俺のヒーローはすべてを救ってくれた。
――でも、そんな君を、誰が救うのだろう。なんて、ヒーローもので何度か聞いた言葉が頭をよぎった。
なにを考えているんだ俺は。余計な考えは頭から追い出そう。彼は絶対のヒーローなのだから。
「ぐっ…………」
修司が膝を突き、全身から光の粒子を立ち昇らせていた。
「どうした、修司……?」
「僕はここまでみたいだ」
「ここまでって、なんだ」
「僕はもうすぐ死ぬってことだよ」
――――。
え。
なんだそれは。
聞いていない。
修司が、もうすぐ死ぬ?
「修司、死ぬのか?」
「今までの負債が返ってきているだけだよ。急にいなくなってしまうのは、申し訳ないけれど」
修司は死ぬらしい。修司は無意味な嘘なんてつかないから、本当のことなのだろう。
いや待ってくれ。なんで。
………………。
そうだ。考えてみれば当たり前のことだ。
無理難題を踏破し続けてきた修司に、なんの影響も出ないなんて都合の良いこと、あるわけがなかったんだ。属性司者の超回復ですらどうにもならない「力の代償」というものは存在する。実際出力を上昇させる代償の痛みでだって、耐えられなければ死亡するんだ。耐えられる者達ばかり見てきたから、俺は感覚が麻痺していたのか。
都合の良いことを起こす為には都合の悪いことが起こる。出力の限界突破には気が狂うほどの激痛を。奇跡の代償には――
俺は見ないようにしていたのか。綺麗な理想だけを見ていたかったから。
ヒーローがなんでも現実にしてくれるのが嬉しくて、ヒーローが魅せる光景を喜んで享受するだけの子供だった、のか。
「すでに一度、土屋さんと戦った時に命を落としてはいたんだけどね。実際、人間としてはあの時確実に肉体は死んでいたんだ。ただ、まだ僕は消えるわけにはいかなかったから、「光の属性神」のみの存在となって無理矢理生き繋いでいただけなんだよ」
俺の
でもしょうがないじゃないか。俺はヒーローを見ていたいのだから。奇跡を魅せ続けた上で死なないでくれよ頼むから。
轟々と洪水のように思考が回る。二転三転
「修司……」
「孝、そんな顔しなくていいさ。僕はこの道をこそ歩きたかったんだから」
修司がそう言うなら、いいのだろうか。いや、ちょっと待ってほしい。思考が追いつかない。心の整理がつかない。
『負け犬さ~ん』
ああまた幻聴が聞こえてきやがったッ。スイムは俺が殺したんだ奴の声が聞こえるはずがないんだだから黙れ!
『幻聴じゃなくて~属性の根源に溶かした残骸ですよ~。幻聴だと思いたいならそれでもいいんですけど~、よ~く聴いてくださいね~。
お姫様を殺せば、光の人助けられますよ~』
「は……?」
『このままだと光の人が死ぬのは確定じゃないですか~。でも、姫墜劇の機能はまだ残っていて~儀式を再開させようとする人がいれば使えるんですよ~。
それで~負け犬さんは光の人が死ぬのいやですよね~? だったら姫墜劇を引き継いで完遂すれば願いを叶えられますよ~。もうエネルギーは今までの聖戦で十分に充填されているので~、あとはお姫様の命を属性司者が奪うだけでいいんです~。なんて簡単なのでしょ~』
そんなこと、できるわけがないだろ。と言い切れない。
だって、修司が死んでしまったら、修司を見ていられないんだ。
修司を見ることができなくなった後の生は、酷く空虚で灰色のものとなるだろう。光が在った頃の思い出だけを想起し続ける廃人だけが、残るのではないか。そう思ってしまう。
この幻聴の言うことが本当なら、だけど。だが十分あり得るとも思える。
儀式の機能は、恐らくまだ失われていない。
「たかしくん。
いいよ。わたしを殺して」
お姫様は微笑んでいた。
「…………どうして?」
「わたしも、しゅうじくんを助けたいから」
「ルーちゃん、なんで今さらそんなこと言うんですか?」
川さんの声と表情に、俺は強い恐怖を覚えた。冷たい熱をはらんだ能面の様な顔。彼女のこんな顔は、初めて見る。
「そもそも今回の騒動、聖戦をしゅうちゃんが戦っていくことに決めたのはルーちゃんを護る為なんですよ? 今まで護ってもらっておいて、しゅうちゃんが命を削る光景を後ろから震えたまま見続けておいて、どうして今?」
「ごめんなさい……わたしは、自分が死ぬのが恐くて、ずっと迷っていたの」
お姫様はいつも修司の後ろで怯え震えていたから、怖がりなのは知っていた。
「でも、もう迷いたくないの。あおいちゃんが言う通り本当に今さらだけど……」
「私は護ってもらっていることを責めているのではありません。しゅうちゃんの道を今阻んでいることを責めているんです」
川さんの目は普通ではなかった。異常なほど見開かれていて、けれど血走っていない。人形のガラス玉の瞳を想起させた。
「わたしが攻められるのは当然だけど、一つ聞いてもいい? あおいちゃんはしゅうじくんがこのまま死んじゃってもいいの?」
「は? いやですが? それでもしゅうちゃんが選んだ一番いい道だと思ってるなら邪魔したくないだけなんです。しゅうちゃんの格好良さを私が邪魔することで穢したくないだけです。それにしゅうちゃんを生かすためにはルーちゃんが死んでしまうんですよ。私はルーちゃんにも死んでほしくありません。お友達ですからね。しゅうちゃんがこの結末に満足しているのならルーちゃんを殺してまで結果を変えたくありません」
「やめてくれ。喧嘩なんてする必要ないし、しないでくれ」
修司が諫めてお姫様と向き合う。
「ルー、僕はヒーロー以外になれないし、なりたくないよ。女の子を犠牲にして生きるなんて、ヒーロー失格だ。僕はヒーローを全うする。だから僕はここで終わることにするよ」
そうだ。修司はヒーローなんだ。ヒーロー以外の修司なんて見たくないし、ヒーローが歩む道の邪魔をしてはいけない。
だけど、ここで修司がお姫様を犠牲にして生き残ったとして、本当にヒーロー失格になるだろうか。
修司は生き残って己を責めることになったとしても、必ず乗り越えてまたヒーローを続けてくれるのではないかと、俺は思う。修司はどうあってもヒーローなのだから。
そう、生きてさえいれば修司はヒーローをやっていく。生きているからこそ行動できるんだ。
だから俺たちが修司を生かす。ヒーローを死なせはしない。
「それでも、わたし、しゅうじくんをこのまま往かせられない」
「これは僕の責任だよ。他が負債を被っていいものじゃない」
「でも、それで俺の前からいなくなるなんて……」
やめてほしい。
光を魅せるだけ見せて、すぐに消えてしまうだなんてそんなこと認められない。
俺の目の前で、いつまでも輝きを放っていてくれ、光の
永遠に俺の視界に、聴覚に、居座り続けて刻んでくれ。
俺は修司と出会い心を救われた、だから修司をこそ最優先する。他
刹那の間、ルーお姫様と過ごした時間が頭を埋め尽くした。無理矢理抑え込む。
自分以外のすべてを救うヒーローを、俺が救うんだ。
お姫様を犠牲にしてでも。
なんだ。
結局俺も、他の修司以外の属性司者達と同じ、お姫様を犠牲にしてでも目的を果たしたい屑だってことか。
俺たちは負け犬。
さあ、
後ろ向きにひた向きに愚直に、光を求めて。
「わたしを
「
俺が発動させた属性神により、お姫様は氷漬けに――
眩い光が奔る。氷だけが霧散した。
「孝、なにやってるんだよ」
そうだよな。修司なら必ず止めてくるよな。そして俺は修司に勝てない。それでも、修司を生かす為に俺はやる。やってやる。やらずにはいられない。
「聖戦を始めよう。本当に最後の聖戦を」
「なら、僕の残り僅かな命を、孝に僕を諦めさせる為に使わせてもらうよ」
『ふふふふ~、もっともっと、負け犬さんが苦しむ姿を見せてください~』
修司と対峙するこの状況は。スイムに誘導されたものだろう。
それが分かっていても、俺は修司にこのまま去ってほしくないから、戦うしかないんだ。
結局俺は、スイムの呪縛から逃れられない。いつもそうだ。昔絡んだ鎖がずっと切れない、
場の戦意が最高潮まで達した。
「「いくぞォ!!」」
わたしは、とある小国の姫として生まれた。近年は戦争もしていない平和で穏やかな国に。
臣下のみんなもいい人たちばかり、わたしはこの世界には優しくて心が温かくなるものしか存在していないと思っていた。
誇張でもなんでもなく、本気で思っちゃってたんだ。
そんなことはなかったと思い知るのは、十三歳の時に『属性の巫女』に選ばれ覚醒してから。
すぐに悪意が周囲を渦巻いた。
隣国の人たち、関わりの薄かった国の権力者、属性管理教会、大まかにこの三勢力がわたしを狙い動き出す。
誘拐されそうになったり、命を狙われたり、恐怖の目で見られたり、気持ちの悪い目で見られたり、全部初めてだった。
わたしはショックで、怖くて怯えることしかできなかった。
パパとママと、物心ついた時から近くにいた臣下たちだけは味方でいてくれて、わたしは護られるがままに何もせずに震えているだけ。
初めての悪意にどうしても、いつまでも慣れなくて、立ち向かうなんて発想すら浮かばなかった。
ただただ苦しくて、辛くて、逃げたい。
わたしを利用するか排除するかしたい人は後を絶たず、パパとママはわたしを遠くの平和な
当然追手は差し向けられる。臣下に護られながらの逃亡生活はとても辛かった。寝起き以外で髪がボサボサになったのは、この時が初めて。
日本に落ち延びる頃には、わたしを逃がすために頑張ってくれた臣下たちは、みんな死んじゃっていた。
わたしは臣下のみんなが居なくなる度に、一人、また一人と死んでしまう度に泣いていた。ずっと、泣いてばかりだった。みんな、大好きだったから。
ようやく誰にもバレずに辿り着いた日本で、わたしは一市民として新生活を始めようとした。始めるべきだった。けれど始められなかった。
戸籍や身分はパパたちが用意してくれたから大丈夫だったけど、わたしが限界だったから。
ずっと用意された家に籠っているだけだった。なにも考えられなくて、なにも考えたくなくて、頭がずっとぼーっとしていた。
そんなんだったから、ちょっと食べ物買い足そうと出かけただけで簡単に属性司者に見つかっちゃった。
でも、そんな時に助けてくれたのが、しゅうじくんだったんだ。
わたしはこの人の背に隠れていこうと思った。
しゅうじくんの背を見守って待っているのは、すごく安心できたんだ。しゅうじくんは本当にヒーローみたいに、強くて誰にも負けなかったから。
――でも、しゅうじくんが土屋さんに一度負けたとき、わたしは思い知る。
ヒーローのしゅうじくんも絶対じゃない。命を奪いに来る誰かと戦い続ける人は、必ずどこかで死んでしまうんだって、当たり前のことに気がついた。
このままじゃいけない。しゅうじくんを助けられるくらいにならないといけない。そう思うようになっても、うまくはいかなかった。
やっぱり戦うのは怖くて怖くて、迷ってばかり。
迷ったままなにも変わらず、怯えてしゅうじくんに任せきりの日々。
迷い続けて先延ばしにした結果、しゅうじくんがもうすぐで死んでしまうところまで、きてしまった。
でもまだ、取り返しがつく。
わたしが命を差し出すという、ものすごく怖い条件付きだけど。だってずっと死ぬのが恐くて迷ってたんだ。
でも、わたしには、取り返しがつかなくなる寸前まで迷い続けた罪がある。このまま何もせずにしゅうじくんを見送ることだけは、できない。
わたしとしゅうじくんが二人とも生きて日常に戻ることはもう無理だけど、それはわたしのせいだからしょうがないんだ。
護られるだけのお姫様はもう嫌だ――なんて言葉があるけれど、わたしはそう思えたのがかなり遅かったみたいだから。
遅咲きの花は、遅すぎた。
わたしは取り返しがつかなくなってから、ギリギリ取り返しがつくとこだけに手を伸ばす。
だからわたしは、『負け犬』なんだ。
光が迸る。たかしくんへ向けて、非殺傷の光が、しゅうじくんの振り抜かれた拳から放たれた。
たかしくんは避けられない。真正面から対抗できる力もない。速さも属性力もなにもかも、しゅうじくんのほうが上回っているから。
それでもたかしくんは氷の属性神に力を入れて、光を凍らせようとする。
わたしは『属性の巫女』の力を、たかしくんへと全力で注いだ。
全属性を注いで
でもわたしだって『属性の巫女』の力を使いこなす努力をしてきたんだ。無理でもなんでも通そうと、とにかく全ぶっぱする。
たかしくんの体が飛び散ってしまう危険性はあるけれど、勝てなければしゅうじくんが消えてしまうんだ。
たかしくんも何もできずに負けてしゅうじくんに往ってしまわれるよりはリスクを背負う方を選ぶだろうから、わたしはごめんなさいと謝りながらも遠慮なく賭けに全霊を込めた。
勝算もない訳じゃない。わたしの
賭けに勝ったのか、わたしかたかしくんが覚醒したのか。いや、これは、まなちゃんの力? まなちゃんがわたしの力を補助してくれてるみたい。
全属性集束強化は、達成された。
修司が放った光は氷結され極小の粒となって散る。氷の粒はベールのように負け犬の少年を覆うが、すぐに吹き散らされた。
高山孝の全身には頭部まで覆う装甲が装着されていた。火属性の赤色、土属性の茶色、風属性の緑色、闇属性の黒色、水属性の水色、氷属性の水色に近い薄い青色、光属性の白色など様々な属性の色が散りばめられたカラフルで不格好な鎧。
「ヒーローォォオオオオオオ!!」
己のことではなく、己が求める
けれどお姫様は思うのだ。友の命を救おうと立ち上がり、仮面のヒーローの様な聖なる鎧を初めて身につけること叶った少年は正しく――彼が求めてやまない存在なのではないか、と。
変身。と遠い過去の俺ならば自信満々に叫んでいた状況だろう。けれど俺はヒーローではないからその言葉を口にはしない。何度でも言う、修司こそが、修司だけがヒーローなんだ。
修司が純白の聖鎧を纏い、俺へ肉薄してきた。
俺はお姫様に向けて走っている。俺は修司を倒せないし、俺の目的は修司を倒すことじゃないからだ。お姫様の命を奪い儀式を完遂し、修司の死を覆せさえすればいい。つまりお姫様を殺すことが最優先だ。
「孝、絵面が酷いぞ。女の子を殺そうとしている悪人にしか見えない!」
「その通りだァ! 今の俺はヒーローに仇名す悪人!」
修司が光
現在氷の
俺の右手の平から放出された氷結概念は修司の光を凍てつかせながら拳を受け止めた。
「やるな孝」
「俺の力じゃない。お姫様と――夢中の力だ」
そして、夢中の力ならわたとリリュースの力でもある。
俺たちは殺す為に、お姫様は殺される為に、協力する。全力で後ろ向きな、闇の協力だ。
握った修司の拳を凍らせようとしたが、修司の体は光となり、離脱された。それも、お姫様の方向へ。ヒーローはお姫様を背にして立ち塞がる。
なるべくなら接近戦は避けたい。森羅万象凍てつかせるという触れ込みだが、修司相手にどれだけ意味を成すかは疑わしい。ヒーローは覚醒し俺の氷結は粉砕される、これは確定事項と言っていいだろう。
だからこそお姫様との間に入られたのは痛手だ。俺はヒーローに勝てないこと前提でどうにかお姫様を殺さなければならないんだ。ヒーローをどう掻い潜るかが勝負の分かれ目だろう。
俺はお姫様の肌から数センチ離れた位置に氷を発生させた。俺の効果範囲はお姫様と夢中のバフにより上昇していた、これぐらいわけはない。このまま一瞬でお姫様を凍結する。
けれど修司の放った光により氷は霧散した。効果範囲が上がったとはいえ、俺から離れれば離れるほど出力が下がってしまうのは変わらない。修司の光に対抗できるほどの出力はかなり至近でなければ出せないと、これでわかった。
そして修司は膝を突く。
それは何故か。修司にはすでに戦う力など無いからだ。さっきからずっと、修司の
しかし命が消えていっているという事実も変わらず、俺の攻撃に対処する度に無理が来る。現に今俺の氷を霧散させたことで膝を突いた。
そこにのみ、俺たちの勝機はある。
皮肉にも修司を生かそうとしている俺たちの勝機は、修司が死にそうなことにしかないのだ。
修司が死にそうな隙を突いて、修司が死ぬ前に、お姫様の命にこの力を届かせる。
俺は距離を取ったまま氷結をお姫様と修司の周囲、二か所へ発生させた。
修司はどちらも光の拳から放出される拡散光により消滅させたが、消耗もする。
そうやって俺は遠距離から削り続ける。負け犬らしいこすい戦法、されど有効な戦法だ。
近距離攻撃しかできないはずの修司は遠距離から光を放って来るが、全て尽く氷結させ砕く。俺と同じく威力が減退している修司の遠距離からの光では、今の俺は倒せない。以前の俺やそこら辺の強者ならいざ知らず、今の俺相手では、動きを鈍らせることすら不可能だ。修司が俺を倒すには、どうにか俺へ接近するしかない。近距離から色々なことを無視する光を俺にぶち当てるしかないだろう。だがそう簡単には接近はさせない。俺は遠距離から氷を発生させ続ける。
修司は護る側だから迂闊にお姫様から意識を外せない、俺は殺す側だから存分に猛攻を仕掛けられる。戦いは護る側の方が圧倒的に不利だ。修司はジリ貧となる。
そうして遂に、修司の動きが鈍った。
今だ。
俺は遠距離アドバンテージを捨て修司を迂回しながらお姫様に
俺の速さは光速を越える。スピードも二人のバフで上昇しているから。
「なんで高山くん有利なのに突っ込んむの!? 遠距離チクチクの方が絶対いいのに!」
例え有利でもヒーローに時間を与えるのは愚の骨頂だ。何かしら逆転の一手で崩されるに決まっている。今までだってそうだった。
だから隙ができたのなら逃さない。
「くっ……」
修司の横を通り抜け、お姫様へ手を伸ばす。
「させませんよ」
川さんの声が聞こえた刹那、修司の全身が光り輝いた。強く強く、輝いた。
「神様が救ってくださりますからね」
お母様はいつも私にそう言い聞かせていました。
だから神様が救ってくれるんだなあと思ってずっと待っていました。
お母様に強くぶたれても、いつか救ってもらえるのだから頑張らないと、と言い聞かせ続けてずっと待っていました。
お母様は居間に作った祭壇にずっと祈っていました。
ある日、しゅうちゃんと近場の公園で出会いました。
私はブランコに座っていたかっただけなのですが、しゅうちゃんがあくる日もあくる日も話しかけてきたので、仲良くなりました。
けれどある日、ブランコから勢い良く飛んだら、しゅうちゃんが「危ない!」って私の下敷きになって庇ってくれたとき、偶然私の体の見えづらい位置にあった傷を見られてしまいました。
しゅうちゃんは自分の両親に相談しました。しゅうちゃんの両親は凄い人たちだったので、色々あって私はしゅうちゃんの家に引き取られることになりました。
けれど私は、しゅうちゃんたちと一緒に住むことは頑なに拒否しました。
私はしゅうちゃんのお母様とお父様が用意してくれた別の家に住むことになりました。
私が一緒に住むことを断ったのは、しゅうちゃんのお母様とお父様は、私がまだ人を信用できず怖がっているからだと思っていましたが、事実は違います。
神様と共に住まうなんて、不敬で畏れ多いからです。
お母様はいつも言っていました。神様が救ってくださると。
私は遂に
しゅうちゃんは格好良くて、過ごしているととても心がポカポカと幸せな気持ちになります。体が痛くなることももうありません。
それまでお母様が何故叩いてくるのか解りませんでしたが、しゅうちゃんと出逢うきっかけを創り出すためだったのだと解り、お母様に最大の感謝を捧げました。
もうお母様に会えないのは少し寂しいですけど、私にはしゅうちゃんがいるので大丈夫です。
お母様も私みたいに自分の神様に出会って幸せになってるといいな。と思いました。
私は私を助けてくれたしゅうちゃんを支えるいい女になるために努力しました。男性を最も立てる女性を調べたら、大和撫子という単語を見つけます。私は大和撫子を目指しました。
いつしかしゅうちゃんを慕う信徒が二人増えました。ルーちゃんと高山さんです。ルーちゃんとはお友達になりました。初めての同性のお友達で、とても嬉しかったです。ルーちゃんと過ごすのは楽しいです。しゅうちゃんと過ごす時とはまた違った胸のポカポカがあります。
でも。
悲しいことに、二人は神様に仇名す逆徒に堕ちてしまいました。
神様のすることは絶対です。
邪魔をしては神性を穢してしまうと、なぜわからないのでしょうか。
しゅうちゃんには、いつまでもしゅうちゃんらしく望んだ道を歩いてほしいです。たとえそれで消えて往ってしまうとしても。
しゅうちゃんは、私の
「
恋心を信仰心に変換し、信仰心を他者強化のエネルギーにする巫女の力。
これが私の、唯一しゅうちゃんの力になれる能力です。
「
川さんが両手を組んで祈ると、修司の全身は輝きを強く増した。
今までも修司を強化してきた川さんのバフだ。けれど、今までよりも輝きが強過ぎる。
「命知らずの裏切り者には光の鉄槌が下るでしょう」
輝くヒーローが、いつの間にか俺の前に移動していた。
「光の前進に轢かれ潰されてしまえばいいんです」
「孝ぃ!」
「がはっ……!?」
光の衝撃は俺の腹から伝播し、俺をお姫様から引き離す。つまり殴り飛ばされた。
修司はもう膝を突く様子はない。
「ねえあおいちゃん、本当にこのままでいいの?」
「しゅうちゃんは、ルーちゃんを助けようとしているだけですよ? それは間違いなく正しいことです。それに、さっきも言いましたよ。私もルーちゃんを助けたいんです。お友達ですから」
「いなくなっちゃったら、寄り添うこともできないんだよ! しゅうじくんに対してそんな大きすぎる感情を持ったままこれからずっと生きていくことになるんだよ! そんなの、辛すぎるよ。わたしなんて最近友達になっただけの人なんだよ。しゅうじくんへの想いほどのものを、わたしはあおいちゃんに
「私、ルーちゃんのこと大好きですよ?」
「しゅうじくんを失った後のあおいちゃんの心を支えてあげられるほどじゃないと思うよ」
「ルーちゃんは自分を過小評価し過ぎです。それにしゅうちゃんは永遠です、どんな状態になっても、しゅうちゃんという概念は存在し続けます。だから少しくらい寂しくても大丈夫なんです」
「孝、もう僕を諦めるんだ。勝ち目は消えたよ」
「勝ち目が、消えた……?」
そうかもしれない。修司が死にかけであることの隙が無くなったら、俺が付け入る隙はもう無いのかもしれない。
だがその程度で修司を諦める理由にはならない。
「孝、ルー、僕がいなくなっても、自分の足で立っていくんだ。君たちならそれができる」
「無理に決まってんだろ」
自分の足で立つ? 前を向いて強く生きる? それができなかったから俺は今
「このまま見送ったらわたしはもう自分を責め続ける生しか送れない、だからごめん。わたしは恩知らずの負け犬だよ」
「だからそのような、しゅうちゃんの頑張りを無為にする本末転倒なエゴは許されません」
打てる手がわからないなら、もうやることは一つしかない。
「殴り合いだ」
俺は地を蹴り修司へ向けて肉薄する。修司は正面から迎え撃ってきた。
お互いの拳と拳、絶対零度と究極光が衝突する。
ヒーローには勝てないとわかっているのに正面から殴り合うなんて正気の沙汰ではないことはわかっている。
だけど、どうすればいいんだ。ヒーローにいなくなられちゃ困るんだよ。
お姫様と夢中の力を信じるしかないのか。俺は聖鎧を纏っているんだ。現象、概念、一切合切を氷結させる力を得たんだ。道理だけで見れば勝てる可能性なんて幾らでもある。
けれど、どうしてもヒーローに勝てるとは思えない。修司は誰にも負けない最高のヒーローなんだ。俺なんかがいくら強化されたところで勝てるわけがない。いや、勝ってはならない。俺が修司の戦績に黒星を入れて、光のヒーローを穢してはならない。
修司を打ち倒すんじゃない、少し隙を突いてお姫様を殺すだけだ。
「孝は、僕が凄いから僕を信じたんじゃないと思うよ。光を信じたかったから、希望を信じたかったから、その気持ちをまだ持っていたからだ。僕はたまたま、そんな孝の前に現れただけにすぎない。僕が居なくても、孝は光を求めて、また立ち上がっていたはずだ」
「そんなわけねえだろ。負け犬のどうしようもなさ舐めんな。お前みたいなすげえ光にでも奇跡的に出会わなきゃ、また光を求めようなんて思えねえよ。それも求めたのは自分の光じゃねえ。自分が信じられる唯一の光だけだ。つまり修司だけなんだよ。俺には修司しかいないんだ」
俺の不格好な拳が無数に突き刺さる。修司の全身は永久の氷漬けと化した。されど光は覚醒し、氷を四散させたヒーローの拳が俺の全身を貫く。
「ほら、こんなにもお前は最強で最高の光じゃねえかよォ!」
「過剰に持ち上げてくれているけど、僕は完璧じゃないよ。本当に最強なら隙すらつくらないはずだよ。僕は自分の至らなさでボロが出る隙を、無理矢理自分を削って誤魔化しているにすぎないんだ」
「馬鹿言うなよ、本当だったら隙を突かれた時点で人は死んで終わりなんだよ、その先へ物語は続いていけないんだ。
でも修司は違う。ヒーローの光でその
「その結果、僕はもうすぐ命を使い果たす。命を使い捨てに、己の望んだ道を刹那の生で歩んだだけの愚か者さ」
「俺たちが生かす。使い捨てになどさせない。修司は永遠のヒーローだ」
何度も何度も、氷と光が舞う中殴り合い続ける。ここまで修司と正面からぶつかって負けていない時点で、今の俺は外れた強さを持っているのだろう。
「孝、そろそろ眠ってもらうよ。大丈夫、起きた時には僕を
いやだ。なんだそれは。怖すぎる。
しかも修司なら本当にできてしまうだろう。
つまり、俺はヒーローが居なくなることを受け入れてしまう。
なんだその空虚な未来は。
「しゅうじくん、人の感情を勝手に変えるなんてヒーローのやることじゃないよ」
「そうでもしないと、孝は僕が消えた後も蘇生させようとルーの命を奪うだろう」
確かにそれは事実だ。俺がそうしないはずがない。だから、その行為をする意思を奪われるのだろう。
光が、輝く。
『負け犬さ~ん。手伝ってあげましょうか~?』
またスイムの声が聞こえる。
「お前なんかに手を貸されるくらいなら――」
『光の人の死を選びます? できませんよね~?』
くそがっ……。
スイムゥ……。
生きているか死んでいるかもわからないくせに、何度も惑わしやがって。
『まあ勝手にやっちゃうんですけどね~』
人型の水の塊が、水路や地面から寄り集まった水から形作られた。あれがスイムなのだろう。
『あの~聴いてくださ~い!』
「スイム・スー!?」
「うわ出たよ」
「あ、やばい人だ」
スイムに対する印象は俺以外も似たり寄ったりらしい。
『ここでひとつ真実を開帳します~。
この場の全員がポカンと呆けた。
一番早く立ち直ったのは修司だった。
「どうしてそんなことを知っているんだ」
『私が世界の根源と一体化しているからですよ~』
「どうしてそんな状態に」
『私は死んだ後のことも考えて色々細工していたからです~。準備が功を奏し、負け犬さんに殺された後、私は見事、世界の根源エネルギーの海である、属性神の溜まり場に溶けることに成功したのですよ~』
「だから、誰も知らなかった真実を知った、と?」
『そういうことです~』
『つまり属性司者たちは~、その時偶然、刹那の間芽生えただけの感情に生き方が固定されるのですよ~。私が死体コレクションを人生の道としたり、負け犬さんの苦しむ様子を愛でたりという、人の不の美しさしか素晴らしいと思えなくなったように~』
『つまり~、負け犬さんの信じた
『行動も、思想も、信念も、全部世界の根源に決められただけの、憐れな人間なのですから~』
『私も同じです~。生き方を狂人に固定されただけのかわいそうな女の子~! だから闇の人にしたみたいに私にも優しくしてくださいね~? スイムにも救われてほしい! って。きゃは~!』
「もう一度死ね」
つまりは、修司は強制的に定義させられたもののために死のうとしているのか?
そんなこと信じたくない。魔女の戯言だ。だが符合する点が多すぎる。
室は川さんに横恋慕したとはいえ、非日常に関わったこともない高校生が修司という一人の人間を殺そうとしたのは異常だ。ライバルトも生き続けることしか考えていなかった。土屋は蘇生を、ルークスは友の幸せのみを、ダーシウムは苦しさの無い安らぎの世界を。
修司は、ヒーローであることだけを。
『でも、おやおやおや? おかしいことが一つありますね?』
『属性神に選ばれたらその瞬間に抱いていた信念に固定されてしまうのに、負け犬さんは幼い頃の主役気取りの傲慢さが跡形もなくなってますよね~?』
「だから、なんだってんだ」
『生き方が固定されていないあなたは、何なのでしょうね? そうです、
耳にかかる息を錯覚するほど、スイムの声が間近で聞こえる。
『あんなビカビカなんかよりも、あなたの方が特別なんですよ~? 属性神という途方もない力に唯一抗えた存在なのですから~!』
「修司を侮辱するな! 修司は唯一の特別で、ヒーローなんだ!」
スイムが間近まで近づいてきて俺にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
『手伝ってあげてるんですから怒らないでくださいよ~。これで自分のアイデンティティを否定された光の人は動揺して隙が生まれるって寸法なんですから~』
「俺まで動揺させてどうする」
『それは私が楽しむ為ですから仕方ありません~』
やっぱりこいつは殺すべきだ。
だがとりあえずスイムを殺すのは後にして、修司が動揺してくれているのなら、今すぐにお姫様の元に向かわなければ、隙が生まれた意味が無くなる。
俺は光速を越えた
「舐めるなッッ!」
叫んだのは、修司だ。
「それは、残酷な真実なんだろうね。
僕は、世界の根源に定められた道を進んでいるだけなのかもしれない。
だけど、ああ――
光速を越えている筈の俺の左腕を、光速の修司が掴んだ。
「土屋さんから、否定とは試練だと聞いたよ。僕はその宿命すらも乗り越えてヒーローだと証明しよう。
これは僕が選んだ道だ。なにかに強制されたものなんかじゃない。絶対に。絶対に」
修司の言葉は、信念が外部から固定されているから発されているものなのか、それとも本当に、属性神の影響などではなく、修司は選ばれなくともヒーローに成ったのか。
俺にはわからない。
けれど今目の前に見える
俺はヒーローを信じたい。本当の光は在るんだって。
在るかわからなくて、確かめようもないものは、在ると信じた方が心安らかに強く生きられる。
『だからそれが、属性神に影響されただけの信念とも言えない意思の固定だって私は言っているんですけどね~?』
「最初に決意を抱いたのは、僕の意思だよ。なら僕の意思と何が違うんだ。それに人は生きていれば何かしらに影響されているものさ」
「しゅうじくん、なんで、そこまでしてヒーローなんて、頑張るの……」
「これが僕の使命だから。僕はヒーローに成ることを、ずっとずっと、求めていたから」
「しゅうちゃんは昔からヒーローでした! 属性神なんて関係ありません、しゅうちゃんは元からかっこいい人なんです!」
「闇を照らして救うのがヒーローなんだろう? 孝がそう言ったんだ。残酷な真実なんて闇、照らして払って、救いたい人を絶対に救うよ。
俺の左腕を掴んでいる修司の右掌から光が溢れる。まずい。これを喰らったら俺の負けは確定する!
「うおおおおおおおォッ!」
修司に至近距離から完全氷結をぶち込み、手が離れたところを我武者羅に後退して逃げた。
『駄目ですねアレ~。もう手遅れです~。光に憑かれた人になんか、何を言っても無駄ですね~』
外国人がやれやれをするようなオーバーリアクションをするスイム。お前なんなんだよもう。
「たかしくん! 決められるままにわたしを護り続けて死んでしまおうとしているなら、なおさらしゅうじくんを助けないといけないよ!」
「ああ……そうだな。修司が外部からの影響でヒーローに成ったにしろそうでないにしろ、俺は修司に生きて欲しいしな」
だが、今の決意に満ちた修司相手にどこまでやれるか……。
「ここで真打登場だね!!」
夢中が急に主張し始めた。
「ずっと黙ってたなお前」
「さすがに最終局面の雰囲気ぶち壊したくなかったからね。異能バトル観戦者としては黙って視聴していたかったんだよ。でも今や私も演者の一人。ということで積極的に活躍させてもらうよ! 私が主人公だー!」
「そもそも夢中、俺に加担していいのか。俺はお姫様を見捨てる選択を取ったんだぞ」
勢いのまま行動してまだ確認を取っていなかった。
俺が修司の光を氷結させるほどの力を得て、聖鎧を纏うことが可能になったのは、お姫様の力だけで為されたことではないと俺はわかっている。夢中の力があったからだ。しかしそれはお姫様を殺す選択への加担を意味する。
夢中はお姫様と仲良くなっているように見えた、友達と言える関係だろう。それなのに、俺の味方をしていいのか。
「私は高山くんが決めたなら反対しないよ」
……夢中の言葉は、他力本願から出たものじゃないだろう。俺の絶対的味方だからこそ出た言葉だ。それが俺にはわかった。夢中麻奈はわたとリリュースが俺へと送ってくれた最大の味方なのだから。
ならば俺から言えることは、もうこれ以上ない。
「まなちゃん遠慮しないでいいよ」
「うん。今から本気出すよルーちゃんっ」
川さんは顔を歪めた。
「狂っています。あなたたちの関係
『あなたが言いますか~?』
「狂ってるかぁ……いやそこまでじゃ…………いや、うん、そうかもしれないね。でもいいよ。いいんだよ、これで」
お姫様が川さんに微笑む。そうだ。俺たちはこれでいい。俺たちは負け犬。精神を滅多打ちにされ消耗し尽くした弱い人間が、イカレていないはずがない。
「高山くんいっけえええええっっ!」
夢中の右腕が破裂し、血液が飛び散った。
「いったあああああああああああああああいっっっっ!!!!」
本来なら「痛い」では済まない犠牲を贄に、巫女の力が増大する。
有機物、無機物、現象、概念、一切合切森羅万象を氷結させる力、
上昇し過ぎた出力は、『時間凍結』すらも可能とする。
世界が凍結され、静止した。
修司は光速を越えた俺を捕まえたが、時が止まっていれば速さなど関係ないのだ。
だが油断はしない。ゆっくり歩きなどはせず、俺はお姫様の元へ全速力で移動し、氷纏う掌をお姫様の心臓に当てる。心臓も、綺麗なドレスも、華奢な全身も、魂も、すべてが氷結し死へと墜ちた。
これで、修司を助けられる。
――はははははは、子供を殺すのは気持ちいいぜ。
「俺」の原点は、その残虐な言葉を聞いた時にある。
「なあ、ガキ、聞いてるか? 子供を殺すっていうのはな、人間倫理的に最も忌避されている悪なんだ。誰がどう解釈しようとも邪悪以外になれない概念だ。進んでする奴はまずいない。何かしらに追いつめられでもしていない限りな。その邪悪な所業を、俺みたいな普通に仕事して普通に生活できている余裕のある人間がすることは、まずないんだ。
だからこそ俺は子供を殺すのが気持ちよくて堪らない。子供の悲鳴が心地いい。
俺は俺にしかでいないことをやってるんだって気持ちになるよ。
俺以外にやったことある奴は歴史上に一切いないとは思わねえけどよ。頭のイカレた奴なんてどの時代にもいるしな。でもいたとして極少数だろう?
俺はその選ばれた少数しかやらないことをやっているんだよ。
気持ちよくて堪らない。興奮が止まらない。生きてるって感じがするぜ。
なあ、聞いてるか? ガキ、なあ?」
幼馴染の生首が揺れていた。苦しみ抜いて見るも
俺の心に芽生えたのは、怒りだった。悲しみも憎悪も湧かなかったわけではない。けれど、強い強い総てを焼き尽くすほどの
大切な人が失われる残酷な現実という事象への強い否定が俺を変えたとき、光の属性神に選ばれたんだ。
光の赫怒。それが俺の原点。
この時から「俺」は「僕」になった。まずは一人称を変えることで自分以外になれるように。
自分は自分でしかない。自分以外にはなれないというのが一般的な正論だ。
それが正しいのはわかる。現実問題、人の根っこはそう変わらない。自分は自分のまま満足するしかないし、満足できなくともどうにか生きていくしかない。
けれど自分である限り苦しみ続けるしかない者はどうすればいいんだ。死ぬまで苦しみ続けろとでもいうのか。負け犬は負け犬のまま、永遠に変われはしないと、いうのか。
ふざけるな。
自分ではない存在でありたいという思いは蔑ろにされてはならない。自分以外であろうとすることで救われる者もいるはず。演じ続けて満足できるならそれでいいんだ。いつかは本物になる。
僕は大切な人を護れる強くかっこいい主人公に成りたい。
だから僕は求め続けるよ、ヒーローを。
生き方を演じ切り、僕を観る人すべてを騙し通す。
ヒーローという幻想を現実にする。
光のヒーローは
理想は既に自分の中に在った。だから後は、それをなぞって演じればいい。
だから僕は、自分でない光に変わった。
孝も何かを失っている様子だった。
恐らく僕と同じような境遇だったのだろう。ただ、起きたことへの感じ方と、選択と、運命が違った。
だから僕と孝は似ているんだ。
きっかけが違えば孝も僕のようになっていたかもしれないし、僕も孝みたいになっていたかもしれない。
今の僕は、もう往きつくところまで来てしまったから、ヒーロー以外にはなりたくないし、なれないけれど。
僕は大切な人を護りたい。大切になった人を、大切な人の思いを。
望んでいるのはそれだけだ。
けれど、今僕は大切な人の思いを踏みにじろうとしている。孝とルーの、僕に生きていてほしいという思いを。
自分のヒーロー感に疑問を持って、少しずつ修正していこうと思うようにはなっても、それでも譲れない一点があるから。
結局僕は、誰かを救える場面で救わない選択だけはできないんだ。
だから二人の願いを蹴って、今目の前で奪われようとしている大切な人の命を救うことしか考えられない。
心の救いも大事だ。でも、まず第一に物理的に生きてほしい。
僕は、救えるから。僕だから、救えるから。僕しか、救えないから。だから、僕がやる。
救って魅せるさ、必ずね。
――――光が輝く。
時が止まった世界で、俺と光だけが動いていた。
修司が拳を構えて目の前にいる。
殺したはずのお姫様は光に包まれ、修司の後方に立って、生きていた。
俺は確かにお姫様を殺したはずだ。この手で心臓も魂も氷結させ命を奪った感触を覚えている。けれどお姫様は無傷だ。氷片一つ付いていない。
そうか。
修司は遂に因果すらも超えるようになったんだな。
修司ならば、可能だとしか思えなかった。
「あははははっ!! やっぱりすげえ、すげえよヒーロー!」
今俺は真正面から覚醒する光を体感している。それもヒーローのここ一番の戦いでしかお目にかかれないような最大の覚醒だ。テンションが上がらないわけがない。
最前列でヒーローショーを観ている気分だ。
彼のフォーム一つ一つが美しい。右拳を弓引くように構えた姿も、光が集まる右拳も、俺を見つめる特撮ヒーローの様な兜も。
「さよなら、孝」
拳が振り抜かれる。俺は動けなかった。時を止めた消耗もあったけれど、ヒーローの光に「動けないという法則」を付与されたのだと感じた。
俺の腹に光の拳が直撃する。痛みはない。死にもしない。修司は殺すつもりなんてないから。
ただふっ飛ばされて、
地面を転がって、
気づいた時には、修司の延命を諦めていた。
やっぱり