・・・10年前、俺はアフガニスタンに居た。
米軍海兵隊に所属していた俺は、主に前線付近で活動していた。あの忌々しい事故・・・いや、事件が起こるまでは。
あの日、俺は前線から少し離れたキャンプで、数人の同僚とともに夜間の哨戒任務に就いていた。
前線からは約50キロほど離れていたから、安全な任務のハズだった。
俺は年の近い同僚と下らない会話をしながら見回っていると、道に迷ったのだろうか、難民サイトで保護されていると思われる少年が、15メートルほど先に一人で立っていた。
当然警戒し、銃を向けながら同僚が言う。
「こんな時間にこんなところで何をしている!早く自分のキャンプに戻れ!」、と。
少年が懐に手を突っ込んだ、俺たちも咄嗟に銃を構えるが、相手は子供だと思い・・・油断していた。
次の瞬間、見覚えのある、パイナップルのような球体が飛んできた。
「あ、あれはッ!」
「畜生!!!グレネードだ!一体どこでこんなモンをッ!」
「いいから伏せろ!吹っ飛ばされたいのか!」
3メートルほど後方で、耳をつんざく爆発音がした。
何とか伏せて損害は最小限だが、どうやら立てるのは俺だけのようだ。立てるには立てるが、普段のようには動けない。同じ任務に就いていた仲間の中には、重傷者も居る。
「あのクソガキどこに逃げやがった!ぶち殺してやる!」
あたりを見回す。爆発音を聞いたキャンプも照明を一斉に灯す。視界は歪んでいるが、アドレナリンやらなんやらで、いつもより遠くまで見えるような気さえする。
相手は地形を熟知した現地民だが、子供の脚でしかも夜、そう遠くまでは行けないはずだ。
・・・見つけた。50メートルほど先に、走る小さい人影。
「逃げられると思うなよ・・・これでも射撃訓練の成績はトップなんだよ!」
支給されたM4A1で逃げる影の脚を狙う。呼吸を合わせる。気持ちは昂っているのに、心は酷く冷静だった。
一発目の射撃、外れ。二発目、影の脚元に着弾したように見える。驚いたのか、影が動きを止める。
三発目、恐らく次を外したら射程圏外になる。必ず当てる・・・。
そして放たれた三発目の5.56x45㎜NATO弾が影に命中したのか、影は崩れ落ちるように動きを止めた。
訓練を受けていない者ならまだしも、子供が受けて立ち上がれるハズもない。
「ハハハ・・・ざまぁみろだ・・・逃がすと・・・思った・・・の・・・か・・・よ・・・」
急激に視界が霞み、呼吸もままならない。どうやらグレネードの破片でひどく出血しているようだ。
沈みゆく意識の中で、遠くから軍靴の足音が聞こえたような気がした、俺の意識はそこで途絶えた。
続くかはわからん。