VOICEROIDに喋りかけられたかった(幻想) 作:はごろも282
あの、聞いてます?
確か私は言ったはずですよね?最低限の掃除洗濯、あと健康を意識した食生活をしてほしいと。
私の間違いでなければあのときのアナタは『はい』と言ったと思うんです。違いましたか?
……え?聞こえませんが?ちゃんと、私の、目を見て、ハッキリと喋ってもらえますか?
というかどうして正座なんかしているんです?もっと堂々としてくれますか?マスターは貴方でしょう?今の状況、冷静に見て事案ですよ事案。誰かに見られでもしたら逮捕待ったなしです。良い方向へ転んだとしても高いお金払って美少女にそーゆープレイ強要する変態です。
いいですかマスター。大してご近所付き合いもしない、あからさまに邪魔になるまで髪も切らない、滅多に家から出てこないけど通販のダンボールばかりが届くなんていう三重苦のダメダメなアナタはいかに人格が優れていようと世間から白い目で見られます。コレは確定事項です。
なに?私がわかってるならソレでいい?
はぁ……この際言っときますけどね。私がなんと言ったところで社会的にはなんの説得力も無いんです。あくまで私はマスターの所有物、法律上はいい大人のおもちゃ遊びで処理されます。見に覚えのない通報をされ、弁明も聞いてもらえず、ご近所さんからは批判的な声ばかり、そして最終的にVOICEROID保護法で裁かれるマスター、寂しい結末ですね。
あ、あと基本的にマスターの人格は終わっています。ファンの方の呼称が金鶴だったときに確信しましたとも。
……え?お前は道具じゃない?家族だ?
今はそういう話じゃないんですこの大馬鹿さん。ペットの犬が轢き殺されても器物損壊罪として処理されるように、主がなんと言おうが法律上はモノなんです。そういう屁理屈は求めていません。
あと、家族云々は私も理解していますから悪しからず。私がこの家に来てからもう結構しますし。普段の姿からは考えられない無駄に律儀なそういうとこだけは素直に好ましく思います。だから今後その直球は控えるように、恥ずかしいので。
って、そんなことはいいんですよ。私が言いたいのはですね、私がいなくても人並みの生活をしろということです。
実況動画でそれなりの収入を得ている今、ネットでの貴方の知名度はソコソコです。それは確かです。しかし、こと現実においては別の話。先程言ったとおりマスターの社会的信頼は地の底を越えてマントル突入レベルです。だって回覧板も通販の受け取りも買い出しも私がやってるんですから。
ええ、もちろん仰るとおりです。全て私が率先してやってることですね。お高い維持費を払っていただく以上、私だって何かお役に立てたらいいと思いますから。
……気にしなくていい?いいえ、いいえですよマスター。こういうのはメリハリが大切なんです。互いに助け合ってこそニンゲン、マスターが私を家族と呼ぶのならここは譲れません。私にもプライドとかがあるので。
ええ、ええ。だからコレは私にも問題がありました。人扱いされる生活に舞い上がって身の回りのことを私がやりすぎたせいでマスターはズボラを超越したダメ男になってしまったんですよね。キチンと分業をするべきでした。大いに反省しています。
だから今回の定期検診をキッカケにマスターに人並みの生活能力を取り戻してもらおうと思ったのに……もう!どうしてこんなに汚いんですか!どうして玄関にダンボールが溜まっているんですか!どうしてこんなに空気が淀んでいるんですか!
……編集に没頭していた?いいところだった?帰ってくる前にはやるつもりだった?むしろお前が早すぎる?
ぶん殴られたいんですか?うそ、本気で言ってますかソレ?私が出発して一週間経ってるんですよ?どこかの誰かが勝手に超精密メンテコースなんてのを申請してくれたおかげで。
……皮肉ですが!?ええ!私は至って健康でしたよッ!!持ち主の日頃のメンテナンスが素晴らしいと褒められましたッ!当人は自分のメンテナンスがゴミクソみたいですけど!!
……だからお前が必要だ、ですか……?
言いやがりましたねこのスカポンタン。今こう言っとけば許してもらえると思ったでしょう?よくアニメとか漫画にありますもんねそういうシーン。ヒロインが真っ赤になったりして。あれ何で主人公とぼけてるんですかね?コレ言ったら喜ぶだろうとか話うやむやにできるだろうとか考えてるでしょ絶対。
あとマスター。漫画と現実は一緒にしちゃだめですよ。確かにひきこもりでコミュニケーションをろくにしないとそういう知識が漫画アニメからになっちゃうのも分かります。でもあーゆーのはマスターみたいに経験がない人たちの妄想に妄想が重なってできたものです。交差点でぶつかった転校生はいないし髪に芋けんぴはつきません。窓から入ってくる幼馴染は存在しないし女の子たちだらけの軽音部やキャンプは幻想です。みんなそんな場面に遭遇したことないんです。そうだったらいいなっていう欲望を詰め込んだだけです。
何が言いたいかというとですね、さっきの状況でのマスターの発言に対する返答は『うるせーカス』です。せっかく長々説明したのに理解されなくてイラつくだけです。猛省してください。
……あ!ついに開き直りましたねこの男!?いいでしょう、そんな態度なら私にも考えがありますから!
……なにをしてるのか、ですか?見たらわかるでしょう。最近マスターがひっそり購入してた新モデルのVOICEROIDの設定変更申請です。なにやら甘やかしてくれるバブみ?がどうこうと仰っていたので。よくわかりませんが甘えたいんですよね?ということでせっかくだから詳細をマスターのお母さんに合わせうわぁ!?なにするんです!?というか危ないですって!そこらへんには緊急交戦ボタ……あっ。
読み上げ機能は最初は実装されてないなんて知らなかったんだ、のっけから躓いたのはガン萎えすぎる、バグってワンチャン実装されるラインまで伸びるかも、等と供述しており……