「心の折れた勇者を立ち上がらせつつもあくまで魔王を倒すのは勇者、人の手に委ねようというお考え感じ入りましたじゃ」
「いや」
盛大なパニックに陥った俺ではあったが、何とか復帰してふと思いついたのだ、これはひょっとして話の持って行きようで、魔王討伐メンバーから外れられるのではないかと。
(まさかこんなに上手くいくとはなぁ)
そして、そのまま思いつきを決行、今に至る。
(あー、ただ本物のルビス様はどう思うだろ)
下の世界で石になったルビス様と会うようなイベントがあった気がするのだが、そこだけが気がかりである。
「第一部外者の俺が出張ってはこの国の体面も保てまい? 俺が気にすることではないような気もするが、此処は勇者の故国だろうしな」
「はっ、お心遣い痛み入ります」
神様とかの使いポジションとしてはこんなことを配慮するのも不自然だが、人の身ならおかしくもない。
(嘘は言わないようにしておこう、それで居て王様には勝手に勘違いしていて貰うという方向で)
ぶっちゃけ神罰というかルビス様からの罰が怖い。
(しかしなぁ、このポジションだと勇者を救ったから褒美をよこせとは言えないよなぁ)
あわよくばあの女戦士の性格を矯正する本でもねだろうかと思っていたのだが、ルビスの使いが要求するのは不自然すぎる。
(さっさと話を切り上げて探しに行くか)
王の勘違いを利用すればたぶん口止めも出来るだろう。
「『ぼうけんのしょ』は今此処にあるか? 大本の用件を済ませよう」
「はっ、はい」
俺が用件を切り出せば、王は羊皮紙の束の様なモノを取り出す。
(あれが「ぼうけんのしょ」かぁ。ああ、勘違いされてなかったらあれも調べたかったんだけどなぁ)
ひょっとしたらこの肉体だけゲームデータを引き継いでいる謎や元の世界に帰るヒントになるかも知れないと密かに睨んでいたモノだけに未練だが、不自然な行動は出来ない。
(次の国、ロマリアに希望を託すしかないよね)
今度こそ大ポカはやらかさずに済みたいものである。
「ではこれから勇者の近況を話すが、俺はただの盗賊に過ぎない」
「わかっておりますじゃ、そう言うことにしておくのですな?」
釘を刺す形に偽装して俺が真実を話せば、王は此方の都合の良い方に誤解した。
「まず、勇者を助けたところからにするか。俺が勇者シャルロットと出会ったのは――」
敢えて確認は無視して、一方的に話し始める。
「なるほど、時に勇者は何故そんな短期間で力をつけられたのですかな?」
「やはり、そこに目をつけるか」
勇者とバニーさんの異常なレベルアップについては、人の世には出せない秘術と言うことにしておいた。
(しあわせのくつのことは言えないもんな。この辺り追求されない点はありがたい誤解だったけど)
そもそも、あの修行方法自体人に話せるようなモノではない。
(そこの所はどうなってるんだろ、ルイーダさんから報告行ってる筈じゃ)
ひょっとして「ルビスの使い」だからで納得したんだろうか、セクハラ鬼ごっこやらせたことを。
(「ルビス様の使いの指示」で「勇者のお尻を狙わせた」ってことになってたら……)
絶対怒られる、罰が当たる、ひょっとしたら呪われたり祟られるかも知れない。
(だからってここで「かんちがいです」なんていえるわけないじゃないですかーやだー)
もしどこかでルビス様に会うことがあれば、謝ろう。
(とはいうものの、俺の知っている限りではルビス様に会えるのって勇者のキャラクターメイキングで見る夢の中と地下世界だけなんだよなぁ)
ひょっとして夢か、眠ればいいのだろうか。
(ああ、そう言えば昨日ろくに眠れなかったもんなぁ)
思い出すと急に眠気が襲ってくる。
「しかと記録致しましたぞよ。して、またすぐに旅立たれるおつもりかな?」
言い訳になるかも知れないが、だからこそ、俺はついこう答えてしまったのだ。
「いや、疲れているからな。少し宿に戻って休むつもりだ」
と。これが失敗だった。
「ではしばしお休みください。では、また」
(え?)
王の言葉が聞こえたと思った直後、視界が暗転し、世界が暗闇に包まれる。
(しまった、ゲームを終りょ)
身体は動かず、周囲からの物音もいっさい消えて思考も途切れた。
何も感じられない、考えられない。そんな時間がどれほど過ぎたのか。
「っ、うあぁぁぁぁ!」
気づくと俺は上半身を起こして叫んでいた。
「うぇっ?! え? えっ?」
そう、自分自身の体で。目の前には放置しつつづけた為か真っ暗になったディスプレイ。
(そっか、確かドラクエの二次創作小説を読んでて、俺は――)
寝オチしてしまったのだろう。身体の節々が痛いし、鏡で見ると顔にキーボードの痕がついていた。
「夢、だったのか」
妙にリアルな夢だった。
「う、うん。そうだよな。ゲームの中に何て二次創作モノじゃあるまいし」
可愛い女の子が何人も出てきたのは、俺の願望だろうか。
(そう、良い子だったよな。シャルロット)
一度は挫けつつも疑似後衛職という形ではあるものの、復活を果たした女勇者。
「お師匠様、行ってきますっ」
目を閉じれば浮かんでくる少女の顔、影ながら護衛しているとも知らず、元気に手を振ってそんな風にレーベへ出発していったのは、つい先日のこと。
(彼女達なら魔王だって倒してくれる。アドバイスだってしたし)
良いじゃないか、と思う。そもそも荒事の苦手な俺に魔王討伐なんて無理な話だ。
(そもそも初めは逃げようと思ってた訳だし)
元の世界に戻ってこられた。逃げようと思っていた魔王討伐の任務を強要されることだってない。
(そうだよ、中途半端な格好だけど、無理矢理打ち切った漫画みたいなオチだけどこれで良かったんだ)
逃げだそうとした、行きたくないと思っていたのならこれで良しとすべきなのだ。
(なのに、どうして……こうっ)
こうも気になるのか。
「ぐぅっ」
誰も答えてくれない。ただ、俺はパソコンの前で目をつぶり、拳を強く握りしめていた。