ウマ娘 ワールドダービー 婚活RTA 《2:40:00》 作:婚活したのか、俺以外のヤツと?
選抜レース当日。バースイマジナリーは、身体をほぐしていた。
「やっほー、バース! 調子はどう?」
「シービー!? 怪我はもういいのかい!?」
そんなところに、三冠ウマ娘であるミスターシービーがやってきたのだから周りは大慌てだった。
現在は脚の怪我で療養中とはいえ、あの三冠ウマ娘ミスターシービーがバースイマジナリーの隣にやってきたのだ。周囲は当然ざわつくだろう。
「うーん、ほぼほぼ完治はしてるよ? まだもうちょっと様子は見なきゃダメらしいけどね?」
「それならそっちに専念しないと……今年引退を予定しているとはいっても、まだG1レースには出るんだろう?」
「まあ、そうだけどね。親友で、寮の同室のよしみってやつかな? バースの晴れ舞台なんだし、間近で応援したかったんだよ」
「むぅ……それを言われると、何も言えなくなるじゃないか。シービーはずるいね」
「まあ、タブーを犯したウマ娘だからね」
バースイマジナリーの困り顔にえっへん、と胸を張るミスターシービー。少なからずこの二人が横に並ぶのは絵になっていた。
そして、三冠ウマ娘が話しかけるということは、それだけでやはり広まった噂を真実と認識するトレーナーたちはいるもので……
「やはりあの噂は本当だったのか……」
「ああ、あのミスターシービーにあれだけ目を掛けられているんだ。実力も相当なものだろう」
ざわざわとそんなことを騒ぎ立てていた。まあ、そんな話を聞いて気分が良くなるわけもなく。
「……あいつら」
「いいんだよ、シービー。期待されているということだからね。彼らが文句も言えないぐらい、僕が圧勝すればいい。違うかい?」
不機嫌そうにするミスターシービーを静止して、バースイマジナリーは自信満々にそう告げた。そんな彼女を見てしまえばシービーも何も言えないらしく、やれやれとため息を吐く。
「……ほんっと、ぶれないねえ。バースって。そこがまあ、私としてもお気に入りな部分なんだけどさ」
「それは嬉しいね。かの三冠ウマ娘、ミスターシービーに気に入られていると思うと、僕としても鼻が高いよ」
「もう、そういう冗談私が嫌いなの知ってるでしょ? それに、高いのは鼻じゃなくて、身長でしょバースは」
「おっとこれは一本とられたかな?」
ははは! と笑いあうミスターシービーとバースイマジナリー。それを遠目から見かけるトレーナーが1人、いたことに気付く。
バースイマジナリーは、そのトレーナーに向けて軽く微笑みかけて、手を振った。
「ふーん、あれがバースのお気に入りのトレーナー?」
「ああ。……見に来てくれるとは。困ったな、少し緊張してきたぞぅ」
「……ほんと、乙女な顔しちゃって。そんなに好きなんだね、彼の事」
「もちろん! 好きじゃなければ逆スカウトなんてしないさ!!」
「え!? 待った待った! 逆スカウトしたの!? 彼に!?」
シービーは驚いた様子で、バースの顔を見つめる。まさかそこまで大胆に行ったとは思っていなかったのだろう。本当に驚いていた。
「残念ながら、保留にされてしまったんだけどね……」
「あ、そうなんだ。……あれ、保留ってことは」
「ああ、この選抜レースの結果次第では……彼と契約を結べるかもしれないんだ」
「そっか、じゃあ頑張らないとね。応援してるよ、バース!」
「当然さ、必ず勝つ。勝って僕に見惚れさせるさ。ああ……それと、シービー」
「ん? どうしたの?」
バースイマジナリーは、真っすぐにシービーを見つめて獰猛な笑みを浮かべる。
「君にも勝つさ。だから、首を洗って待っていろ」
「────あは、そうじゃなきゃ! なら私も早く怪我を治さないとね! こんなところでくすぶってるわけにはいかないかな!!」
そんな彼女の挑発に、ミスターシービーは満足そうに笑い返す。そう、彼女達は親友ではあるがそれ以上にライバルでもあるのだ。
出遅れた分は必ず巻き返す。そうバースイマジナリーは、三冠ウマ娘に宣戦布告を行っていた。
そうして、彼女は選抜レースで……
『凄い凄い! これは圧勝!! まさに圧勝の一言だ!! バースイマジナリー! 大差でゴールインです!!』
彼に宣言した通り、大差で1着を取るという圧勝劇を披露してみせた。
「あれほどとは……さすがですね」
「ああ……だが、あのレベルとなると些かスカウトするのに尻込みしてしまいそうだ……」
選抜レースの圧勝劇を目撃したトレーナーたちはがやがやと騒ぎ立て、スカウトすることに抵抗を覚える者もいれば、他のウマ娘には目もくれず我先にとバースイマジナリーをスカウトしようとする者もいた。
「ぜひ、私と契約を!」
「君なら、三冠ウマ娘になれる! 私と契約を結んでくれ!!」
「あ、あの! ちょ、ちょっと離れて……!」
トレーナーたちに囲まれて困った顔を浮かべるバースイマジナリー。そんな中、1人のトレーナーの拍手が異様に響き渡った。
「さすがね、バースイマジナリー」
「と、
「な!? あ、あのリギルの!?」
「おや、おハナさん」
「……東条トレーナーよ。まったく……その呼び方を広めたのはどこの誰なのかしら」
「さあ、僕にはなんのことやら」
慌てて道を開けたトレーナーたちは更に騒ぎ立てるなか、驚いた様子も見せずフランクに話しかけるバースイマジナリーにトレセン学園最強と謳われるチームリギルのトレーナー、東条 ハナは頭を抱える。
「本当にルドルフ達の見立て通り、大差での圧勝とは……大したものね、貴女は」
「かのリギルのトレーナーに褒められるとは、恐悦至極です」
「からかわないでちょうだい。……貴女にとっては悔しい話ではあるでしょうけど、本当に貴女がルドルフよりデビューが遅れて良かったと思ってしまったわ」
「おや、それほどですか?」
「ええ、悔しいけれど……貴女の才能を垣間見せられたわ。本当に」
東条ハナの素直な賞賛の声に少し意外そうな顔を見せる。ここまで手放しで褒められるとはさすがに予想できなかったらしい。
「そこで、貴女に一つ提案があるの。バースイマジナリー、リギルに来ないかしら」
「それは……」
「なぁっ!?」
「チームリギルに直接スカウト!? それほどまでなのか彼女は……!?」
思わぬ提案に、周りのトレーナーは更に驚いた様子を見せていた。それどころか、バースイマジナリーの才能にどこか畏敬の念を抱き、去ってしまう者もいるほどだ。
「お気持ちは嬉しいです、東条トレーナーの提案、凄く魅力的だ。僕でなくともそう思います。ですが……すみません、少しそのスカウト。保留にさせていただけませんか?」
「……なぜか、聞いてもいいかしら? 貴女にとって、リギルにくることはルドルフ達と競い、高めあえることでもあって、損はないはずよ?」
「ええ、分かっています。僕にとってきっと……リギルでの環境は理想的なものなのでしょう。それでも、保留にさせてほしいのです。
……僕には、先約があります。約束をしたトレーナーがいるのです。勿論……一方的なものですが、それでも……僕は彼を待ちたいんです」
「……そう……参考までに、その待ちたいトレーナーがどんな人なのか、聞いてもいいかしら?」
「どんな人……ですか。そうですね……僕を
「! そう……それは、確かに大事なことね。……一週間待っておくわ。その間に、もし……リギルに入りたいと思ったなら、いつでも来なさい。みんな、歓迎するわ」
バースイマジナリーの言葉に驚いたように、それでいて合点がいったように東条ハナは笑みを浮かべて、彼女の前から去っていった。
あの東条ハナですら、スカウトに失敗した。というのは少なくとも他のトレーナーにとっても大きな事だったらしく、それ以降、バースイマジナリーにスカウトを行おうとするものは現れなかった。
────
「まさか、君が東条トレーナーのスカウトを断るとは……思いもしなかったよ、バース」
「そんなに意外だったかい? ルドルフ」
「ああ、驚天動地だったさ。これほどの好条件を吞まないとは……いや、それ以上に君の想いが強かったということかな」
生徒会室、そこで現生徒会長であるシンボリルドルフは本当に意外そうな様子で、バースイマジナリーと会話をする。
「まあ、僕の想いは誰にも負けないつもりだからね。ルドルフやマルゼンにはすまないとは思っているよ? でも、それでも……彼と歩みたいと思ってしまったんだ」
「……その彼が君の担当になるとは限らないのに?
いや、すまない、意地の悪い質問だった忘れてく──」
「なるよ。彼は、僕と歩んでくれる。絶対に」
「────」
ルドルフは、バースのその確信めいた一言に少々絶句してしまう。元々自信満々な性格な彼女ではあるが、ここまではっきりと言い切ることはなかったのだ。だからこそ、心の底から驚いてしまった。
「……君の想いは固いようだ。もし、本当に……君の想い通りに、そのトレーナーが契約を結んでくれるなら……正しく君とそのトレーナーは一蓮托生。ウマ娘とトレーナーの理想的関係性を築いてくれるのかもしれないな」
「そこまで綺麗なものでもないさ、ルドルフ。僕の想いは。……他の誰かに渡したくない。そんな、醜い嫉妬心によるものだよ」
「そうだろうか? 少なくとも私は、そういう想いでもいいと思うよ。だって、私たちは結局のところ……『女の子』だろう? まだまだ恋をする少女なんだ、それが醜いとは私は思わないよ」
「ありがとう、ルドルフ。やっぱり君は……とっても素敵なウマ娘だ」
「そ、そうか? 君にそう言われるのは、不思議と悪い気はしないな……」
ルドルフからの予想外な肯定的な意見に思わず驚きつつも、嬉しそうにバースは笑みを浮かべる。そんな彼女の微笑みにドキッとしたのか、ルドルフは少し顔を赤くし照れくさそうにしながら苦笑する。
「ああ、本当に。僕の親友は、素敵なウマ娘たちばかりだよ。僕は本当に恵まれているな。……それじゃあ、ルドルフ。行ってくるね」
「……ああ、健闘を祈るよ。バース。次に会う時は同じチームの仲間ではなく、ライバル同士のままでありたいものだ」
「安心してくれ、ルドルフ。僕も同じ気持ちだ」
バースイマジナリーは、そう告げて生徒会室から出ていく。向かう先は、レースコースだ。
彼女は待った、只管に。日が暮れて、空が暗くなってきても。彼女は待ち続けた。
そうして、待ち続けて……
「……これは、僕は振られてしまったのか。ああ、そうか……振られたのか」
ダメか、と諦めそうになり、うっすらと涙がこぼれそうになったその時。
「バースイマジナリーッ!!」
「ッ────隋川、トレーナー……?」
「はぁ……はぁ……っ、ま……まにあった……悪い……本当に遅くなった!!」
「……本当に待たせすぎだよ、トレーナーさん……デートだったら失格だ。でも、許すよ。僕は寛大だからね……!
……それで、ここに来てくれたということは……そういう事で、いいんだよね。トレーナーさん」
走ってきたのだろう、必死に呼吸を整える隋川の姿にどこか仕方なさそうに呆れた様子を見せるバースイマジナリー。だが、ここに来てくれたことへの期待感は隠せないのか、どこか声が弾んでいた。
「ああ! ほんっっとうにめちゃくちゃ悩んだ!! 俺なんかでいいのかって! もっといいトレーナーがいるんじゃないかってすっごい迷った!!
それに、選抜レースのあと。東条トレーナーと話してたのを見て……やっぱり、俺じゃない方が君は強くなれるって思った! しぬほど思ったよ!!
でも……諦めきれなかった!! 君と一緒に、走りたいと思った!! 何の実績もない新人トレーナーだけど! それでも、俺は君と、トゥインクル・シリーズに出たいと思った!!」
「……トレーナーさん」
「だから……だから! バースイマジナリー!! 俺の担当ウマ娘になってくれ!! 俺と一緒に……トゥインクル・シリーズを走ろう!!」
「────────」
その言葉が、バースイマジナリーは聞きたかったのだ。彼の口から、その言葉を本当に聞きたかったのだ。
彼女は思わず目に涙を浮かべたまま、彼の手を取り頷く。
「ああ……ああ! もちろんだよ! 当然だ……! 僕を、君だけのウマ娘にしてくれ! 君が誇れる、最強のウマ娘に……!!」
「……ああ、約束する! 君を、誰もが認める最強のウマ娘にしてみせる! ……よろしくな、バース!」
「うん……! こちらこそ……! これから、よろしくね、トレーナー!」
こうして、バースイマジナリーは隋川 零斗の担当ウマ娘に、隋川 零斗はバースイマジナリーの担当トレーナーになった。
これが後に伝説となるウマ娘、バースイマジナリーとそのトレーナー隋川 零斗の始まりであった。
この先、二人に起きる出来事が一体どんなものなのか。それを知るのは。きっと、この世界を見守る三女神だけだろう。