葉に嘘は無い。だがそれ以上に、リリーには今もっと優先してやるべきことがある。
彼女は忍びの地図に示された、『ピーター・ぺティグリュー』の文字を思い返しながら今後の事を考える。
誰をどう動かすのが自分にとって都合がいいか。その為には何をするべきか。
自然と浮かんだ笑みは、この場にいる2人のどちらにも気づかれることは無かった。
今後について
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映画版の情報で書いていいよ
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ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス