負け犬は光のヒーローをあがめる   作:ソウブ

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特殊文字の部分、PCだとテがチに見えてしまうかもしれません。


3 我が光のヒーローの表舞台

 

 

 

 深夜零時。

 真徳高校のグラウンドに、天谷修司(あまがやしゅうじ)、ルー・リーンバーグ姫、川碧唯(かわあおい)の三人はいた。

 

 対面には、炎を纏う男(・・・・・)。ライバルト・グンダレンが立っている。

 

 修司が先日に消滅させたはずの男だ。

 

姫墜劇(プリンセスサクリファイス)、第一の聖戦相手はこのオレだ」

「確実に(たお)したはずだけど」

「俺は「不死鳥」(エターナル)だ。死ぬはずがない。死ねないと言っただろう?」

 

 彼は不死鳥。一度光に焼かれた程度でその命が尽きることはない。

 

 ライバルトは全身から炎を噴き出す。修司は光を拳に宿した。

 

「しゅうちゃん……」

「しゅうじくん、いつも任せるばかりでごめんね……」

「いいんだ。僕は護りたいだけだから」

 

「前置きはもういい。聖戦を始めるぞ。オレは早く、早く安心したいんだ」

 

 ライバルトは疾駆し、炎の武を叩き付ける。修司は拳と体捌きで対抗していった。

 炎は修司の体を焦がし、光はライバルトの炎を浄化する。前回と同じ流れだ。

 同じならば、また同じように修司の光が炎を殲滅せしめる結末へと至るだろう。

 

「ここからが、本当の聖戦だ」

 

 ()れより、僅かな間のみ「時」という概念がその意味を無くす。

 

『世に(くすぶ)(みなもと)よ、属性のに至れ、我ら自然の体現者』

 

 ライバルトがこの世の(ことわり)から外れた(こと)()を紡ぐ。

 

 属性司者(ファクターズ)であるライバルトの属性力(エレメント)励起(れいき)され、出力が上昇した。

 

嗚呼(ああ)、生きたい。生きたい生きたい生きたい。

 何も己を脅かすことのない日々を、早く寄越せと言っている。

 敵は燃やし、降りかかる火の粉も燃やし返し、自らの傷すらも燃やそう。

 燃え続け、不死の鳥となった時、僅かでも望みに近づけるだろうから。

 火は消えぬ、炎は燃え続ける、消火などありえぬ、死などありえはしない。

 何故なら己は不死鳥。不滅の(ほむら)をその身とする者。

 天上の暴流さえ我が燃焼を止めるに(あた)わず。不死鳥は飛翔と燃焼を永久(とこしえ)に続ける。

 (あまね)くすべてを燃やし尽くした先に、安息があると信じられるから』

 

 顕現(けんげん)するは、属性という概念の究極。

 

属性神(エレメンタル)――燃やし尽くす生存者(フィアンマンデッドライフ)

 

「不死鳥」(エターナル)が生誕する。

 

 ライバルト・グンダレンの全身が(あか)い鎧に包まれた。頭を覆う兜は仮面のヒーローを想起させる洗練されたデザインだ。

 鎧の表面には炎が纏われている。いや、彼の体は鎧の中身も全て炎と化していた。

 皮膚も、肉も、骨も、血液も、内臓も、魂も、すべてが火。

 

 ライバルト・グンダレン。彼は「火のエレメント」の化身。火属性において彼の上をいく者はこの世には存在しない。

 

「その姿は……」

 

 修司の驚愕も待たず、火の魔人は炎を鎧の背中で爆発させ加速(ブースト)し、先程までとは比べ物にならない速度で迫る。

 

 修司は技量をフル活用し何とか拳や蹴りの乱打を(しの)ぐが、ライバルトの技量も彼に劣りはしない。

 修司の体は焼き焦がされていく。

 

 以前と違い、属性力(エレメント)の光が炎を消滅させられなくなっていた。

 不滅の(ほむら)は浄化されない。

 

 拳で直接殴りつけようと、赤き鎧には傷一つ付かない。それどころか炎が燃え移り手が焼け焦げ骨を晒す。燃え移った炎も不滅だ。生きながら火炙りにされ続ける。

 

姫墜劇(プリンセスサクリファイス)の聖戦は、聖鎧(せいがい)を纏ってからが本番だ。なあ、お前はまだ纏えないのか? そんな程度でオレに一度勝ったと思い上がるなよ」

「くっ」

 

 修司は殴り飛ばされた。また火が燃え移り防御した腕が燃やされ続ける。

 

 されど光の英雄である天谷修司(あまがやしゅうじ)は痛みに動きを鈍らせることはしない。不屈の精神で己の定義した「大切な者」を護る為に戦い続ける。

 

 このまま火炙りの刑が続けば、あと数分と経たずして灰と化し絶命するとしても。

 

 聖鎧(せいがい)。姫墜劇の祭具であり、聖戦によって高められた属性力の結晶である。

 属性司者(ファクターズ)が至る、最大の戦闘形態だ。

 

 故に、同じ属性司者(ファクターズ)でありながら聖鎧の発現を為せていない修司に勝ち目はなかった。

 

 されど、光の少年は食らい付く。

 

 炎の拳や蹴り、頭突きは当たれば燃え続ける炎を付与される致死の一撃だ。

 

 だから避ける。避ける。避ける。避け切れなくて接触した部位が火の住処(すみか)と堕ちる。

 

 それでもまだ身体は動く。地獄の痛みと熱さに耐え、化け物じみた気力のみで戦意を漲らせていた。

 

 

「もう終わりだ。オレは生きたい。生きたい生きたい生きたい。お前は此処(ここ)で死ね」

 

「なぜ、そこまで生きたいんだ」

 

 常軌を逸した生存渇望(かつぼう)を前に、修司は思わず問う。

 重病で余命僅かなんて理由ではないだろう。属性司者は病になど罹らない。

 

「生物として当然だろう」

 

 確かに、生物として己の生存を優先するのは当然だ。

 理に適っている。論理的だ。間違ってはいない。

 

 行き過ぎている(・・・・・・・)とは思うが、他人の願いを否定する気は修司にはない。

 

「オレにはお前の方が異常に見える。自分以外のものの為に、なぜ命を危険に晒せる? 理解できない。異常者め」

 

 誰かの為に命を投げ出す方が生物として異常だろう。誰かの為に戦い続けるなど、異常者しかやりたがらない。

 

 だとしても。

 

「大切な人に生きていてほしい、幸福に生きてほしい。それは僕が望んでいることだ。僕は僕の望みに全霊を注いでいる。その点に関しては君と変わらない」

 

 生きたい望みに全霊を掛ける。大切を護るという望みに全霊を掛ける。自分がしたいことをしていることに変わりはない。

 望みが競合したら、あとはぶつかり合うだけだ。話し合いができないなら、どちらかが死ぬまで殺し合うしかない。

 

 結局、どのような理由があろうと、修司の大切な人の一人となっているルー・リーンバーグという少女を犠牲にしようとしている時点で、修司はライバルトを認められないのだ。

 

「だが光の少年、もう終わりだ。炎が今も全身を焼いている。むしろなぜ今こうして話せているのかわからない。頭がおかしいのか? 化け物め」

 

「大切な人を思うと、力が湧いてくるんだよ」

 

「それ素面(しらふ)で言っているのか? 言ってるんだろうな狂ってる。そもそも話している場合か。お前自分の姿鏡で見てみろよ。人間に見えないぞ」

 

 修司の腕は炭化し骨が見えていた。顔は半分髑髏(どくろ)と化し、腹は中身が零れかけているどころかまろび出た臓器が燃えている。死人一歩手前の異形としか言えない。

 

「覚醒……しなくちゃならないから、時間が欲しかったんだよ」

 

「ここから逆転できるわけ――できるんだろうな。お前は光の少年だ。この前みたいに光を輝かせオレを殺そうとする。やめてくれよ」

 

 ライバルトは、前回の敗北で天谷修司の本質を思い知っている。けれど聖鎧を纏い永遠の炎をぶつければ勝てると思っていた。しかし今、嫌な予感が止まらない。

 

「大切な人を護る為なら、必ず勝利する者(ヒーロー)でいなければならないというのなら」

 

「やめろっつってんだろッ! 覚醒の前に死ねッ!」

 

 鎧の背中で爆発を起こす加速、『爆炎爆速』(フィアンマブースト)を使用し、命が風前の灯火となった少年を最速で殺そうと肉薄する炎の魔人。

 

「僕はヒーローに成り、在り続けよう」

 

 されど光の少年は、死の間際とは思えぬほどの気力と希望に満ちていた。

 

 ライバルトの炎拳(えんけん)が修司の頭を、心臓を、喉を打ち抜き全身が火達磨(だるま)になる。

 

 少年は喉を焼かれ、もう声も出せないだろう。命は潰えるまでに一秒もない。

 

 されど光は覚醒する。

 

 

『世に燻る源よ、属性の()に至れ、我ら自然の体現者』

 

 

 喉を震わせない言語が時を超越した場で響く。

 

 

『助けたい。それだけを思う。大切な者達は、光だから。

 光を護る為に、光の輝きを頂こう。僕は勝たなければならない。

 歩みを阻むというのなら、邪魔だ道を開けろと、光によって打ち倒し進もう。

 必ず勝利し、必ず護り、必ず助ける。

 妄想だ夢想家だと、笑いたければ笑うがいい。

 望みを零すことなくすべて現実にしてみせよう。

 七難八苦が襲来しようと、極限まで磨き上げた光で粉砕し。

 艱難辛苦(かんなんしんく)が責め立てようと、(みな)が笑顔でいられる結末へ向けて邁進(まいしん)する。

 理不尽の死骸を乗り越えて、希望の王道を創造せしめる。必ずだ。

 故に僕は、光となる』

 

 

 それは光の誓い。

 

 

属性神エレメンタル――光の英雄(リヒトユスティーツ)

 

 主人公(ヒーロー)が、誕生する。

 

 白い。何処(どこ)までも清らかに白い全身鎧、聖鎧(せいがい)が少年に装着された。

 

 仮面のヒーローのような容姿はライバルトと同じ。されど決定的に違う。

 刮目せよ。彼こそ、本物のヒーロー。

 

 光が強く輝いた。それだけで瞬時に永遠の炎が浄滅(じょうめつ)する。

 

「あり得ない。お前それ簡単にやってるけどな、どんなにふざけたことかわかってんのか。永遠の炎だぞ。消えるわけがないんだよ。火属性の究極、属性神(エレメンタル)の力で創られた炎なんだ。属性の頂点の概念がそうそう消されてたまるか」

 

「でもできなければ勝てない」

 

 ならばやるだけだと光の英雄は常識を破壊していく。

 常識通りでいてはヒーローではいられないと、光によって進み続ける。

 

 修司の体は、聖鎧に覚醒したエネルギーの余波で、喉や臓器などが多少回復していた。

 回復しきれていなくとも動けるようになった体で戦闘を再開。

 光纏いし鎧と炎纏いし鎧が激突する。

 

 修司がライバルトの拳を逸らした時にまた永遠の炎が付与されそうになるが、移る前にその炎は浄滅した。 

 幾らライバルトが修司の体に接触しようと、もう光のヒーローは火炙りの刑に処されることはない。

 

「本当に、化け物めッ!」

「お互い様だよ」 

 

 永遠の炎を消す度に、修司には常人なら数回は発狂するような激痛が襲っているが、そんなものは光の者には関係ない。ただ我慢して耐えるだけでいいのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 大切な人達を思うだけで、主人公は無限に強くなれる。

 

 お互い近接戦闘しか攻撃手段はなく、技量も拮抗していた。

 しかし身体能力は修司の方が僅かに上だ。

 

 結果修司は押していく。光の攻勢が魔の炎を吹き消し、そして。

 

 光がライバルトの頭部を、心臓を貫いた。

 

 急所を完全に潰され、倒れていく炎纏いし鎧の男。

 

 英雄の勝利が高らかに――――

 

 

「まだだ」

 

 

 火は灯る。

 

 

 

 

 ライバルト・グンダレンが火属性の属性神(エレメンタル)に選ばれたのは、齢が十に満たない頃だ。

 火の力に目覚めた瞬間、目に写る世界には業火の地獄が出来上がる。

 制御の効かない火属性の頂点は、周囲を燃やし尽くし、町一つを消し炭にし、家族や友人を亡くした。

 そのうえ自らすらも火に包まれ、死に落ちる。

 

 ライバルトは死の間際、強く一つだけのことを思った。

 

 ――生きたい。

 

 家族たちを失った悲しみよりも、ただ生きたいとだけ考えた。

 死を酷く、酷く酷く恐れた。

 死の可能性が僅かでもあることが許せない。

 永遠に生き続けたい。

 

 その渇望が、属性神(エレメンタル)が不死鳥の力へと変貌する因となる。

 

 

 

 光に頭と心臓が潰された骸が、鼓動した。

 炎が男の体から燃え上がると、元通りの傷一つ無い赤き鎧の魔人がそこに立つ。 

 

「ただ生きたい。それこそ我が渇望」

 故に、その一点において右に出る者なし。

 

 そう、彼は永遠(エターナル)

 

 生き続ける「不死鳥」(エターナル)

 

 不死鳥こそが彼の本質。

 火属性の究極へと至り、拡大解釈をし、不死鳥を現実とした者。 

 不死特化の炎だからこそ、近距離攻撃しかできず、死なない。

 

 そして。

 

 殺された不死鳥は、次は死なない為に、強くなる(・・・・)

 

 放つ拳の速度が一段上がった。

 

「――っ!」

 

 今までの速度に慣れていた修司は殴り飛ばされる。

 光の聖鎧がへこんでいた。速度だけでなく威力も上がっている。

 

 体勢を整える隙など与えないと『爆炎爆速』(フィアンマブースト)でライバルトは瞬時に追い、再度拳は叩き込まれた。

 今度は逸らすことに成功したが、猛攻は止まらない。

 肩や肘に『爆炎爆速』(フィアンマブースト)し、爆速の拳技が幾度も襲う。

 速さに追いつけず、修司の聖鎧が破砕されていく。

 

「人の、生物の、生への執念を舐めるなよォッ」

「舐めてなんていないさ。ただ、僕は勝たなければならない」

 

 速さに追いつけなくなったならば、その速さを上回ればいいだけだ(・・・・・・・・・・・・・・)と、光の気力で修司も覚醒していく。

 

 光が速さを上回り、拳が炎の心臓を穿ち貫いた。

 

「まだだ」

 

 属性神(エレメンタル)の炎が燃え上がるだけで、炎の魔人は一段上の怪物として新生する。

 

 それでも光のヒーローは、気合や想い、心の光一つで何度も覚醒し、魔人の急所を幾度も破壊していく。

 

 だが、まだだ。まだだと。不死鳥は復活し続けた。

 

 復活に限りはなく、殺されるたびに強くなり続ける。

 

 属性神(エレメンタル)に選ばれた属性司者(ファクターズ)に、エネルギーの枯渇はあり得ない。

 なぜなら「属性」とは、この世を構成する要素の中核を担っている。世界を構成するレベルのエネルギーは無限に近しいほど膨大だ。

 そして属性神(エレメンタル)は、その中核からエネルギーを直接得ている。

 だから不死は無くならない。

 

 そして英雄は不死ではない。

 

 覚醒の余波で回復力が凄まじいように見えるが、修司の回復力は属性司者(ファクターズ)の平均だ。重症が数日で治る程度の回復力。それでも凄まじいことに変わりはないが、一瞬で重傷を回復できるほどではない。

 

 一般人と同じく、当たり前に頭や心臓を潰されたら死ぬのだ。

 

 ライバルトは不死なのだからいつまでも戦える、修司は一度殺されれば終わり。

 

 決定打に欠けたまま疲労が蓄積すれば、その内ライバルトに致命打を入れられるだろう。

 

「ぐぅっ……!?」

 

 なにか打開策はないかと思考した瞬間を突かれ、修司の脇腹は削られた。

 

「創作物によくある、対不死者用の手が通用すると思うなよ。不死鳥に弱点はない。地中深くに埋められようが、宇宙の彼方まで飛ばされようが、次元の彼方に放り出されたとしても戻って来てやる。なにせ消えない命だ。時間は幾らでもあるからよォ」

 

「――っ!!!」

 

 光によって覚醒し、瞬間的な超高出力でライバルトを細胞一つ残らず消し飛ばした。

 

「弱点はねえっつったろ」

 

 瞬時にして灯った炎が舞い上がりライバルト・グンダレンの形を成す。

 

 壊せば死ぬ核のようなものもないのだろう。細胞一つさえ残れば再生するという類でもない。なにをしても復活する。修司に水は出せないが、通常火属性が苦手とする水属性をぶつけたとしても殺せないだろう。不死に属性相性は意味をなさない。

 

 本当にライバルトを殺す手段はないのだ。

 

 天谷修司は思い知った。

 

 光のヒーローは思い知った。

 

 

 ――ああ、だが、それで?

 

 

 まだるっこしい。

 

 論理的に殺せる手段が一つもなく、それでも諦めることだけはできないのなら。

 勝利以外は許されないのなら。

 

 正面から潰せばいいだけだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 できないなどと、光のヒーローにそんな言い訳は通用しない。

 

「しゅうちゃん、勝って、帰ってきて!」

「しゅうじくん負けるなー!」 

 

 大切な人たちの声が聞こえるのだ。

 

 それだけで無限に強くなれる。

 それだけで無限に覚醒できる。

 

 光が、祈りが、ヒーローの右手に集まっていく。

 

 不思議な、奇怪な、奇跡の光が。

 

 ライバルトは思った。すぐに殺さなければ。と。

 

「光の少年は度し難い」

 

 これだけ不可能を突き付けても何をするかわからない。いやな予感が止まらない。

 

 けれどここまでに修司を殺せていない時点で、すぐに殺すのは難しい。

 

 だが殺さなければ殺される。死にたくない生きたい生きたい生きたい。ライバルトはそう思うからこそ。

 

「うおおおおおおオオオオオオッッ」

 

 炎の乱打が、光を右手に溜めることへ集中している修司を襲う。左腕や体捌きで致命傷を防いでいくが、ズタボロの様になっていく。白き鎧の破片がぶちまけられ鮮血が舞う。

 

 奇跡の光を集めていた修司の右腕が、千切れ飛んだ。

 

「取ったッ!」 

 

 光は右手のみに集中していた。ならば右腕を切り離せば不条理な奇跡は起こせない。

 

「その通りだよ」

 

 だから光の主人公(ヒーロー)は、宙を舞う右腕を左手で掴み取った(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 極大の奇跡が、硬く握られた右の拳に充填完了。 

 

 炎の魔人が抱いた驚愕によって生じた僅かな隙に、左腕で放つ右の拳が突き刺さる。

 

「な、お前、ふざけん――」

 

 奇跡は起こる。

 

 不死という現実は無視され(・・・・・・・・・・・・)、光が敵を討ち倒すという現象が無理矢理顕現した。

 

 不死鳥の体は消滅していく。

 

 復活の気配は一切ない。

 

「意味が、わかんねえ……」

 

 身体を必死に掻き抱く、生だけを求め歩んできた男。

 

「いやだ」

 

「まだだ」

 

「まだオレは生きたい……」

 

「ずっと、生きたい」

 

 光のヒーローは何も言わない。ただ、全力でぶつかり合った相手を見つめている。

 

 ライバルト・グンダレンは最後の瞬間まで、生きたいと言葉にし続けながら、死へと落ちた。

 

 散った属性神は無数の粒子となり儀式場である真徳高校の敷地へと降り注ぐ。姫墜劇の儀式へエネルギーが充填された。

 

 

 

 ああ、我が光のヒーローよ。

 素晴らしい勝利だ。

 途中からでも観れてよかった。

 満足だ。

 英雄の光は揺らがない。

 

 俺は今満身創痍の体を引き摺っている。

 

 何故なら俺はさっきまで、表舞台とは関係ない野暮用を(こな)していたからだ。

 

 

 


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