ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート 作:らっきー(16代目)
「これが分霊箱……日記の君に比べたら随分とこう……しょぼくない?」
「仕方ないだろう。僕でさえ大元の2分の1の魂でしかないんだ。そこから何度も切り分けていったと考えれば、果たしてそれは何分の一なのかという話さ」
ホグワーツに与えられたリリー・ウールの部屋。その部屋の持ち主と一人の男──正確に言えば男の魂の一部と記憶が力を得て実体を得つつあるもの──が会話をしていた。内容は以前最悪な目にあいつつ手に入れてきたロケット……の本物について。
「そうなるとリドルの方が今の本体より強いのかな? 分霊箱を6個作っているとしたら今の残りは……64分の1? 随分と細切れになっているね」
「7つに分割する為には仕方ない……そもそも等分になっているのかは僕には分からないが。複数回魂を引き裂いたのは『ヴォルデモート』であって、トム・リドルではないからね」
「まあ私も魂の大きさがどんなものかなんて知らないから、これを見ても何分の一かなんて分からないけど。……ところで、なんで分霊箱にこれを選んだの? それと洞窟に隠したのもなんで?」
「……恥の話になるから言いたくない、なんて言っても君は納得しないんだろうな」
「まあ、それもあるけど単純に暇なのもあるし折角だから聞きたいかなって。あの駄犬もく……くぃでっち? が終わるまでは帰って来ないと思うし。何が面白いんだろうねあれ……」
「僕に聞くなそんなことは。……さて、選んだ理由だが、単純にホグワーツ創始者縁の品だからというのは大きかったな。それもスリザリンの! 日記のことが無ければ真っ先にこれを分霊箱にしておきたいぐらいだったね」
「それはホグワーツが好きだから? それとも、スリザリンの末裔の見栄?」
「どちらかと言えば前者だ。……君も、ホグワーツは好きだろう? なにせ今もこうしてホグワーツで暮らしているぐらいだ」
「……まあね。リドルほど執着してるつもりは無いけど。他に行き場が無いだけで」
「そんなもの、僕にだって無い。……思えば、孤児院に、ホグワーツ。僕がいるのはいつだって君の傍だな……」
話している途中でふと気がついた、とでも言うように。独り言のようにポツリと呟かれた後半は、しかし聞き逃されることは無かった。
「そう? まあ今は日記になっちゃったから他の所なんていけないか。でも、ヴォルデモートは私より死喰い人を選んでたよ?」
「……君の意地が悪いのは本当に変わらないな」
「性分かもね。まあ、別にそれはいいんだ。いや、どのタイミングでヴォルデモートが私の事を忘れたのかに学術的な好奇心が無いと言ったら嘘になるんだけど……心情的には、やっぱりどうでもいいかな」
「……さっきから恥ばかり語ることになるが、僕には分からない。僕はあくまで5年生のトム・リドルの記憶でしかないから、そこから先は君の話からの推測しか出来ないんだ」
「うん、分かってるよ。だからそんな泣きそうな顔をしないの」
実体を得つつあるリドルの顔は無表情から変わらず、泣きそうな顔などしていないし、どちらかと言えばそのような表情を浮かべているのは窘めるような口調をしたリリーの方だ。勿論、表情は必ずしも感情をありのままに反映している訳では無いが。
「それより、ロケットの方に切り分けた力は吸い取れた? 分霊箱にした魂を戻すのは苦痛と良心の呵責がどうこうってたしか書いてあったけど」
「魂を元に戻すのは難しそうだが……君の提案した、『あくまで他人の魂として力を吸収する』やり方で上手くいった。仮にそのロケットが人間であったとするならそいつは明日にも衰弱して死ぬだろうさ」
「うーん、となるとこれを作った時の魂の情報までは無理か。ヴォルデモートが何を考えて何をしようとしているのか。出来れば知っておきたかったんだけどな」
「僕では不足か?」
「前にも言ったけど、リドルはヴォルデモートより私に寄り添ってくれるから。……というか、なんなら私が覚えてる5年生の頃のリドルより素直で愚直な気がするのだけど」
「……僕にも色々あったんだよ」
青年と言うにも幼い頃の情緒に、拗らせ尽くした自分自身の所業を、好ましく思っている相手から聞かされればどうなるのか。結果が自分の行いを絶対の物として信じられなくなった、ヴォルデモート卿からすれば有り得ない存在である……などということは、2人には知る由もない。
「私にも色々あったしそんなものかな。それより、このロケット……というか分霊箱、壊しちゃうけどいい?」
「ダメだと言ったらどうする気なんだ?」
「リドルは私より自分の魂の一欠片の方が大事なんだ……って泣こうかな」
「それは……割と普通なんじゃないか?」
「おや、女心が分かってないね。そういう時は君より大事なものなんて無いって言いながら抱き締めるものだよ」
「そんなことされても喜ばないだろう?」
「うん、吐き気がするね」
「……ともかく、止める気は無い。君の心のままにしてくれ。きっと……いや、何でもない」
「何を言いかけたのかは気になるけど、分霊箱に免じて許してあげよう。じゃあ、少し出てくるよ」
きっと、僕が下手に何かを考えるより君自身の行動の方が君の為になるだろう、なんて言葉は、認めてはいてもリドルのプライドが邪魔をして口には出せなかった。
彼女はとうに『しあわせ』など諦めているのに。
「校長、夜分遅くに失礼しますが……緊急の用件でして」
アルバス・ダンブルドアは聡明な人間である。リリー・ウールがスリザリンのロケットを持ち校長室に入ってきた時点である程度の事情を察することが出来るくらいには。
「リリーよ、それは……」
「私達が探していたもの……ヴォルデモートの不死の秘密です。正確には、その一部でしょうが」
ダンブルドアはその言葉で、以前から二人の間で仮説として立てられていた分霊箱が存在していたのだと確信することが出来た。
「おお、でかした……と言ってやりたいのじゃがの。この老人に話を順番に教えてくれぬか。歳をとると一を聞いて十を知る訳にはいかんのじゃよ」
「そうですね、まずは……」
そう言ってリリーは語る。2年前から分霊箱を探し始めていたこと。もしリドルが隠すのなら、自分自身が特別な存在であると示すためのものを、自分にとって特別な場所に隠すだろうと当たりをつけたこと。そして孤児院時代の『思い出の場所』でこの『スリザリンのロケット』を見つけたこと。
「リドルにとっての思い出の場所とはの……よく見つけられたものじゃ」
「あそこは、本当によく行きましたからね。今となっては若気の至りと言い訳をさせて欲しいですが……見つかりにくいんですよ。それに知っているのはリドルを除けば孤児院の面々だけですから、まず見つからないでしょうし」
「……つくづく、お主がこちら側に着いてくれて安心しておるよ」
「ヴォルデモートと逆側であれば何でも構わなかったんですけどね。話を戻しましょうか」
分霊箱について、想定しなくてはならないのは大きく2つ。何を分霊箱にしているのかと、幾つ作っているのか。
「先生はどう思いますか? 私としては、スリザリンのロケットがあった以上、他の創始者の品も分霊箱にしているのではと思うのですが。それに、ヴォルデモートの魂の片割れにしては、この分霊箱は弱すぎる」
「あやつの性格からして充分に有りうることじゃ。……が、少なくとも1つ、分霊箱になっていないと保証できるものがある」
「それは?」
「グリフィンドールの剣じゃよ。なにせ、この部屋にあるからの」
「ふむ……では、あとは『レイブンクローの失われた髪飾り』に……」
「『ハッフルパフのカップ』じゃな。儂も流石にそれらが何処にあるのかは分からぬが」
分からないことが分かった、というよりは進展があったと言っていいだろう。なにせ、皆目見当もつかなかったヴォルデモートの分霊箱のうち、少なくとも2つ候補をあげることが出来るようになったのだから。
「……先生、果たしてリドル……ヴォルデモートは幾つ分霊箱を作っているのでしょうか」
「普通であればこのスリザリンのロケット1つだろうと答えるのじゃがの……あやつの才なら複数作ることが出来てもおかしくは無い……というより、それは最早前提として、はてさて幾つかとなると難し問題じゃ」
「験担ぎとして、魔法界で最も強い数字である『7』ホグワーツ創始者の品を全て分霊箱にして『4』どちらも考えすぎでロケット1つだけ……というのはあまりにも楽観的ですね。最悪それこそ無数に作っている可能性だってある」
当然リリーはリドルの日記から、自分が分霊箱を作るなら自身の魂を含めて7……つまりは6個は作るだろうという話は聞いている。それをこの場で伝えるつもりは無かったが。
「無数に、というのはいくらあやつでも不可能じゃろう。恐らく本体がもはや霞とも呼べぬようなものになってしまう。可能性としてはさっきお主が言った7か4といったところかの」
「……だとしたら4ですかね。リドルが自分の魂を込めてもいいと思えるようなものがそう沢山あるとも思えませんし」
「魂を7つにしようとしたら分霊箱は6……確かに、あやつがそこまで執着を持つような品も無いかもしれんの。だが、4つだとしてもグリフィンドールの剣がここにある以上、3つになっているのか代用品でも使っているのか……」
「確定とは言えませんが、心当たりなら。昔、リドルが着けていた指輪があるんですよ。何年生の夏休みのあとだったかな……」
「指輪?」
「ええ。リドルはアクセサリーに凝るようなタチじゃないし、何かしら意味があるものかなと」
「……調べてみる価値はありそうじゃな」
「お願いしますね……それで、話は変わり……というか、本筋に戻りますが。このロケット、どうします? 破壊するか、全部見つかるまで放置しておくか」
「難しいところじゃの。破壊したことがヴォルデモートに伝われば警戒を強めて他の分霊箱に手を出せなくなるかもしれん。じゃが放っておけばどのような悪影響があるか分からぬ。あやつ自身が分霊箱に何かしら仕掛けをしているかもしれん」
「……となると、さっさと壊してしまうべきかもしれませんね。今ならヴォルデモートも肉体すら持っていないわけですし。バレたところで何も出来ないですし、身体を手に入れた後に壊したら、壊れたことが分かるなんて可能性もあります」
「ふむ……悪手だと後で分かったとしても結果論でしか語れない話であるしのう。発見者である君の意見に従うとしよう」
「それでは……『フィーンド・ファイヤ』」
呪文と共に現れた、蛇の形をした白銀の炎は、他の何一つに少しの影響も与えることなく分霊箱を焼き尽くした。もしかしたら断末魔の叫びをあげていたのかもしれないが、それも炎にかき消され、残ったのは半分以上溶けたロケットの残骸だけだ。
「これで、少なくともヴォルデモートは不死から一歩遠ざかりましたね」
「そうじゃな。……今日はこれでお開きにしておこうかの。儂としても調べねばならぬ事を整理せねばならぬし……お主も、心の整理が必要じゃろう」
「……お気遣いは有難いですが、とうに覚悟は決めてますよ。私は、リドル……ヴォルデモートを殺します。死ぬまでね」
分霊箱の数、正体。分からないことはまだまだあるが、少なくともこの日、ヴォルデモートの一部は完全にこの世から消え去った。
それはダンブルドアにとっては計画の前進で、リリーにとっては、計画の仕込みの段階であった。
♢♢♢
『しあわせ』というものが何であるのかは分からなかったが、不幸はよく知っていた。
だから、不幸でなくなれば『しあわせ』になれるのだと思っていた。そのためなら何でもした。
純血主義者の無能共が僕達を見下さないように、恐怖と利益で縛った。僕達を傷つけたマグルを思い出さないように、マグル生まれ共を排除した。
この世界は不幸にまみれている。だから殺した。殺して、殺して、数え切れないほど殺して。
『彼女』は不幸から遠ざかっただろうか。それとも未だに『しあわせ』には辿り着けて居ないのだろうか。
僕自身がどうなろうと構いやしない。他の人間も世界も壊れようと構わない。だからどうか教えて欲しい。誰を殺せば、何を壊せば、君は心から笑ってくれるのか。
瓦礫と死体の山の中に、どうやら『しあわせ』というものは無いらしい。そんなことを認めてしまったら、もう二度と歩けなくなるような気がして──無意識のうちに魂から切り離した。
壊れた魂の残骸は灰になって、世界から消え失せた。
今後についてアンケートを置きます
今後について
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映画版の情報で書いていいよ
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ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス