the lost story   作:闇谷 紅

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第八話「なあに、こんなのはホンの致命傷だ」

(うわぁ)

 

 事情を聞いたらかなり重かった。バニーさんの父親は行商で、魔物に襲われ亡くなったということなのだが不幸はそれで終わらなかったのだ。既に母親はなく、残されたのは借金のみ。

 

「このままでは借金のカタにその、そういうお店に行くしかないと言うところで声をかけて貰ったんです」

 

 諦めるのはまだ早い、職業訓練所で何らかの適正が見つかればそれでお金を稼いでいけるかも知れない、と。

 

「それで適正を調べに行ったら――」

 

 適正があったのは遊び人オンリー、冒険の役に立つとは思われずお誘いがかかるのはどう考えても身体が目当てな男ばかり。勇者が来た時は声をかけたかったのだが、天敵である酔っぱらいがいて近寄れなかったらしい。

 

「ここでウェイトレスさせて貰ってるのですが……お、お給料だけじゃ借金は殆ど減らなくて」

 

 かなり追いつめられていたところに俺が登場したと言う訳だ。

 

(こんなはなしきかされて、「はいさようなら」なんてできるわけないじゃないですかやだー)

 

 出来たのは、動揺を悟られないようにして店主のルイーダに尋ねることだけ。

 

「いいか?」

 

 勇者は試された。なら今度は俺が試されたっておかしくはない。

 

「もちろん良いわよ。貴方になら安心して預けられそうだし」

 

(え)

 

 だと言うのに拍子抜けするほどあっさりで面を食らう。

 

「理由を説明するとね、貴方が助けた勇者には念のために人をつけてたのよ」

 

「なっ」

 

 思わず驚きが口から出てしまった俺を前に、ルイーダさんは説明し始めた。

 

「国王自ら魔王討伐に向かうことを承認した勇者があっさり倒れるようなことがあれば国の体面に傷が付くでしょ?」

 

 故にいざとなったら倒れた勇者を回収すべく腕利きの者達が待機していた、と言うことらしい。

 

(ああ、全滅した後王様の前で復活するアレか……って、いうことは)

 

 納得はしたが、同時にもの凄く嫌な予感がして硬直する。

 

「貴方には先を越されたようだけれど」

 

(ああああっ、やっぱ見られてたぁぁぁぁっ)

 

 致命的大失敗であった。

 

(ということは「らりほー」や「ざおらる」つかったことまでしってるんですね、わかります)

 

 拙い、拙すぎる。

 

(落ち着け! いや無理だ! じゃなくて、えーと)

 

 もうこの時点で俺の頭の中は「どうしよう」と言う単語でいっぱいだった。

 

(どうやってごまか)

 

「けど、『盗賊が信心深いとか、マジ目ェ疑った』とも言ってたわね」

 

(えっ?)

 

 パニックになっている間もルイーダさんはしゃべっていて、声には出さなかったが、驚きが顔に出てしまっていたのだろう。

 

「助けた相手にまだ息があったと知って神に感謝の祈りを捧げたんでしょ?」

 

(……あるぇ、ひょっとして呪文使ったのはバレて……ない?)

 

 クスクス笑いつつ首を傾げるルイーダさんの言葉が時間差で頭に染み込んできて、俺は心の中で胸をなで下ろそうとし、一つの疑問にぶち当たった。

 

(ん? けどラリホーの方は誤魔化しようが無かったよなぁ)

 

 そちらに言及されなかったことに疑問が残ったが、ルイーダさんの次の一言で得心がいった。

 

「貴方がいてくれて助かったわ。さっきは先を越されたっていったけれど、あの娘につけてた人達が直前に魔物の群れと出くわしちゃって、タイミング際どかったのよ。ようやく辿り着いた時には貴方がスライムを蹴り飛ばしてるところだったわ」

 

(あぁ、あっちは見られなかったのか。良かったぁぁぁ)

 

 と言うか、勇者の処置で最初に使ったのがザオラルで良かった。ザメハや回復呪文のホイミとかかけていたら言い逃れのしようも無かった。

 

「だからあの娘の胸を触ったことは内緒にしておいてあげる」

 

「っ」

 

(あんしんさせたところでとんでもないばくだんなげつけてきましたよ、このおんな)

 

 ばにーさんに聞かれないよう耳もとで囁いてくれたのだけはありがたかったが。

 

「そのかわり、あの娘に護衛がついていたことは秘密よ」

 

(うぐぐぐ)

 

 あれは不可抗力だろうと小声で抵抗しつつも結局俺はルイーダさんの要求を呑むより他になく、胸中で誓ったのだった。

 

(今後は呪文の扱いもっと徹底しよう)

 

 こんな致命的失敗は一度で充分だ。

 

「しかし、覗き見とは良い趣味をしてるな」

 

 これ以上ボロが出ないように気分を害した態で俺は吐き捨てると、ルイーダさんに背を向け歩き出す。

 

(これは、仕方ないよな)

 

 本当ならもう一人メンバーを入れたかったが、このままルイーダさんと会話を続ける余裕なんて俺の中のどこを探したところで見つかりようもない。

 

「行くぞ」

 

「あっ、は、はい」

 

 バニーさんに声をかけ、俺は酒場から逃げ出したのだった。

 

「あの、ところで貴方のお名前を伺ってないのですが――」

 

「……名か」

 

 ちなみに当然の如く尋ねてきたバニーさんの疑問には、勇者の時と同じ答えを返しておいた。

 

「わ、わかりました。これからよろしくお願いします、ご主人様」

 

「あ、あぁ」

 

(すきによべとはいったがどうしてそうなったとあたまをかかえたくなったのはおれだけのひみつですよ)

 

 と言うか、本当にどうしてこうなった。

 

 自分以外女の子のパーティーは止めようと思っていたはずなのに、結果はご覧の有様である。

 

(はーれむぱーてぃーじゃないですかーやだー)

 

 これで恋愛OKなら百歩譲って「役得ひゃっほー」とか言えるのだが、借り物の身体で誰かとお付き合い出来ない俺にとってはただの苦行。

 

(これが世界の悪意かっ)

 

 実際はそんなことなどないのだろうが、疑ってしまう俺を許して欲しい、世界よ。

 

(現実逃避はこの辺にして、遊び人って何が装備出来たかな?)

 

 ルイーダの酒場には日を改めてもう一度行くと言う選択肢もある。

 

(となると、バニーさんと勇者の初対面とか他のやることは明日以降か)

 

 そう、『明日』以降。

 

「ところで、今日の宿はどうなっている?」

 

「えっ、家はとっくに売り払ってしまいましたし……その」

 

「……予定変更だ」

 

 もじもじするバニーさんの態度でとんでもない大問題が残っていた事に気づいた俺は、勇者の家を再訪問しバニーさんを預かってくれるよう頼んだのだった。

 

 

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