榛名「そう…、経過は順調なんだね。
本当によかった。」
政道『あぁ、お陰様でな。
正直、自分でも信じられない。
事故に遭う前より調子がいいくらいだ。』
夏が終わり、紅葉が色付くころ。
榛名は久しぶりに自室で政道と話していた。
あの日の事故以来、「二度と走れないかもしれない」とまで言われた政道だったが、クリストフの知人の手によって奇跡の回復を果たしたらしい。
国際線を使って、近況報告をしてくれたのだ。
政道『母さんも、喜んでくれたよ。「榛名のおかげだ」って言っていた。
「悪いことをした」とも言っていたが…、何かあったのか?』
榛名「ううん、何にも。
お母さんはお元気?」
政道の母、真希は息子の治療に同行していた。
政道「ああ、元気だよ。
次の検査で問題がなければ、日本に帰れるらしい。」
榛名「本当!?お土産期待しているからね!」
「では、期待に応えるとしよう。学校の連中にもよろしく」と言い残し、政道は電話を切った。
もうすぐ政道に会える。
思わず、頬が緩んだ。
その様子を見て…
長門「デキてるぅ〜」
っと長門が榛名を揶揄う。
どこで覚えた?そんな言葉。
「お姉さんを揶揄うんじゃありません」と、長門を脇をくすぐる。
「あの、榛姉さん…」
部屋のドアをそっと開けて、隙間から大和が覗き込んでいた。
大和「じゅんび、できたって。」
榛名「ありがとう。すぐ行くからね。」
長門と違って大和は静かで大人しい。
双子でも性格は案外似ないようだ。少なくとも、この子達に関しては。
それでも仲は凄く良い。
双子というのは、それだけで特別なのだろう。
階段を降りて台所に向かうと…
「誕生日おめでとう」
四方八方からクラッカーが鳴り、お祝いの言葉をかけられる。
どうしよう、ニヤけが止まらない。
今日は、榛名の14歳の誕生日だったのだ。
「あ、ありがとう…」
ぎこちなく笑いながら応える。
人間、感情の昂りが一定以上に達すると、かえって稚拙な表現しか出来ないものだ。
悶々としたまま着席すると、武蔵から何やら紙のようなものを渡される。
「かんしゃじょう」と書かれていた。
武蔵が文面を読み上げてくれていたようだが、何も聞こえない。
感動のあまり脳の処理が追いつかず、フリーズしていたのだ。
「とりあえず、部屋に神棚を作ろう。そして、この「かんしゃじょう」を祀らなければなるまい。」
フリーズから立ち直った後、榛名は決心するのだった。
豪勢な食卓を囲みながら、思い出話や将来の夢の話などに花を咲かせる。
武蔵「おれは姉ちゃんみたいなすげぇすとらいかーになる!」
長門「長門はね〜。しょうらい、「せきゆおー」になるの。あらぶに行って〜、せきゆいっぱいホリホリして〜、おーがねもちになるんだ〜。それでね、せかいのけーざいをぎゅうじるの〜。」
武蔵と長門は声高に自分の夢を語る。
少々、ドス黒い野望の様なものも聞こえたが、おそらくは耳の錯覚だろう。
榛名「そ、そうなんだ〜。頑張ってね…。
大和君は?」
大和「…私は…。私は、ずっとみんなとここにいたいです。
みんなといっしょにわらったり、ないたり、おこったり…。
私はきっと、そのためにうまれてきたんだとおもうから…。」
武蔵「…なにいってんのかぜんぜんわかんねー。」
長門「むずかしいよ〜。」
2人はヤジを飛ばすが、榛名には大和の気持ちが少しだけ分かる気がした。
榛名「…うん、そうだね。
それがきっと、一番大切なことなのかも。
でも大丈夫。大和君の願いは、叶うよ!
みんな、ずっと一緒だから!」
何気ない日常、ありきたりな幸せ
それは誰の手にもあって、誰の手からもすり抜けていく。