Another days -case of Karin-   作:瑠和

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あらすじにも書きましたが以前投稿していた彼方の近衛のアナザーストーリーです。少し駆け足でストーリーが進みますが悪しからず。


第一話 Encounter treatment

「それ」に出会ったときの第一印象はいまでも覚えている。ウルフカットの美しい髪の毛、透き通るような青い瞳、スマホを片手に右往左往するその姿を見て俺は思った。

 

(人ってこんなに分かりやすく迷子になるんだなぁ…)

 

ただの迷子だった。

 

俺の名前は天王寺 瑠和(るな)。虹ヶ咲学園一年生普通科の人間だ。今日は休日でやることもなく外で散歩をしていると今目の前でおろおろしている迷子に出会ったのだ。正直見ていられなくなったので声をかける。

 

「お困りですか?」

 

「え?ええ…………その、ここに行きたいんですけど場所知ってませんか?」

 

スマホを見せてきた。そこはウチの近所にあるモールだったので軽い案内をしてやる。他意はない。ただの親切だ。

 

「ああ、それなら大体あっちの方に歩いていけば着きますよ」

 

スマホもあるし大体の方角さえ教えればたどり着くだろうと思ってそれだけ伝えた。迷子の女性はお礼を言って歩いていった。

 

しかし、それから十数分経ってから俺は驚くべき光景を目の当たりにした。

 

「…??」

 

さっきの現場からそう遠くない上に俺が示した方向とは真逆の場所でさっきの迷子を発見したのだ。あんまり見知らぬ人に関わることはないのだが、さすがに声をかけてしまう。

 

「…なにやってるんですか」

 

「あっ!さっきの!」

 

話を聞くとまださっきのところについていないらしく、さすがにため息が出た。方向音痴ってのはいるもんなんだなと思い、腕をつかんで引っ張る。

 

「連れていきますよ。ついてきてください」

 

「あ、ありがとう」

 

引っ張りながらちらりと後ろを見てみる。整った顔に抜群のスタイル。まるで芸能人だ。だが大人にも見えない。大学生だろうか。

 

そんなことを思いながらしばらく歩いてようやくモールにたどり着く。モールの中のテラスが目的地だと聞いたのでそこまでつれていく。

 

「あ、朝香さん!」

 

「あら、どうも」

 

遠くで声をかけてきた人がいる。どうやら知り合いらしい。

 

「じゃあ、俺はこの辺で」

 

「すっかり世話になっちゃったわね。なにかお礼でもしたいところだけど…」

 

「別にいいですよ。もう迷子にならんでくださいね。じゃ」

 

もう会うこともないだろうと思い、適当に挨拶して帰った。

 

 

 

―天王寺家―

 

 

 

「ただいま」

 

家に帰ったが迎えてくれる人はいない。両親は仕事ばかりであまり家にいない。妹もいるがあまり部屋から出てこない。

 

昔からあまり明るい性格ではなかったからか友人と遊びに行くところや家に連れてきたりしたところは見たことがなかった。

 

「…」

 

妹のために夕飯の準備を進める。ある程度妹にも生活能力はあるが家のことは俺が大体やっている。頼まれたわけではないが、妹に責められたくない。

 

なぜこんなことを思うのかと言うと俺は人の顔を見ると色が見える体質なのだ。あの女子大生らしき迷子は顔色を見るまでもなく困っていたが、不安の色が見えた。

 

しかし、妹はまったく顔色が見えない。表情がまったく変わらないからだ。だから、なにを考えているのかわからなくてどことなく、怖いのだ。

 

「おかえりなさい」

 

背後から声がした。振り向くといつのまにか妹がいた。ピンク色の髪に黄金の瞳。一つ下の中学三年生、天王寺璃奈だ。

 

「璃奈……ただいま」

 

「うん。お夕飯作るの、手伝う?」

 

「ああ、いや、大丈夫。璃奈は部屋でゆっくりしてな」

 

「うん…」

 

兄妹といってもこんなものだ。とても仲がいいとは言えない。来年から虹ヶ咲学園に入学するらしいが、関係を少しは変えられるのかと思いながら、未来に思いを馳せる。

 

 

 

―翌日―

 

 

 

翌日、瑠和は学食で昼食を取っていた。

 

「あ…」

 

近くで歩いていた人物が足を止め、声を漏らしたのが聞こえた。聞き覚えのある声に瑠和が顔を上げるとそこには昨日の女子大生らしき迷子がいた。

 

「あ、昨日の迷子の方」

 

「それは忘れてちょうだい…あなた、この学校の生徒だったのね」

 

瑠和は昨日彼女が呼ばれていた名前を思い出しつつ、ちらりとネクタイの色を見た。ネクタイの色が緑ということは2年生の先輩だと把握して返す。

 

「朝香さんこそ」

 

「…名前、伝えたかしら?」

 

自己紹介もしてない相手が名前を知っていることに疑問を抱きつつも果林は瑠和と相席になる。

 

「昨日あなたと待ち合わせしてた方があなたをそう呼んでいたので………ていうかなんで相席になるんですか?」

 

「昨日のお礼したいって思ってたところなのよ。ちょうどよかったわ」

 

「別に礼されるほどのことじゃないですよ。気まぐれの親切です」

 

「借りっぱなしっていうのは私が嫌なの。なにか手伝えることとかあるかしら」

 

「いえ別に」

 

瑠和はちらりと朝香の顔を見る。顔色が靄を被ったように見にくい。

 

「欲がないのねぇ」

 

(まだ2、3言しか交わしてないけど、この人からは本心が見えない……言動がすべて取り繕っている。別に誰かと話しているような。本当の姿を見せない様にしている。俺の苦手なタイプだ)

 

「…………んじゃ明日昼飯でも奢ってください」

 

このまま断り続けるのも面倒だし、申し訳なさも出てくると思った瑠和は適当な提案をする。これくらいなら罪悪感も少ないし果林の要求も満たせられる。

 

「お安いご用よ。じゃあ明日またここで」

 

「はいはい」

 

先に食べ終えた瑠和は席を立ってさっさと食堂を出ようとした。

 

「朝香果林よ」

 

「え?」

 

「私のフルネーム。ライフデザイン学科2年、朝香果林。よろしくね」

 

「……普通科1年、天王寺瑠和」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

言われた通り食堂で待っていると果林がやってきた。

 

「お待たせ。何食べる?なんでもいいわよ」

 

「はぁ、まぁ、別に何でもいいです」

 

「そう。じゃあ私がよく食べるものでも」

 

そう言って果林は魚の定食の食券を持ってきた。瑠和と果林は定食を受け取って席に戻り、しばらく無言で食事を続けていたが無言が気まずく瑠和は話題を出してみた。

 

「…………魚、好きなんですか」

 

「え?まぁ、そうね。好きか嫌いかって言うよりカロリーとかその辺の関係。私モデルやっててね。読者モデルだけど。だから体型の管理には気を使ってるの」

 

「…そうでしたか………」

 

「これだってたまにしか食べないの。午後の授業に体育とかがある日なんかにね」

 

「普段は何食べてるんですか?」

 

「そうねぇ。そもそもあんまり食べないし最低限の栄養さえ取れればいいから、ゼリーとか」

 

「………」

 

食事制限している相手に食事に誘ってしまったことにどう返したものかと考えていると、近くから女子生徒二人が瑠和たちの席に来た。

 

「あ、あの!朝香果林さんですよね!」

 

「え?ええ」

 

「わぁ~!あの、いつも雑誌で見てます!」

 

「そう、ありがとう」

 

どうやら果林のファンの子らしい。瑠和はファンの子に対応してる果林の表情から出ている色が気分悪かった。営業スマイルのような気持ちがこもってない笑顔というのだろうか、それが苦手なのだ。

 

それから他愛もない話をちまちましてから食事を終えた瑠和は席を立つ。

 

(この人は俺の苦手なタイプの人だけど、きっとこの人自身、そんなに悪い人じゃない………)

 

そう考えながら瑠和は少し前の記憶を思い出す。

 

(そんな、私は大したことしてないよ。ただみんな感情的になってるところがあったように見えたから、そこを調整しただけ)

 

記憶の中の人物のようになりたい。そう思った。

 

「ごちそうさまでした…………あの、体型管理は大切だと思いますが……それでも、ちゃんと食べるのも大切ですよ」

 

「……もしかして心配してくれてるの?」

 

果林は笑って瑠和の頭に手をのせた。

 

「ありがとう」

 

「…」

 

瑠和は少し驚いた表情をしてから軽く会釈をして帰っていった。

 

食堂を出てから瑠和はそっと果林に撫でられた頭に触れた。あんな風に真正面からお礼を言われたのなんて何年ぶりだろうかと思いながら教室に帰っていった。

 

 

 

―一週間後―

 

 

 

瑠和が果林と食事をしてから一週間が経った。もうすぐ三学期が終わるという時期に璃奈の卒業式があるということで瑠和も行くこととなった。瑠和は両親との折り合いは悪くあまり乗り気ではなかったが、いままで璃奈の小学校の入学式以外の行事に出られていないということで見にくことにした。

 

しかし、そこで瑠和は目撃してしまう。卒業式が終わってもクラスメイトと話すこともなく淡々と荷物を纏めて帰ろうとする璃奈の姿を。

 

荷物をまとめた璃奈が廊下に出て、瑠和と目が合う。その眼は、瑠和に対して敵意を持ってるように感じた。

 

「…っ!」

 

気づけば瑠和は虹ヶ咲学園の近くの橋にいた。乱れた呼吸はここまで走ってきたことの証明だった。瑠和は頭を抱えてその場に座り込む。

 

璃奈があんな風になったのは自分のせいだと思いながら。

 

瑠和はあまり両親が家にいないことに対し反感を持っていた。そして、その寂しさを紛らわせるように外でばかり遊んでいた。家の中に璃奈を一人残して。親の仕事の都合で引越しが決まった時も反発し、結局瑠和だけが地元の親戚の家に預けられ、璃奈は両親と一緒に引っ越していった。

 

反発した理由なんて「友達と離れたくない」なんていったが実際は親の都合に振り回されるのが嫌なだけだった。

 

ずっと親兄弟と触れ合えなかった璃奈は表情を表に出せなくなっていった。その結果が大きく出ていたのが今回だ。

 

(俺のせいだ………寂しかったのは璃奈だって同じだったのに……俺が自己中なばっかりに………璃奈は…)

 

瑠和の心情を表すように雨が降ってきた。雨に打たれているというのに瑠和は動こうともしない。全身がくまなくびしょびしょになったところで急に雨が止んだ。

 

「…………?」

 

瑠和が顔を上げると雨が止んだわけではなく誰かの傘が自分の頭の上に差し出されて雨が当たらなくなっただけということがわかった。

 

「大丈夫?」

 

後ろから声がした。振り返るとそこには果林がいる。

 

「朝香さん………」

 

 

 

―虹ヶ咲学園学生寮―

 

 

 

「ほら、タオル」

 

瑠和は果林に引っ張られ、果林の暮らしている学生寮まで連れてこられていた。

 

「服、洗濯機で洗って乾燥させてあげるから。その間にお風呂入っちゃいなさい」

 

「………なんで、俺なんかのために」

 

ここに来るまで黙ってた瑠和はようやく口を開き、果林にもっとな疑問を訪ねた。傘を貸すくらいならともかく、部屋にまで入れ、シャワーも貸してくれるとのことだ。いくら何でも至れり尽くせりすぎる。

 

「………あのねぇ、深い仲とは言わないけど見知った後輩が休日に雨に打たれながら地べたに座ってたら、私じゃなくても声かけるわよ」

 

「………すいません」

 

「…いまは何があったかなんて聞かないけど…とりあえずそのままじゃ風邪ひくわよ。お風呂は沸いてるから早く入っちゃいなさい」

 

瑠和は果林の言葉に甘えて風呂を借りる。温かいシャワーに打たれながら少しだけ気持ちを整理する。

 

「洗濯、少し時間かかるから。これ着てて」

 

風呂場の外から果林の声が聞こえた。

 

「………ありがとうございます」

 

風呂から上がると籠が置かれており、その中にはフリーサイズのバスローブとパンツ代わりのタオルが入っていた。とりあえずそれに腕を通してリビングに向かう。

 

「………お風呂、ありがとうございました」

 

「そう、ココアでも飲む?あったまるわよ」

 

「……いえ…大丈夫です」

 

瑠和は部屋の隅によっかかり、軽く俯く。その様子を見て果林は少し尋ねた。

 

「……………さっきは聞かなかったけれど、何かあったの?」

 

「………」

 

「話したくないのなら別に構わないけど。悩みがあるなら話した方が少しは楽になると思うわよ?」

 

ここまで世話になった以上果林のやさしさに応えなければならないと思いながら、瑠和は追い詰められていたせいか本音をポロリと吐露する。

 

「…………すいません。俺、朝香さんが苦手で」

 

「え?」

 

「俺、人の顔見ると色が見えるんです。それで、相手がどんな気持ちなのかとか、なんとなくわかるんですが、朝香さんは………それが良く見えない。本心が見えないんです……言動がすべて取り繕っているようで…朝香さんと話しているのに、別に誰かと話しているような。本当の姿を見せない様にしている」

 

「………人っていうのはそういう生き物じゃない?」

 

「そうかもしれませんけど、朝香さんは全部そうだから……ごめんなさい。こんなにお世話になってるのに」

 

「………別にいいわ。悪気があるわけじゃないっていうか、難儀な感性なだけみたいだし。まぁでも確かに、あなたの言う通りそうかもしれないわね。私のほとんどは取り繕ってるのかもしれない」

 

果林の言動を偽りだと見破られたのは初めてだった。そのせいか果林は柄にもなく自分のことを話した。いつも頼られる側の人間だったせいか誰かに自分の胸の内を吐露するのも初めてだった。いや、いっそ一度楽になりたかったという面もあったのかもしれない。

 

「読者モデルなんかやっていると、回りには変な理想持たれることがほとんどでね……本当の私はそうじゃないのに。だけど失望されたくなくて、嫌われたくなくて、いつのまにかみんなが望む朝香果林を演じるようになっていった。だからそう見えるのかもしれないわ」

 

「……」

 

「いまのはどう見えた?」

 

瑠和を試すように果林はいたずらっぽく笑う。瑠和は正直な感想を述べる。

 

「少なくとも、嘘じゃないのはわかります。真の本音かはわかりませんが」

 

「そう…私もこんなこと話すの初めてだから、自分でも本音かどうかわからないけど、君がそういうのならそうなのかもしれないわね」

 

「あてにはしないでください………」

 

「…ところで、私だけ事情を話してあなたはだんまりってアンフェアじゃない?」

 

果林はにっこり笑って言った。最初からこれも目的の内だった。自分が隠してた部分を見破られ、そう簡単に終わる果林ではなかった。

 

そんな感覚に陥りながらも瑠和は何があったかを伝えた。璃奈との関係と璃奈の眼、すべては自分の責任だと思ったことを。

 

「なるほどね………そんなことがあったの……でもそれって、基本的にあなたの思い込みなんじゃない?」

 

「ですけど………璃奈の青春のたくさんの時間を犠牲にしてしまった………その原因を作った俺を恨まないわけ…」

 

「決めるのは璃奈ちゃんよ。間違ってもあなたじゃない」

 

意外な意見に瑠和は驚いていた。そんなこと考えてもいなかった。いや、考えない様にしていたのかもしれない。自己嫌悪と現実逃避していた方が心が楽だったから無意識に考えようとしなかったからだ。

 

「………」

 

「話してみたらいいんじゃない?憶測で決めつけても時間の無駄よ」

 

「……でも、それで璃奈に拒絶されたら俺は…」

 

「だったら許してもらう様に努力すればいい。少なくとも逃げてても何も変わらないんだから。それとも、璃奈ちゃんの高校生活も犠牲にするつもり?」

 

果林がアドバイスを終えたところで洗濯機が乾燥を終えた音が鳴る。

 

「おせっかい終わり。服着て家に帰りなさい?傘は貸してあげるから」

 

「…」

 

 

 

続く

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