ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート 作:らっきー(16代目)
ピーター・ぺティグリューほどその才を軽んじられている者も居ないだろう。
独学で動物もどきの習得を成し遂げ、シリウス・ブラックから逃走する際には一度の魔法の行使で数十人のマグルを殺してのけ、それから数年間の逃亡生活で誰にもその正体がバレはしていない。
そんな彼にとって、何よりも優先しているのは自身の身の安全だ。軽んじられようと、見くびられようと、生きていれば最悪ではないし、それなりの暮らしが出来れば尚いい。分不相応に贅沢したいだとかは思わないが、あまりにも貧相な暮らしはごめんというのは有り触れた感性だろう。
魔法戦争の時のホグワーツで、彼がジェームズ・ポッターやシリウス・ブラックの取り巻きをしていたのもそんな理由からだった。ピーターは強い者を嗅ぎ分ける能力には異様なまでに長けていたから、初めてのホグワーツ特急で2人に出会ったその瞬間から、この2人に取り入ろうと決めた。それほどにその時の2人は彼には輝いて見えた。
結果としてその選択は大正解だった。死喰い人と不死鳥の騎士団の代理戦争と化しつつあった当時のホグワーツにおいて、ピーターは常に勝者の側に居ることが出来たからだ。当時のホグワーツで最も人気者であったのはマローダーズの4人──スリザリンから言わせれば当然別であろうが──だったし、ジェームズとシリウスの2人などは1対1の決闘で勝てる生徒など存在しないほどに優秀な生徒であった。
そんなピーターだったが、卒業後の進路には随分と迷った。勿論他のマローダーズからは不死鳥の騎士団入りが当然だと思われていたのだが、有り体に言えば、光の陣営と闇の陣営のどちらに着くか……いや、アルバス・ダンブルドアと『例のあの人』のどちらの方が強いのかを測りかねていたのだ。
結果として周りの圧もあり不死鳥の騎士団の団員として死喰い人達と戦う道を選んだのだが、たった一度、遠くから『例のあの人』の戦う姿を見た瞬間に自分の選択が大きな間違いであったことを悟った。
圧倒的な暴力。統制の取れた、闇祓いといったエリート達で構成された不死鳥の騎士団と、純血主義というだけの無能も混ざった集団の争いを、たった1人で動かしてしまえるような力を持った存在。或いは、力だけで言うのならダンブルドアも対抗出来たであろう。しかし、彼には正義の陣営であるが故に取れない戦法というものがある。対して死喰い人達は文字通り『何でも』やっていた。
決定的であったのは両者の年齢の差であろうか。ダンブルドアは年老いており、魔法戦争で死ななかったとしても老衰となったところでおかしくは無いし、ここから先魔法力も衰えていくだけだ。
対して『例のあの人』は今が全盛どころかその力は増しており、純血主義者が多い関係で地位の高い者が部下に多い。
だから、彼からすれば当然の事として裏切った。罪悪感はあった。善悪の分別が付かない訳では無い。ただ、そんなものは自らの身の安全と比べれば塵芥にも劣るものであっただけだ。
しかし、今回の選択の結果は最悪であった。ピーターにとってあまりに都合のいいことに、『例のあの人』に対抗している最有力な人間であるジェームズ夫妻の『秘密の守人』になれ、その情報という手土産を持ち闇の陣営へと加わったというのに、肝心の『例のあの人』が死んでしまったからだ。
誰も『例のあの人』の敗北など予想していなかったし、ましてやそれが赤ん坊によって齎されるなんて言わずもがなだ。そのせいで、ピーターはその場におらず、何かしらの意志の決定に関わった訳でもないのに死喰い人から酷く恨まれることとなった。
裏切った光の陣営にも今更戻れず、かといって闇の陣営にも居場所が無い。そこに現れたシリウス・ブラック。ピーターがその瞬間に思いついた発想は悪魔的と言っていいほどに冴えたものであった。
「よくもジェームズとリリーを!」
もっとも、その叫びと共に放った呪文がシリウスを殺せてさえいれば、の話であったが。もし殺せていれば大手を振って光の陣営として今頃は普通の魔法使いとして暮らしていただろう。
しかし結果は失敗。シリウスの信頼を失墜させることまでは成功したが、かといってシリウスが生きている以上ピーターが生きているとバレればいつ秘密の守人の件について調査されるか分からない。
だから、ピーターはとある魔法使いの家に忍び込むことにした。鼠としての生活は辛いものであったし、忍び込んだ先も裕福とは言えないものであったが、死ぬよりはよっぽどマシだと言い聞かせて過ごしてきた。
鼠として生きるのにも随分と慣れ、シリウスの脱獄に怯えつつも、まさか自分に辿り着くことは無いだろうと安穏としながらペットとしてホグワーツで過ごしていたある日、一つのメモ書きに気がついた。
『親愛なるワームテールへ。今夜、8階の廊下の前で』
リーマスが何かしらの手段で自分の正体に気がついたのか、という疑惑はメモに書かれたデフォルメされた蛇の絵によって消え去った。このメモを残す人は今のホグワーツに1人しか居ない。そしてその人物のことを思えば、メモを無視するという選択肢は取れなかった。
「やあ久しぶり、ピーター。とりあえず中で話そうか?」
久しぶりという言葉の割に、まるで昨日の続きのような気軽さで放たれたその言葉に否と言えるはずもなかった。そこには、この人なら今の状況から助けてもらえるかもと下心が含まれていたことを否定はできないだろう。
必要の部屋は今回机と椅子だけの簡素な部屋でしか無かった。その風景に、ジェームズやシリウスから聞いた話とは随分と違う、なんて呑気な事を考えていられたのも短い時間だけだった。
「さて。君には聞きたいことが幾つもある……けど、その前に『ペトリフィカス・トタルス』」
やはり罠だったのか、と観念したピーターの覚悟とは裏腹に、彼女──リリー・ウールの杖はピーターと反対方向に向けられていた。正確に言えば犬の姿になって今にも襲いかかろうとしていたシリウスに。
「……全く、話を聞いてからだって何度も言ったのにね。ともかく、これでゆっくり話せるわけだ……と言いたいところなんだけど、私には君が言うことが嘘か本当か見分ける術が無いからね。こうさせてもらうよ『ペトリフィカス・トタルス』」
石化呪文がピーターの自由を奪う。何故などと思う余裕もなく次なる呪文が唱えられる。
「『レジリメンス』ああ、抵抗は無駄だよ。セブルスならともかくね」
心が暴かれる。誰からも隠し通していた裏切りの記憶も、付き纏っていた罪悪感も、それ以上の我が身可愛さというエゴも、全て。
「……うん、これでハッキリしたわけだ。さて、正義の味方をするのなら君を魔法省に突き出してシリウスの冤罪を晴らすんだけど──ああ、シリウスは失神させたから安心していいよ。『フィニート』」
会話の途中で放たれた閃光はシリウスに命中し、その後の呪文でピーターは身体の自由を取り戻した。
「さてピーター。真実を知ったわけだけど、見ての通り私は別に君を突き出すつもりは無い。ただ君にお願いがあるだけなんだ」
お願い、なんて表現をされてはいたが、真実を知られた時点でピーターに断る選択肢は無い。リリーはダンブルドアや『例のあの人』に比べれば確かに弱いが、それでも積極的に取り入った方がいい人間であるとピーターの本能が全力で告げている。
「お願いは2つ。シリウスを処分するのに協力して欲しいっていうのと、ヴォルデモートの復活を手助けして欲しいってこと」
順番に説明するからゆっくり話そうかと言われ、目の前に飲み物が用意されたことでここが必要の部屋であったことを思い出した。そのぐらいには唖然とするような『お願い』であったからだ。
「私は君を買ってるんだよ。学生の頃から目立たない生徒の割にとても優秀だったしね。鼠のアニメーガスなのも、10数年耐える精神力も素晴らしい。他の誰でも君みたいに上手くは逃げられなかっただろうさ。……だからこそ、君の道がヴォルデモートの側に着く事しか無いのが残念だけど」
「な、何故ですか?」
「考えてみなよ。私の開心術程度で暴かれるような秘密を、ダンブルドアから隠し通せると思う?」
それは不可能だ。仮に先生に取り成してもらってシリウスを何とかして真犯人ということで魔法省に突き出したとしても、ダンブルドアを欺き通し続けられるとは思えない。それをするには手遅れだ。
「む、無理だと思います」
「でしょう? だったら君が生き延びる道は一つ。ヴォルデモートを復活させてその有能な配下に収まる。ああ、このままネズミとして一生を終えたいなら別だけどね。でも、流石にもう限界でしょ?」
そんなことは無いと虚勢が張れればどれだけよかったことか。だがピーターは自分がダンブルドアを欺けるほど有能では無いと分かっていたし、今更表舞台に戻るならそれが避けられないことも分かっていた。そして、ネズミとして残りの人生を終えるなんてゴメンでもあった。それで満足出来るなら彼女の誘いに乗ってここまで来ていたりしない。
「それで僕は……どうしたら?」
「『ヴォルデモートを探して、復活に協力する』その1つだけを誓えるなら、私がホグワーツから逃がしてあげるし、シリウスの口も永遠に塞いであげる。破れぬ誓いを結んでもいいけど……」
「いえ、どの道それしか手段が無いのなら、僕はそうするしかありませんから」
持って生まれた賢しさと目の前の女性への信頼から、ピーターはそう結論づけた。何せ人を導くということに関しては大ベテランもいいところなのだ。
「よし。じゃあ決まりだ。……というわけだよリドル。あとは決めておいた通りに」
リリーの言葉と共に、1人の青年が姿を現した。恐らくはシリウスと同じようにこの部屋に最初から居たのだろうが、今更自身の秘密を知った人間が1人増えたところでピーターにとってはどうでもよかった。なにせ、リリー・ウールの助力を得られるのだから。
もっとも、そんな風にある種の余裕を持っていられたのはその青年がピーターに杖を向けてくるまでの話ではあったが。
「なにを……!」
「動くな。……記憶を弄るのは繊細な作業なんだ。廃人になりたくなければ大人しくしていろ」
他人の記憶を弄ることにかけて、トム・リドルを上回る人間はいないだろう。日記のリドルからすれば未来のことではあるが、幾人もの人間の記憶を改竄し他人の罪を自分のものとして認めさせているのだから。
今回も、リドルにとっては楽な作業……とまでは言えないまでも、さほど労力のかかるものではなかった。ピーターの裏切りの動機、それに伴う感情、そして事実をシリウスへと移植し、辻褄の合うようにシリウスの本来の記憶を忘却術で消していく。本人の性格と完全に一致しない以上多少の無理は出るだろうが、そこまでは知ったことでは無い。別に、シリウスが今後廃人になろうと構う理由も無いのだから。
「……終わりだ。僕はこれで失礼する。リリー、後処理は──」
「大丈夫。こっからは私の領分だから。ありがとね、リドル」
ピーターにとってはぼんやりとしている間に、どうやら繊細な作業というのは終わったらしい。ピーターからすれば、記憶を覗かれたこともあまり実感は無く、ましてや記憶を複製されていたなど言われても嘘ではないかと思ってしまうほどなのだが、これが熟練者の技というものなのだろうか。
「……さて、私としてはピーターには一刻も早くホグワーツから出てもらいたいのだけど。ヴォルデモートのことも任せたいし、リーマスに見つかりでもしたら面倒なことになるしね。あ、何かやり残したことがあるなら手伝うけど?」
「大丈夫……大丈夫です。……先生、先生は僕の味方でいてくれますか?」
「……君が私の言う事を聞いてる間は、少なくとも私が君を殺すことも、魔法省に突き出したりすることもないよ。さっきも言ったけど、私は君を買ってるんだ。便利な手駒になってくれるとありがたいってのが本音かな」
他の人物に対してであればこのような露悪的な言い方をリリーがすることは無かっただろう。だが、ピーターの人格からして、この言い方が一番安心感を与えられると判断した。下手な情だとかよりも利害関係の一致。自己保身に長けた鼠には最適な言葉。
「納得してくれた? じゃあ後は全部私に任せて。『スキャバーズ』の死もシリウスの事も、君はもう何も心配しなくていい」
「……ありがとうございました、先生」
「うん。ヴォルデモートによろしくね」
今後について
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映画版の情報で書いていいよ
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ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス