覚えてないのはあなただけ 作:ピーナッツバター焼き
今回は満潮のお話
ではどうぞ!
色々七転八倒な平日を乗り越えた土曜日の昼。暇を弄ぶのはごめんな俺は、部活が休みの同じく暇そうな幼なじみを弄……間違えた。幼なじみと遊ぶためにやって来ていた。
片手に包装を持ち、もう片方の手でサングラスをいじりながらインターホンに反応が返ってくるのを待っていると、10秒もしないうちに扉が開かれた。
「なんだよ、その眉下げた顔は」
「……相変わらず唐突なやつね、と。当日いきなり『家行っていい?』でオッケーが出るなんて私くらいよ」
開口一番に呆れの言葉を口にしている彼女の名前は八坂満潮。フレンチクルーラーみたいなお団子にツインテールが特徴的な奴だ。
こいつとは物心つくころには既に一緒にいたご近所さん。現状俺の1番気のおけない相手で間違いないだろう。満潮がどうかは知らないけど。
「まあ悪いとは思ってる。だからほら、お土産買ってきたぞ。ちな中身は開けるまで内緒な」
「おもいっきり袋にミスタ○ドーナツって書いてんだけど。嫌でも察しが……って何笑ってんのよ」
不満そうな顔をする満潮をとりあえず誤魔化すために適当に愛想笑いをしているとさらに顔が険しくなった。
その後は玄関先でいつまでも話すわけにもいかないので、俺から袋を受け取った満潮は先に自分の部屋がある2階へ。俺は手を洗うためにリビングへと繋がる扉を横切り、洗面所に入り蛇口を捻る。
―――冷てえ
冬は過ぎ去ったといってもまだ4月。外は充分に寒く、この水を気持ちいいと思えるのはもう少し先だ。……正直、夏は嫌いだからそうなっても素直に喜べないけどな。
「……」
白のTシャツと黒いパーカー、そして何故かかけるとしっくりくる普段は校則でかけていないサングラス。そんな自分の姿を鏡越しに見つめる。
……正直何故自分でもサングラスをかけてるのか分からない。別になくてもいいのだが……なんとなくかけてしまう。謎のアイテムだ。
「なに浸ってんの」
「え?」
突然声をかけられ振り向けば、お盆に空のコップと1リットルのジュースを載せたいつものようにツンとした表情の満潮がいた。
「いや別にそんな……あ、強いて言うなら手が水に浸ってるかな。ははは」
「………」
「無言で2階に上がるな!!」
満潮の部屋に入った俺は大きいとは言えない古めのテレビにSwitchを繋ぎ終わらせ、流れるように袋を開いてフレンチクルーラーを2つ持ち宣言する。
「ショートコントします」
「絶対につまんないから辞めて」
満潮はジュースを注いぎながらもしっかりとツッコミを入れてくる。最早プロの域である。なんのプロか意味不明だけだど。
そんな彼女の批判は無視してフレンチクルーラーを両手に1個ずつ持ってそれぞれを頭の左、右に配置する。
「簡単満潮」
「短いわね」
「そりゃショートコントだからな」
「あんたの遺言」
「お金あげるから許してください」
「解決方法が生々しいのよ」
フレンチクルーラーを戻した俺は綺麗な土下座を晒すも、残念なことに冷えた言葉が返ってくる。
「もしかしてあんた……クラスでもそんな感じなの?」
「いや、こんなやべえ勢いはお前にしかしてねえ。永年の技ってやつだ」
「とっとと廃れなさいそんなの!」
土下座を止めて普通に座り直して、満潮の抗議の声をまあまあと適当になだめたら、適当に次の話題を転換させることにする。
「そういや俺たち今年もクラスが違ったな。俺としては全然アリだけど」
「……はぁ??なにそれ。意味分かんない」
「いやだってさ、教科書とか忘れたらお前に借りられるだろ?」
「あぁ……そうね。っていうか忘れ物しない努力をねえ――」
……なんかさっきマジギレしかけてなかったか?正直冷や汗かくなんて昨日後輩に倒れ混んだ以来だ……最近だな、うん。とりあえず元に戻ったみたいでよかったが代わりに説教が始まった……茶化して誤魔化すか!
「まっ、フレンチクルーラーでも食べて落ち着けって」
「話を逸らさないでよ!それに、私甘いものはあんまり……」
「とか言いながら毎回おいしそうに食べてんじゃん」
「……うっさい」
そんな悪態をついてるものの、なんだかんだ満足そうに食べている満潮が面白くて笑いが溢れる。
この顔を見られたらさらに怒られそうだし、ジュース飲むふりしてやり過ごすか。というか甘いものあんまりとか言いながらオレンジジュース持ってきたんだな、こいつ……まあ俺は甘いの好きだから文句はないが。
「そういえば、荒潮は今日は家にいないのか?」
「?荒潮は外出中よ。それがどうかしたの?」
「いやあいつもゲームに誘おうと思ったんだけど……それなら無理だな」
残念だ……人数が多い方ゲームは楽しいんだが。
それにしても……改めて思ったが、俺って全然年下に慕われてねえよな。
荒潮はなんだか小さい頃から大人びていて、なんだか俺の方が主導権を握られているし。そんで新しく入ってきた後輩はあんなだし……威厳がねえなあ。
「むしろ良かったじゃない。あの子がいたらあんた弄ばれるだろうし」
「おまいう案件だろ」
「「……」」
――刹那の沈黙。冷え込む空気。いじられまくりだろお前、と思いながら真顔の俺。何が言いたいのかと圧力すら感じさせる無表情の満潮。
その直後、息をつきながら満潮は鼻で笑って沈黙を破る。
「そんな見え見えの挑発に私が乗ると思ってるの?」
「流石にないか」
「ええ。スマブラの準備をしなさい。泣かすわ」
「乗りまくりじゃねえか」
裸眼の方がプレイしやすいのでサングラスを外して、スマブラのカセットを挿入し、満潮にコントローラーを渡す。
とりあえず……軽くぼこすとしますか
「なっ!?また負けたっ!!ストレッチまでしたのに!!」
「それは関係ないでしょ」
「お前が撃墜した俺のプリンちゃんの数でそろそろ富士山が築けそうだよこの野郎」
「塵も積もればってやつね」
「塵は言いすぎだろ!」
「だってあんたのプリン大技全部外すから……その、弱すぎてつい」
平然と言ってのけやがるなこいつ……あまりの扱いに心がぼろぼろだ…まっ俺が下手なのが悪いんだけどさ?でももうちょい手心をなぁ?
「って、もう6時じゃん。そろぼち帰るわ」
「あ…もうそんな時間なのね…」
時計を確認した満潮は平坦な声でぽつりと声をもらす。なんだかその様が……何故かひどく子供っぽく見える…というか夏休み最終日の夕方のような寂しさを感じさせた。
でもそれは時々あることで、気にしても答えは出ない。かつ過去に聞いてもはぐらかされたので、知らないふりをする。それに今でこいつはそれがバレてないと思ってるのだろう。隠し事などないように此方の顔を覗いているのだから。
それは頭をかいてサングラスをかけ直し、部屋を出た直後だった。
「待って」
小さな声だ。だがそれでも立ち止まってしまう。
「どうした?」
「!……その、忘れ物してないでしょうね?私届けるの嫌だからね」
「俺は忘れ物なんかしねえから大丈夫だよ」
「どの口が……今日の会話思い出しなさいよ」
少し調子の戻ったフレンチクルーラーの言葉をスルーしながら廊下へ出る。
「あ、お兄さん。やっぱり今日も来てたのねぇ」
「荒潮……帰ってきてたのか。てか荷物多いな……どこに行ってたんだ?」
「隣町のデパートまで家族と一緒によ。新しい服を買ったから今度お兄さんにも見せてあげるわぁ」
両手を塞いでいる袋を持ち上げながら、楽しげに余裕をとても印象付けられるような笑みを浮かべる。
「ん?というか折角家族とのお出かけなら満潮も行きゃ良かったじゃん。」
「え?いや…私は服とか興味ないし」
「――とは言ってるけど、実は満潮ちゃんは元々土曜日はどこにも行くきがないのよぉ。お兄さんがいつ来てもい…」「だあああああ!!!!」
「うるさ……っ!」
満潮の恐ろしいほど大きい声に思わず、耳を防御する。
当の本人は目がぐるぐるという表現が打ってつけのごとく取り乱して、顔がトマトくらい真っ赤になってしまっていた。
「荒潮はとっとと部屋に入る!!」
「あらあら満潮ちゃん、そんなに押すと痛いのだけどぉ~」
「あんたはあんたで早く帰る!!!」
「おい階段で押すなって!危ないだろ!」
「大丈夫よ!落ちないくらいにしてるから!多分!!」
「最後が不穏すぎる!」
荒潮を部屋に詰め込み、即座に方向転換した満潮は俺を玄関まで押して靴を履かして家の外まで移動させる。
「悠前」
「ん?」
扉を閉める直前に体を半分出した満潮は俺を引き留めて、息をついた。
「………またね」
「溜めてまで言うことじゃないっしょ」
「うっさい」
扉を閉める音を背に俺は大して遠くない家へと帰る。
にしても荒潮の言ってることが遮られたせいで、何であんなに満潮が発狂したのか分からなかったな。
ま、いいか。いつか分かるだろ。知らんけど。