the lost story   作:闇谷 紅

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番外編3「強くて追跡者(盗賊視点)」

(なんだ、こりゃ?)

 

 最初おれは、酒に酔ったのかと思った。視界はもやがかかったようにぼんやりして、はっきりしない。

 

(いや、ゾーマを倒しに行くってのに酒を飲む訳がねぇ)

 

 そう、ゾーマだ。俺は勇者達と大魔王ゾーマを倒しに行く所だったはず。ルイーダの声と見覚えのある光景からルイーダの酒場であることは何となくわかったが、身体も思うように動かない。

 

(どういうことだってンだ? 夢か、夢なのか?)

 

 混乱して喚いてみても口から出るはずの声は漏れず、おれの口は全く別の言葉を呟いていた。

 

「ドラクエかぁ」

 

(ドラクエ?)

 

 何を言っているのか、わからない。そう思ったのは、一瞬のこと。

 

(「ドラゴンクエスト」? うぉっ、なん……だ、こいつ……)

 

 聞き覚えのない単語に疑問を抱いた瞬間、それについての知識が頭の中に流れ込んでくる。

 

(おい、嘘だろ? おれが、おれやアイツやリシア達が「ごっこ遊び」の駒だったって言うのか?)

 

 愕然とする俺を放置して、俺の中で誰かが思考する。

 

(トリップ、憑依……)

 

 呆然としながらも聞き覚えのない単語を口にすると、その意味が流れ込んでくるのだ。信じたくはないが、「誰か」の思考は得られた情報を元にすると、整合性がついた。

 

(しかも、コイツが……「遊び手」)

 

 おれ達を玩具にしていた張本人が、おれの身体の主導権を握る。冗談じゃねぇ。まして、コイツはおれのことを思い出さなければ気づかなかったフシがある。

 

(昔の玩具は覚えてねぇってか、くそっ! だが、ンなことは良い。みんなは、リシアは)

 

 おれ達はこの休暇が終わったらゾーマを倒しに行くはずだった。

 

 オヤジさんがあんな事になったってのに大事をとって引きすことを提案したアイツ。そんなアイツを気遣う女戦士のエレン。そして、この旅が終わったら一緒に暮らそうと約束した女盗賊のリシア。

 

(おれの中身がンな役立たずの状態じゃ――)

 

 確実に足を引っ張る、下手をすればそのせいでアイツらが、リシアが窮地に陥ることだって考えられるのだ。

 

(ン? あれは……拙い、もう休暇が終わってたのか。くそっ、身体さえ動)

 

 焦ったところで視界の端に見えてきたのは、勇者のトレードマークだった黒髪とアイツの纏っていたマントの色。もう時間がない、焦燥感に駆られたおれを絶句させた奴が一人。

 

(なに?)

 

 見下げ果てたことに、おれに憑依しているコイツはどうやって逃げようかだけを考えパニックになっていたのだ。

 

(ざけンな! てめぇ、それがどういうことだか解ってンのか! は?)

 

 大魔王がどれほど強いかなどおれは知りようもない。だから叫ぶと、おれの不安や疑問を察した何かが情報を流し込んでくる。既に一度ゾーマを倒していること、その後おれ達がどうなったかを。

 

「はい?」

 

 ただ、おれの驚きはそこで終わらない。身体がすっとんきょうな声を上げて我に返らされたおれが聞いた声は、アイツのものとは比べものにならないほど高い声、そしてこれからバラモスを倒しに行くという勇者の説明だった。

 

(なンだよ、この状況はぁっ)

 

 人の身体を勝手に使ってる「遊び手」は似通った状況を知っているらしかった、だが気づいては居ねぇ。勇者がおれの知っているアイツではなく女だったことも、どう見ても駆け出しにしか見えなかったことも。

 

(リシアは、リシアはどうなったんだよ? アイツが居ないんじゃ)

 

 再び取り乱したおれが、知りたいことのヒントを得られたのは、その後「遊び手」のヤローがアホなことをやったあげく呪文にはしゃいだ後のことだった。

 

「どういう……ことだ?」

 

(遅ぇよ)

 

 ようやく勇者が女だってことに気づいておれの身体は呆然と呟いたが、それはこっちが聞きたいことだ。

 

(リセット? おい、嘘だろ?)

 

 しかも、更に時間を経て待っていたのはロクでもなさ過ぎる結果と来てやがる。

 

「仕方ないにゃあ。出来ればプロポーズはもうちょっとこう、格好いい台詞が良かったけどにゃあ」

 

 なんてついこの間、星空の下で笑っていた婚約者がもうどこにも居ないのだ。アイツが居ない時点で、嫌な予感はしていた。

 

(ンなことってあるかよ! あってたまるかよ!)

 

 自分だけが残って、何の意味があるというのか、身体も自由にならない状態で。

 

(くそっ)

 

 夢だと思いたかった、夢でないというならせめてリシア達と一緒に消えたかった。何が原因でおれはこんなふざけた状況で一人残されたのか。

 

「やっぱりこの世界、『おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました』してしまったんだろうな」

 

(コイツ……)

 

 宝箱を前に嘆息し、独り言を漏らしながら考察を始めた「遊び手」に、おれが覚えたのは憎悪と殺気だった。コイツにとってはおれもリシアも玩具のパーツに過ぎないのだろう。

 

(上等だ)

 

 だが、それでもコイツの思考に耳を傾け続けた。一縷の希望に縋りたかったと言うのもある、だが同時にコイツが全ての原因だと判明したなら、思い知らせてやる。

 

(逃げられると思うなよ?)

 

 声を届ける術もないおれの一人だけの誓い。どこに逃げようと、世界が違おうが追いかけて追いつめる。絶望に折れかけた心を繋ぎ止める為の、誓い。

 

「けど、『盗賊が信心深いとか、マジ目ェ疑った』とも言ってたわね」

 

(は?)

 

 ただ、半ば復讐の為の情報収集になりかけていたおれに転機が訪れたのは、特徴的な言葉遣いを真似たルイーダの言葉を聞いた瞬間だった。

 

(なんでヒャッキが、アイツも「データが消えた」なら居ない筈だろ?)

 

 同じ名前、同じ顔の存在が別の世界も同然のこの世界に存在する。

 

(「平行世界」だって? なんだそりゃ?)

 

 おれの疑問に反応したのか、流れ込んできた知識に更におれが呟くと、その疑問を流れ込んできた知識が補填する。

 

(ってぇと、この世界にもリシアは居るかもしれねぇのか)

 

 差し込んだ僅かな光。

 

(そうか、登録所……あそこで探して貰えれば)

 

 見えてきた希望だったが、叶えるには大きな障害がある。

 

(駄目だ、身体が動かせねぇんじゃ、どうしようもねぇ)

 

 歯がゆかった。どうすれば、自分の身体を動かせるのかだけを考えて時間は過ぎゆき、やがて機会は向こうからやって来た。

 

「いや、疲れているからな。少し宿に戻って休むつもりだ」

 

「ではしばしお休みください。では、また」

 

 ルビスの使いと勘違いされた「遊び手」と国王陛下のやりとりをおれはただ聞いていた。

 

「っ」

 

 身体のコントロールは「遊び手」とばかり思っていたからこそ、身体の感覚が急に戻ったのは、不意打ち以外の何者でもねぇ。

 

(どういうこった?)

 

「ど、どうなされました?」

 

「い、いやなんでもない。少し疲れが出たようだ、俺は失礼するとしよう」

 

 さんざん聞かされていた「遊び手」の作り上げたキャラの口調を真似てその場を取り繕うと、早々に国王陛下の元を後にする。

 

(「セーブして中断」したから「憑依」が解けたってのか?)

 

 身体の中から「遊び手」が抜けたからか、疑問に答えは返ってこない。

 

(まぁいい。やることはいくらでもある。アイツが戻って来た時と来ない場合両方で対策を立てるのもあるが、まずは)

 

 何にしてもまず向かう場所は、ただ一つ。他には考えられなかった。

 

「探して貰って良いか? 名前はリシア、女で年齢は――」

 

 得た知識から似て異なる別人かも知れないとも知りながら、おれは登録所の職員に依頼し。

 

(帰ったまんまってンならそれでもいい、けどなぁ、そン時は――)

 

 俺は確信していた、「アレ」に気づけば「遊び手」はまず戻ってくると言うことを。

 

 

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