長門「………。」
武蔵「………。」
病室に静寂が流れる。
2人は7年前の災害以降、一度も会っていない。
2人の故郷は、最早人が住める状態にはない。
その為武蔵は神戸に、長門は横浜へ引っ越していた。
距離的、時間的な問題と、気持ちの面でお互いに顔を合わせ辛かったからだ。
積もる話はあれど、何から話せばいいのかが分からない。
長門「あのっ…」
武蔵「なぁ…」
お互いに話題を切り出そうとして、ハモってしまう。
余計に気まずい。が、ここで止まっては永遠に会話が始まりそうにない。
武蔵は、「お先にどうぞ」っとジェスチャーで長門に発言を促す。
レディーファーストだ。
長門「優勝、おめでとう。
すごかったよ、武蔵。」
武蔵「あぁ、ありがとな。」
長門「でね。これ、お祝い!」
と言って、長門は大きな袋を見せる。
武蔵「ありがとう。
見てもいいか?」
長門「もちろん!」
武蔵が袋を開けると…
武蔵「……おい、長門…?お前…、これ…なんだ?」
長門「?スッポンだよ?」
武蔵「生きてるんだが?」
長門「新鮮でいいよね〜。」
武蔵は「そういう意味じゃない」と内心ツッコミつつも、思わず吹き出してしまう。
長門は、7年経って顔も体つきも女の子らしくなっていた。
にも関わらず、中身はあまり変わっていない。
相変わらず、こちらの予想と理解を軽く超えた発言や行動をとってくる。
武蔵「そうだな。それでこそ長門だよなぁ。」
長門「ちょっと?それどーいう意味かなぁ〜?」
しばし笑いあった後、次は武蔵が話を切り出す。
武蔵「大和は、どうなんだ。」
長門「…まぁ、見たまんまかな。
あの日以来、ずっとこう。」
武蔵「そうか…。」
見た所、大和には何の異常もないように見える。
外傷は見当たらないし、呼吸も正常らしい。
なのに、意識だけが戻らない。
所謂、「植物状態」というものだろう。
…思わず目を背けたくなるのを必死に堪える。
どんな姿になっても、どんな状態にあっても、大和は武蔵のかけがえの無い親友だ。
その親友から目を逸らすなんて真似は出来ない。
いや、それも白々しい話だ。
7年もの間何もしないどころか、見舞いにすら来なかったのだから。
武蔵「さっきいた女は誰だ?
学校の友達か?」
話題を変えようと、武蔵が長門に別の質問をする。
長門「違うよ。
玲名ちゃんとは、お日さま園で知り合ったんだよ。」
武蔵「お日さま園…?」
長門「うん。少しの間、お世話になったんだ。
あの日、ヨッシーも晶子さんも亡くなっちゃって…、晴兄が私を引き取ってくれたんだ。
けどまだ晴兄は学生だったから、直ぐには無理だった。
晴兄が高専を卒業して、就職するまでの間は孤児院にいたの。
そういえば、ご両親はお元気?」
武蔵「あぁ…。」
幸いなことに、武蔵の両親は丁度仕事の都合で島を離れていて、難を逃れている。
しかし、長門と大和の保護者である義人と晶子は、7年前に亡くなってしまっていた。長門は、二度も両親を失ったのだ。
武蔵「……悪い。」
話題を逸らそうとして、かえって長門の心を抉ってしまった。
辛い過去を思い出させてしまったかもしれない。
しかし、長門は笑顔で応える。
長門「気にしないでよ。
確かにあの時は悲しかったけど…、お日さま園では良い出会いもあったんだよ。
玲名ちゃんはその1人なの。
サッカー好きなんだ、あの子も。」
楽しそうに、お日さま園での思い出を語る長門。
その姿が、武蔵には眩しかった。
どんなに苦しい境遇にいても、強く前向きに生きている。
それに比べて…
武蔵「…そうか。それなら良かった。
サッカーは続けてるのか?」
長門「うん。続けているよ。
でも、なかなかうまくいかないなぁ~。
武蔵みたいには出来ないや。
でも、約束だからね。
いつかまた、あの「4人で一緒にサッカーする」って。」
そう。7年前のあの夏の日、もう一人の大切な親友、ジェラールと別れたあの時に交わした約束がある。
母を亡くしたジェラールが再び立ち上がる為の、4人がもう一度出会うための大切な約束だ。
それを長門はずっと大切に守っていた。
だからこそ、武蔵は長門との間に大きな溝を感じてしまう。
武蔵「…お前は強いな。長門。」
長門「え?どうしたの?急に…。」
武蔵「やっぱり、お前は俺とは違う。
俺とは違って強い奴だよ、お前は。」
武蔵はゆっくりと立ち上がり、
武蔵「今日は会えてうれしかった。
ありがとう。
…またな。」
足早に、病室を後にする。
長門「…待って!待ってよ!
怒ったの…?
気に障ったなら謝るから!」
長門は武蔵の手を掴んで止める。
武蔵は立ち止まり、悲しい笑みを浮かべて答えた。
武蔵「…違うよ。言ったろ、俺はお前とは違う
お前はずっと、あの日の約束を守る為にサッカーを続けてきたんだろ?
…俺は違うんだ。
俺は、必死だっただけだ。
姉さんがいない現実から目を逸らすために…
鬱憤を晴らす為にサッカーしてたんだよ。
…優勝した後、頭が冷えてようやく気が付いた。
俺は…、幸せそうな奴らを…、楽しそうにサッカーしてる奴らを叩きつぶして遊んでいたんだ。
ソイツらの夢を壊して、不幸にして…
そんな奴になっちまったんだ、俺は…。」
ポツポツと、独白の言葉を並べる武蔵に、長門はかける言葉が見当たらない。
「そんなことはない」と言いたかった。
けれど、長門自身薄々感じていた。
先日の決勝戦での彼のプレーは、サッカーを使った暴力だ。
痛めつけたり、怪我をさせたわけではない。
その代わり、相手チームの選手の心を徹底的に嬲り、躙るような…
武蔵「…悪い。変な気分にさせちゃったよな。
けど、これではっきりしたと思う。」
長門「…何が………?」
武蔵「あの日、生き残るべきだったのは、きっと姉さんの方だったんだ。」
長門の手を振り払い、武蔵は去っていく。
長門「…そんな…、そんな悲しいこと…!言わないでよ!」
離れていく背中に、怒鳴りつける。
長門は本気で怒っていた。
同時に、とても悲しかった。
長門「…行かないで…。おいて、行かないで……。」
長門は遠ざかる背中に手を伸ばし、力なく呟く。
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姉さんは、もういない。
それじゃあ、何を追いかければいいのかが分からない。
大和は、ずっと目を覚まさない。
だからあの約束は果たされない。
だったら、何の為に?
もう分からない。
俺は、あいつらと一緒だからサッカーが好きだったのか。
サッカーが好きだから、あいつらのことも好きだったのか。
姉さん、アンタなら答えを知っているのか?
もしそうなら、化けてもいいから教えに来てくれ…。