ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート 作:らっきー(16代目)
ホグワーツという学校は、その長い歴史のせいか今となっては誰一人として全体像を把握出来なくなっている。
消える階段。一方通行の廊下。特定の動作をしないと通れない通路。校長を含めた教師でさえ、自分は全て知り尽くしているなどとは口が裂けても言えない。
リリー・ウールという少女がその部屋を見つけたのは、偶然という要素が大きかった。
最近図書室で上級生用の教科書を見ていた時に見つけた呪文、目くらまし術を使って夜のホグワーツを散歩していた時のこと。
ただ好奇心を満たす為の探検で、8階の廊下のなんとかという肖像画の前まで来た時。夜間の見回りを行う教師の足音に気がついた。見えなくなっているとはいえ、音や物理的な接触でバレることはあるだろう。
足音と逆方向に逃げるべきか、片隅でじっとしているべきか。考え事をしている時の癖でぐるぐると円を描いている内に、ふと今まで無かったところに扉があることに気がついた。
この際ここに賭けようと、半ばヤケになって、半ばは直感に従って、その部屋に入った。
中は、何もない部屋。探検の結果としては実につまらないものだが、今は隠れられれば何でも良かった。数分間そこで過ごして、様子を伺うために外に出る。
一先ずなんとかなったと先程の部屋の方を振り返ってみれば、あったはずの扉は消えていた。
ホグワーツにおいては、あまり珍しい現象でもない。特定の時間、キーとなる行動。様々な条件がいろいろな場所に仕組まれている。
先程入れた条件を満たせばもう一度入れるだろう……が、果たしてその条件は?
追われていること、だとしたら自力ではどうしようもないから除外しておく。ぐるぐる回ればいいのかと何周かしてみたが、壁に変化は無かった。
ならば時間だろうか。たまたまさっき通った時はベストタイミングだったとすれば辻褄は合わなくもない。問題なのは今が何時何分なのか分からないこと。
時計が見たい。時間が分かるものは無いか。そう思ってぐるぐると回っていると、先程の扉が現れていた。
中に入ってみれば、今度は大小・種類様々な時計に溢れた部屋だった。ここまでして欲しいとはリリーは望んではいないのだが。
それはともかくとして、条件になんとなく見当が付いてきた。
再び部屋から出て、今度は寝床が欲しいと念じながらぐるぐると回る。一周、二周……三度目で現れた扉を開ければ、大小様々なベッドが並べられた部屋に変わっていた。ここまでの数は望んでいないのも同じである。
なんとなくの見当は確信に変わった。どのような部屋が欲しいか意識しながら、扉が現れる壁の前で三度回る。そうすれば欲しいと望んだ物が用意された部屋が現れる。
実際は三度往復するのが条件であり、別に回らなくてもいいのだが、彼女の認識はそんなものだった。
「よくもまあ、そんな部屋を見つけたな」
「偶然だけどね。……うーん、なんの部屋にしよっか」
何でも出せるならとリリーが決めたのは、強力な魔法が学べる部屋。三度回って──馬鹿を見る目をリドルがしていた事には気づいていない──扉を呼び出して、二人で中に入る。
ズラリと本が並んだ図書室を想像したが、思ったよりもこじんまりとした部屋だった。
机が一つに椅子が二つ。それと机上の数冊の本。内装はそれで終わりだった。
期待外れだった、と結論を出してしまうにはその数冊の本の存在感は余りにも大きかった。特に不気味なのは中央にある黒い本。題は『深い闇の秘術』
導かれるようにその本を開いた──魔法界にある種々の危険な本の存在を考えれば軽率な行動であったと言える。或いはそれがこの本の危険性であるのかもしれない──そこに載っていたのは、人間が悪意と欲望で考え出したような呪文の数々。
他者を意のままに操る魔法、外傷も内部損傷もなくただ苦痛だけを与える魔法、対抗手段の存在しない、相手を即死させる魔法。
許されざる呪文と称されるそれ。授業で存在だけは聞いていたが、スペルや杖の振り方は初めて知った。
対象を燃やし尽くすまで消えない炎、敵対者だけを燃やす攻撃的な護り。そして──
「不死になる方法……」
トム・リドルの興味を最も惹きつけたのがそれだった。名はホークラックス。
自らの魂を引き裂き物体に閉じ込めておくことで肉体が破壊されても死を免れる。それは死を絶対のものとして考えているリドルにとってはあまりにも甘美な魔法だった。
「リドル? ……そんなに気になる? これ」
「ああ……まぁ。不死身なんて、人間なら誰でも求める。そうだろう?」
「……ん。そうかもね」
今は大したことはないが、二人の道がずれ始めた事に、もしもきっかけがあるのだとしたら恐らくはこの時。
どんな形でも生きていたい男と、一度も生きたいと思ったことのない女。
能力は近しい。育ちも同じだ。既に、五年以上は共に過ごしている。
死生観だけは、分かり合えることはなかった。
その便利な部屋──その時に必要なものが出てくることから『必要の部屋』と呼ぶことにした──を発見して、当然のごとく入り浸ることになった。
授業の選択科目数の違い……それと友達付き合いの少なさから、主に使っているのはリリーの方。
誰にも見つからない部屋で何を練習しているのかと言えば、リドルと共に見つけた人前では使えない呪文の練習に、法に反するようなこと──例えば、動物もどき。
月光に当たる場所だとか、誰にも見つからない日光にも当たらない場所だとかは必要の部屋に頼めば解決する問題だった。
マンドレイクの葉は純血の金持ちを適当におだててやれば簡単に手に入った。
天候の関係もあって三ヶ月程かけ、呪文と魔法薬で動物の姿へと変身を終えた時。ようやくリドルにコソコソと何をしていたのか教えてやる事にした。
必要の部屋に、『トム・リドルとリリー・ウール以外入れず、中の様子もわからない部屋』を頼み、リドルにその条件を伝えておくことで彼も入れるようにする。
部屋に入ったリドルが見たのは、一匹の白い蛇だった。
『リリー……か?』
すぐさま答えを導き出せたのはリドルの知性を表すものだろう。普通の言語ではなく蛇語が出たのはそれだけ動揺したからか。
『さすが。ちょっとは驚くかなって思ったんだけど』
もしその会話を聞いている第三者が居たとしたら、蛇が立てるシューシューという音しか聞き取れなかっただろう。
変身術と違って自由自在に元に戻れる動物もどきであるが故に、リドルがその言葉を認識したと同時くらいには見慣れた少女の姿があった。
「いや、驚いたよ……本当に。最近忙しそうにしてたのはこれか?」
「まあね。……蛇の時に何言ってたか、分かるんだね」
「まあパーセルマウスだからな。僕以外には伝わらないだろう」
「ふーん……なんか、良いね」
「何がだ?」
「二人だけの言葉って感じでさ。多分、リドルぐらいでしょ? 話せるの」
「……そこらの蛇も話せるが」
女心が分かってないなぁと呆れられたその発言は、おそらくはただの照れ隠し。それは後々、時折わざわざ蛇に変身して話すようになったことが証明している。
「リドルもやる? 動物もどき」
「僕はいい。そこまで魅力を感じないし……他に使えるようになりたい魔法もあるしな」
「リドルが苦戦するなんて珍しいね。いっつも三日もかければ大体使えるようになってるのに」
「言っておくが、使えないわけじゃない。ただ発展させたいのと、その時のリスクを天秤にかけているだけだ」
自分をよく見せたい見栄は誰でも持っているものだろう。それが好意的に思っている相手にならなおさらに。いつだって粋がって最高にかっこいい自分を見せたいというのは、思春期の男の子の本能だ。それくらいは理解しているから──その手の機微に女子のほうが気づきやすいのはいつの世も変わらない──リリーは微笑ましそうに見ているだけだった。尤もその表情の変化はリドルでさえ気づかないほどにささやかなものだったが。
蛇へと自由に変化出来るようになったリリー。法律違反の存在であるという弱みを抱えたが、代わりに行動範囲を広げることが出来た。今までは入れなかった狭い隙間を行動したり、暗闇の中で活動したり。正体がバレないように細心の注意を払いつつ、新たな能力を存分に活用していた。
ただ、思いもよらない問題が一つあった。
そのささやかな問題を解決する方法を考えて、名案と思う気持ちが二割に悪戯心が六割、残った二割は自分でもよく分からない感情のごった煮。そんな思考で必要の部屋にリドルを呼び出した。
この部屋の存在に気づかれないように、という考えで合意していたから、実は二人で必要の部屋で過ごす機会は意外と少ない。そもそも授業等の関係で時間が合わせにくいというのもあるが。
必然、呼び出しは夜になった。
廊下で合流し、またなにか見せびらかしたい魔法でも覚えたのかと推測しているリドルと共に部屋に入る。
今回の内装は、ベッドが一つ。それだけ。
「リドル。一緒に寝よう」
「…………は?」
「蛇になってから、どうにも寒いのがダメで。地下は冷えてて私には寝づらくて」
「ああ……変温動物だからな、蛇は。……いや、そうじゃないだろう」
「……?」
「僕を呼ぶ必要は無いだろう! 暖かい部屋を頼めばここはそういう部屋になるはずだ!」
「……確かに。そうだね、盲点だった」
「……大体、男と同じベッドで寝ようとするな。危ないだろう」
呆れと、怒りと、名付けられない気持ちを混ぜて苦言を呈す。リドルのその言葉にも彼女は首を傾げるだけだった。
「僕は男で、君は女だ。分かるだろう?」
「リドルは、私が危ないようなことをするの?」
「それは……しないが」
「じゃあいいじゃん。一緒に寝るだけだし」
寝づらくて困っているというのは本当なのだろう。いかにも眠たげな足取りでベッドに入って、リドルを手招きする。
リドルは二択を迫られることになった。
ここで逃げれば、危ないことをしようとしている疚しさと受け取られかねない。受け入れれば、恐らく本当に一緒に寝ることになるだろう。湯たんぽ代わりにされながら。
「……僕は止めたからな」
結局。諦めて彼女の要求を受け入れることにした。
疚しさを……つまり彼女に『そういうこと』をしようなどと考えられることが耐えられなかったのかもしれない。本当は孤児院に居た頃のように、何も知らなかった子供の頃のように甘え合いたかったのかもしれない。ただの寒さに震えるのは可哀想だという同情かもしれないし、少しばかりの下心かもしれない。それら全てが混ざりあった複雑なものかもしれないし、どれもが見当違いでもおかしくはない。
せめてもの抵抗として、或いは顔を見られたくなくて。彼女には背中を向ける。
「ふふ……ありがとう、リドル。おやすみ」
「ああ。さっさと寝ろ」
どうせ、僕は今日は寝られないから。そんな呟きを、彼女の耳が拾ったかどうかは分からない。
純血、日本の基準的には近親姦してるのゴーント家ぐらいじゃない?多分他の純血はそこまで近い血では無い……んじゃないかなぁ……
それはそれとしてRTAパートでは近親姦趣味の変態として扱いますが
リリーちゃんの内心は完結する頃には語られるのかもしれない
愉悦成分は私も早く見たいので爆速で学生時代を終わらせようとしています
今後について
-
映画版の情報で書いていいよ
-
ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス