Another days -case of Karin-   作:瑠和

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アニガサキさぁ………あんな完璧な演出しておいて誇らしくないの?普通予想できる?毎度毎度いい話作り過ぎなんだよなぁ。終わってほしくない………。
四話です。なかなか展開をゆがめるといろいろなところにほつれが出てきますね………


第四話 Glance compassion

「熱いとかじゃなくて!かすみんはもっとかわいいのがいいんです!!!」

 

かすみの叫び声が虹ヶ咲学園西棟屋上に響いた。それは必然ともいうべき結果で、瑠和はそうなることをどこかで知っていた気がした。その瞬間生まれた色を瑠和は何度か見たことがある。

 

「かすみちゃん……」

 

だから止めにも入らなかった。いや、入れなかったが正しい。どれほどの決意でそれを伝えたのかは表情を見ればすぐに分かった。

 

かすみにとってもつらい決断だったろう。だけど、伝えなければ苦しいだけだと気づいたのだ。まとまり切れてない空気を感じながらも何も言わなかった瑠和よりもずっと立派だった。

 

「今日はここまでにしておこう。少し熱くなりすぎだ」

 

「………」

 

同好会が解散した後、瑠和は璃奈に一人で帰るように言って自身は生徒会室に向かった。今日のせつ菜は普段に比べてずっと熱が入っていた。理由は何となく察しがついていた。

 

(生徒会長め………なるべく言うなって言ったのに………)

 

「おい生徒会長!!」

 

瑠和が憤りのままに扉を開けるが生徒会室には誰もいない。辺りを確認しながら瑠和は生徒会室に入っていく。

 

「………………留守かよ」

 

生徒会長の机にたどり着く。机の上には生徒名簿が置いてあった。瑠和は何の気もなしに生徒名簿を開くとそこに生徒会の生徒が入ってきた。

 

「あの……何をなさってるんですか?」

 

「ん?ああ…生徒会長に用事があって」

 

「生徒会長ならもう帰られましたよ」

 

「そうか………じゃあ出直すわ」

 

瑠和はとぼとぼと帰路につく。

 

(生徒会長に詰め寄ってどうしようっていうんだ……それで同好会が復活するわけじゃない…………でも…せっかく璃奈がやる気になれたのに………)

 

悪いのは生徒会長ではなく何もできなかった自分だとわかった途端、己が情けなくなり瑠和は帰路の途中、夢の大橋から外れてカスケード広場で一人黄昏た。

 

「はぁ………」

 

「あら?」

 

声がした。横を向くとそこにはスマホを持った果林がいた。言わずもがな迷子だということはすぐにわかったが瑠和は何も言わない。

 

「き、奇遇ね」

 

「……朝香さん…」

 

果林はまた迷子になってることを隠しながらいつもの感じで瑠和に挨拶したが、瑠和の様子が少し変だったことに気づく。

 

「………なにかあった?」

 

「まぁ………少し」

 

「………」

 

果林は少し考えて瑠和のすぐ横に寄りかかる。

 

「また話、聞いてあげましょうか?」

 

あまり瑠和に関わりたくない自分がいるのも事実だったが、目の前の困っている人を無視できないのが果林だった。

 

「聞いてもらったところで……果林さんにどうこうできるものじゃ…」

 

「前にも言ったじゃない。話すだけでも、楽になるものよ」

 

「…………いえ、もう少し自分の力で頑張ってみます」

 

「そう、そういうのも大切ね。なら今は何も言わないわ」

 

一方、璃奈は一人で帰れと言われたものの、どうにも帰る気になれず校舎裏でしゃがみこんでいた。そんな璃奈の近くに白い子猫が現れた。

 

「にゃあ」

 

「………」

 

猫は人懐っこく、璃奈にすり寄ってきた。璃奈はそっと指で子猫を撫でる。子猫と戯れているとそこに誰かがやってきた。

 

「どうしたん?また落とし物?」

 

「え…?」

 

振り返るとそこには金髪の少女が立っていた。先日瑠和が会った少女だ。どうやらピンク色の髪を見て瑠和と勘違いしたらしい。

 

「あれ?違った?ごめんね!知り合いに似てたから」

 

「……」

 

黙っているだけの後輩に少女は驚かせてしまったかなと思いながら璃奈のそばにいる猫を見た。

 

「猫?可愛いね!」

 

璃奈はちらりとリボンの色を確認し、瑠和と同じ二年生のリボンの色に気づく。

 

(上級生……ちょっと怖い…………でも)

 

璃奈は果林のことを思い出す。上級生でも優しい人はいる。そのことを思い出して勇気を持ってみる。

 

「………猫…好きなんですか?」

 

「え?うん!好きだよ」

 

「………撫でる?」

 

璃奈は白い猫を抱きかかえてみると抵抗しなかったのでその猫をそっと金髪の少女に差し出した。

 

「うん!」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

翌日の休み時間、瑠和は優木せつ菜を探して自分の教室以外の普通科の教室を訪ねた。

 

「…いないな」

 

璃奈のときと同じようにとりあえず話をしない限り何も進まないんじゃないかと考え、まずはせつ菜を探したのだ。しかし、いくら人数が多いとは言え普通科のエリアを歩いてれば見つかるだろうと思ったが全く見つかる気配はなかった。

 

「こんなに見つからないか?普通…」

 

1、2、3時間目の休み時間を使っても見つからず、昼休みも半分消費したが見つからなかった。参ってしまった瑠和はため息をつきながら屋上でぐったりとする。この後どうしたものかと思いながらちらりと視線を動かすと、芝生で猫と戯れる妹と金髪の少女の姿が見えた。

 

「あれは…」

 

 

 

―正門付近―

 

 

 

正門付近で璃奈と金髪の少女は子猫と戯れていた。

 

「おいしいかい?猫ちゃん……猫ちゃんっていうのも変だねぇ。名前ないの?」

 

「………名前、決めてない」

 

猫に缶詰を与え、二人も雑談しながらお弁当を食べている。その様子を瑠和は植木の影から見ていた。

 

「あれは……どうしてあいつが璃奈と…」

 

「あの子、部活棟のヒーローって呼ばれてる子ね」

 

「ヒーローか…………ん?」

 

なぜ璃奈とこの間の少女が一緒にいるのか、訳が分からずにいたため瑠和はいつの間にか真横に果林がいることに気づかなかった。果林の言葉で瑠和はようやく果林の存在に気づく。

 

「うぉぉぉぉぉあ!朝香さん!?」

 

「うるさいわね………」

 

瑠和の叫び声に果林は微妙な顔をしながら耳をふさぐ。

 

「なんで……いつの間に」

 

「いまさっきすれ違って、声かけたのに無視されて、のぞき見してたから気になっただけよ」

 

「お兄ちゃん?」

 

そこに瑠和の叫び声を聞いた璃奈が様子を見に来た。

 

「どしたんりなりー。あ!この間の!」

 

「……よ、よう」

 

 

 

 

 

 

 

「そっかぁ、りなりーは君の妹だったのかぁ」

 

この間金髪の少女が瑠和と間違えて声をかけたことを話し、本来は瑠和に声をかけるつもりだったことを璃奈は知った。

 

「そう、お兄ちゃん」

 

「私、情報処理学科二年宮下愛!改めてよろしくね!」

 

金髪の少女は瑠和たちに自己紹介をした。瑠和と果林もつられるように自己紹介をする。

 

「………普通科二年、天王寺瑠和」

 

「ライフデザイン学科三年朝香果林よ」

 

四人は自然と一緒に昼食を取る流れとなった。三人はお弁当を出したが、果林はウィダーインゼリー一つだけだった。

 

「朝香さん、それだけですか」

 

「ええ。身体を見られる仕事してるからね。食事制限は気にしてるの」

 

「…………じゃあこれどうぞ」

 

瑠和はお弁当の蓋に肉団子を乗せて果林に差し出す。瑠和の意外な行動に果林は面食らった表情をする。

 

「ウチの飯は璃奈が太らない様にカロリー控えめなんですよ。ほら、璃奈ってあんまり外で遊ぶタイプじゃないですから。これも結構ローカロリーなんですよ」

 

「…………」

 

果林は少し考えてから肉団子を口へ放り込んだ。肉団子を租借し、飲み込んでから果林は笑顔で瑠和の方を向いた。

 

「うん、おいしいわ。相変わらずの腕ね」

 

「ありがとうございます」

 

「ていうかさー。二人ってどんな関係なん?恋人?」

 

「!?」

 

果林は再び口を付けたゼリーを気管に入れてしまい、むせる。

 

「ち、違うわよ!彼とはまぁ………その…話すと長くなるけど、色々あって知り合いなだけ!変なこと言わないで頂戴!!」

 

「いやぁ、学科も学年も違うのにどういう関係なんだろうって思っちゃってさぁ」

 

「それを言うならあなたたちだってそうじゃない。学科は同じみたいだけど」

 

「ん?愛さんたちもたまたま出会っただけだよ。きっかけは「るなりん」だけどね」

 

愛は瑠和の方を見て言う。瑠和はまさか自分のことを呼ばれているとは思わず一瞬驚いたような表情をしながら自分を指さすと愛が軽く頷く。

 

「なんだそのすっとんきょうな名前は」

 

「あだ名だよ。愛さんあだ名で呼ぶの好きなんだ」

 

「へぇ、面白いじゃない。じゃあ私は?」

 

「え~。そうだなぁ………」

 

親しい友人がいない璃奈と瑠和にとってはこんなに賑わう昼休みは初めてだった。それは朝香果林にとっても初めてのことで、瑠和の家に行った日の帰り道と同じ感じがした。楽しいと思う自分と、何かが崩れそうな気がする恐怖。

 

「………そういえば瑠和は優木せつ菜を探してたの?」

 

果林は少し話を真面目な方向に逸らした。

 

「ええ。まだ見つかりませんが」

 

「なに?人探し?だったら生徒会長に聞くと良いんじゃない?」

 

愛が話の全貌は見えていないが提案をした。

 

「生徒会長に?」

 

「ウチの生徒会長、全生徒の顔と名前と学科覚えてるって話だよ」

 

「そうなのか………」

 

ちょうどいいと瑠和は思った。生徒会長にも話があったし、ついでにせつ菜の居場所も知れるのであれば一石二鳥だと考えたのだ。

 

 

 

―放課後―

 

 

 

瑠和は放課後になるとすぐに生徒会長のいる教室に向かった。教室には帰る準備を進めていた生徒会長である中川菜々の姿があった。瑠和は教室に入り、菜々の前に立つ。

 

「よ、生徒会長。ちょっと話があるんだがいいか?」

 

「………瑠和さん」

 

二人は教室から西棟屋上に場所を移動した。

 

「用事は………同好会についてですか?」

 

「ああ。あの事、せつ菜に話したのか?」

 

どこか混じり切っていないことをせつ菜に伝えたのかということは気になっていた。急に練習がハードになり、せつ菜が明らかに焦りを見せていた理由はそれくらいしか考えられなかったからだ。

 

「…………はい。スクールアイドル同好会には必要なことだと思いましたので…………秘密にしておくように言われていたのに…………申し訳ありません」

 

「…まぁ。いずれ訪れることだったんだ。俺が、どうにかすべきだった。それを感じていた俺が」

 

「無理をして、部活が活動停止になったことを謝っておいてほしいと言われました………彼女に代わって謝罪を…」

 

謝ろうとした菜々の動きを瑠和は食い気味に反応して制止させた。

 

「謝罪ならあいつの口から直接聞きたい。生徒会長、教えてくれ。せつ菜の居場所を………」

 

「……彼女の希望でそれは教えられません。ですが彼女は近々転校するそうです………………なので、明日の同じ時間にここに一人で来てください。同好会の皆様には内密にお願いします」

 

「…わかった」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「お待たせしました」

 

約束通り、せつ菜は屋上にやってきた。瑠和も当然一人で来ていた。本当は同好会のメンバーを全員連れてきたかったがせつ菜を責めたいわけではなかったのでとりあえず一人で来た。

 

「話し合いをしたいそうですが…」

 

「ああ。お前の話を聞きたい。これからどうしたいか」

 

瑠和のまっすぐな瞳をせつ菜は見ていられなかった。目を逸らし、手すりに寄りかかる。

 

「………わかりません……もう、自信を無くしてしまいました。私の大好きはただの自分本位なわがままだったのだと………思い知らされました」

 

「…………大好き…?」

 

聞きなれない言葉に瑠和は眉をひそめた。

 

「スクールアイドルの本懐は……自分の大好きを叫ぶことだと私は考えています。私もそうしたかった………ですが一つにまとめようとすればするほど衝突は増えて行って……」

 

「……………そうだな」

 

瑠和はそれを一番感じていた。だからこそ今度は否定をしなかった。また否定すれば同じことの繰り返しになるからだ。

 

「大好きを叫びたかったのに、私の大好きはファンどころか仲間にすら届いてなかったんです………どのみち私はもうすぐ転校します。璃奈さんもいますし、私抜きで5人での再スタートを切ってください………今度はもう衝突しない様に」

 

そう言って笑うせつ菜の表情に、瑠和は嘘の色を感じていた。しかし、あえてそれを口には出さずにはいた。それにそんな小さな嘘を気にするよりも先に伝えるべきことがあったからだ。

 

「…お前の大好きが自分本位の我が儘だったとしても、その大好きは確実に届いている」

 

「え?」

 

「俺も璃奈も、お前の歌に夢をもらったんだ。だから、お前の大好きが届いてないことなんてないんだ。お前が自分の大好きを否定するってことは…俺らの夢、お前からもらった俺らの大好きをお前が否定することになる…それでいいのか?」

 

「………ですけど…だからって…」

 

あえてせつ菜の逃げ道を塞ぐ。言っていることは嘘ではないしここで彼女に逃げ道を与えるのは彼女にためにならないと思っていたからだ。

 

「ですけど!もういいんです!!私はこの学校からいなくなるんです!もう………放っておいてください!!」

 

せつ菜はそう叫んで屋上から走り去ってしまった。

 

「せつ菜!!」

 

 

 

―一週間後―

 

 

 

一週間が経った。この日の瑠和は大慌てで同好会の部室に向かっていた。ようやく部室に到着するも、瑠和の顔は絶望に歪む。部室には同好会のプレートはなくなっていた。

 

「…くそ……どうして」

 

風のうわさでせつ菜が単独のライブを行ったことを聞いた瑠和は放課後、大急ぎで部室までやってきたがこんな結果になるとは思ってなかった。休み時間にそのライブの映像を見たが、瑠和はせつ菜がつらい思いで歌い、大好きを叫べていないのは色を見るまでもなくわかり切っていた。

 

瑠和は落ち込みながら帰路につく。せつ菜は見つからず、かすみとの間を取り持つ方法もわからず、打つ手なしだった。瑠和は夢の大橋のベンチに座り込み、海を見つめて黄昏る。

 

「せつ菜………」

 

「大丈夫?」

 

瑠和の頭上に折り畳み傘が差し出される。

 

「………雨、降ってないですよ」

 

「知ってるわ。でも、あなたの目が、あの日と同じだったから」

 

あの日というのは璃奈の卒業式の日のことだろう。瑠和は軽く笑って果林に事情を話した。

 

「……………打つ手なしなんです。同好会を復活させる手段が。せつ菜の居場所もわからない。かすみちゃんとの間の持たせ方もわからない」

 

「なら、あなたと璃奈ちゃんで同好会を作りなおせばいいんじゃない?幸いエマも彼方もまだやる気があるみたいだし同じ部が二つもあるのは問題だろうけど、廃部したんならもう一度…」

 

「あんな様子のせつ菜放ってなんておけませんよ!それにあんなタイミングで引っ越すなんて…嘘に決まってる………」

 

バカ真面目な性格だなと果林は思った。果林的には少し苦手なくらいまっすぐでおせっかいで、優しい性格だった。小さくため息をついてから果林は瑠和の横に座る。そして、瑠和の目を見た。

 

「…………何か役に立てること、あるかしら」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「お待たせ。勝手だけど持ってきたわ」

 

翌日の放課後、果林は生徒会室から生徒名簿を手に入れてきていた。瑠和は以前生徒会室に入った時に生徒会用の生徒会名簿があったことを思い出し、それを果林にとって来てもらっていた。

 

瑠和自身生徒会長と少し折り合いが悪いと思ってたので果林に頼んだのだ。

 

「この人数をチェックするのは難しいが………やってやるよ」

 

こうなったらやれるだけやってやろうと決意したのだ。二人は食堂に向かい、二人で生徒名簿とのにらめっこを始める。ただひたすら見落としがないように一つの名前を探す。瑠和の行動もあり、普通科二年生の中にはいないことは判明していたが、それでも相当な量だ。

 

「……………こっちにはないわ」

 

「……………こっちもだ」

 

日が落ちたころ、二人は生徒名簿のチェックは終わった。結局その中に優木せつ菜という名前は存在しなかった。

 

「じゃあ優木せつ菜って…………?誰なんだ?」

 

「もう、諦めたら?やるやらないは本人の自由よ」

 

果林の言う通りではある。しかし、それでも瑠和はあきらめきれない理由があった。

 

「…………以前エマさんが、スクールアイドルをやりたいって言ってた時……あのまっすぐな…大好きを叫んでいるときの色が、俺は大好きなんです。スクールアイドルをやってた時のせつ菜の色も一緒です。絶対にやりたくないってのは嘘なんですよ」

 

「でも、かすみちゃんとの仲を取り持つ方法もわからないんでしょう?」

 

「何とかします。例えおせっかいでも、俺のエゴでも………ああなっちゃったのは俺の責任ですから」

 

瑠和はそう言って帰っていった。

 

「………本当に、難儀な性格よねぇ……」

 

(それでも、そんな姿に自然と惹かれてるのも事実なのよねぇ……)

 

 

 

―帰路―

 

 

 

「瑠和さん?」

 

瑠和が帰宅しようと歩いていると、突然背後から声をかけられた。声をかけたのは菜々だった。

 

「生徒会長………」

 

「どうしたんですか?こんな時間に」

 

「そりゃ生徒会長もでしょう」

 

菜々も帰るにはずいぶんと遅い時間だった。

 

「生徒会の仕事です………あなたの妹さん……璃奈さんが猫を追い出したくないとのことで………」

 

猫と言われ、瑠和はこの間愛たちと一緒に昼食を食べた時に一緒にいた白い猫を思い出す。

 

「ああ………あの白いのか。でも、学校で飼うなんて難しいんじゃないか?」

 

「ええ、なので生徒会のお散歩役員として就任することにしました」

 

菜々は鞄から学校へ提出する提案書を取り出し、瑠和に見せた。その提案書にはあらゆる校則や法の穴をついたほぼ屁理屈のような提案書だったが、理屈は通っているし反論も難しい作りになっていた。

 

「これは………これを作るためにこんな時間まで?」

 

「はい」

 

こんな分厚い提案書を作るには相当な苦労をしたのだろうと思い、瑠和は頭を下げた。

 

「………すまない。ありがとう。こんな無茶させちまった妹にはよく言っておく」

 

「気になさらないでください!やるって言ったのは私ですから!」

 

菜々は焦って頭を上げるように言う。

 

「猫なんて追い出すことの方が簡単だったろうに…お前はこっちを選んだ………それは璃奈のためもあるんだろ?」

 

「そうかもしれませんが私、好きなんですよ。生徒会の仕事が。こういうのも含めて。私の行動が誰かのためになれば、それだけで私は嬉しいんです」

 

にっこりと笑った菜々の顔を見て、瑠和は驚愕した。菜々が生徒会の仕事が好きだと言う表情に見える色。それがせつ菜が瑠和たちのために歌った時に見えた色。その二つが良く似ていたのだ。

 

「…」

 

「どうかしましたか?」

 

「ああ………いや」

 

「では私はこれで。あまり遅くならない様にしてくださいね」

 

菜々はそう言って去っていった。瑠和はその場で少し考える。いままで別の人物から同じ色が見えたことはない。似たような色でも人によって感じ方が違うので違う色というのはわかるはずだった。

 

初めての感覚に瑠和は困惑していた。

 

「ん…?」

 

悩みながらふと地面を見ると何かが輝いているのが見えた。

 

「これは…」

 

拾ってみるとそれは三角形の金色の髪留めであり、さっきまでこんなものは落ちていなかった。今の自分の感覚と、この髪留め、瑠和の中で何かが繋がっていく。

 

「まさか…」

 

 

 

 

続く


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