俺は『負け犬』だ。
同じ大きな失敗を、二度も。
何度か「後悔ばかりするんじゃない、反省だけして同じ失敗さえ繰り返さなければいい」などという言葉を聞いたことがある。
俺は、反省した上で同じ失敗ばかりする無能だ。
何も為せない愚かな敗残者。
『負け犬』正に俺だ。
選ばれていながら主役になれなかった。
舞台に上がる権利だけはあった、分不相応な弱者だ。
もう、彼女たちには会えない。
二度と笑いかけてくれることもない。
陽だまりは失われた。
どれだけ手を伸ばしても、
気力は萎え、心は枯れ、暗闇のみが覆い光は果てた。
だからもう、希望なんて持たない。
静かに隠れて生きていこう。
変わらない俺の価値観だ。
変わらない、魂に刻まれた傷。
――希望の光なんてこの世には存在しない。
俺の持論だった。
ほんの数刻前までは。
炎が爆裂する。
赤髪の男が、異能の炎を纏いて、俺と同じ高校の制服を着ている男子生徒と対峙していた。
男子生徒の後ろには、一国の姫のような豪奢なドレスを着た
「早く終わってくれ。なあお姫様、オレの
「勝手なことを、言わないでくれ」
男子生徒は握った両の拳に光を輝かせ
「
炎が赤髪の男の全身に燃え滾り、拳が放たれる。あの炎は炎属性の最上概念を持つ、化学現象ではない炎だ。それが俺には解る。
男子生徒は光の拳で防御するが、苦鳴を漏らして押された。炎と接触した拳は焼け焦げて、一部が炭化している。
男子生徒から感じる力は、光属性のものだ。光属性の
俺は目の前で繰り広げられる異能の殺し合いを、遠くの物陰から息を殺して見ていた。
「燃え尽きろ、光の少年」
常人を遥かに超越した身体能力で、炎の
こちらも凄まじい身体能力と体捌きで応戦するが、炎が体を焼き。腕や足が炭化していく。こんな攻防を続ければ彼の命は長く持つまい。
それなのに男子生徒の表情は微塵も揺らがず光の力を
「もう終われ。こっちは早く安心したいんだよ」
炎が爆裂する。出力を上げた炎が襲う。
男子生徒は
もう彼の命は終わりだろう。
俺は確信した。
いつもそうだ。絶望だけが事実で。
順当に希望は食い荒らされて無くなるだけ。
光が闇を照らし輝いた。
目を焼かない強く優しい光が、
「終われない。終われないよ。護り抜くまでは」
息も絶え絶えに、彼は立っている。光を携え戦意は消えず。
されど彼に纏わり付いた炎は光を喰らい続けている。
なんでそこまで、頑張れるんだ。
「これでも死なないかよ。なら止めを刺してやる。
炎の出力が、まだ上がる。
すべてを焼き尽くす
男子生徒は紙一重で避けているが、熱に炙られ皮膚は
一瞬でも気力が揺らげば炎に呑まれ死んでしまう、そんな苦境というのも生温い状況の中、男子生徒は諦めなど一切浮かべない顔で、ボロボロの体を動かし続けている。
だけどそんなの、長く続くわけがない。
無理なんだよ。もう諦めちまえよ。
諦観が俺の心を埋め尽くしていく。
こんな絶望的な状況、覆せない。
俺は無理だった。
気持ちのいい逆転劇なんてそうそう起こるはずがないんだ。
そんなものは
実際は順当に負ける。
そうだ。光なんてない。怪物には打ち勝てず、失うのが世の常。
気づいた時には、炎の腕が少年の腹を貫いていた。
ああ……やっぱりだ。
絶対の炎が少年の腸を、胃を、肺を、心臓を溶かしていく。
少年は膝を突いた。負けだ。
いつもこうなる。光なんてない。誕生したそばから吹き消されるのが現実だ。
順当に、絶望は事実になる。
光の少年の物語は、ここで終幕だ。
俺はつまらない劇を観終わった観客のように、背を向けて立ち去ることしかできない。
また、無気力な日々が――――
後ろから、眩い光が差した。
「……!」
振り返る。
光り輝く少年が、立ち上がっていた。
「僕は、僕は、負けない……輝く明日を大切な人に
諦めなどという言葉は己の
少年が発する
先までの出力は大したことのないものだったはずなのに。
何故立ち上がれるんだ。
俺は、どんなに頑張っても立ち上がれなかったのに。
精神力じゃどうにもならなかった。体は動いてくれなかった。物理法則を押し退けることなんてできなかった。
でも、彼は論理も常識も
光の主役は絶体絶命に追い詰められてからが本番なのだと。
「捕まえた」
炎の魔人は、逃げられない。
奴は、少年の危険性に押されて一旦退こうと動いてしまった。
されど少年は腕を掴んでいる。退くことはできない。だというのに退こうとする行動を起こしたことで、致命的な隙が生まれた。
目の前で繰り広げられるは、神話の一幕。
光の拳は炎の体を
「がっ……アァ……アアアアアアアァァッッ!!」
炎の体が崩れていく。
「オレは、死ねない。死ねないんだよオオォォォォッッ!!!」
「死んでくれ。僕の大切な人の命を脅かすのなら」
俺はその日、英雄を見た。
嫉妬さえ湧く隙もない、眩いばかりの目を焼かぬ光。
本物の光は、美しかった。
絶対に覆せない絶望を覆した
ああ、
俺の目の前に現実として存在する
炎の魔人は高出力の光に存在を消滅させられた。
俺は君を