the lost story   作:闇谷 紅

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第五話「みんなのトラウマ(トラウマ注意)」

「案の定、か」

 

 ものの見事に『やくそう』が入ったままだった宝箱の前で俺はため息をついた。

 

「やっぱりこの世界、『おきのどくですが ぼうけんのしょは きえてしまいました』してしまったんだろうな」

 

 俺の憑依してるキャラだけが最後にセーブした状況のまま残ってるのは謎だが、これについては俺が憑依したというイレギュラーが原因なのではないだろうか。

 

(それで最初からになってるから勇者の性別も違ったと)

 

 ぶっちゃけ此処がゲームの世界に酷似した異世界という可能性だって0では無いと思うが、だとするとこのキャラだけが俺がゲームで使っていたレギュラーメンバーの一人そのままなのはどういうことなのか。

 

「わからないことが多すぎる」

 

「ピキーッ」

 

 ぼやいてみたところで仕方ない。しかし、水色生物はなぜこうも相変わらず空気を読まないのか。

 

「蹴りもした、投げてもみた……次はどうするかな?」

 

「ピ、ピィィィ」

 

 剣呑な視線を向けてみると俺の敵意を察したらしく、スライムは逃げ出した。ゲームのようにガサガサ逃げるかと思ったが、そんなこともない。

 

「はぁ……とりあえず戻ろう」

 

 このまま洞窟にいても角の生えたうさぎやらさっきの水色生き物に絡まれるだけだろう。

 

(それに洞窟の中は時間がわかりづらいからなぁ)

 

 別に真っ暗でもキメラの翼があるので遭難の恐れはないが、外に行くところを勇者が見ているのだ。

 

(休むようには言ったけど、何か言いかけてたし)

 

 街の入り口で待ってる可能性だってあると思うのは、俺の自意識過剰だろうか。

 

 そもそも、遅くなってチェックインしようとしたら「宿屋が満室です」とか言うオチだってありうる。

 

「さてと、じゃあさっさと帰りますか」

 

 道具屋で買っておいたたいまつのありがたさを実感しつつ、俺は来た道を引き返すのだった。

 

「ピキーッ」

 

「ま た お ま え か」

 

 物陰から飛び出してきた学習能力0の水色生き物に堪忍袋の緒を耐久テストされたりしながら。

 

「しっかし、この身体のスペックが高すぎてモンスターの強さがよくわからないな」

 

 勇者がボコボコにされていたのだから一般人にはスライムでも脅威なのだろう。本来の身体なら俺だってあの水色生き物にもあっさり殺されるに違いない。

 

「とりあえず、今日から人前での盗賊以外の呪文は禁止するとして」

 

 縛りプレイ気味に実力は隠蔽しておくべきかも知れない。強すぎる力は厄介ごとの種になりかねないし。

 

「勇者の事情次第かな」

 

 全力で逃げ出すつもりだった俺だが、あの勇者を放置するのは良心が咎めるし、魔王が倒されず魔物が蔓延り続ければまずいことぐらいは俺にでもわかる。

 

(商人による物流の流れが止まり、街や村などが孤立して……)

 

 物価が上昇すれば暮らしにくくなるだろうし、どこかの村の様にモンスターに滅ぼされる所も出てくるだろう。

 

「やっぱり、勇者には魔王を倒してもらわないと」

 

 もちろんパーティーメンバーは今でも御免だ。

 

「とはいえなぁ……」

 

 妥協すべきなのだろうか。悩んでる内に俺は洞窟の出口に辿り着き、鞄を漁ってキメラの翼を取り出す。

 

「アリアハンへ」

 

 二度目ともなれば取り乱しようもない。

 

「うわぁ」

 

 オレンジ色に輝く海に思わず感嘆の声を上げながら短い空の旅を楽しんだ俺の身体はやがて降下し始める。

 

(って、勇者)

 

 そして、気づいた。入り口で街の外をずっと見ているツンツン頭な少女がいることに。

 

(おちつけ、あれは俺の身を案じたとかじゃない。そう、銅の剣を待ってるんだ)

 

 そもそもおれのためにとかじいしきかじょうすぎである。とんだかんちがいやろうである。

 

「話は明日だと言った筈だが」

 

 と言うか、心の準備が出来ていない。故に俺は勇者が此方に気づくよりも早く声をかけ機先を制すると刃の方を持ったまま銅の剣を差し出した。

 

「あっ」

 

「忘れ物だ、そのままにして飛んだのは俺の落ち度だからな」

 

 渡すモノを渡してさっさと宿に引きこもろう。

 

 ちなみに銅の剣は馬鹿みたいに探し回ったあとふと思い出したレミラーマの呪文であっさり見つかった。アイテムのあるところが一瞬光る盗賊の呪文、なんでこれを忘れていた自分。

 

「あの、ありがとうございまつ」

 

「礼には及ばん」

 

 勇者が噛んだのは敢えてスルーしつつ、俺は素っ気なく応じ宿屋に向けて歩き出した。

 

(大丈夫だよな、このキャラなら取っつきにくいよな?)

 

 縋られたらその手をふりほどけない気がして、張った予防線。己に何度も問いかけ、辿り着いた宿のカウンターで俺は尋ねる。

 

「一泊頼めるだろうか?」

 

「申し訳ありませんが、満室でして」

 

「……そうか」

 

 ゆうしゃにぱーてぃーさんかをことわるどころかやどでしゅくはくをことわられましたよ。

 

(これも傷心の少女に冷たくした報いかな)

 

 他にアテも無かった俺は交渉の末宿屋の納屋で寝ることになったのだった。

 

 

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