ハリー・ポッター、英国魔法界崩壊RTA ヴォルデモート勝利チャート   作:らっきー(16代目)

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ミスターシービーにプロポーズ(4凸レベルMAX)してきたので初投稿です


おまけ3(6、7年生)

 ふくろう試験を終えた六年生。試験の結果が悪く受講出来なければ受ける授業の数は減っていく。人によっては下級生の時より暇な時間が増えることもある。逆に、進路が決まっているこの時点で、今更受講科目が増えることは皆無に等しい。

 

 唯一の例外が、リリー・ウールだった。

 六年生から始まる選択科目である錬金術。本来は受講者が一定以上居なければ開講されない授業であり、一人のために行われるものではないのだが(錬金術を教える教師はホグワーツには常駐していないため。講師を招くのにも金や手間がかかるのだ)アルバス・ダンブルドアによる課外授業という形で、彼女はその科目を学ぶ事が出来るようになった。

 

 錬金術という学問は、既にその役割を果たし終えている。

 賢者の石──あらゆる金属を純金へと変化させ、不老不死をもたらす霊薬を生み出すもの──を作り出す事こそが錬金術の最終目標であり、それは既にニコラス・フラメルが成し遂げていた。今更学ぶ理由など好奇心ぐらいしか無いだろう。余談だが、就職にも役に立たない。

 

 更に余談として。新たな賢者の石の製作、ニコラス・フラメル及び彼が許可を出した者以外による賢者の石の使用は禁じられている。無制限に純金を作り出されてはたまったものではないし、不老不死が溢れ返っては社会が崩壊するだろう。

 

 結果として、賢者の石の効力やニコラス・フラメルの事を覚えている者はほとんど居なくなった。尤も、それらが正しく周知されればろくな結果にならなかっただろうから、案外誰かに操作された故の結果なのかもしれない。

 

 そんな錬金術を、ダンブルドアがわざわざ一人のために教えることにしたのは、期待や甘さからでは無く、むしろ警戒とも表せるもの故にだった。

 要は、何をするつもりなのか分からない相手──それも、一人でもある程度は身につけるであろう優秀な人間──に好き勝手にさせておくより、ある程度学びに方向性を与え、コントロールしようとしたのだ。

 

 その事に気づいているのかいないのか。さほどの反応も見せず、文句も言わず、さりとて楽しそうにもせず。ただ静かにその科目を学んでいた。

 

「……君は、何故錬金術を学ぼうと?」

 

 ある日の錬金術の講座中、ダンブルドアは少女に尋ねた。え? と聞き返してくる彼女に、楽しそうに学んでいるようには見えないと指摘してやると、得心したように頷いていた。

 

「ええと、学ぼうと思った理由でしたっけ。別に大したことじゃないですよ。賢者の石について知りたかっただけです」

 

「書物では駄目だったのか? あまり有名ではないが、載っていないことも無いだろう」

 

「いえ、そうではなく……なんと言えばいいのでしょうか。黄金……は、どうでもいいのですが。不老不死の霊薬を──」

 

「飲みたいと?」

 

 警戒を込めたその言葉を聞いて、僅かな変化ながら、苦笑と分かる笑みを浮かべた。

 

「……私、そんな俗に見えますか? そういうことには、興味薄い方だと自分では思ってるんですけど」

 

 成る程確かに。彼女が死を恐れて生にしがみつこうとしている姿、というのはイメージがつかない。

 では何故? 重ねたダンブルドアの問いかけに、言葉を選びながら少女は答えた。

 

「……不老不死って、要は生きたいからでしょう? それがどういう気持ちなのか。同じことを学んでみたら分かるかと思いまして」

 

「君は……死にたいと?」

 

「少し、違いますね。そんな前向きなものじゃありませんよ。……私は、生きたくないだけです。生きたいと思う理由が分からない」

 

「……すまない。大人は、自分の物差しで他人を理解しようとしてしまうんだ。失礼な事を言った」

 

「気にしてませんよ。……ただ、あまり意味は無さそうですけど。成果物を見たところで、いえ、仮に作ったとしても。動機は分かりそうにありません。人は、どういう時にもっと生きていたいと思うのでしょうね」

 

 初めて。孤児院で出会ってから六年ほど経って初めて。ダンブルドアは目の前の少女に憐れみを覚えた。ずっと、彼女の本心を……恐れていた。

 だが、今目の前にいる少女は、今にも泣き出しそうに見えた。表情に出ていないとずっと思っていたが、彼女は表し方を知らないのだけなのかもしれないと、そう思えた。

 

 人は、自分の見たいように物事を見る。色眼鏡で見れば、その色に染まって見えるのは当然のことだろう。

 その事に、もっと早く気づくべきだった。そうすれば、リドルがあのような事件を──ダンブルドアは去年の生徒の死亡事件の犯人はリドルであると確信している──起こすことも無かっただろう。

 

「すまない……私は、間違えてばかりだ……本当に──」

 

「……だから、気にしてませんって」

 

 そのことではないだろうと、そのぐらいのことは察していたが。敢えて気づかないふりをした。

 今更、謝られてもどうしようもない。今更、愛されても意味はない。

 

 もう、疾うの昔に諦めた。

 

 

 

 六年生も終わりに近づいてきた頃。今日は外での授業とするという宣言とともに付き添い姿現しで連れて行かれたのは、特徴の無い、どこにでもありそうな小さな家。

 

「先生、ここは……?」

 

「私の友人の……ニコラスの家だ。君の悩みが、少しでも軽くなればと……余計な世話かも、しれないが」

 

「いいえ。……ありがとうございます」

 

 六百年以上の人生経験は伊達ではないのか、ニコラス・フラメルはリリーにとっても話しやすい相手であった。単純に話題が豊富であるし、それを噛み砕いて伝える能力にも長けている。有り体に言って、話していて楽しい人だった。

 

「さて、このままずっと話していてもいいのだけれど。アルバスから聞いたよ。生きている理由、だったね?」

 

「……はい。デリカシーに欠けた質問だとは思いますが」

 

「構わんさ。……と言っても、大したことは言ってやれないがね。こういう時に、何か心に残るようなことでもかませればいいんだが」

 

「六百年生きても、難しいものですか?」

 

「そりゃそうさ。なにせ人類が生まれてから今まで答えが出てやしない。誰かが見つけてくれればその通りにするんだが」

 

「それは……そうですね」

 

「だろう? だが無理矢理言うなら……そうだな。自分が生きた証を残したかったんだ」

 

「証……賢者の石は、証にならないのですか?」

 

「今にして思えば、その通りだね。でも、その頃の私は、賢者の石で……不老不死で、もっと凄い何かを成し遂げられると思っていたんだ。思い上がりと言うしか無いが」

 

「今は、違うのですか?」

 

「ああ。長いこと生きてきて、ようやく気づいたんだ。見ず知らずの皆に褒められるより、好きな人とくだらない話をしてた方が楽しいってね。無駄に六百年もかかってしまったが」

 

「それが、フラメルさんの生きる理由ということですか?」

 

「正確に言うなら、それに気づくために無駄に長生きをしたのかもしれない。これ以上引き伸ばしても、人生が薄まるだけだ。あと一つだけ。友人の負債に手を貸したら、終わらせるつもりでいる」

 

「好きな人と過ごすこと、ですか」

 

「あくまで私は、だがね。……なんでもいいんだ。何か一つでも、死ぬ時に『ああ、このために私は産まれてきたんだ』そう思えるものを見つけられたら、きっといい人生だろう」

 

「では、見つけられない人はどうしたら良いのでしょうか。世界の何もかも、くだらないとしか思えない人は」

 

「……冷たく聞こえるかもしれないが、見つけようと足掻くか、諦めるかのどちらかだろう。或いは、世界を変えるか。尤も、そんなことを出来るのはごく少数だろうがね」

 

「ゲラート・グリンデルバルドのように?」

 

「……イギリスでその名前を聞くのは、珍しいな。……彼も、世界に戦いを挑んだと言えるだろう。どんな末路になるのかは、分からないが」

 

「私にも、何か見つかるでしょうか」

 

「それは、君次第だ。君の目の前の老人は六百年もかけてしまったしね。どうしようもなくなれば、君も賢者の石でも使ってみればいい。黄金も、不老不死も、それだけでは幸せになんてなれないが、その手助けぐらいは出来るだろう」

 

「いいのですか? 貴重……という言葉が相応しいかはわかりませんが、そういうものなのでしょう?」

 

「老人という生き物は子供には甘いのさ。なに、私を訪ねてくる者などそうはいない。ささやかな縁ぐらい大事にしてもいいだろう。アルバスに伝えておくよ」

 

「ありがとう、ございます。……今日は、有意義なお話が聞けました。いえ、石を借りられるから言っているのではなく──」

 

「わかっているとも。……君は、少し賢すぎるな。もっと肩の力を抜いた方がいい、なんて、つまらない老人の説教だ」

 

「いえ……そうですね。もっと気楽に」

 

 ぺこり、と一度頭を下げ。フラメルの妻と談笑しているダンブルドアの所へと戻る。

 もういいのか? とも、いい話が聞けたか? とも。何も言わずにリリーに合わせて帰れるようにしていく彼は、やはり善人ではあるのだろう。

 

 それを待ちながら、リリーは思う。

 世界に戦いを挑んだ革命家のことを。彼は、何故そんなことをしたのだろうか。

 魔法使いであることへの特権意識? マグルへの危機感? 選民思想? ただの狂気? 彼も、何かを成し遂げたかったのだろうか。生きた証を残したかったのだろうか。

 

 だとしたら──

 

「すまない、待たせたな。帰るとしようか」

 

「……なんか、最近謝ってばかりですね、先生は」

 

 だとしたら。私とは違う。

 生きた証など必要無い。この世界は、そんな物を残す価値の有る場所じゃない。

 

 私はただ、壊すだけだ。

 

 

 

 

 

 七年目。それはつまり、学生時代の終わりを意味する。

 教師も生徒も共通して、この時期の関心事と言えば卒業後の進路についてだ。

 希望の職に就く者もいるし、妥協してすませる者もいる。変わり種としてはマグルの学校に行きさらなる教育を望む者もいる。その場合は学歴の調整として校長等が忙しなく業務に駆り出されることとなるが。

 

 この年、注目を集めていたのはやはり二人の生徒だろう。

 学年の一位と二位の二人。もし純血であれば──そうでなくとも魔法界にコネさえあれば──魔法省に入り、出世コースに乗ることは間違いなかったであろう。

 

 だが、この二人はどちらも魔法省に興味は示さなかった。

 揃って出したのは、ホグワーツ教師への希望。若すぎると反対する者。能力を考えれば断る理由は無いと言う者。外で経験を積ませるべきと言えば、助教にでもして数年経験を積めばいいだろうと返す者。

 

 教師陣で意見が割れれば、後は権力の強い者が決めることになる。最高権力者である校長が風見鶏である今、グリンデルバルドを討ち英雄となったダンブルドアと、魔法省を含めあらゆるコネを持つスラグホーンの二人の意向によってこの二人の将来は決まるだろう。

 

 ダンブルドアは、苦悩し続けていた。

 初めて出会った時の──そして、今でも感じている──トム・リドルの底知れない悪意。去年、今更としか言えない遅さで気づいた、リリー・ウールの、あの泣きそうな、捨てられた子供の顔。

 

 教師としてのダンブルドアは言う。導いてやるべきだと。大人として、悪の道から戻してやらねばならない。ホグワーツでならそれが出来るだろうと。

 

 英雄としてのダンブルドアは言う。悪の芽は早く摘まねばならないと。巨悪が伝染して手がつけられなくなるのは、グリンデルバルドとアコライトで学んだだろうと。

 

 控えめなノックの音が、ダンブルドアを現実に戻した。

 音の主はスラグホーン。言われなくとも、要件は容易に察することが出来た。

 

「アルバス。お前はどう思う?」

 

 何を、という言葉が抜けたそんな質問。しかし彼らの間では充分だった。

 

「……分からない。どちらが、彼らのためになるのか。どうするべきなのか」

 

 ここにいるのは、英雄でなければ、教師でもない。ただ答えの出せない問題に悩むちっぽけな大人だった。

 

「私は……私は、トムが教師になるのは反対だ。リリーはいい。贔屓と言われるかもしれないがね。あの子のためなら私はコネを全て使ってでも説得しよう。しかし……」

 

「ホラス。君がそこまで言うような何かが、あったのか?」

 

「すまない、ダンブルドア。聞かないでくれ。……だが、私は。私はトムが恐ろしい。アレは──」

 

 悪魔だ。その言葉を飲み込ませたのはスラグホーンの教師としての矜持だろうか。

 

「…………私より、君のほうが人を見る目は確かだろう。君の判断を、尊重しよう」

 

 ちっぽけな大人であるダンブルドアは、導くことも排除することも選べなかった。

 アルバス・ダンブルドアはまた間違えた──などというのは、結果を知っている者の無責任な意見だろう。この時にトム・リドルが教師になっていたとして、どうなったかなどとは誰一人わからないのだから。

 

 ただ、易きに流れたことだけは確かだ。親友……いや、それ以上の相手を自らの手で打倒し、二人で見た夢を終わらせるというのは、ダンブルドアから自信というものを永遠に失わせていた。

 

 

 

 結果として。リリー・ウールは教師として受け入れられ闇の魔術に対する防衛術の助教となり、トム・リドルの方はと言えば、不採用を告げられた時点でホグワーツを出て、自らの才覚と力で生きることを決めた。

 

 自分一人だけの採用を告げられたリリーは、そうですかと一言呟き、それ以上何も言わなかった。喜びは無く、リドルについてなにか聞くことも無かった。

 

 その時彼女がどんな顔をしていたのか。誰一人知る者はいない。




毎日投稿で総評伸びるの気持ちよすぎだろ!
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今後について

  • 映画版の情報で書いていいよ
  • ちゃんと小説版を元に書いてクレメンス

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