ウマ娘 ワールドダービー 婚活RTA 《2:40:00》   作:婚活したのか、俺以外のヤツと?

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シービーのサポカがついに実装されたので初投稿です。


EP.3 併走トレーニング

 隋川 零斗という男は、あまりにも洗練されたその走りに思わず顔を引き攣らせていた。

 

「よし、トレーナー。指示通りチップコースを二週走ってきたよ。……トレーナー?」

 

「あ、ああ……悪い。バースの走りがすごく仕上がってたからついな……驚いた、本当に本格化が来たのつい最近なのか?」

 

「え? そうだよ? だからルドルフたちに遅れた分を取り返そうと焦って、夜遅くまで練習をしていたんだけどね」

 

「いやまあそうだけども……それにしたって……」

 

 ────仕上がりすぎている。隋川ははれて担当となったウマ娘。バースイマジナリーの身体を見て改めて再認識した。

 こういうのをモノが違う。というのだろう。明らかに、他のウマ娘に比べて完成度が高すぎるのだ。脚の筋肉の付き具合、走法。どれを見ても既に完成されている。

 非の打ち所がないとはこういうことか。と隋川は思わず1人で納得していた。

 

「正直なことを言うとな、バース」

 

「なんだい?」

 

「……俺から言えることはほとんどない。しいて言うのであれば本格化が来たばかりでまだ上手く制御ができていない脚への力の入れ方とか、そういうところを修正して基礎的な体力を作っていく、ぐらいしかな」

 

「それだけでも充分さ。今の僕に足りないモノ。それを教えてくれるだけでもウマ娘としてはありがたい話さ」

 

「……だといいんだけどさ」

 

 自分は必要なのだろうか。そう考えてしまう隋川に対して、バースイマジナリーは即座に否定するように彼の手を握る。

 

「僕には君が必要だよ、トレーナー。誰が何を言おうと、僕は君のウマ娘で君が誇れるウマ娘でありたいんだ。それじゃあ、ダメかな?」

 

「…………分かったよ。それはそうと……手を握るのやめてくれ。ちょっと恥ずかしいのとあと……胸に当たってる」

 

「……え?」

 

 トレーナーの言葉にギギギ、と視線を下に落とす。そこには隋川の手を握って、胸元に押し当てている自分の手があって……

 

「ひゃああっ!? ご、ごごめんよ!? わ、わざとじゃないんだ!! つい、いつも後輩ちゃんたちにするみたいにしてしまって!!」

 

「わかった! わかってるから! 悪気がないのは知ってるから落ち着け!!」

 

 さすがにバースイマジナリーも年頃の少女だ。多少年齢が離れているとはいえ、異性の手を胸に当てさせていた事実には動揺したらしい。

 

「本当にすまない……ぼ、僕としたことが……気が動転してしまって……」

 

「ああいや、いいんだよ。年頃の女の子相手に無防備すぎた俺も悪い。反省だな……もうちょっと君の担当らしく胸を張れるようにする」

 

「……! ふふ、そっか。うん……僕も負けていられないな。君の担当として相応しくあるためにも」

 

 隋川の告げた言葉に、バースイマジナリーは露骨に機嫌を良くしたように尻尾をぶんぶんと振る。彼女の姿は傍から見れば、飼い主に懐く大型犬だった。

 

「さ、休憩は終わりだ。次のトレーニングに行くぞ、バース」

 

「ああ、どんどん頼むよトレーナー!」

 

 

 ────

 

 

「ただいま! んー! 今日も疲れたあ!!」

 

「おかえり、調子良さそうだね、バース」

 

 ウマ娘たちが暮らす寮のうちの一棟、美浦寮の一室に帰ってきたバースイマジナリーの様子を見て、ミスターシービーは思わず笑みを浮かべる。

 

「ああ、おかげさまでね! すごいんだよ、僕のトレーナーは! 本当に新人トレーナーなのか疑ってしまいそうになるぐらいだ! 僕がまだ苦手だった脚の力の入れ具合とか、二週走り込みをしただけで見抜いたんた!!」

 

「へぇ……バースが目にかけてただけあるね。アタシのトレーナーも優秀だけど、培ってきた経験に基づいてるところはあるからねー。そういう点じゃ、バースのトレーナーは天性の才能の持ち主なんじゃないかな?」

 

「ふふん、当然じゃないか。僕が惚れたトレーナーだよ! 性格や容姿はもちろん、トレーナーとしても他のトレーナーに劣ってなどいないさ!」

 

 シービーの手放しの賞賛に気を良くしたバースは耳と尻尾をご機嫌そうに動かして、その豊満な胸をえへん、と張る。はっきり言ってべた惚れである。

 

「ほんと、いったいどうやったらこんなモテモテウマ娘を堕とすんだろ」

 

 バースイマジナリーは人気者だ。彼女を慕うウマ娘は多い。あのマルゼンスキーや、シンボリルドルフですら彼女を友人としても良く慕っているほどだ。

 天然のヒト誑し……ウマ娘誑しだろう。いったいどれだけのウマ娘がこの毒牙に掛ったのやら。まあ、人の事言えないけど。とシービーは親友であるバースイマジナリーのその恋する乙女そのものな表情を見て呆れたように肩をすくめた。

 ここ最近、ミスターシービーは彼女のトレーナー、隋川 零斗のことしか聞かされていないレベルだ。多分、彼女のトレーナーの事に関してだけなら、彼女の次に答えられるぐらいには詳しくなったと思っている。話したこともないのに。

 

 最近だと、デートをしたことを聞いた。曰く、苦い飲み物が苦手だからコーヒーとかお酒は飲めないとか。甘いものが好きで、学園前に出没するはちみードリンク屋ではちみーをよく飲んでいるとか。

 そういう特にいらない情報を事細かに説明されたのは記憶に新しい。この王子様ウマ娘、べた惚れすぎる……と笑みを引き攣らせたのはいい思い出である。アタシは今絶賛そのトレーナーが苦手なコーヒーを飲みたくなってきたなぁ、ブラックで。とか何度考えただろうか。

 

「はいはい、トレーナー自慢はいつでもできるから……ほら、脚見せて? トレーナーから今日もマッサージのメニューもらってるんでしょ?」

 

「うっ……シービーのマッサージはその……効くのは事実だけど、痛いというか……」

 

 幾度もされたシービーのマッサージを思い出して、バースは後ずさりをする。彼女のマッサージは確かに効く。すごく効果的で、翌日に疲れが響かないのだ。その点に関しては文句なしだろう。

 ただ、すごく痛い。曰く、彼女のトレーナー直伝らしいが痛いったら痛いのだ。絶叫するぐらいには。当然、それを食らうバースはやっぱり怖いわけで。

 

「いいからいいから、座って。明日に響いちゃダメでしょ?」

 

「シービー? ちょっと圧がすごくないかい? 僕はひょっとして君を怒らせるような事をしてしまったかい!?」

 

「べつにー、そんなことないから気にしないで? ほら、いくよー? さーん、にー、いーち」

 

「待って待って! カウントダウンする必要はないだろう!? やっぱり君怒ってるよね!?」

 

 別に、甘ったるい話ばっか聞かされて砂糖を吐きそうなことに対する八つ当たりではない。ないったらないのだ。だからいつも以上にちょっと力を入れすぎたことも本当に偶然である。本当に。

 

「うぎゃあああああああ!?!?」

 

「あ、ごめん。間違えた」

 

「シービー!?!?!?」

 

 押すツボを間違えて、バースイマジナリーを絶叫させたのもわざとじゃない。……わざとじゃない。

 

 

 

「ふふ、そんなことがあったのか。相変わらずだな、シービーとバースは」

 

「ほんと、二人の話って聞いてて飽きないわね♪」

 

「笑いごとじゃないよ、ルドルフもマルゼンも! 本当に痛かったんだからね、あれ!!」

 

 昼食の時間、クスクスと笑うウマ娘とぷんすこと起こるバースイマジナリーの姿が食堂にある。

 バースイマジナリーの言葉を聞いているのはシンボリルドルフ、そして『スーパーカー』などともてはやされるウマ娘、マルゼンスキーだ。

 ミスターシービー同様、バースイマジナリーの親友であり同級生である。

 

「ただ君にも非があると思うよ、バース。さすがに来る日も来る日もトレーナーの事ばかり話していたらヤキモチの一つや二つは妬いてしまうだろう。君だって、私たちが東条トレーナーのことを自慢し続けたら妬くだろう?」

 

「むぅ……それはそうだけど……」

 

「そうねぇ、これを機に少しトレーナーくんのことを自慢するの、抑えた方がいいんじゃないかしら。スイちゃん?」

 

 呆れた様子で苦笑いするルドルフに対して、何も言い返せないバースイマジナリー。

 そんな彼女を尻目に、マルゼンスキーは提案をする。ちなみに彼女はちょっとだけ、独特な呼び方でバースのことを呼ぶ。

 

え、これでも自重しているつもりなんだけど

 

「「え」」

 

「え??」

 

 え、自重してたの? あれで? とマルゼンスキーとシンボリルドルフは目を丸くして、バースイマジナリーを見つめる。いくらなんでもすごすぎないだろうか。

 

「……ああ、今シービーの心境が旗幟鮮明になったよ。うん、十中八九……君が悪い。バースイマジナリー」

 

「異論なーし、ごめんなさいスイちゃん。ちょーっと私でも擁護できないわね」

 

「なぜ!?」

 

 味方はいないのか!? と驚愕した様子をみせるバースイマジナリーに、シンボリルドルフとマルゼンスキーは呆れたように見つめていた。

 いくらなんでもトレーナーにゾッコンすぎる。もうちょっとからかい上手というか……ミステリアスな雰囲気のウマ娘だった気がするんだけどなぁ……バースイマジナリーって。

 二人は顔を見合わせ、ため息を吐きながら肩をすくめるのだった。

 

「……って、まあそれはいいんだ。シービーは一応、善意でやってくれてるわけだし」

 

 いやどうだろう、二割ぐらい私怨が混じってる気がするが。シンボリルドルフとマルゼンスキーはそう思いながらもややこしくするのは面倒くさいので触れない事にする。

 

「ようやく脚のコントロールができるようになってきてね。いい機会だから、ルドルフやマルゼンと久しぶりに併走しないかと思ったんだ。

 無論、都合もあるだろうし……東条トレーナーと要相談だから、無理にとは言えないけれど」

 

「────」

 

「へぇ……」

 

 それはマルゼンスキー、シンボリルドルフ、どちらにとっても願ってもない機会だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からの申し出だ、断る理由などない。

 

「そういう事なら東条トレーナーに連絡しておこう。なに、君と併走トレーニングをできるんだ。東条トレーナーも許可を出してくれるさ」

 

「私もバッチグーよ! 久しぶりにスイちゃんと走れると思ったら、ウズウズしちゃう!」

 

「え、受けてくれるのかい?」

 

「当然だろう、私も……久しぶりに君と走りたいと思っていたからね」

 

 意外そうな顔をしたバースイマジナリーに、二人はくすりと微笑み返していた。

 まあ当然、そんなことを食堂で話していたらすぐに噂になる。だって会話しているウマ娘たちがウマ娘だ。生徒会長兼現無敗の二冠ウマ娘、常勝無敗のスーパーカー、そしてまだデビュー前とはいえその実力は確かなものであり『月王子』などと謳われているウマ娘。この三人が揃って話していたのだから周りは食いつく。

 

 あっという間に学園中に広まり、東条 ハナや隋川 零斗の耳にはもちろん、シービーの耳にだって入る。

 

 

「……その結果がこれかよ、バース」

 

「うん、ごめん。もう少し……自分たちの有名っぷりを考えておくべきだった」

 

「申し訳ございません、東条トレーナー……まさか、ここまで大きくなるとは……」

 

「……まあ、併走トレーニングを組むとなった時点でこうなる可能性はあったことよ、今回ばかりは貴女たちに全ての非があるわけでもないわ」

 

 生徒会で追われていた仕事を終わらせて、コースにやってきたバースとルドルフはやたらめったらと集まっているウマ娘たちに驚愕してしまっていた。

 どういう事か困惑していたところに、マルゼンスキーと話していたシービーがやってきて、噂が広まっていたことを教えられたのであった。

 

「すみません、東条先輩。こんな大ごとにうちのバースのせいでなってしまって」

 

「気にしてないわよ。それに……彼も連れてこられたみたいだし」

 

「ああ……シービーを担当してるスピカの……」

 

 シービーに連れてこられたのであろう、チームスピカのトレーナーもめちゃくちゃ顔を引き攣らせていた。

 

「シービー、さては君が話を多少盛って広めたな?」

 

「え? なんのこと? アタシは、二人ばっかりずるいなーって思ってただけだよ?」

 

「シービーちゃんもいい性格してるわねぇ……」

 

「まあまあ、ルドルフ……原因は食堂で頼んだ僕だし……シービーを責めないでくれないか?」

 

 ジト目でシービーを睨む、ルドルフを抑えるようにバースは前に出る

 

「というか、シービー」

 

「ん? なぁに?」

 

「脚は大丈夫なのかい?」

 

「ああ、もう走ってもいいよーってお医者さんに言われてたんだよね。だからいい機会だし……アタシも久しぶりに、三人と走りたくてさ。特に、ルドルフとは……前哨戦ってところかな。秋のレースでの」

 

 少し、獰猛な笑みを浮かべてルドルフを見ながらシービーはバースの質問に答える。

 脚は実のところほぼ完治していたのだ。そして、最近担当医から走り込みもOKだといわれたばかりだったのである。つまり、ミスターシービーにとってこのタイミングはとても都合が良かった。

 

「……なるほど、納得はしたよ。まあ私も負ける気はないが」

 

「あら、それはこっちの台詞よ? ルドルフちゃん、シービーちゃん。追いつけないぐらい、千切ってあげるわ」

 

「……三人とも、僕との併走トレーニングだということを忘れないでくれよ? もちろん僕も、負ける気はないけど」

 

 バチバチと、四人の間に火花が飛び交っているのを見てトレーナー陣は苦笑いをしていた。

 

「なあ、隋川、おハナさん。……これ有マ記念だっけ」

 

「いや、今の時期なら宝塚記念じゃないですかね」

 

「どっちも違うでしょう、ここはトレセン学園であって阪神レース場でも中山レース場でもないわよ。……メンバーだけ見れば小規模なグランプリレースなのは否定できないけど」

 

 あまりにも豪華な併走トレーニングのメンバーに、東条 ハナが頭を抱えるのも仕方のない話であった。

 そのあとあった併走トレーニングの結果は……非常に有意義なものになったということだけは、語っておこう。

 

 少なくとも、バースイマジナリーの成長の糧としては、とても素晴らしいものだったようである。

 

「……しばらくは、目立つところで頼むのは自重しよう」

 

 ……あとちょっとだけ、反省するバースイマジナリーが居たのは、ここだけの余談であった。

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