Another days -case of Karin- 作:瑠和
三年生がしんみりした空気なのはちょっと暗くて、卒業のこと考えちゃって切なくなる………やだやだやだやだ虹ヶ咲終わらないで………俺ぁ何を糧に生きればいいんですか!これ以上何を頑張れっていうんですか!!!
六話です………ここから恋愛関係に触れていきます……。
「お兄ちゃん、はい、クレープ」
「おう、ありがとうな」
せつ菜の復帰を果たした同好会はようやく再スタートを切った日の翌日。瑠和と璃奈は二人で出かけていた。璃奈が同好会復活の活躍のお礼に何かしたいということでとりあえず二人で出かけていたのだ。そこで瑠和はふとせつ菜に熱弁したことを思い出す。
(そういや俺はエマさんのおかげでスクールアイドルを知れたんだよな………あの人の大好きをいう色が好きで……)
そう思うと全てのきっかけとなったエマに何かお礼がしたいと瑠和は考えた。瑠和は何かお礼にできるものを探そうと適当にぶらつく。急に普段見ないような店を見始めた瑠和に璃奈が疑問を持つ。
「どうしたの?」
「ん?あー璃奈はさ、プレゼントされるとしたら何がいい?」
「………お兄ちゃんからのプレゼントなら何でもうれしい」
「そっかぁ。璃奈はいい子だな」
瑠和は思考放棄して璃奈を撫でる。
しかしいざプレゼントをしようと思うと何をプレゼントしたらいいの変わらなくなるのも事実だ。エマのことを良く知ってるわけでもないし、瑠和も女性にプレゼントをする経験なぞほとんどない。
璃奈にも軽く事情を説明し、一緒にプレゼントを捜索する。
「ん~どうするかなぁ」
「エマさんへのプレゼントなら食べ物とか」
「まぁ安牌だけど、エマさん料理とかも上手だろうし下手なものプレゼントするよりかなんかもっと感謝を伝えられるようなものとか…」
「なにか、お悩みですか?」
悩む瑠和に優しい声がかけられた。顔を上げるとそこには柔らかい物腰の男性が立っていた。背が高いので年上に見えたが顔を見るに同い年くらいだろうかと瑠和は思う。
「まぁ、ちょいとプレゼントにな」
「そうですか?女性に?」
「ん…まぁな」
「申し訳ない。家の手伝いとはいえ花屋っていう職業柄、ついついおせっかいを」
エプロンをしている姿から何となく察していたが花屋らしい。確かに近くに個人経営の花屋はあるのでそこの息子だろうかと瑠和は考えた。
(名札…………後川……現直?変な名前だし嘘くさい笑顔だ。璃奈といい、果林さんといい、しずくちゃんといい、なんで俺の周りには色が見えにくい人が集まるかねえ)
「別に。俺も似たようなもんさ」
瑠和は適当に返す。
「よかったらいかがですか?お安く致しますよ」
「花………ねぇ。同じ部活の先輩へのプレゼントにするだけなんだ。それで花っていうのはちょっと重くないか?」
「まさか。そりゃ薔薇の花束なんて持っていけばさすがに引かれるでしょうけど、ちょっとしたところに飾れる花や、花の形のアクセサリーなんかでもいいと思いますよ。花っていうのは色や形、香りが人間の本能に合うんです。だから、こんなに技術が進歩して、いろんな娯楽がある今でもたくさんの人に愛される。いかがです?」
そう言って笑顔を見せた青年の色に、嘘がないことが瑠和にはわかった。言ってることは綺麗事かもしれないがそれを嘘の色が見えずにいえるというのは要するにそれが本心ということだ。瑠和は少しだけ花屋の青年に心を開く。
「………璃奈はどう思う?」
「お花は好き。エマさん綺麗だし、スイスの自然なイメージに似合うと思う」
「そうか……まぁちょっとした縁かもしれないしな。売り上げに協力してやるよ」
「ありがとうございます」
―虹ヶ咲学園学生寮―
虹ヶ咲学園の学生寮にあるエマの部屋。休日を優雅に過ごしていた彼女の部屋にチャイムが鳴り響く。
「はーい」
「こんにちは、エマさん」
扉を開けるとそこには瑠和がいた。さっきまで一緒にいた璃奈は急用ができたとのことで瑠和だけだった。
「瑠和君、どうしたの?急に」
「いや、どうということもないんですが………昼食、まだですか?」
「え?う、うん。まだだけど」
「ちょうどよかった。これから一緒にいかがですか?おごりますよ」
「別にいいよ~むしろ同好会のことを考えたら私が…」
「いいから、行きましょう。俺がおごりたいんです」
少し強引に瑠和はエマの手を引っ張り、外へ連れ出した。エマの性格を考えると彼女が作るだのなんだの言い始めそうだったからだ。瑠和からすればそれではどっちがお礼をする立場なのかわからなくなってしまう。瑠和自身、同好会を復活させたことは自身が勝手にやったことだからだ。
そして、エマの手を引いていく姿をたまたま果林が見かけてしまった。
「……あれは…エマ?それに…………瑠和」
―ヴィーナスフォート―
瑠和とエマはヴィーナスフォート内のカフェで昼食を取ることにした。
「どうしたの?一緒に食べようなんて」
「理由がなくちゃだめですか?」
「ううん、一緒に食べるご飯おいしいもんね!ん~buono♪」
そう言ってエマはおいしそうにサンドイッチを頬張る。デザートにはホットケーキもついているランチプレートをエマも気に入ってくれたようで瑠和は安心した。
「理由っていうほどのものじゃないですけど。俺がスクールアイドルを知ったきっかけはエマさんですから。同好会も復活して、璃奈が頑張れる環境もできて、俺も璃奈のそばにいられる。みんなの大好きも見られる………俺にとっては最高の結果です」
「大好きを?」
言ってる意味が分からないわけではなかったが妙に含みのある言い方をしたのでエマは思わず聞き返した。瑠和はそういえば話してなかったと思い、事情を説明する。
「人の顔を見ると、色が見えるんです。共感覚っていうらしいんですけど。エマさん、あなたがスクールアイドルをやりたいって大好きを叫んで笑ってるときに見えてる色が、俺は好きなんです」
「そうなんだ~。私にはよくわからないけど、瑠和君の心をポカポカにできてるならよかった」
「ええ。だからこそあなたにこれを受け取ってほしい」
そう言って瑠和は小さな包みを渡した。
「そんな、いいのに~」
「受け取ってください」
エマは包みを遠慮気味に受け取り、包みを開けると中には白い花の髪飾りが入っていた。
「この花………」
「着けてみてください」
「う、うん………」
言われた通りエマは髪飾りを着ける。
「ど、どうかな」
「思った通りだ。似合ってますよエマさん。素敵です。そうだ、少ないですけどその髪飾りと同じ花も買ったんです部屋に飾ってもらえると嬉しいです」
エマは黙ったまま花を受け取り、それをしばらく見つめる。
「…………あ、あの!ごめんなさい!わた、私用事思い出して!!!今日はここで!!ごちそうさま!」
突如、エマは席を立って瑠和が引き留める間も与えずそのまま去って行ってしまった。
「エマさん!?」
瑠和もすぐに後を追いかけようとしたが支払いがあったため、すぐには店を出れず会計を終えたころにはエマを見失ってしまっていた。
一方、エマはヴィーナスフォートを飛び出し、近場の広場まで駆けてベンチの近くで深呼吸をする。
心臓の鼓動が高鳴っているのは走ったせいだけでないのは誰でもない、エマ自身が分かっている。
「これって………ひょっとして?でも………本人に聞けないし…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
休日明けのこの日、果林は虹の大橋を走っていた。理由は簡単で、単に遅刻しそうだったからだ。
「エマってばどうして起こしてくれなかったのかしら……」
まだ出会ってから数か月程度の関係だがなんだかんだ馬が合ってエマと果林はずいぶんと、少なくとも朝起こしてもらえるくらいには深い仲になっていた。しかし、今朝はエマが部屋に来てくれなかった。すっかりエマに頼りきりになっていた果林は思いっきり寝過ごしたのだ。
(……やっぱり…この間のことが何か関係してるのかしら)
走っている間に、先日のことを思い出す。果林はあの後こっそり二人を尾行し、同じカフェで柱一本を境に二人の会話に聞き耳を立てていた。
(エマはどうしてあの時急に出て行っちゃったのかしら………というか………瑠和は何を渡したのかしら…)
そんなことを考えながらようやく正門にたどり着いたところでエマの後姿が見えた。果林は少し笑って後ろから肩を叩いて挨拶をした。
「エマ!おは…」
果林の声は一瞬止まる。覗き込んだエマの表情が完全に別人に見えたからだ。瞳には光がなく、普段三つ編みに結んである綺麗な赤色の髪は半分しか結ばれておらず、目の下には小さなクマができている。
「あ、果林ちゃん。おはよう」
エマは果林を視認するといつもの明るい笑顔で挨拶を返した。しかし果林は固まったままだ。
「どうしたの?」
「いいえ………………髪……乱れてるわよ?」
何とかいつも通りの対応を考え、二人で話せる環境を作る。
「直してあげるからそこ、座って?」
「え?うん、ありがとう」
近くのベンチにエマを座らせ、くしでエマの髪を梳いてやる。その時、果林はエマの髪の毛が普段より状態が悪いことに気づいた。
「髪の毛、少し痛んでるわよ。どうかした?」
「少し………眠れなくて……ずっと考え事してて…」
「いったいどうしたの?普段はそんなに考え込むタイプじゃないでしょ?」
「……ごめんね……まだ……話せなくて」
「…」
エマは問題や悩みにぶつかった時、案外それを体当たりで突き破っていく性格だ。そんなエマが体調や見た目に影響するくらい悩むなんて本当に珍しかったのだ。
果林は少し考えながらエマの髪を結びなおした。
「はい、できたわよ。なにに悩んでるのか知らないけど、みんなの心をポカポカにするんでしょ?だったらそんな暗い顔しないの。わかった?」
「…うん」
―昼休み―
昼休みになると果林は情報処理学科を訪ねる。ここに来るまで少し迷子になりつつも苦労をしてまで会いに来た目的の人物はすぐに現れた。
「璃奈ちゃん。一緒にお昼でもどう?」
「果林さん?」
果林は璃奈を誘って中庭に来た。二人はお弁当を広げ、ともに昼食を食べ始める。璃奈のお弁当を覗くとそれは可愛らしい猫のデコ弁であった。
「それ、瑠和の手作り弁当?」
「うん。いつも作ってくれる。かわいい」
「この間料理たべたときも思ったけど、あの子ライフデザイン学科の方が向いてるんじゃないかしら」
「私もそう思う」
瑠和の話題で軽く盛り上がった後、果林は本題に入っていく。
「その瑠和なんだけど………誰かにプレゼントか何か買ってたりしてなかった?」
「…一昨日、お花買ってた。わたしだったら何プレゼントされたらうれしいかみたいなことも聞かれたけど……エマさんにって」
「花………ね。ちなみに種類とかわかる?」
「確か、白い花。エーデルワイスっていう名前の」
朝香果林17歳は瞬時に悟る。(面倒くさい奴だこれ)と。
エーデルワイスはスイスではプロポーズなどに使われる花であることを果林はエマから聞いていた。瑠和がそれを知っていたかはわからないが少なくともエマは完全に勘違いをしただろうことは確実であろうと果林は考えた。
日本に来て初めて出会った虹ヶ咲学園生徒が瑠和であり、寮への道案内をはじめ、夢を応援したりともに食事をしたりとエマと瑠和の距離が近くなるのは自然だった。
そんな中でそんなものプレゼントされれば当然深く考えてしまう。
「わかったわ。ありがとう」
果林は頭に手を当てながらも璃奈にお礼を言った。
「どうかしたの?」
「…………一応、璃奈ちゃんは知っておいた方がいいでしょうね」
小さくため息をつきながらも一応果林は一連のことについて説明した。説明を聞いた璃奈は少し考える。
「…………整理すると、お兄ちゃんがエマさんに好意を持ってるかわからないけど、エマさんにプレゼントしたものが告白と判断するには十分だったってこと?」
「まぁそうなるわね。それで事実確認しなきゃいけないのは2つ、まず瑠和がエマに好意を持っているのかどうか、そして花の意味を知っててやったのか。前者を確認すれば後者は自ずとわかるでしょうけど、問題はどっちかっていうとエマの方」
「場合によってはすごく傷ついちゃう」
「そう。ともかく瑠和に確認しないと。それで、それとなく落としどころ見つけられればいいんだけど…」
「私も、協力する」
いくら善意とはいえ、場合によっては今後の同好会の活動に支障をきたしそうな兄の行動に少し責任を感じたのか璃奈も協力を申し出た。
「ええ、ありがとう」
ちょうど二人は昼食を食べ終わり、お互い教室に戻ろうとしたときだった。偶然ちらりと視線を移した先に瑠和とエマが同じベンチに座っているのが見えた。
そしてベンチに座っている二人は何やら真剣な眼差しで見つめあっている。璃奈と果林は急いで二人の座るベンチの近くの物陰に隠れた。
―瑠和・エマ side―
果林が璃奈を呼びに行っているとき、エマも瑠和の教室を訪ね、一緒に昼食を取っていた。
「エマさんが誘ってくるの、珍しいですね」
「う、うん。その、この間は急に帰っちゃったから…」
「別に気にしないでください。渡したいものは渡せましたし」
気にする必要はないと気さくに笑う瑠和に、エマは少し赤面して顔を逸らす。エマはこんな調子じゃいけないと小さく拳を握り、真剣な眼差しで瑠和を見た。
「その…それでね、この間の続きなんだけど…………その、あの……瑠和君は…私の…」
「瑠和!ちょうどいいところに!!」
大切な話が進もうとしたとき、いきなり果林が現れた。
「朝香さん、どうかしたんですか?」
「ごめんなさい、ちょっと用事が。エマ、瑠和借りていくわね」
「え?ちょっ!」
そのまま果林は瑠和を引っ張っていこうとする。エマがそれを引き留めようとしたとき、エマの手を璃奈が掴んだ。
「エマさん、ちょっと来て」
「え?」
「お願い」
「え~………でも、今は…」
そうこうしてるうちに瑠和は連れていかれ、エマは仕方なく璃奈に付き合う。璃奈は先日お散歩委員に任命されたはんぺんが餌の時間なので探すのを手伝ってほしいという適当な理由でエマを連れ出し、その間に果林は瑠和に話を聞くという作戦を二人は一瞬で練り、実行に移した。
「なんなんですか朝香さん、俺まだ昼飯が…」
少し離れたところにやってきた果林はあまり事態を把握できてなさそうな表情をしている瑠和に小さくため息をつく。
「どうしたんですかじゃないわよ。まったく…回りくどいの苦手だから、単刀直入に聞くわ。一昨日、エマに何か花をプレゼントしたみたいだけど、どういうつもりなの?」
「どういうつもりも何も、エマさんのおかげでスクールアイドルを知れたんです。そのお礼ですよ」
「…」
特に嘘をついている様には見えない。ただ人がいいだけに見えた。
「私はあなたみたいに嘘を見破ったりは出来ないから聞くけど………本当にそれだけ?」
「そりゃまぁ、少し重いかなとは思いましたけど」
「…………あなたが渡したエーデルワイスって花。あれスイスではプロポーズのときに使われる花なのよ。日本でいうバラみたいなものね。でも、エマがあなたの行動を本当の告白なんじゃないかって思ってるのよ」
「え?」
瑠和は困惑した表情を浮かべる。その表情で瑠和がエマに対する特別な気持ちはないものだと果林は断定した。
「あなたなんだかんだエマと関わりが深いじゃない?それもあってエマも本気なんじゃないかと思ってるのよ。もし、エマに対して特別な思いがないなら、深く傷つけないうちに」
果林は面倒ごとになるのも嫌なのでかなり直接的に言った。だが胸の中でどこかに、こうすればいつも通りの日常が戻ってくる、そんな思いもあった。
しかし、瑠和の返答は果林が望むものにはならなかった。
「そうですね…でも、俺もエマさんのこと全然好きですし、そうなってもいいかな………なんて」
ズキン
「え?」
予想外の瑠和の返答と、胸の奥深くで小さく感じた痛みに対する二つの困惑が混ざった声が果林の口から出た。
「瑠和……あなた…」
「俺に大好きの色を教えてくれたのはエマさんですから。ずっと素敵だと思ってました。きっと、それって好きってことなんだと思います。それに俺は、エマさんの大好きの色が好きなんです。」
「…………」
「教えてくれてありがとうございます。じゃあ」
何か決意を固めた表情で瑠和はエマのところへ戻ろうとした。
行ってしまう。今ここで行かせてしまったら、すべてを失ってしまう。そんな予感めいたものが果林の中にはあった。
「ま…………待って!!!」
続く