the lost story   作:闇谷 紅

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第二十一話「あの場所へ」

「あの時読んでたのは、確かこれだった筈……」

 

 とりあえず、俺はゲームの世界に行くまで見ていた二次創作小説のページを開くと、そばに置いておいた一冊の本を手に取る。

 

「はーっ、物質まで持ち込めるならこれ持って行くんだけどなぁ」

 

 部屋をひっくり返して見つけたのは、ドラクエⅢのガイドブックだった。旧バージョンのものだが、この本一冊のもたらす恩恵は計り知れない。

 

(覚えられるだけ覚えて行くしかないかなぁ)

 

 別窓で開いていた攻略サイトの情報も含め、使えそうな部分と睨めっこし俺はうむむと唸る。

 

(何だかテスト勉強を彷彿とさせるよな、こういうの)

 

 これだけやって何も起きなかったら馬鹿みたいだが、もうあの世界はいいやと放置する気にはなれないのだ。

 

(まるっきりゲームと同じじゃなかったもんな、あそこは――)

 

 何故ゲームと差異があるのか。

 

 常識的に考えればおかしいと言う部分を補填している様にも見えるが、それだけでは若干説明がつかない気もするのだ。

 

(そりゃ、魔王と戦うとかゴメンだけどさ)

 

 せめて、俺の仮説がただの取り越し苦労であるかは確認しておきたかった。

 

(念のために魔王の呪文耐性と行動パターンも確認しておくべきかなぁ、けどそれって思いっきりフラグになりそうな気がするし……)

 

 知識は多いに越したことはないが、俺の記憶力にも限界がある。

 

(やっぱ、無理だわ。とりあえずアリアハン周辺のデータメインで搾って、あとは……)

 

 取捨選択に悩みつつ、重要そうな情報を覚える作業を繰り返していると、何だか眠気が襲ってきて。

 

「ふぁ」

 

 あくびをしたところまでは、覚えている、そして――。

 

「よくぞ戻られた!」

 

 気づくと、俺はアリアハン国王の前に居た。

 

「あなたはもう充分にお強い」

 

 どうやら再びあの世界に戻っては来られたようだが、王様の敬語は相変わらずで、お約束のように告げられたカンスト宣言に肩をすくめる。

 

(まあいいや、忘れないうちに覚えてることを実践し)

 

 そう、戻ってきたからにはやることがあるのだ、俺はさっさと話を切り上げるつもりで気もそぞろに無言で頷き。

 

「リシアが次のレベルになるには9862の経験が必要じゃ」

 

「は?」

 

 国王の続けた言葉に我が耳を疑った。

 

(えっ、ええっ?! リシアって、ちょっ)

 

 一瞬誰だと叫びそうになったが、その名前には聞き覚えがある。この身体同様ゾーマを倒そうとしていたパーティーメンバーの一人。このキャラの後釜にしようと賢者から盗賊に転職させた所だったはずだ。

 

「うにゅう、まだかなりあるにゃあ」

 

(はい?)

 

 であるというのに、声に釣られて反射的に振り向いた先には遊び人の少女が一人。

 

(なぜに……あそびにん?)

 

 しかも装備もくさりがまに亀の甲羅にターバンとレーベまでで最強装備を揃えてみましたと言った感じのコーディネートになっている。うん、ハイヒールのかわりに履いてるしあわせのくつを除けば、だが。

 

(休んでる間に何があった)

 

 ぶっちゃけ、誰か状況を説明して欲しいが、正直に尋ねる訳にも行かない。

 

(可能性があるとすれば……ううむ)

 

 憑依が解けた後、この身体――つまり本来の中の人が動いたのではないかと思う。

 

(って、考えててもどうしようもないよな)

 

 いきなりの展開に面を食らったが、ぼーっと突っ立ってても不審がられるだろう。

 

(とにかく、一旦移動しよう)

 

 勇者が岬の洞窟の攻略に向かってたのは幸いか。

 

「わかりましたっ。じゃ、じゃあボク……塔の攻略をしてから戻ります」

 

 俺がナジミの塔の情報も一緒に与えると、ぐっと両手を握ってそんな風に答えていたから、たぶん鉢合わせはしない筈。

 

「にゅ? 黙っちゃってどうかしたかにゃ?」

 

「いや、行くぞリシア」

 

「はいにゃ♪」

 

 訝しんで尋ねてきた少女に頭を振って促せば、返ってきたのは元気な声。

 

(ゲームじゃパーティー内の会話なんて殆どなかったもんな)

 

 こうしてゲームの世界に来るなんて事態がなければ、これほど深くキャラのことを見ることだって無かったかも知れない。

 

(って、和んでる場合じゃない。何とかして経緯を聞き出さないと)

 

 そうなってくるとカマをかけるか、話をあわせて聞き出すか、だが。

 

「あ、そうだったにゃ。ねーねー」

 

 俺が悩んでいると、後ろでポンと手を打つ音がして、ちょんちょんと背中を突かれた。

 

「ポッケの手紙って結局何だったにゃ? 王様に帰還の報告したあとで教えてくれるって話だったにゃ」

 

「手紙?」

 

「むーっ、とぼけて誤魔化すつもりかにゃ?」

 

「いや、ちょっと待て――これか」

 

 言われてポケットを漁れば違和感があり、手を突っ込んで取り出せば、それは一枚の畳まれた羊皮紙だった。

 

(手紙ねぇ、けど俺に読めるんだろうか?)

 

 言葉は理解できているわけだが、宿の看板は「INN」と英語表記だった気がするのだ。

 

(ワタシ、イングリッシュワッカリマセーン)

 

 手がかりが来たかと思ったが、なんだこの仕打ちは。

 

(それでも言葉がわかるんだから、ご都合主義が何とかしてくれる)

 

 心の中で祈りつつ、俺は羊皮紙を開く。

 

(はい?)

 

 綴られていた文字は、全文ひらがな。

 

「まず始めに書いとくが、この文字はてめぇにしか読めねぇ」

 

 一行目は読みやすく漢字に直すとそうなる。

 

「だから盗み見られてもリシアにゃわかりゃしねぇ」

 

 続く一行からするに、手紙の主は俺が平仮名を読めることを知っていて、かつ他者には見えたら拙いモノとしてこの手紙をしたためたのだ。

 

(えーと)

 

 そもそもひらがなを読めることなど誰かに言った覚えはない。故に、もう手紙の送り主に予想はついていた、ただ。

 

「てめぇだけは許さねぇ、どんな手を使ってでも復讐してやる」

 

 とか敵意が溢れ出んばかりの復讐予告をされたら、俺はどうすれば良いんだろう。

 

(何ですか、この展開)

 

 いや、自分の身体で好き勝手されたら誰だって良く思わない。

 

 そう、手紙の主はこの身体の持ち主でリシアにさりげなく羊皮紙の存在を知らせることで「伝言」に俺が気づくようにし向けたらしい、が。

 

(ましてや、それだけじゃないしなぁ)

 

 この身体の持ち主からすれば今居る世界は似て異なる世界。一緒に旅をしていた仲間のうち勇者は確実に別人。

 

(となると、このリシアも)

 

 おそらく、俺も知ってるリシアとは別人なのだ。そう、この身体の持ち主の恋人で、ゾーマを倒し平和になったら結婚する相手だった少女とは。

 

(……まるっきり無関係とは言えないか)

 

 手紙には憑依が解けた後の大まかな経緯の後、俺に対する恨み辛みが書き連ねられていた。恋人同士であったことも結婚をする約束であったことも、後半部分から拾った情報である。

 

(どうすれば良いんですか)

 

 愛する人や仲間達と引き離され、俺と違って帰る方法もわからない身体の持ち主が抱えた闇は深い。

 

「はぁ」

 

 思わずため息が出ていた。

 

 

 




飛んでる「現実」→「ドラクエⅢの世界」部分だけをこっそり補填してみました。
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