the lost story   作:闇谷 紅

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第二十二話「交換条件」

(パラレルワールド、かぁ)

 

 データが初期化されたようなこの世界は、身体の持ち主からすると「平行世界のようなモノ」であるらしい。故に名前も顔も同じ人間は何人か存在すると、手紙には書かれている。

 

(まぁ、アリアハンの王様もバラモスもオルテガや勇者の母親もどちらにも存在するもんな)

 

 俺がゲームとしてプレイしていた世界を「勇者が男として生まれた世界」とするなら、この世界は

 

「勇者が女として生まれた世界」程度の差でしかない。

 

「何でそんなこと知ってるかって? てめぇの知識が一部流れ込んできたんだ。知りたくもねぇモンまで知らされたよ」

 

 その一行は、俺が質問してくることを見越してか。俺の知識の一部を流し込まれながら、半ばはっきりしない夢のような感じで本来の身体の持ち主は俺と同じモノを見ていたと手紙にはある。

 

(逆に言えばだからこそ俺みたいに取り乱さずに済んだのだろうけど)

 

 知ってしまった訳だ、彼は。自分がゲームのキャラに過ぎないこととかを。

 

 それでも居ても立っても居られず、ルイーダの酒場に直行し、リシアの存在を確認した。

 

「このリシアは、リシアであってもおれのリシアじゃねえ」

 

 ルイーダの酒場にいた人達についても「プレイしたゲームの時」と変わらない。

 

 例えばルイーダの酒場の二階には登録した人物を仲間として連れ出せる登録所という施設があるが、俺がゲームの時に登録した仲間達はこの世界にも存在するのだと言う。

 

「登録所で登録することでキャラとして誕生する」

 

 ゲームとしては登録しなければキャラは存在しない。

 

 だが、実際には登録所のリストには誰かに仲間として登録されるのを待っている人々が存在し、彼ら彼女らは「連れ出せる仲間」として登録されるのを待っているのだ。

 

(バニーさんはそう言う意味で言うと、思いっきりイレギュラーだよな)

 

 ウェイトレスとして酒場で働いていたからこそあそこにいたという例外。

 

「向こうの世界の登録所で作成したキャラクターは、条件にあった人を登録所の人が探して居てきただけに過ぎない」

 

 だから此方の世界でも「登録待ち」の状態でかってのパーティーメンバーと同じ顔、同じ名前をしたレベル1の人間が存在する。

 

(最初から登録されている人材にいなかったから登録所でリシアを探し、発見して今に至ってる訳か)

 

 平行世界の似て異なる人であっても、彼は放っておけなかったらしい。

 

「遊び人の不遇は知ってんだろ? てめぇも一人面倒見てンだし」

 

 だからこそレベルを上げて賢者にする。俺から得た知識と元の経験を踏まえ、身体の持ち主は転職することが可能なダーマの神殿へ行くプランまで練っていたと言うから驚く。

 

(なんて行動力)

 

 手紙という名の伝言で知ったことが、「ぼうけんのしょ」で記録した者には一日の休暇が与えられるとのこと。

 

 本来戦い続けで体や心を壊さないようにと言う配慮からの休暇だが、身体の持ち主からすれば「俺のせい」で唯一自分の身体を使える時間、休む気など鼻から無かったのだろう。

 

(ううむ)

 

 この身体が動いていることが知れると面倒なことになるかも知れないと踏んで、ロマリアへの道をふさぐいざないの洞窟の壁はシャルロット達に壊させるつもりだったようだが。

 

(アリアハンとロマリア間が開通すればロマリアの関所から旅の扉経由で岬の祠に、か)

 

 解錠呪文のアバカムが使えるのが大きい。

 

(何というやりたい放題)

 

 ダーマに行けるようになるというのは俺にとっても悪い話ではない。

 

(バニーさん賢者にしたいしなぁ)

 

 勇者パーティーに賢者が入れば戦力はグンと上がる。

 

「俺はリシアを幸せにする。一緒になるつもりは毛頭ねぇが、賢者になれば引く手あまただろ。そこで交換条件だ」

 

(「リシアには手を出すな、泣かすような真似も許さない」か)

 

 かわりに勇者やバニーさんなど俺の関わった人間に手を出しての『復讐』はしない、と言うのが彼からの提案だった。

 

(選択の余地はないよね)

 

 この要求ははねつけられない。案というか、『人質』を取られてしまったようなものだ。それに俺が「現実で知ってしまったこと」もある。

 

(と、なると……うーむ)

 

 俺はリシアの安全を確保する必要があり、以後行動を共にすることが確定する訳だが今は良いとしても必ず何処かでシャルロットと再会するだろう。

 

(「ししょう」が「ほかのおんな」をつれてるばめんをもくげきするんですね、わかります)

 

 勇者が恋愛的な意味で俺に好意を抱いていると自惚れる気はないが、リシアのことを聞いてくることだけは目に見えている。

 

(もういっそのこと勇者やバニーさんとリシアを連れて合流するかな)

 

 遊び人二人と盗賊に勇者、割と縛りプレイでもしているのかというような編成には頭痛を覚えるが、纏めて面倒を見るならこのパーティーが手っ取り早い。

 

(えーと、そうなるとまずはリシアに口止めが居るのか)

 

 それは、冒険の書を記録した後のこと。自分の身体を取り戻した中の人は、王様の元に戻るまでの本来なら休息に使う時間を利用しリシアを仲間に加えると、装備をレーベで調え、南東の森の中から旅の扉を通って大灯台まで行き、外で「レベルあげ」をしたらしい。

 

(いや、少なくともアリアハンでレベル上げるより効率的だけどさ)

 

 レーベまでの移動で使ったルーラと旅の扉にはいる為に鍵開けに使ったアバカム、そしておまけにイオナズンの呪文で敵を爆破し消し飛ばす。

 

(あーうん、過保護とか人のことは言えないけどね)

 

 口笛でモンスターを呼び出しては盗賊の素早さを行かして先制し、範囲攻撃魔法で全て殲滅。呪文にいくらかの耐性を持つモンスターも居たとは言え、一ランク弱い呪文のイオラでは駄目だったのかと思わず聞きたくなる。

 

(まさか、ここまで盛大に呪文が使えるところ見せてるとは)

 

 ひょっとして、これも俺に対する嫌がらせなのだろうか。

 

(くっ、地味に嫌がるところを突いてくる)

 

 何にしても、勇者達と合流するなら呪文が使えることはリシアに黙っていて貰わなければならない。

 

(マ、マァユウシャニハ、「ケンジャノイシ」ヲワタシテアルモンネ)

 

 回復にはアイテムを使って、勇者の精神力は脱出呪文と攻撃呪文の使用のみに割り振れば何とかなると思う。移動はキメラの翼を使えばいい。

 

「リシア」

 

「にゃ?」

 

「まず、手紙の件だがちょっとした『お使い』を頼まれてくれという内容だ」

 

 実際はリシアを守り通せという半強制『クエスト』であるのだが、それ程間違ってもいないだろう。

 

「その関係でな、これから知り合いと行動を共にすることになる」

 

「知り合いにゃ?」

 

「ああ、弟子とその仲間だな。ただ、弟子には安易に俺を頼らせたくない。故に俺が呪文を使えることは秘密にしておいて貰えるだろうか?」

 

 まずは口止め、承諾して貰えたらルイーダさんのところでシャルロット達の所在地を聞こう。

 

「にゅーむ、訳ありにゃ? わかったにゃ、リシアはこう見えても大人の女にゃ。そもそも盗賊さんにはいっぱいお世話になったし、それぐらいおやすい御用なのにゃ」

 

「すまんな」

 

 シャルロットとバニーさんの中間ぐらいの胸を自分の拳で叩くリシアに俺は軽く頭を下げると、ルイーダの酒場へと歩き出す。

 

(あれから一日ならまだナジミの塔は攻略出来てないはず)

 

 距離的には最上階まで到達していても不思議はないが、戦闘での疲労と追加メンバーがまだ未熟であることを考えれば塔の宿で休息をとって暫く実戦訓練というのが妥当なところだろう。

 

「とりあえず、ルイーダの酒場だ。どこにいるかの大まかな確認がしたい」

 

 俺はリシアに行き先を告げ。

 

「はいにゃ♪ ねーねー、寄るならお酒、一杯だ飲んでもいいにゃ?」

 

「っ」

 

 付け加えられたおねだりに硬直した。

 

(ちょっ、いきなり?!)

 

 手紙に添付されていたリシアの取扱説明書には「酒乱のケ有り」と書かれていた上「絶対飲ますな」という言葉が黒丸でぐりぐりと囲まれていたのだ。

 

「いや、下手をすれば魔物の居る場所をこの後突っ切る可能性がある、自重してくれ」

 

「うにゅう」

 

 唸りながら上目遣いで責められようとも許可は出来ない。

 

(文句なら、この身体の持ち主にね)

 

 いっそのこと「『ぼうけんのしょ』に記録して休息するときなら」と身体の持ち主に押しつけてやることも思いついたが、そんなことをしようモノなら確実に「お返し」される。

 

「わかったにゃ、じゃあグラスに半分だけ。半分だけでいいにゃ!」

 

「はぁ」

 

 結果として俺に出来たのは、嘆息しリシアのおねだりと戦うことだけだった。そう、泣かせてはいけないという縛り付きで。

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