ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート   作:らっきー(16代目)

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微妙な長さで迷いましたが分割で投稿します。つまり初投稿です


おまけ2(1年生)

 ホグワーツに新入生が入ってから数ヶ月が経過したある日、二人の教師が酒を酌み交わしていた。

 一人は変身術の教授。もう一人は魔法薬学の教授。取り留めのない話をしつつ、アルコールで口を滑らかにしていく。話題は自然と、彼らにとって今最も注目すべきものへと移り変わった。

 

「どうだホラス。今年の生徒に君のお眼鏡にかなう者は居たか?」

 

「それは愚問というものだろうアルバス。トム・リドルにリリー・ウール。正しくダイヤの原石だ」

 

 魔法薬学教授、ホラス・スラグホーン。趣味、人材収集。

 将来偉大な魔法使いになるであろう人物を青田買いして、目をかけてやる。見返りとしてその者が出世なりして名を上げた後にはささやかながら便宜を測ってもらう……と言っても権力の座に就こうだとか、裏から全てを支配しようだとかそんな事を考えていた訳では無い。

 

 一流レストランに最優先で入れたり、クィディッチワールドカップの席が自動的に用意されていたり、誕生日の度に心のこもったプレゼントが贈られてきたり。望んでいるのはその程度の、彼が持つコネからすればささやかなものだ。

 

 その趣味のおかげ──或いはそれがあったからその趣味に目覚めたのか──才ある人物を見抜くセンスという一点において、スラグホーンはダンブルドアを上回っている。

 

 そのスラグホーンが二人の才能に太鼓判を押した。

 ダイヤの原石、というのはリップサービスや定番の褒め言葉では無い。彼がそう評したのはこれまでに一人しかおらず、その相手とは今酒を酌み交わしている。

 

 アルバス・ダンブルドアに並ぶ才能。そんなものは世界を見渡しても片手の指で足りる程度しか居ないだろう。スラグホーンは面識は無いが、唯一ゲラート・グリンデルバルドが居たぐらいだ。

 

 二人に対してのその評価を聞いて、しかしダンブルドアは顔を曇らせていた。どうしたのかと尋ねてみれば、

 

「いや、マグル出身でその才能というのは、スリザリンではやりづらいのでは無いかと思ってな。良くも悪くも注目を集めてしまうだろう。……ああ、気を悪くしないでくれホラス。君の寮を悪く言う気は無いんだ」

 

 返ってきたのはそんな答え。成程確かに純血を尊ぶ気風のあるスリザリンでは混血が軽視されがちなのは事実だ。両親が共にマグルの生徒はスリザリンの歴史の中でも数える程しかおらず、血統不明でマグル界の出というのは下手を打てば軽蔑の対象となりかねない。

 

「ああ。尤もな懸念だが、今回に限ってはその心配は不要だ。何せあれ程優秀だからな。今年が終わる頃にはマグル出身の子供ではなく、純血だが事情があってマグルの世界で育てられた悲劇の子供とでもなるだろう。そうでもしなければ彼らのプライドの方が保てないからな」

 

 純血こそが最も優れていると信じている者達にとって、マグル産まれに負けるなど耐え難い屈辱だ。

 これが他の寮のマグル出身に負けた、という話だったらまた別だったろう。だがスリザリンに入ったマグル出身ならば、スリザリンであるという事を血統の証と言い張る事が出来る。

 なんのことは無い、ただのプライドだけが肥大している純血の見栄だ。

 

 生徒の事を心配している二人の会話だが、実はある一点においてすれ違っている。

 スラグホーンが気にかけているのは特段の才能を見出した二人の生徒。彼らの才能と将来がつまらないトラブルで曇ることが無いように祈っている。

 

 一方ダンブルドアが心配しているのは周りの生徒の方だ。

 賢く、狡猾で、執念深い。魔法の力で仕返しをしていた少年の姿を思い出す。敵対した相手になら何をしても罪悪感を感じないだろう少女のことを思い出す。

 

 今のところは才を見せることで問題無く生活している。これからどうなるかは、分からない。

 スラグホーンに任せるしか無いことを内心で歯がゆく思いつつ、酒を口に含んだ。

 

 

 

 二人の才能の程は、一年の最後のテストで存分に発揮された。

 スラグホーンによれば、忘れ薬を完璧に調合した上で手順の改善案を纏めたレポートを提出したとのことだったし、ダンブルドアが担当している変身術の試験では、鼠を黄金に宝石を散りばめた──些か趣味の悪い──嗅ぎ煙草入れへと変身させた。

 つい最近まで魔法の存在も知らなかった者達とは思えない結果である。

 

 単純に魔法力が必要となるような呪文学や闇の魔術に対する防衛術はリドルが、理論の学習や器用さが要求されるような変身術や魔法薬学はリリーが、それぞれ得意としているようだ。

 

 成績は良好。生活態度も……少なくとも表向きは問題なし。環境が変わってあの悪意も収まったのか、それともスリザリンらしく『狡猾』に隠しているのか。

 

 そんなダンブルドアの思考は、研究室をノックする音に中断させられた。夏休みも間近なこの時期、わざわざ教師の自室を訪ねてくる生徒というのは珍しい。余談だが、教師同士で話す時はそれ用の談話室を使うことが主である。仲の良いもの同士──ダンブルドアとスラグホーンのような──の場合はどちらかの部屋に入ることもあるが。

 

 入りなさいと声をかけ、現れた訪問者の正体は、たった今気にしていた二人組であるリドルとリリー。そういえば、授業などとは関係のないプライベートな時間で接するのは久しぶりか。

 

「先生。突然訪ねてしまって申し訳ありません。ただ、お願いがあるんです」

 

「私にか? ……言ってみなさい」

 

「はい、夏休みの休暇の事なのですが……ホグワーツに泊まることは出来ないのでしょうか。他の休暇の時のように。僕達は、その……先生はお分かりでしょう? あんなところには帰りたくない。それが僕達の意志です」

 

 願いと言うにはささやかなもの。他の休暇──イースターやクリスマスなど──の時は希望すればホグワーツに残れるのだから、今回もそうさせてくれというのは理論としては破綻していない。しかし。

 

「ああ、トムよ。すまないが私は一教師にすぎない。規則を捻じ曲げて君に便宜を測るような権限は持っていないのだよ。その権限を持つのはホグワーツでは校長だけだ」

 

 そもそも頼む相手が違うだろうというのがダンブルドアの主張。事実として、そのような融通を利かせられるのは校長の権限であり、確かに彼の一存で許可はできないだろう。

 

「そもそも、頼むのならまずは君達の寮監であるホラス……スラグホーン先生ではないのかな? 確かに校長に直接頼むのは難しいだろうが……」

 

 正しくはあるが、正しいだけの教師としての言葉は、残念ながらリドルを納得させることも、収めることも出来なかった。

 先生は分かってくれると思った。と言い捨てて、感情のままに部屋を出る。年相応と言うには、負の感情が大きすぎたが。

 

「……その、リドルがすみません」

 

 今まで黙っていたリリーの第一声はそんなものだった。

 

「気にしなくて良い。頼んでくる気持ちが分からないわけでは無いのだ。ただ……」

 

「特定の生徒を特別扱いはできない、ですよね? そのぐらいは分かります。リドルも、多分」

 

「相変わらず、君達は聡い子供だ」

 

「そうでなければ生きられませんでしたから。……それでは、失礼しました」

 

 帰ろうとした少女を呼び止めて、今度はダンブルドアの側からの問いかけ。

 

「孤児院が嫌というのは分かるのだが。君達はホグワーツではなく友人の家などで過ごそうとは思わなかったのかね? 例えば……そう、スラグクラブの面々とか」

 

「……どうせご存知でしょうけれど。私達は血筋を偽って……いえ、答えを知らないので偽ってると言うのも違うかもしれませんが、ともかく純血だということになっていますから。せっかく居場所を手に入れたのに、ボロを出す訳にはいきませんので」

 

 返事はできなかった。孤児院は彼らにとって安らげる場所ではなかった。ホグワーツでも結局仮面を被って過ごしているらしい。

 世界が広がればと期待していたが、未だ彼らの気が休まる相手はお互いしか居ないということか。

 

「じゃあ、今度こそ失礼します。……リドルの事は任せてください。多分、拗ねてるだけですから」

 

 結局。ダンブルドアに出来たのはスラグホーンと共にマグル的なやり方で孤児院に手紙を送ったこと、学外での魔法の使用の禁止を孤児院に伝えなかったことぐらいだ。少しでも、自分達を気にかけてくれる大人が居ると感じてくれればとの思いからである。

 

 偉人だとか、天才だとか。世間でそう評されている彼も、複雑な事情を持つ扱いづらい子供との接し方に悩む、一人の教師に過ぎなかった。

 




ルーキー1位、日間40とちょっと位ありがとナス!!

今後について

  • 映画版の情報で書いていいよ
  • ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス

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