Another days -case of Karin-   作:瑠和

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少し遅れながら。
ミア、歌えてよかったな。
彼方の近衛の方の二期のテイストがだいぶ決まってきました。今回はちょっと短めです。


第五話 Just initiate

「いらっしゃいませー!」

 

店内に元気な声が響き渡る。油の匂いが充満する店内に入ってきたのは瑠和だった。

 

「あ、るなりん!食べに来てくれたの?」

 

元気ないらっしゃいませを言った店員は宮下愛だった。瑠和は愛と初めて会った時に、愛の家の店の割引券をもらっていたので今日はそこに食べに来ていた。

 

「ああ………宮下、ちょっと話せるか?」

 

「…?」

 

瑠和は二階の部屋に通され、愛と二人きりになった。一緒に食べようと誘われた愛は慣れた手つきでもんじゃを作る。

 

「流石、上手いな」

 

「そりゃ小さいころからやってるからね!はい、出来上がり!おあがりよ!」

 

「サンキュ」

 

愛ももんじゃを食べながら今回わざわざ愛の家までやってきた理由を尋ねた。

 

「今日はどうしたん?なにかあった?」

 

「いや、その…………たくさんの人の意見が欲しいと思ってな…なぁ、お前がもし誰かの…お前が知ってる人間の秘密を知って、それをみんなに話さなきゃならないってなった時、どうする?」

 

「ええ?いや~、難しいなぁ。それはまぁ、状況にもよると思うんだけど………なんかそういう状況になってるの?」

 

「ああ………まだ確証には至らないが。秘密を知ってしまった。いま俺が………いや、俺の仲間がぶつかってる別の悩みを解決するにはその秘密をみんなにバラさなきゃいけない。だけど、誰にでも知られたくない秘密の一つや二つあるだろ?秘密をバラされるのってそんな心地いいことじゃないと思うから…どうするのが正解かわからないんだ」

 

瑠和はせつ菜の正体に気づいていた。だが、優木せつ菜の正体がお堅い生徒会長だと考えた時、なんでそんなことをしていたのかを理解した。おそらくスクールアイドルが好きであり、理由はわからないが生徒会長という肩書が邪魔だったのだ。

 

だから優木せつ菜という皮をかぶって活動をしていたが、かすみと衝突したことで自信を無くしたのだろうと瑠和は考えた。

 

瑠和はこれを同好会に教え、彼女の正体を明かすことが本当に正しいのか自信を無くしてしまった。知られたくないから隠したことなのに誰かに明かされるのは嫌なことだろうっていうのはわかっている。だが、それをバラさなければもう優木せつ菜には会えないだろうということもあり、二律背反の状態にいるのだ。

 

「だから、何も知らない第三者の意見が欲しいって思ってな………」

 

「………」

 

瑠和の悩みを聞いた愛は少し考えてからもんじゃを食べる手を止める。

 

「愛さんはさ、今でこそこんな風に明るく振舞ってるけど、昔は結構引っ込み思案な子だったんだ」

 

「見えねぇな」

 

「うん、でも、愛さんに楽しいこといっぱい教えてくれた人がいたんだ。その人のおかげでいまの愛さんがいる。きっとその人は愛さんの中にあった明るいところをわかってたんだと思うんだ。だから昔の愛さんが怖がったりしても少し強引にでも愛さんのそういうところ引っ張り出してくれたんだと思う」

 

「………」

 

「るなりんが今どんな悩みにぶつかってるのかわからないけど、誰かのために何かをしようとする心は間違ってないと愛さんは思うな」

 

「だが、間違いなく傷つく人間はいるんだ……それをわかってやるなんて…」

 

瑠和はせつ菜を、誰かを傷つけることを躊躇っていた。正しくは誰かと衝突するのが怖いのだ。それは小さいころから人の顔色が見えていた瑠和だからこその恐れだった。人の顔色を見て育った瑠和はいつの間にか他人の機嫌取りばかりをするようになっていた。

 

だから瑠和は衝突を恐れ、同好会に感じていた違和感を口に出せなかったのだ。

 

「るなりんは優しいお兄ちゃんだからね。そういうの躊躇っちゃうのもわかるよ。でも、だれも傷つけないのが正しいとも限らないって愛さんは思う。まぁるなりんがどんな悩みにぶつかってるかっていうのは愛さんわからないから……」

 

愛は瑠和の肩を叩く。

 

「最後に決めるのはるなりんだよ。どんな結果になるかなんてわからないけど。それを恐れてちゃ前には進めないんだから」

 

「………」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「やほ、用事って何?」

 

「よう、高咲」

 

瑠和はある日、クラスメイトの高咲侑を屋上に呼び出していた。

 

「実はお前に頼みがあってさ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あぁわかったよ!俺が悪かったんだろ!?」

 

瑠和の叫びが放課後の教室に響いた。

 

これは一年前の話だ。授業の一貫でグループワークを行った瑠和とその仲間はグループ内で衝突したのだ。理由は方向性の違い的なものだった。グループ内で亀裂が生じ、先が見えづらくなったと瑠和は途方にくれ、屋上で黄昏ていた。そんなときに彼女は現れた。

 

「なにしてるの?」

 

これが高咲侑と瑠和の出会いだった。事情を聞いた侑は瑠和を心配し、グループメンバーに話を聞いてどちらかの意見を正しいとするわけではなくお互いの意見を尊重しながら問題を解決してグループ間の亀裂を元に戻したのだ。

 

「すげぇな、高咲は」

 

「そんな、私は大したことしてないよ。ただみんな感情的になってるところがあったように見えたから、そこを調整しただけ」

 

「…俺も、お前みたいに誰かの助けになれるかな」

 

「え?」

 

「そうやって、誰かのために動けるお前を俺は尊敬するよ」

 

今瑠和が璃奈や同好会のために動くのは侑に感化されてってところがあった。今の同好会の状況は過去の瑠和たちのグループの状況によく似ている。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あの時みたいに、助けてほしいんだ」

 

「あの時って………私は別に何もしてないって」

 

「してくれたから今の俺がいる」

 

「うーん。まぁとりあえず事情だけは聴かせてよ」

 

瑠和は侑にすべて話した。瑠和はあの後さんざん考えたがいい考えが浮かばなかった。しかし、かつて瑠和の悩みを解決した侑であればどうにかしてくれるのではないかと思ったのだ。

 

「そういうわけだったんだ………ん~いいよ。私が話してみても」

 

「本当か!?」

 

瑠和は少し胸をなでおろす。重荷がおりたような感覚と共に、いつか感じた後悔も感じたような気がしたが、瑠和は気づかないふりをした。ともかく今は同好会の復活が優先されたからだ。

 

「でもさ、私が話してみてもいいんだけど、瑠和君は本当にそれでいい?」

 

「え?」

 

「ただの勘なんだけど、今の瑠和君はなんていうか……ただ怖がってるように見えるんだ。それで私を頼ってくれたのは嬉しんだけど、私が解決しちゃったら瑠和君が後悔する………そんな気がするんだ瑠和君がせつ菜ちゃんに伝えたいこと、あるんじゃない?」

 

「………」

 

さっき感じた僅かな後悔の感情。それはかすみとせつ菜が衝突したときに感じたものによく似ていた。自分が言うべきことを最悪の形で誰かが言った。もっと円満にする方法はあったかもしれないのに、衝突を恐れて口に出さなかったからこそ最大の衝突が起きた。言えなかったことへの後悔。

 

「実は私今スクールアイドル同好会にいてさ」

 

「え?」

 

スクールアイドル同好会は廃部になったはずだと瑠和が驚く。

 

「って言ってもかすみちゃんが勝手に始めてる部なんだけど。かすみちゃんも前の同好会のことでちょっと悩んでるみたいだから。きっとそのうち自然と解決できると思うよ。それに、瑠和君の想いは瑠和君に届けてほしいって私は思う」

 

侑は瑠和の背中を軽く押した。

 

「その代わりってわけじゃないけどかすみちゃんのことは任せて。だから、気合入れて行こうよ」

 

「高咲…………」

 

侑はそれだけ伝え、屋上から去って行ってしまった。瑠和はポケットを漁り、昨日拾った髪留めを取り出す。

 

「せつ菜…」

 

瑠和はスマホを取り出し、果林に連絡を取った。

 

「朝香さん。ちょっと頼みがあります」

 

 

 

―潮風公園―

 

 

 

その日の夕方、瑠和はせつ菜のことをいったん果林に任せて潮風公園まで行った。潮風公園の端には侑、歩夢、そしてかすみが待っていた。

 

「瑠和先輩…」

 

「かすみちゃん。一つだけ確認したいことがある。これからの同好会を決める大切な質問だ」

 

「…」

 

 

 

―翌日―

 

 

 

「………」

 

翌日の放課後、放送で呼び出された菜々は西棟屋上まで来ていた。屋上で待っていたのは瑠和だった。

 

「またですか。瑠和さん」

 

「ああ。すっかり騙されてたよ。優木せつ菜」

 

瑠和はそういって髪留めを差し出す。せつ菜の正体にたどり着かれていたことに菜々は特に驚きも見せない。それどころかその言葉だけでこれまでのいきさつを大体把握したようだ。

 

「…………そうですか。最初にたどり着いたのは瑠和さんでしたか」

 

菜々は髪留めを受け取った。

 

「ああ。それで………やっぱり同好会に戻るつもりはないのか」

 

「…………ええ。昨日果林さんや同好会の皆さんにも伝えました。私抜きで同好会を再スタートしてくださいと………」

 

瑠和はその言葉を皮切りに決意を固める。例え迷惑だと思われたとしても、自分のエゴだとしても自分の想いをぶつけようと。

 

「じゃあ優木せつ菜はどうなるんだ?お前が大好きを叫びたかったから優木せつ菜が生まれたんだろ!?」

 

「優木せつ菜はもういません!!………いなくなったんです!」

 

菜々は否定する。しかしその表情に見える色は嘘だった。せつ菜はまだ菜々の胸の中にいるのに必死で存在を否定する。その苦しそうな色が瑠和は大嫌いだった。

 

「いるだろ!ここに!!大好きを叫びたがったお前がまだ!!」

 

「いません!!もう………こんなもの!!!」

 

否定を続けても粘る瑠和に対し、せつ菜は瑠和から受け取った髪留めを柵の向こうに投げ捨てた。それが優木せつ菜との決別だと言わんばかりに。

 

しかし投げ捨てるのとほぼ同時に瑠和は柵から飛び出し、髪留めをキャッチした。

 

「瑠和さん!!!!」

 

しかし柵の向こうはそのまま2階分ほど吹き抜けになっている場所だ。落ちればただでは済まない。とっさに菜々は手を伸ばし、瑠和も菜々の手に捕まった。菜々に両手で支えられ、瑠和は宙ぶらりんになりながらも何とか落ちずに済んだ。

 

「………無……茶をします…っ!」

 

「すまないな。でも、信じてたから」

 

人一人の体重を支えてる菜々は苦しそうに瑠和を説教するも瑠和は反省の色を見せてはいない。瑠和はそのまま何とか這い上がり、元の場所に戻った。菜々も安堵のため息と同時に崩れ落ちる。二人は急な体力の消耗に疲れ果てて座り込んだ。

 

「やれやれ。ほら」

 

瑠和は再び髪留めを菜々に差し出す。妙に入れ込んでくる瑠和に対し、菜々は少し疑問を持った。

 

「………どうしてそんなに私に入れ込むんですか?私がいなくたって………同好会は再開できるじゃないですか…」

 

「………俺がスクールアイドルに入れ込むようになったきっかけは、エマさんだった。エマさんが曇りない心で大好きを言っていた色。それが俺は大好きだった。これは俺の我が儘なんだけどな、俺はみんなが大好きを叫んでいる色がみたい。それはお前も例外じゃない」

 

瑠和の言葉に菜々は一瞬手を伸ばしかけるが、すぐに止まる。

 

「ですが………私がいると……ラブライブに出られないんですよ!?」

 

「お前は、俺や璃奈、そして高咲や上原にも夢を与えてくれたんだ。そんなお前が夢を諦めるなんて間違ってる。俺はそう思う。それに俺や璃奈、高咲も上原も同好会のみんなも、お前に与えられた夢を実現する舞台がラブライブじゃなくてもいいんだよ」

 

「え?」

 

「みんなに聞いたんだ。ラブライブに出たいかどうか。かすみちゃんにも。みんな、ラブライブがすべてじゃないって言ってくれた。だから、無理に出なくてもいいんだよ………ラブライブなんか。みんながそれぞれで自分の大好きを実現させればいい。だけど、そこには優木せつ菜も必要なんだよ」

 

「………いいんですか?私の大好きを叫んでも」

 

「そのための、スクールアイドル同好会だろ」

 

瑠和は菜々の髪を軽く寄せて髪留めで止めてやる。

 

「俺にみせてくれ。お前の大好きを叫んでいる色」

 

「………」

 

菜々の心の中で何かが解き放たれた気がした。菜々は立ちあがり、瑠和に手を差し出した。瑠和はそれに捕まって立ち上がる。

 

「………わかっているんですか?あなたは今、自分が思っている以上にすごいことを言ったんですからね!」

 

菜々は眼鏡を外し、三つ編みをほどいた。

 

「望むところだ」

 

「これは、始まりの歌です!!」

 

 

 

続く

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