ウマ娘 ワールドダービー 婚活RTA 《2:40:00》 作:婚活したのか、俺以外のヤツと?
中央トレセン学園には様々な人がいる。レースを走るウマ娘、そんな彼女たちを育てるトレーナー、そして勉学を教える教職員。
そんな個性豊かな人達が集うこのトレセン学園で暇を持て余している男が一人。
「はぁ……また担当断られちゃったな……俺、才能ないのかなぁ……」
ため息を吐き、観客席からぼーっとウマ娘たちが走るレースコースを眺める。彼は中央トレセン学園の新人トレーナーである。名を『
現在のスカウト戦績は10戦10敗である。ボロ負けであった。
とはいえ、彼に非があるわけではない。性格やひたむきな姿勢は間違いなく好印象だろう。ただやはり新人トレーナーなのだ。実績がない。その一つの要因が声を掛けたウマ娘達にとっての不安材料だった。当然ウマ娘側から見れば、トレーナーはある程度実績がある人物の方が信頼できる。重賞を担当ウマ娘に一つでも取らせた実績があればウマ娘としては安心材料になるのだ。新人トレーナーはその実績がないことがスカウトにおいて最も不利な点であった。
「次ダメだったら……大人しく先輩のサブにつくか……」
隋川は諦めるように呟いて、改めてコースを眺める。
今日は珍しく、ウマ娘の数が多い。何か特別なイベントでもあったか? と観察しながら首を傾げる。少なくとも、トレーナー側にそういう通達はなかったはず。
「ん? あれは……ああ、そういう事か」
その時ふと、隋川の視線が一人のウマ娘に向かい、そこで合点がいったように頷いた。
月のようなクリーム色にも似た金の長髪をたなびかせたやたらと背格好の高いウマ娘。彼女の周囲にウマ娘が集まっていた。
なるほど、確かに彼女はトレセン学園でも有数の有名人。これだけヒトが集まるのも納得だ。
「相変わらずいい走りをするな……あれで本格化が遅れたっていうのが信じられない」
彼女の走りは遠目で見ていてもかなりの完成度だ。多少粗は見えるが、それも試合を重ねれば治せる程度の細かなもの。あれこそ天才というのだろう。
ミスターシービーやマルゼンスキー……中央トレセン学園で最強と謳われるチームリギルのウマ娘や三冠ウマ娘が一目置くだけはある。
「……俺には縁のない話だなぁ」
彼女のような有名人はとくに。きっと優秀なトレーナーがついて凄い戦績を残すのだろうな。と彼女を見つめながら考えて……
ふと、彼女と目が合った。さすがに何のリアクションも起こさないのは失礼と思い、彼女に向けて手を軽く振ってみると返答するように手を振り返してきた。
「もしかしてこれ……俺今、めちゃくちゃ注目されてる?」
やたらと視線がこちらに集まった事に気付いた隋川は思わず顔を引き攣らせて、観客席から去ることにした。さすがにほぼ全員から視線が集まるのは気まずかった。
「はぁ……何やってんだ俺。逃げなくても良かったよなぁ……もしかして、俺がスカウト失敗してる理由これか……?」
思わず自分の行動を見返して自己嫌悪に陥りそうになる。
「って、ダメだダメだ! 弱気になってどうする! 俺もトレーナーなんだ、こんな事で自信をなくすな!!」
パチンと頬を叩いて気合を入れなおす。トレーナーが弱気ではいけない。それは担当ウマ娘を不安にさせる要因となるからだ。
「……へえ、君。担当ウマ娘がいないんだね」
「うわっ!? いっ────!?」
「あいったあ!?」
耳元に唐突に聞こえてきた声に隋川は思わず飛び上がる。
飛び上がった先には声の張本人の顔があったようで、頭と顎をガツンとぶつけてしまう。
「いっつぅ……ご、ごめん! 大丈夫か……って、君は……!?」
「あいたたた……う、うん、大丈夫……あれ、僕の顔に何かついてるかい?」
「い……いや、というか……なんで君がいるんだ、バースイマジナリー」
声の張本人は、先程コースで注目されていた月毛のウマ娘。バースイマジナリーその人だった。
「それは簡単な話だよ、トレーナーさん。僕が手を振り返したらささっと居なくなったじゃないか。だからもしかして、僕が気に障ったような事をしてしまったんじゃないかな。と思ってね」
「あー……あー……ごめん、別にそういう気はなかったんだ……」
傍から見ればそうなるよな。とバースイマジナリーの言葉に申し訳なさそうに隋川は謝罪をする。
「おや、そうだったのかい? 僕の勘違いだったなら一安心だよ。それと……君と話すちょうどいい機会にもなった」
「え、機会……? 俺と……?」
生徒会にも顔が利く、有名なウマ娘が一体自分に何の用なのか、思わず訝しげにバースイマジナリーを見つめる。
「そう警戒しないでくれ、簡単な話だよ。君、トレーナーだけど担当ウマ娘が居ないんだろう?」
「……まさか、俺と組む気か? 何が目的だよ、君ほどのウマ娘なら……担当トレーナーの候補なんて沢山居るだろう」
「うーんそれを言われると反論はできないけど……君、僕が遅くまで練習している時もずっと見てたじゃないか」
「────ッ……気付いてたのか」
「さすがに気付くさ。恩人のことだからね。僕が片付けようとした道具とか、気付いたら直してくれていただろう?」
そう、隋川という男、最初は本当に偶然ではあったが……バースイマジナリーが人気の少ない夜に自主練習を行っているのを見かけたのだ。
さすがに大人として、学生が夜遅くまで残って練習しているのは咎めなければとも思いはしたが……彼女のあまりにも真剣な表情を見て見守ることにしたのだ。
それ以来、こそこそとバースイマジナリーの自主練習の様子を見に来ては、不必要になった小道具などを回収して片付けたりしていた。
偏に、バースイマジナリーが本当に夜遅くまで練習を続けないようにするためだ。先にモノを片付けられてしまえば、あと少しだけ……という事も減りバースイマジナリーはオーバーワーク気味から改善されたのである。
「僕は、そういう細かな気遣いができる人……すごく好きだよ?」
「それはどうも。だけど……それだけじゃないんだろう、俺と契約しようとする意味」
「あはは、さすがにバレバレか。まあ難しいことじゃないさ、君の目に惹かれたんだよ」
「俺の目?」
「ああ、君の目だ。僕はその目を知っている。いつかのマルゼンや、シービーがしていた目だ。燃えるように熱く、勇ましい目。理由はそれだけで充分だよ。
僕はそういう目をしたトレーナーと、一緒に歩みたいんだ。あとは……一目惚れ、かな?」
「…………はい?」
バースイマジナリーの最後の一言に思わずトレーナーはきょとんとした顔を見せる。だって一目惚れなんでそんな胡散臭い言葉、彼女の口から聞くとは思えなかったから。
「いやいや待て待て待て、そんなわけないだろ。あの、ミスターシービーやシンボリルドルフと並ぶ逸材と呼ばれているんだぞ君は!? そんな君が新人トレーナーの俺に一目惚れなんて何の冗談だ!?」
「さすがに信じられないかい? まあ、仕方ないことではあるだろうけど……僕は嘘は言っていないよ、君に一目惚れしたのは事実だからね。そうでもなきゃ、こうして会話をしようという気にもなっていないさ」
「うぐ……ま、まあ確かに……そうでもないと実績もない俺に話しかけるなんてないよな……」
「まあ、僕も君も……お互いのことを詳しく知っているわけじゃないのは事実だ。だから、賭けをしよう。トレーナーさん」
少しずつ落ち込みかけていく隋川に、バースイマジナリーは一つ、提案をする。
「賭け……?」
「ああ、と言ってもシンプルなモノだよ。今週末、選抜レースがあるのは知っているだろう?」
「……ああ、そこでスカウトできなきゃ、俺も大人しくサブにつこうと思ってる」
「そこで、僕は大差で1着を取る」
「────は?」
それは、余りにも無理難題だった。いくらレース経験の少ないウマ娘達が走るレースとはいえ、そこで大差1着はほぼ不可能だ。そんなことできるウマ娘はそういない。いてたまるかというレベルだ。
だというのに……彼女の目はとても自信に満ち溢れていた。まるで苦じゃないと言うように。だから、隋川はもしかして……そう思ってしまった。
もしかすれば、彼女なら……本当にやってのけるのではないか。大差1着を実現するのではないか。隋川は、そう錯覚させられた。
「賭けの内容は単純だよ。僕はこの選抜レースで大差1着を取る。その時の僕の走りで君を惚れさせることができれば、僕の勝ち。惚れさせることができなければ……君の勝ちだ」
「いや惚れさせるってお前な……」
「ウマ娘は……走って踊れるアイドルのような側面もある。だから、そもそも……担当トレーナーを惚れさせることができなければ、ウマ娘としてやっていけないだろう?」
「……まあ、一理あるけど……なんで俺なんだ? それぐらい、他のトレーナー……それこそチームリギルやスピカのトレーナー相手でも良かったことだろ?」
そう、バースイマジナリーは優秀なウマ娘だ。生徒会のウマ娘が信頼を預けているし、後輩達にもよく慕われている頼りがいのあるウマ娘。そのうえで文武両道な彼女だ。トレーナーなんぞ、自分以外でも選びたい放題だろうに。そこが、隋川にとって不可解な点だった。
「さっきも言っただろう? 僕は君に一目惚れしたのさ。理由は……今は伏せておくけれど。すでに僕は君の虜なんだ。だから、今度は僕の番だ。今度は僕が、君を虜にしてみせる。……他のウマ娘の走りなんて目に入らないぐらいに、魅了してみせる」
「…………俺は……」
そう言われても、やはりはいわかりました。とは言えない。彼だってトレーナーだ、個人的な判断だけで1人のウマ娘の才能をどぶに捨てることになる可能性を考えればそう簡単に承諾はできない。
「もし、一度でも……僕の走りに魅了してくれたなら。今週末の選抜レースのあと、待ってるから」
「待ってくれ、俺はその賭けに乗るとは一度も……!」
「……トレーナーさん。選抜レースで、また」
「あ、おい……!!」
引き留めようとする隋川に対して、言いたい事だけ伝えて去るバースイマジナリー。
彼は頭を抱えるほかなかった。だって少なくとも。
「……最初っから、走りに惚れてるからその賭けは成立しないんだよ……まったく」
彼は、間違いなく。バースイマジナリーの走りに惚れているのだから。でなければ、自主練習をこっそりとはいえ支えるような事をするはずがないのだ。
それから時間はあっという間に過ぎて……選抜レース当日になった。
ルーキー日間に拙作がありました。評価、お気に入り登録。ありがとうございます。