覚えてないのはあなただけ   作:ピーナッツバター焼き

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潮の梅雨グラ来ましたね。クソ可愛くてやばしって感じ


第2話 寒帯系少女

「「……………」」

 

 

 ―――沈黙

 

目の前の彼女……七草曙に事故で倒れ混んでからおおよそ数分、体感数時間。持久走あとの体くらい重い空気を味わうことになってしまった。

 

このまま地獄のような状況が続くのかと思われたそのとき、彼女が口を開いた。

 

「あーあ……まさか見学に来たとこの先輩がセクハラ野郎だなんて…ついてないな」

「……ごめん、七草」

 

投げやりな印象を持たせてくる彼女に、ただただ薄っぺらい印象を与える謝罪しか出てこない。

 

「その、出来ることなら出来る範囲でやるから……出来るだけ努力で……うん」

 

駄目だ。テンパって文脈がボロボロだし、『出来る』がゲシュタルト崩壊を起こす勢いで出てきやがった。

 

「なら……」

 

何を言われるんだろうか。あれかな?鼻からスパゲッティー食えとかか?いやそれならましか……下手したら刑務所行きなんてことも……

 

「これからも…その、タメ口でいい?」

 

「え……?はい?」

 

どういうことだ?そんなことで済むようなことなのか?いやまぁ先輩にそんな口聞くのは確かにハードルは高いが……それにこれからってことは……入る気なのか?この子。

 

「……駄目、なの?」

 

 

「!、、別にいいが……」

 

さっきまでの高圧的なものを覚えさせた態度と変わらないはずなのに、何故かしおらしさというか……寂しさのような、恐れのような。そんな形容しがたいモノ感じて迷いを隅にやって答える。

 

「寧ろ俺が敬語を使わせていただきたいレベルです」

「あ、そういうのいいから」

 

……これは俺が全面的に悪いな。こういう不用意なふざけは入れすぎんなって幼なじみのフレンチクルーラー頭に2つくっつけてるやつにもよく言われんてのに。

 

それにしたって……冷たいな。ツンドラ気候もびっくりだ。

 

「んじゃ……とりあえず、この同好会についての説明な。えっとこの同好会は――」

 

仕切り直して先輩の用意してくれたノートを見ながら、新入生に分かりやすいように説明を……しようとした。したかったのだが……

 

「どうしたの?」

 

「あー……えーと」

 

『活動内容を伝えといてね。先輩より。』じゃねえよ!中身が無さすぎるだろ中身が!折角ノートにマイネームでタイトルまで書いてるのに1枚目のたった1行でこんな……

 

と、とにかく話を繋げねえと……

 

「この同好会ではあ……その、釣り!釣りをするんだ」

 

「でしょうね。釣り同好会なんだから」

 

何の準備をせずに挑むそれに、委員会のときにクラスの前に出て話すことを何も覚えてないときのような。そんな心臓が爆速で動き、冷や汗が溢れそうな感覚に陥る。

 

端的に言うと、ヤバい。

 

「はぁ………活動曜日とかは?」

 

あたふたしているのを見かねたのだろう七草が出した助け船に沈みかけの俺は必死にしがみつく。

 

これでは最早どちらが先輩か分からない。

 

「えっと、主に水曜と金曜だ。そんで……そう、活動自体は雑談とか釣りの話とか…かなり緩い感じだ。放課後には釣りに行けねえから土曜か日曜に行ってる……くらいかな?どう思う七草」

 

「私に聞かないでよ」

 

マジの呆れ顔に晒されたとことで、もう先輩としての威厳を手に入らないことを人知れず絶望してんのは内緒だ。

 

というかこの顔……なんか既視感あるんだよな……気のせい、か?

 


 

あのあと特にやることもなく、先輩もいねえし初回ということもあり同好会を切り上げて帰ることになったのだが、方向が同じだったこともあり一緒に帰路についている。

 

因みに俺は自転車だが、彼女は歩きなので速度を合わせるために降りている。

 

「そういえば、先輩以外に人はいるわよね?」

 

「あぁ…いるよ、1人。女子の3年の先輩が」

 

「っ………ふーん。どんな人なの?」

 

今一瞬だけ七草の顔と言葉が止まった。それなりに順調な会話をしてちょっとテンション上がってたんだが。なんなおかしなこと言ったかな?まあ、だけど俺の思い違いの可能性もあるし。話を進めよう。

 

「銀髪でちっこくて、落ち着いてて……時々適当さを感じさせるたまに変な言語が出る人」

 

「変な言語?」

 

「そ。絶対日本語じゃないなにか」

 

「………へぇ」

 

七草は何か引っかかることがありそうな、よく分からないあやふやな返しをしてくる。

 

そうこうしているうちに例の……あの妙な女子に絡まれた交差点までやって来た。

 

「それじゃ、私こっちだか……なにそのしっぶい顔」

 

「……この前ここで不審者の女にご主人様って声をかけられたからさ。つい」

 

「はぁ……それって単なる願望でしょ?妄想と現実の区別くらいつけてよ」

 

「マジなんだけどなぁ……」

 

不可能の証明にたまらず頭を抱える。こればっかりはどうしようもないのが残念で仕方ない。まあ不幸を他人に振り撒く気なんかないんだが。

 

夕日の影響でオレンジに染まった風景を背に、俺とは別の道を行く七草に別れの言葉を言わなくてはと思い息を吸う。

 

「またな。曙」

「っ!!!」

「???どうしたんだよ」

「今、曙って……」

「え?……あ」

 

しくじった……口から息を吐くように下の名前で呼んじまった……

 

七草はそのことに本当に驚いたのか目を見開き、ものすごいスピードにこちらを振り向く。正直そこまで反応されると怖いんだけども。

 

「すまん、その」

 

何を言われるか恐れながら彼女を見つめる。この反応速度だ。溶岩にでも突っ込めとでも命令されるのだろうか。

 

「別にいい…」

 

「……いいと言うと?」

 

「下の名前でいい。私1年上に姉がいて、もしかしたらややこしくなるかもだし」

 

「なる……ほど?」

 

まあ……そうなのかな?本人が言うならそういうことで良いのだろうが。

 

というか姉って……確か隣のやつが七草だった…はずだし、そいつなのかな?多分とほぼ確実の域を出ねえが。

 

「とにかく、また月曜な。曙」

 

「………えぇ、そうね」

 

名前を呼ばれたくらいにそっぽを向き歩き出す曙。顔が一切見えず声色のみなので、彼女の思いは何も読めないのが不思議で、不安だ。

 

オレンジに染まる彼女を再度見つめながら、俺は唐突にあることを思い出し、急いで口を大きく開ける。

 

「今週の土日は活動ないからな!!」

 

「タイミングおかしいでしょ!!!」

 

怒鳴りながら振り向く曙の顔は、どこか口角が上がっている風に見えた。

 

それは俺の都合の良い妄想なのか、それとも―――




次はフレンチクルーラー系幼なじみです
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