ペルフェクティオがジョッシュの父親だと判明するあたり。
なんちゃってシリアスのギャグ。
※pixivに投稿していたのを再投稿してます。
あたしにとっての親父は、どんなにわがまま言っても、受け止めて支えてくれる。バカやっても、寄り添う場所を用意してくれる。どんな困難があっても折れない、自慢の親父。
それが父親というものだと思ってた。
でも、ブルー・スウェアから見た父親と子の愛情は多種多様で、そしてその愛が子に伝わるかどうかも複雑で。
「ねえ、親父。なんであたしのこと『渓』って名前にしたの?」
「珍しく俺のとこに訪ねてきたと思ったらなんだいきなり。名前の由来なんて聞きに来て」
「ん…迷ってる。そんなとこ」
「迷ってる?」
ジョッシュの親父であるラドクリフ博士の身体を乗っ取った『破滅の王』、ペルフェクティオ。ジョッシュは、親父は死んだと言っていた。ペルフェクティオに父親の人格を消されては死んだも同然と言うことらしい。
もし、人格がないことが死んだことになるのなら……あたしはどうなんだろう。
『早乙女 元気』を消して『車 渓』として生きてるあたしは、ペルフェクティオのように主人格を消して意識を乗っ取ったそれとさほど変わりないじゃないか。
あたしは『早乙女 元気』だった。残酷な現実に『元気』は幼少期の記憶を辛いことも幸せなこともすべて消してしまった。ふと湧き起こるおぼろげなフラッシュバックは『元気』としての記憶とは言い難く、『元気』の残滓と言ってしまえばその程度。
ジョッシュの親父は南極にある研究所の暴走事故が原因で、全ての意識を人格を『破滅の王』に消し去られ乗っ取っとらてしまったという。
なら……あたしの中の『元気』も、そんなふうに散り散りになって死んだのかな。
「もうあたしは『元気』じゃないでしょ。それってさ、あたしが『早乙女 元気』を殺してしまったのと同じなのかなって……」
「ジョッシュの親父さんの事が気がかりなのか」
「気がかりというか、きっかけというか……。ラドクリフ博士の意識はペルフェクティオに殺された。だったら……いつあたしが『渓』になったのか気になったの。いつの瞬間にあたしはペルフェクティオのように『元気』を消して『渓』になったのかなって。誰が悪いワケじゃないけど、あたしは……『車 渓』には『早乙女』と因縁はあっても『早乙女』を知らない。それがなんか、心咎めて寂しくて……由来を知ればこんな寂しい気も晴れるかな、ってさ……」
―こんな時にセンチになってたら親父怒るだろうな。怒られた方が笑って誤魔化せるんだけど。
喋り始めてからずっとあたしは俯いていた。きっとあたしの顔は、心の内と同じようにブスっと悄気げてて今にも泣きそうな表情をしてるにちがいない。こんな気持ちで親父の顔見ちゃったら本当に泣いちゃうかも、もう18歳だっていうのにさ。
でも、こんな脈絡のとっ散らかった話を時間割いて聞いてもらっているんだ。ずっと下を向いているワケにもいかない。あたしは親父の顔を見ようと、恐る恐る頭を上げようとした……その時だ。ぽんぽんっと、頭に温かい掌が降りてきた。そしてその温かい掌はゆっくりと優しい手つきであたしの頭をなでてくれた。
静かに緩やかに、その掌の主を見た。そこには「しょうがない子だ」と言いたげな、掌とおんなじ温かな優しい顔をした親父がいた。
―あ、なんか懐かしい。昔、沢山してもらった気がする……。
「ケイ。『元気』はな、死んじゃあいねえよ。お前が望めばいつでも『元気』になれるんだ」
「あたしが『元気』に?」
「だってな、元気は………今だから言えるが、『渓』と名付けた理由は13年前に『元気』がある理由で笑顔になってくれたからだ」
「どういうことさ」
親父は少し言いづらそうにあたしの過去、いや『元気』の過去を語った。
「元気が心を閉ざしてたとき、俺は何がなんでも元気の心を救うことを考えてた。おもちゃ、絵本に漫画、ゲーム、人形……色んなものをかき集めた。それでも何一つ元気の笑顔は戻らねえ」
あの13年前の『早乙女の反乱』で起きた様々な厄災は、沢山の街を崩壊させていった。聞いた話だとブルー・スウェアの前身だったレジスタンス組織リガ・ミリティアも、その対処に苦労したという。協力的だった義勇軍や他のレジスタンスはインベーダーに殲滅され瓦解し、リガ・ミリティアは暫くの間孤立無援となりギリギリの情勢を強いられた。
敵も味方も、軍も民間人も、人間もゼントラーディもすべてがインベーダーの脅威に追われた。そんな混乱した世界で、社会なんてほとんど機能してなかったはず。おもちゃ一つでその労力は大変なものだったに違いない。
「一時期はいい兆候もあったが……その甲斐も虚しく元気はとうとう言葉も話さなくなってしまった。もう、諦めかけていた……そんな時だ。救出した民間人たちがな、美味しそうなケーキをくれたんだよ」
「ケーキを?」
「そうさ、なにもお返し出来ないから差し入れにと。物流なんて潰滅してしまってるから用意するのは大変だったろう。その時のケーキ、元気に渡したんだが……元気はどうしたと思う?」
「食べた、んじゃないの。普通の子供ならそうするでしょ。……多分」
話が横道にそらされた気がしたけど、親父の問いかけに正直に答えた。子供の頃の記憶なんてまったく無いから、想像でしか話せない。
「そう、食べてくれたんだ。しかもそのときに元気は笑顔で「おいしい」って言ってくれてな……!数年ぶりに見る笑顔に思わず俺は嬉しくって周りが引くほど泣いちまって……フフ、俺の事は置いといてだ。それから街を見かけたら民間人が集まればケーキを探し出し、元気はみるみると表情が出てきて明るくなった。………このタイミングなら名前を変えられるんじゃないかとうまーく言い換えをしていってだなぁ~」
………え??ちょっとまってまって!今までシリアスだったよね?この流れは、それって、つまりさ!?
「……もしかしてあたしの中でケーキと元気がゴチャゴチャになって、それを親父がごまかしながらケーキ…ケー…ケイにしたってこと?!ウッッッソでしょ親父!!あたしそこまでアホじゃないよ!!!」
あたしが目一杯抗議してるのに、親父はニヤニヤしながらあたしの背中をバンバン叩いて、いつの年代の父親像だと文句言いたくなるくらいのガハハ笑いをした。
あーもう古いよ!何もかも古い!
「がっはっはっはっは!!どうだろうなぁ?まあ、ケーキがきっかけでお前は喋るようになったし笑顔を見せてくれた。それは本当だぞ?」
「そ、そりゃ甘いの好きだけどさぁ……。なによぅ……もうなんか、根詰めてたあたしバカみたいじゃん………」
「そんな事ねえさ。今でも甘いものが好きならお前が笑顔のときケイの中の元気も笑顔でいてくれている。どうだ。早苗のところに行ってタルトでもいただきにいくか。今日は自分の名前の由来を知った記念に、なんてな!」
何でシリアスな雰囲気に流されちゃったのかなぁ、あたしは……。なんか聞きたいこと有耶無耶になっちゃったし。親父もそんな茶目っ気なんかいらないよ!もう、もう……!
「親父の……親父の馬鹿ァー!」
ケイは渓谷、谷という意味だ。すべてを失ったどん底から這い上がってほしいと名付けた理由を、きっと俺はいつまでも言わない。
気恥ずかしいだろ、初めてケイに父親として接したときの俺の至らなさ情けなさときたら人に話せるようなもんじゃない。
ケイは困難を乗り越え幸せという山頂へ元気に登っている最中だ。なら独り立ちするまでは父親として寄り添う山小屋くらいにはならないとな。
馬鹿の親父をやってでも、ケイの笑顔を守っていきたいんだ。命に変えても守らなくてはいけない、俺の娘と元気の大切な笑顔なんだ。