雨が降り頻る中、武蔵は傘もささずに駅へ向かって歩いていた。
武蔵(…大和は、相変わらず目を覚ましてくれない。
もしかしたら、ずっとあのまま目を覚さないかもしれない。
だったら、あの約束はどうなる?
サッカーを続けて、ジェラールにいつか会える日が来たとしても、そこにアイツがいなきゃ…何の意味もない…。)
物思いに耽っていると、1人の子供連れの女性に声をかけられる。
「あの…君どうしたの?傘もささずに…、風邪ひくわよ?」
彼女なりの厚意からの言葉なのは理解できたが、今の武蔵にとっては少し鬱陶しかった。
武蔵「…いえ、大丈夫です。」
流して足早に立ち去ろうとするが…
女性「待って!」
と、腕を掴んでくる。
武蔵「だから!大丈夫だって……」
女性「…君、もしかして獅子王武蔵君?」
突然、見知らぬ女性に名前を呼ばれてドキッとする。
…いや、知らなくはない。どこかで会ったことがあるような…
女性「やっぱり!大きくなったじゃない!
私のことは覚えてる?
や…じゃなくて…、渦波由紀よ。
あなたの保育園の先生やってたんだけど…」
…思い出した。
武蔵がまだ雲雀島にいた頃、通っていた保育園の先生だ。
武蔵「…由紀、先生?
お久しぶりです!お元気そうで…」
懐かしい人との再会に、武蔵も思わず頬が緩む。
男の子「ママぁ〜、このひとだれぇ〜」
と、由紀の傍には男の子がいた。
きっと彼女の子供だろう。
武蔵「…お子さん、産まれてたんだ。
おめでとうございます。」
由紀「ありがとう。義晴(よしはる)って名前なの。
それより武蔵君、全身びしょ濡れじゃない…。」
武蔵「あぁ、少し野暮用で…」
武蔵が苦し紛れの言い訳をする。
流石に何もかもを話せはしない。
当然、由紀は怪訝な顔を見せる。
由紀「まぁいいわ。
ウチ、近くだから少しあがって行きなさい。
お風呂貸してあげる。」
武蔵「いや…、流石にそんな迷惑を…」
由紀「き・な・さ・い。
もう、暗くなってきてるし、あなたはずぶ濡れだし…
このまま放っておくわけにはいきません。」
由紀の雰囲気に押されて、武蔵は彼女の家にお邪魔することにした。
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5分ほど歩いた場所のマンションの一室に、彼女の家があった。
玄関には「八重崎」とある。
…珍しいが、よく知った名字だ。
武蔵はどうしようもなく嫌な予感がした。
由紀「ちょっと散らかってるかもしれないけど、まぁくつろいで。」
武蔵「いえ、俺、帰ります。」
武蔵が回れ右をしてエレベーターへ駆け込もうとすると…
「おっと…。
こら、マンションの廊下で走るな、坊主。」
と、大柄な男性と正面衝突した。
武蔵「すみま………」
男性「…どっかで見た顔だな。
ん?お前、まさか……?」
由紀「今日は早いのね、晴翔。」
晴翔「まあな。
にしても、驚いたな。
大きくなったじゃないか、武蔵…だったか?」
武蔵「……。」
意外過ぎる組み合わせに絶句する武蔵であった。
そして、雰囲気に押されて部屋に上がり、お風呂を満喫する。
風呂から出ると、着替えが用意されていた。
…レディースのジャージだ。
由紀「ごめんなさいね。
長門のはちょっと小さすぎるし…、晴翔のは逆に大きいから、私のね。
高校の時来てたやつが残ってたのよ。」
夕飯の支度をしながら、由紀が話しかけてくる。
この7年で、武蔵は随分と背が伸びていた。
7年前は見上げていた由紀と、今は殆ど同じくらいの背丈だ。
晴翔「にしても、あのちびっ子がなぁ。
俺も歳をとるわけだ。(26歳)」
由紀「あら、もう耄碌したの?
私はまだまだ全然だけど?(30歳)」
晴翔「ハッ、三十路がよく言う。」
由紀「……(ビキビキ)」
武蔵「(怖い、この夫婦の会話めっちゃ怖い。)
あ、あの…。お風呂、ありがとうございます。
それじゃあさようなら」
足早に、武蔵は去ろうとする。
ここの亭主はあの八重崎晴翔だ。
つまり、ここは現在の長門の自宅なのである。
このままでは間違いなく鉢合わせるだろう。
あの会話の後だ、気まずいなんてもんじゃない。が…
晴翔「なんだ?まさか遠慮してんのか?
だとしたら、そいつは無用だ。
お前はハルの弟で、長門の幼馴染だ。
俺から言わせれば、半分身内みてぇなもんだ。」
由紀「ちなみに私の元生徒、ね。
まだ服のお洗濯済んでないし、外も暗くなっちゃったわ。
今日は泊まって行きなさい。
親御さんにも話を通しておくから。」
と、2人とも完全に武蔵を一晩泊めるつもりでいる。
本来なら大変ありがたい申し出だが、今は後ろめたいことが多すぎる。
武蔵「あの…、ホントいいですから…。
……てか、女の子の家に一泊とか、ありえねーですよ。」
と、適当な言い訳を作って立ち去ろうとするが…
由紀「…まぁ!そんなこと気にするようになっちゃったの!?
も〜!すっかり、男の子ねぇ〜!」
由紀は、「あんなに小さかった武蔵くんが〜」などと言いながら両手を頬に当ててクネクネしている。
晴翔「……ほう?ガキのくせしてませた口聞くようになったなぁ?
一応言っておくが、俺の目が黒いうちはアイツに手ェ出させねぇぜ?」
と、晴翔は首や指をコキコキしている。
武蔵「」
状況は思わぬ方向へ進行した。
武蔵「そ、それにしても意外ですね!2人が結婚なんて…馴れ初めは…?」
慌てて話題を変える。
由紀「あら何?やっぱり気になるんだ。そういう事。」
由紀は口元に手を当ててニヤニヤしている。
一方晴翔は…
晴翔「…馴れ、初め…?そんなんあったか?」
と、微妙な反応だ。
武蔵「……え?」
晴翔「少なくとも、恋愛結婚ってやつじゃないな。
まぁ…アレだ。利害の一致ってヤツだ。
大体、こいつは俺の好みじゃない、俺はもっとこういう…」
と、両手で曲線を描く仕草をし、「やかましい!」と、由紀はリンゴを晴翔めがけて投げつける。
なお、晴翔はそれを難なくキャッチした。
しかもノールックで。
晴翔「ちなみに、もうちょっとお淑やかだといいな。」
っと、リンゴを齧りながら言う。
挙げ句、そのリンゴを素手で割って、「食うか?」と我が子に差し出している。
「アンタ一体何者なんだ?」と、武蔵は心の中で叫んだ。
その時、
プルルルルルルルルルルルッ
と、電話が鳴った。
晴翔が、「おいおいマジかよ」と言いながら即行で手を洗い、急いで電話に出た。
晴翔「もしもし、八重崎です。
………何?容体は?
…分かりました。直ぐ向かいます。」
明らかに只事ではなかった。
受話器を降ろした晴翔の表情には動揺が見られる。
由紀「…なに?どうかしたの…?」
晴翔「……長門が、倒れた。」
連投です。
まさか晴翔と由紀がくっつくなんてな〜。世の中わかりませんねぇ。
冗談はさておき、実はその2人は本気でくっつける気じゃありませんでした。ただ、由紀がネームドキャラの割に殆ど物語上の役割がなさ過ぎたので後付けで生やしました。
余談ですが、晴翔と榛名は実は結構深い関わりがありました。
例えるなら、武蔵ら4人と榛名みたいな関係です。つまり、榛名にサッカーを教えたのが晴翔だったのです(ついでにみっちゃんも)。
榛名ちゃんが5つ上の晴翔に対してあんな無礼た態度とれたのはそういう経緯があったからです。
晴翔が榛名の師、榛名が武蔵達の師と考えるなら、武蔵は晴翔の孫弟子みたいな感じになります。(まぁこの設定を活かしてすんごい展開に繋げたりってことはないです。つまり、死に設定です)