Another days -case of Karin- 作:瑠和
「朝香さん?」
呼び止めた手はまっすぐと瑠和に差し出されていた。なぜ手が伸び、胸の内の想いを言葉にしてしまったのか、それは果林にもわからない。
「…………あなた、本当に今からエマに告白…って言っていいのかわからないけど……するつもり?」
「………。まぁ、勘違いをさせてしまった責任がありますから」
「なら、このままいかせるわけにはいかないわね。そんな生半可な気持ちでエマの彼氏になろうなんて。私が許さないわ。あの子の隣にいたいならそれにふさわしい男になりなさい?」
「……え?」
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一方こちらは適当な理由で瑠和と引き離したエマの様子を見ている璃奈。はんぺんがどこに行ったか分からなくなったので探してほしいと頼み、発見してからは餌やりの時間となっていた。
「おいしそうに食べるねぇ」
「うん。食べる天才」
穏やかに言っているエマの表情はどこか浮かないものだった。話を中断され、えらくもやもやしてるからだ。そんなエマを見かねて璃奈は思い切って聞いてみる。
「………お兄ちゃんと、何話していたの?」
「え?ううん!大した話じゃないの!大丈夫だよ」
「でも………エマさん、悲しそうな顔してる」
「え……」
瑠和の妹だからか、完全に隠していたつもりでも璃奈はエマの表情を見破っていた。
「ごめんなさい。私が無理やり連れてきちゃったから」
「大丈夫だよ。璃奈ちゃんはいい子だねぇ…………実はね。瑠和君に、告白されたかもしれないの…」
「………」
「さっきは本当に告白だったのかを確認しようとして……だから、大丈夫」
「………お兄ちゃんが、告白してたらどうするつもりだったの?」
「それは…」
「エマさんは、お兄ちゃんのこと、好きなの?」
「…………」
エマは小さく頷いた。
「日本に来た時、スクールアイドルを始めるんだっていうワクワクもあったけど、やっぱり異国の地で不安もあったの。そんなとき、はじめて声をかけてくれたのが瑠和君だった。故郷では私の夢を笑う人もいた。だけど、瑠和君に私の夢を話したとき、笑顔で…きっとできるよって言ってくれたことがとってもうれしかったんだ」
スクールアイドルは有名な部活だが、やはりアイドルという偶像であるせいか一部では否定的な意見があるのもまた事実だ。異国の地で活動することと一部の否定的な意見もあってかエマは僅かながら不安も抱えていた。しかし、瑠和がそれを払拭してくれたのだ。
それがきっかけとなり、妹思いな一面や同好会再興など今日までの瑠和の行動がエマを惚れさせるに至ったのだ。
エマの想いを聞き、その気持ちを無下にするわけにもいかないと感じた璃奈は少し考える。
「………実はお兄ちゃん……少し前に彼女と別れたばっかり。だから、ちょっと気持ちを焦らせちゃったところがあるのかもしれないって私は思う」
瑠和が中学時代付き合っていた女性がいることは事実だ。そして別れたばかりで心が安定していなかったからそういう行動をとったのではないかと璃奈は伝えた。
ちなみに瑠和が中学時代の彼女と別れたのは卒業と同時だったので無論焦ったわけでも考えが足らなかったわけではないが、ともかく時間を稼ぐには何でもいいから理由を付けたかったのだ。
「そうなの?」
「だから、返事をするのは少し待った方がいいかも……私からも、お兄ちゃんに話してみるから、少し待ってほしい」
「そっか………そうだね。じゃあ少し待ってみるよ」
とりあえずすぐに二人が恋仲になったりどちらかが傷つく展開は避けられた。瑠和の方では面倒な事態になっているとも知らず。
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「じゃあ、告白するにはまだまだだからとりあえず指導するって言ったの?」
両手で顔を覆った果林が小さく頷く。
とりあえずエマの気持ちもわかってなかったので、告白させることは防いだ。しかし、軽い気持ちでエマに告白してほしくなかったのは事実だが、それ以上に付き合った経験すらない自分がそんなことを言ってしまったことに後悔していた。
いつまでも後悔していてもしょうがないと果林は気持ちを切り替える。
「ともかく、エマは瑠和が好きだったのね?」
「うん。だからもう付き合ってもいいとは思うけど」
「ダメよ。私があんなこと言っちゃったし。何よりあんな軽々しくエマの彼氏になろうなんて神が許しても私が許さないわ。まだ短い付き合いだけどエマと私は親友だもの。軽い気持ちで付き合って傷ついてほしくない。もっと真剣になってもらわないと」
「………わかった。私も協力する」
「助かるわ。璃奈ちゃん」
―放課後―
「やっほー!るなりん!」
放課後、エマとはそのまま会わずに昼休みを終えた瑠和は同好会部室に向かおうとしていた。そこに聞き覚えのある元気な声が背後から聞こえてきた。
「宮下。どうした?」
「今から部活?」
「ああ。そうだが?」
「じゃあ、愛さんも一緒に連れて行ってよ!!」
「なんでだ?」
「愛さんもやってみたいんだ!!スクールアイドル!!」
「……」
大好きを叫ぶ愛のキラキラと輝く瞳は、太陽のようでとてもまぶしかった。瑠和はにっこり笑って愛の願いを承諾した。愛を連れて同好会部室に向かい、部室のドアを開ける。
「遅かったわね」
「え?」
ドアの先には見知った先輩がいた。果林だ。
「朝香さん、なんでここに…」
「私がお願いした」
そこに璃奈が出てきた。モデルの仕事をしている果林であれば少なからず教えられることもあると考え、エマにも頼ませて手伝いに来てもらったという体だが果林の言った瑠和の男としてのレベルアップ作戦の計画実施は次の休みということになり、それまではエマと瑠和を不用意に一緒にさせないことが決まっていた。
その監視目的で果林は急遽スクールアイドル同好会の手伝いを行うこととなったのだ。
「果林ちゃんに手伝ってもらえてうれしいよ~」
「エマと璃奈ちゃんの頼みだもの」
「そうだったか………実はもう一人追加メンバーができたんだが…」
「やっほー!初めまして!情報処理学科二年!宮下愛だよ!!」
愛の急な入部希望に驚くメンバーも多かったが愛は快く受け入れられた。愛はさっそくグループ別に分かれて行われる練習に参加していった。
皆が練習している間、瑠和はサポーターとして部屋の掃除や書類作成などの雑務を始める。
「はぁ………男として…か」
瑠和は果林に言われた男として未熟と言われたことに割とショックを受けていた。何より誤解させてしまったのだから責任を取ろうという考えが甘いこと自体瑠和も少しは感じていた。
(………同好会にいる人はみんな好きだ。今日来た宮下だって誰もかれも大好きを叫んでいるからだ………エマさんから始まった俺の大好き……だけど…本当にエマさんのこと……好きなのか?)
「瑠和君、いる?」
そこに侑が来た。
「どうした?」
「ちょっと機材運ぶの手伝ってほしくて。お願いしてもいいかな?」
「ああ、問題ない」
瑠和は侑の頼みを承諾し、これから二年生組が歌の練習をするために必要な機材を二年生組と一緒に運ぶ。どうやらあまり使われないせいで交換が必要だったらしい。そしてその道中、瑠和と二年生組は軽く談笑をしていた。
「助かったよ。ありがとう瑠和君」
「ああ、まぁマネージャーだしな」
「それにしても瑠和君は以前に比べて明るくなったよね」
「え?ん~………そうかな?」
「そうなんですか?」
歩夢が言った言葉は瑠和にとっていまいち実感を持てない言葉だった。以前の瑠和を知らないせつ菜もそれには興味を持った
「そうだよ。瑠和君って一年生の時かなり暗い人だな~って思ったもん」
「そうだね~。こっちから話しかけても全然反応しなかったし去年一年間笑ってるところなんて見たことなかったもん」
「意外です。瑠和さんは昔から明るい方かと思っていました」
「じゃあ、るなりんがそんなに明るくなったのって何か理由があるの?」
「理由…………」
瑠和はこれまでのことを思い出す。瑠和が大きく変わった要因がなんだったのか。スクールアイドルに関わるようになったのはエマが要因ではある。しかし、明るくなったというのは璃奈との関係が修復されてからである。そのきっかけを作ったのは
(おせっかい終わり。服着て家に帰りなさい?傘は貸してあげるから)
「あ………」
大切な存在を忘れていた。スクールアイドルの輝きばかり追っていて、その出会いとかかわりのきっかけをくれた人を。
「…どうかした?」
「いや、ありがとな上原」
「?」
歩夢は急に礼を言われたことに疑問を持っていたが瑠和はどこか気が晴れたような表情をしていた。そんな二年生組を、たまたま休憩に出ていた果林が遠くから見ていた。
「………」
―週末―
同好会に愛が加わり、同好会のメンバーが8人になった週の終わり、瑠和は果林に呼び出され男としてのグレードを上げることとなった。朝早くにうみかぜ公園に呼ばれ、集合した。そして集まるや否や果林は瑠和を見て微妙な顔をした。
「さて、いきなりで申し訳ないけど服装がなってないわね。エマとデートする気で来なさいって言ったわよね?」
「あんま服とか興味ないんで…」
「それでエマと釣り合う男を名乗るつもり?まずは服を整えに行くわよ」
「へーい」
瑠和は果林に連れられ、ヴィーナスフォートの2階にやってきた瑠和に似合うコーデを探した。
「ん~、なかなかいい服がないわねぇ」
「すいませんね、なんか」
「良いのよ。誰かの服を決めるためにショッピングするっていうのも悪くないわ。親友のためだもの」
そう話す果林の表情からは普段とは少し違う色が見えているのを瑠和は感じていた。同好会や、そこまで親しくない人と話しているときの果林の色は瑠和のいう少し苦手な感じが出ている。しかし、エマと話す時や瑠和たちと一緒にいる時の果林の色は瑠和の好きな色だった。
「……」
「…?なぁに人の顔をじろじろと」
「いえ………そういえば腹減りません?よかったらおごりますよ?」
「あら?自分はできるいい男アピールかしら?でも、いい判断だと思うわ」
「ありがとうございます」
瑠和と果林はヴィーナスフォート内のカフェに入り、昼食を食べることとなった。果林も最近は同好会の活動を手伝っている都合上、良く動いているのであまり食事制限を気にせず食べられた。
食後のコーヒーを飲みながら二人は少し話す。
「それにしても、なんだかんだずっと朝香さんのお世話になってしまってますよね……本当にありがとうございます」
「どうしたの急に?」
「本当に感謝したいだけです。璃奈のことから何から何まで。俺はエマさんに出会ってスクールアイドルに興味を持って今を幸せに過ごしてます。それだって、アナタとの出会いがなければ俺はエマさんに会わなかった………あなたと巡り会えたことにも、アナタにも感謝したいんです」
果林はその言葉を聞いて少し面食らった表情をしてからクスリと笑いしばらくして顔を伏せ、肩を震わして笑い出した。
「な、なんで笑うんですか!?」
「ウフフ………ごめんなさい…あなた、ロマンチストって言われたことない?」
果林は笑いすぎて溢れてきた涙を拭いながら瑠和に言った。
「な………悪かったですねぇ!!………言わなきゃよかった」
瑠和は顔を赤くして叫んだ。そんなこんなで二人は昼食を済ませてから新しい服屋に行き、コーデを考える。果林はカフェからここまでの道のりが楽しかったのか、自然と当初の目的を忘れてショッピングを楽しんでしまう。また、その店ではいい服が見つかり果林は瑠和に合わせてみるように言った。数分して瑠和は試着室から出てくる。
「あら、似合うじゃない!」
「ありがとうございます…これでエマさんに喜んででもらえますかね?」
「え…」
果林はハッとする。自分は何をして言うんだろうと改めて考えた。瑠和に着せたのは「果林が好きなコーデ」だった。エマのことを忘れていたわけではないが当初の目的はすっかり忘れていたことを思い出させられる。
なにより、自分の欲望が多少なりとも出ていたこと、それに果林は驚き、そして少し落ち込んだ。
「……朝香さん?」
「いえ、やっぱり何か違うわね。違う服にしましょう」
瑠和は急に果林の顔色が変わったことに気づいた。
「どうしたんですか…?朝香さん」
「何でもないわ。とにかく、それはナシ」
「俺、なにかやりましたか?」
「何でもないわ」
「気に障ったんなら…」
「何でもないったら!!」
瑠和が掴みかかった手を果林ははたいた。瑠和の驚いた顔を見て果林は一瞬申し訳なさそうな顔をしつつそっぽを向いた。
「いいから、行くわよ」
「…はい」
瑠和は少し落ち込み見つつ果林の後をついていった。
それからエマが好きそうなコーデも見つかり、デートでの行動のコツや日ごろの行動も教わってその日は解散となった。二人は最後に学校の前に来た。
「これで、エマとのことはばっちりね。間違ってもすぐに破綻なんてしない様に。わかった?」
「はい……。色々とありがとうございました」
「エマのためよ…………あとはきっと告白すれば…じゃあ、お幸せに」
果林はどこか後ろ髪惹かれるような思いでその場を去っていった。
「……朝香さん…」
続く