男子高校生のチートTS姉の日常   作:政田正彦

1 / 3
え?お前TSチート姉ちゃん居たの?

「あの、うるさくて眠れないんだけど……もうちょい静かにしてくれる?」

 

「あ、ごめん、ねーちゃん……」

 

「……姉ちゃん!?」

 

「お前姉ちゃん居たの!?」

 

 

 事の始まりはタダクニの「なあ、彼女ってどうやってできんの?」という何気ない一言から始まった。

 

 何となく暇なので暇をつぶす為にタダクニの家に集まってたむろしていた俺ヒデノリとヨシタケは、暇、いや、心がとても善意で溢れていたので、どうやったらタダクニに彼女が出来るのかシミュレートするという遊び……いや、彼女作りの一助となる為うんぬんかんぬん。

 

 具体的には、「放課後にクラスに居残って作業をしているクラスの真面目な女の子と+aが居たとしてどうする」という場面を想定し、そこからどうにかその女の子をオトせないか……という具合だ。

 

 なかなか白熱し、最終的にはタダクニが+a(邪魔者)が登場しないうちに強引に委員長の手を引き、どこまでも(家の中を)駆け回り……どこかのなんかしら良い感じになれる恐らくはタダクニだけが知っている景色を「これを……君に見せたかったんだ」でグッドエンディングを迎えた。

 

 すげーよ、タダクニ。

 これなら、きっとどんな女の子でもオトせると俺は本心(笑)からそう思った。

 

「……俺ら男子校じゃねえかよ」

 

 なお、現実は非情である。

 知ってた。

 

 

 ……そんな一幕があった後に、不意にこの馬鹿な男子高校生が馬鹿やるだけの部屋の戸を無遠慮に開く者が現れた。

 

 タダクニ(姉)である。

 

 風貌はタダクニ(妹)よりタダクニ寄りで、黒髪のロング、顔は……丁度陰になっていてよく見えないが多分そこそこ美人だがしかめっ面なせいで目つきが悪く見える。寝不足からの騒音で起こされた事による不機嫌から来るのだろう。

 

「……じゃ、もうちょい静かに遊ぶように」

 

「わ、分かったよ……」

 

 突然やってきて、言うだけ言って溜飲が下がったのか、最後にそう言い残すとタダクニ(姉)はすぐに去っていった。

 

「……お前、妹だけじゃ飽き足らず、姉まで居たのか……」

 

「ああ……うん、言ってなかったっけ?」

 

「言ってねえよ!?聞いてねえよ!」

 

 ヨシタケがそう言うとタダクニは少しバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「……なんかすまん。姉ちゃんあんまり家に居ないからさ、紹介するタイミングとか無くて、言うの忘れてたわ……」

 

「家に居ない?……姉ちゃん何してる人?」

 

 このまだお日様が沈んでもねえ時間に「寝れないから静かにしろ」だもんな……こう言っちゃなんだが、むしろずっと家にいると言われても違和感を持たない風貌だったし。

 

「マジシャン」

 

「マジシャン!?」

 

「そう。一応、海外とかでもなんかやってるらしいよ」

 

「なんかやってるらしいよってお前……仮にも姉だろうに」

 

「いやあ、だって教えてくんないし……あとなんか、スケールが違い過ぎて話聞いてもあんま分かんねーっつーか……」

 

 そう言いながら、タダクニは携帯で「なんかあったかな」と言いながら画像ファイルを遡り……「あ、あった」と俺達に携帯の画面に映るタダクニ(姉)の動画を見せ始めた。

 

 そこには、俺達が想定していた倍以上にデカいステージの上に堂々と立ち、こってこての、マジシャンですって感じのスーツに身を包んだタダクニ(姉)の姿があった。

 

「いやすげーなお前の姉ちゃん!?」

 

「まだ動画始まってもねえだろ!」

 

「いやいやいやいや、立ってるステージがデカ過ぎんだよ!どここれ!?まさか金色のボタンとか出てくるとこじゃねーよな!?」

 

「し、知らねーよ……ほら、マジック始めるぞ」

 

 そう言われて画面に視線を戻すと、タダクニ(姉)が、懐からトランプを取り出す。そして手慣れた様子でシャッフルした後、手を上げて観客席をきょろきょろと見回し、一人指名する。

 

 多分「協力してくれる方居ませんか?」という事なのだろうと、観客の一人……太り目の海外のおじさんがステージへと招かれる。

 

 そして、今度はシャッフルしたカードを扇状に開き、招かれた観客のおじさんの前に差し出し、差し出した本人は目を隠してそっぽを向く。

 

「あー、アレか、引いたカードを当てますっていうよくあるやつ」

 

「仕掛けを聞くと結構単純だけど、割と分かんねーよな」

 

 おじさんはしばし迷った後……カードを一枚……引こう、として……。

 何故か、タダクニ(姉)が全くカードを手放そうとしない。

 会場にクスクスと笑い声が上がる。

 多分会場では「おいおいしっかりしてくれよ」とでも言われているのかもしれない。

 

 その声に気付いたのか、タダクニ(姉)が慌ててカードから手を離す。

 

 

 すると、カードがそのまま宙に浮いた。

 

「うん!?」

 

 比喩でもなんでもなく、そのまま浮いたカードは、おじさんが引いてもうんともすんとも言わず、思い切り腰を入れて引こうとしても動かない。

 

 わざとらしく慌てた様子で、そしてあっさりとおじさんが引こうとしていたカードを引いてタダクニ(姉)は現地の言葉で何事か呟くと、ドッと会場が沸いて笑い声と拍手が巻き起こる。

 

「姉ちゃん今なんて言ったの?」

 

「あ~……言葉は分かんねえけど、多分、「貴方が引いたカードはこれですね?」とでも言ったんじゃないの?」

 

「あ~~~そういう……てかこれ、どうなってんだよ? カード浮いてたけど完全に……」

 

「そういうマジックなんだろ?」

 

 いや、だからその仕掛けとか種とか……まあいいか。

 

 

 その後も、終始タダクニ(姉)のマジックは凄かった。

 というか多分、タダクニ(姉)のマジックは何かを浮かばせたり、停止させたりする事を得意としているらしい、ほぼ全てのマジックにそういった要素が使われていた。

 

 例えば、観客に投げさせたボールをシルクハットでキャッチする、という大道芸っぽい事をしようとして……ボールを空中で止めたり。

 

 空中で止まってしまったボールを、自身がそこに階段でもあるかのように……「ちょっと上を失礼」とばかりに申し訳なさそうな顔で駆け上がり、ボールをひょいっと回収したかと思うとシルクハットに乱暴に叩き入れ、困惑気味の顔でポーズを取る。

 

 どうもタダクニ(姉)はこういう、「本来やろうとしているマジックより余程凄いことが出来ているのに、本人はその凄さに気付かず、マジックが失敗したのに何故かウケていると思い込んでいるトボケたマジシャン」というキャラみたいだ。

 

「いや~面白かったわ!すげ~な、お前の姉ちゃん!」

 

「だ、だろ?」

 

「マジですげえよ、あの空中に浮かぶのどうやってんの? 観客の方まで飛んでたけど、ワイヤーとか使ってんのかな?」

 

「あ~悪いけど弟の俺にもマジックの種とかは一切教えてくれないから、聞かれても分かんねえよ?」

 

「マジかぁ、でもまあ、そりゃそうか、それで金稼いでるんだろうし」

 

 実際、マジックの種を考えたらそのアイデア料で金が取れる、とか、どっかで聞いた事あるしな、たとえ姉弟とはいえそういうとこはしっかりしてんだろうな。

 

「……まあでも良かったなタダクニ、お前の悩みが一つ解決しそうだぞ?」

 

「は? 悩み? 悩みなんか別に……」

 

「ばっかお前……ねーちゃんに告白ん時役立つマジックの一つや二つ教えてもらえば女の子なんか簡単にオトせるに決まってんだろうが!!」

 

「オトせる訳ッ……なくも、ないか……!? いや、でも教えてくんねえんだって!」

 

「そこはお前、熱意でなんとかすんだよ!」

 

 

 

 

===(壁を隔てて向こう側)===

 

 

 

 ……うるっせえなアイツら……。

 

 あ、どうも、タダクニ(姉)です。

 職業は世界を股にかけたりかけなかったりするマジシャン。

 現在はあまりに仕事し過ぎてマネージャーから「休んでください。じゃないと死んでしまいます。僕が」と言われて仕方なく休職中のマジシャン。

 

 ……そしてその正体は、前世でなんやかんやあって死んだ男性サラリーマン。

 

 神様的な何かから、まだ死ぬ定めではないとかなんとか言われ、チートと女の子の身体を押し付けられ、タダクニ家の長女となった俺ことタダクニ(姉)である。

 

 ちなみにチートは「尽きることの無い魔力」「天才的な魔法の才能」「どんな言語でも即座に対応が可能な言語チート」の三つ。

 

 この魔法の才能とかいうので、魔法が存在しないこの平和な世界(ただ唯一違うのはサザエさん時空でみんな年を取らないって事くらいだ)で俺は魔法使いとして、否、マジシャンとして生きている。

 

 ……まあざっくりと言ってしまえば、ガチの魔法を種も仕掛けもある手品だと言い張って手品師を名乗っているという事だ。

 

 だって流石にガチ魔法ってバレたら、なんかこう、良く分かんないけどヤバそうじゃん?

 

 かといって魔法を一切使わないなんて生き方も、せっかくの力が宝の持ち腐れって感じでなんか……ねえ?

 

 という訳で、いっちょやってみっかあ! と、自分に出来る手品っぽい事……。

 

 手から炎を出したり、空中に浮いたり、カードを出したり消したり、瞬間移動したり、土をもこもこ盛り上げたり、風を起こしたりといった魔法を動画に収め、手品ですと言い張って、手品師をイベント等に派遣している派遣会社に送って面接に挑んだら即採用。

 

 その後各地のイベントに出てそれらしい手品をしていたら海外のお偉いさんの人の目に留まり、YOUウチのイベント出ちゃいなよ!となり、そこがかなりデカいとこだったらしく、俺はマジシャンとして大成功を収めた。

 

 まあその代わり、日本にはあまり帰ってこれなくなっちゃった。おかげで日本国内ではあんまり知名度が無かったりする。

 

 実家にこうやって帰ってくるのも一体何年振りか。

 

 弟が友人に俺の事をあまり話さないのは、何年も経っちゃって俺の事があまり分かんなくなったからってのが大きそうだな。

 

 すまんな弟よ。

 ついでに手品じゃなくて魔法だから教えてやる事も出来ねえんだ。

 重ねてすまんな弟よ。

 

 それはともかく。

 

 

「……弟よ」

 

「げっ!」

 

「す、すみません!」

 

「あ、ご、ごめん姉ちゃん……!」

 

「……海外からのお土産のお菓子、食う?」

 

 帰ってきてから即行で寝てたから渡すの忘れてたわ。

 丁度友達も来てるみたいだし一緒に食ってくれや。

 

「え?あ、いや……食う」

 

「君らも要る?」

 

「えっ!? い、いいんすか!? あ、いや、お構いなく!」

 

「遠慮すんな。賞味期限明日までなんだわ。」

 

 

 そう言って俺は海外で購入したちょっとお高めのお菓子を取り出し、そのまま浮遊魔法で浮かせたおぼんの上に乗せ、ふわふわと運び、床に置いた。

 

 動画とは言え俺の手品(魔法)を純粋に楽しんでくれた観客への、ちょっとしたサービスだ。

 

 

「……ッ!?!???!」

「……ッ!!??!!?」

 

「……驚き過ぎでしょ」

 

「いや普通驚くって姉ちゃん!!」

 

「ハッハッハ……じゃ」

 

「ちょっと待って!待ってください!弟子に!いや!女の子をオトせるイカした手品を俺に伝授してください!!」

 

「なっ、抜け駆けすんじゃねえ!!俺にも教えてください!!」

 

「馬鹿やめろオメーら!!」

 

「ハッハッハ。その熱意がありゃ大抵の女の子は悪い気しねえと思うけどなあ」

 

 

 なお忙しいので普通に断った。

 売れっ子マジシャンですまんな……。

 

 

 







タダクニ(姉)
そこそこ美人だが男にそもそも興味がない。
彼氏?知らんなを地で行くタイプのTS娘
実は魔法で疲労とか睡眠とかもゴリ押しでどうにかしてる為、
それについて行こうとしたマネージャーはガチで死にかけていた。

タダクニ(弟)
久々に姉が帰って来たので接し方に困ってる思春期。

タダクニ(妹)
登場しなかったが姉とは普通に仲が良い。


ヒデノリ
タダクニの友人。茶髪で眼鏡を掛けているが馬鹿。コイツには兄が居る。

ヨシタケ
金髪で馬鹿。こいつにも姉が居る。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。