the lost story   作:闇谷 紅

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第六話「私に良い考えがある」

「ふあぁ」

 

 あくびを噛み殺しつつ宿を出た俺は勇者の家に向かって通りを歩いていた。

 

(さてと、問題はこれからどうするかだよなぁ)

 

 ソロだった理由についてはまだ聞いてないが、これについては予想がつく。

 

(一人旅のメリットって言うと「経験値がたくさん入ってくる」「装備にかけるお金が少なくて済む」だったかな?)

 

 勇者のレベルアップは他のキャラと比べて遅めなので、パーティーを組む前に少しレベル上げをしておこうというのも選択肢の一つだと思うのだ。

 

(そのつもりがたまたま沢山のスライムに囲まれてああなったのだとしたら、一定レベルまで育ててやれば問題は解決だよな)

 

 パーティーに入るのにはまだ抵抗があるが、所謂師匠ポジションでサポートし、一定レベルまで育ったところでワシが教えることはもう無いとフェードアウトしてしまえば後は勇者が上手くやってくれると思う。

 

(むしろ、一度加入することで後々誘われないようにする。我ながら良いアイデアかも知れない)

 

 勇者に引き留められるという可能性も0では無いだろうが、この世界にはバシルーラという呪文もある。

 

(プレイヤーとしては嫌な呪文だったけどなぁ)

 

 相手を吹き飛ばしてしまう呪文でこれを喰らったキャラはパーティーから離脱してしまうのだ。ゲームではルイーダの酒場に戻ってしまうだけだが、飛ばされた後置き手紙でも残して酒場を出れば晴れて自由の身という訳である。

 

(まぁ、他にも方法はあるしなぁ)

 

 割と心配はしていない。

 

(場合によっては勇者の為にパーティーメンバーを用意してやっても良いし)

 

 ゲームと違って勇者でないのに自由に俺は動ける。適当に使えそうな人材を連れ出して一定レベルまで育て、勇者にあてがえば良いのだ。

 

(この大陸から出ない範囲なら俺でも何とかなりそうだし)

 

 こちらを蠍の尾で刺し麻痺させてくるさそりばちというモンスターが気にはなるものの、育てるメンバーに麻痺を治す『まんげつ草』を持たせればいい。

 

(あと、懸念事項があるとすれば俺の名前かなぁ?)

 

 本名を名乗るか、それともキャラの名を名乗るか。

 

(だいたい、この状態がいつまで続くかわからないし)

 

 身体の持ち主が戻ってきた後のことを考えると下手なことは出来ない。

 

(人間関係はリセットされた後のことを踏まえて動くべきだな。場合によっては本当のことを予め話しておくことも考えておかないと)

 

 ルイーダの酒場には可愛い女の子も結構いたのだが、恋愛はNGである。愛をはぐくんでいる途中で憑依が解けた場合、誰も幸せになれないのだから。

 

(さいあくしゅらばですよ。いきなりこいびとが「だれだおまえ」とかいいだしたりしたら)

 

 故に俺は恋愛が出来ない。

 

(まぁ、中身は残念だしなぁ)

 

 そもそもおれにほれるあいてなんていないとおもうが、それはそれだ。おれはべつにないてない。

 

(いや、だが助けた勇者なら俺のことを……って、これ自意識過剰だよな)

 

 困っていた女の人を助けたところで「貴方いい人ね、さよなら」が現実である。経験談でもある。

 

(ダメダメだ。相手が好意を抱いてるかも知れないとかストーカー思考じゃないか)

 

 えいへいさんこのひとですされてしまっても、責められない。

 

(保険も兼ねてパーティーメンバーをあてがうなら、人員にイケメンを入れておくべきかな)

 

 そしてほかのそだてためんばーとくっついてどりょくはむだになるんですね、わかります。

 

(くっ、ならいっそのこと勇者以外全員男の逆ハーパーティーを……あ)

 

 そこまで考えて、育成中は男祭りになることに気づいた俺は、考えるのを止めた。

 

(やめろ、俺の想像力)

 

 無理矢理打ち切ったと言う方が正しい。三人のイケメンから惚れられる俺という地獄絵図を一瞬でも想像してしまったのだから。

 

(かといって女の子ばっかりにするのもなぁ)

 

 それでは俺がまるで女好きのようだ。

 

(だぁぁぁっ! 勇者の情報抜きに考えててもらちが空かない)

 

 ウジウジ悩んでいないで勇者の所に行こう。頭を振って迷いを振り払う。そもそも、宿屋からは目と鼻の先なのだ。

 

「……ふぅ」

 

 考え事をしていて通り過ぎるというベタな展開はギャグマンガだけにして欲しい。

 

「今日も天気は良さそうだな」

 

 とりあえず、街の入り口から見た空は今日も晴れ渡っていた。その青さが目に染みたのはきっと気のせいだ。

 

(OK、さっきのは無かったことにしよう)

 

 平静を装いつつ勇者の家の前まで戻ってきた俺は、腕を組んで立ち止まる。

 

(さてと、話は今日聞くと言っておいたし、勇者は家にいるよな)

 

 今度こそ何も問題はない、俺はドアをノックして、反応を待った。

 

(……あれ、勇者って何て名前だったっけ?)

 

 致命的な失敗に気付き、愕然としながら。

 

「はい……あ、あなたは」

 

 勇者が出てきてくれたのは運が良かったと思う。

 

「話を聞くと言ったからな」

 

 がんばれ俺のポーカーフェイス。

 

「その、昨日はありがとうございましたっ。あ、上がってください」

 

「あぁ」

 

 こっそり自分で自分を応援しつつ勇者に促されて足を踏み入れた勇者の家は、ゲームだった時の間取りを彷彿とさせながらもあちこちに差異が見られた。

 

(当然と言えば当然だよなぁ)

 

 ゲームの時と違って、この世界の人々はモノも食べれば下品な話になるが排泄もする。宿屋では納屋に泊まったから内装を見てはいないが、トイレとかゲームには無かった部屋が追加されてるのではないだろうか。

 

(ま、それはそれとして)

 

 ここからが本番だ。

 

「そ、その昨日は本当にありがとうございまちたっ」

 

 二階に通されて、勇者はまず礼の言葉を口にした。噛んだ事にはもうツッコまない。

 

「気にするな。あれは、ただの自己満足だ」

 

 そう、自己満足とエゴと打算なのだ。

 

(うわーい、何て言うんだろこの感覚。針のむしろ?)

 

 全力で感謝されるといたたまれなくて逃げ出したくなる。

 

「話がそれだけなら俺は失礼させて貰うが?」

 

 だから「そんなことないです」とかぶんぶん首を横に振る勇者を制して俺がそう言ったのは、何割かの本音も含んでいた。

 

(こっちから事情を聞くポーズをとるのは拙いからなぁ)

 

 むろん、事情を聞くつもりで足を運んだのだから、帰るつもりはない。

 

「ま、待ってください。話を――」

 

 予想通り自分を呼び止めた少女に罪悪感をぐりぐりと剔られながら、振り返ると短く「聞こう」とだけ言い。

 

「どうかボクを弟子にしてください」

 

「は?」

 

 パーティーメンバーにでは無いお誘いに、俺は思わず聞き返していた。

 

(なに……それ)

 

 その後、ポツポツと少女が語り出した経緯を聞いて俺は困惑する。ゲームでは絡んでくる酔っぱらいなどいなかったし、ルイーダに話しかけルイーダが名簿に登録されている仲間を呼び出してパーティ結成というお手軽展開だった筈だ。

 

(そりゃ、ゲームの方がご都合過ぎすぎるんだろうけれど)

 

 あげくのはてによっぱらいへのたいしょでゆうしゃをためすとかなんですか。

 

(初期ファミコンだしなぁ、こんなイベントぶち込んだら容量足りないとかめんどくさいだけとか色々あるんだろうけど)

 

 すんなりパーティーを組めると思っていた自分が甘かったと少女は語りつつ己を恥じていたが、俺も同じ認識だったのだ。

 

(って言うか、下手するとこれ勇者用のパーティーメンバー集めるのも俺が想定してたよりめんどくさい事になるんじゃ)

 

 勇者の目がなかったらきっと頭を抱えていたと思う。俺も色々と甘すぎた。

 

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