ウマ娘 ワールドダービー 婚活RTA 《2:40:00》 作:婚活したのか、俺以外のヤツと?
「さて、バース。はれてデビュー戦を勝利したわけだけど……改めて、君が目指したいものを再確認したい。
トリプルティアラ、そしてエリザベス女王杯を無敗で取る。これでいいんだな?」
「ああ、僕は君に誇れるウマ娘になりたいからね。ならば、未だ誰も到達していない偉業を達成してしまえば……僕の名前は永遠になる。そうすれば、君は僕を育てたトレーナーとして永遠に残るだろう?」
「……あくまで俺を目立たせるため……か、お前俺の事好きすぎじゃない?」
「? 当然だろう? 僕は君のことが好きなんだから」
「……はいはい、そいつはどうも」
何を今更? と言った顔で隋川を見つめるバースイマジナリー。あまりにもはっきりと好意を伝えてくる彼女に思わず顔を赤くして視線を逸らす。
バースイマジナリーはウマ娘なので当然美形だ。そのうえで隋川に対してのみ距離が近く、愛想も良い少女だ。言うなれば王子様系とでも呼称すべきか。そんなウマ娘達からの人気も高い彼女から、真っ直ぐに噓偽りない好意を向けられるのは些かむずがゆい。
「ふふ、やっぱりトレーナーはからかいがいがあるね」
「お前なぁ……」
「君はこれぐらいグイグイ行く方が好みかと思ってね、お気に召したかい?」
「お気に召すもなにも、お前以外今は興味ないっての」
「へ? ……────ッ!」
さり気ないトレーナーの一言、それはバースイマジナリーにとって思った以上の破壊力だったらしくかぁあ……っと頬を紅葉させて慌てた様子をみせる。
「そ……その、だね……と、トレーナー……」
「なんだよ急に」
「そ、そういう発言はその……なるべく、僕以外には向けないようにしてくれ……し、刺激が……強すぎる……!」
「???」
バースイマジナリーの言葉にどういう事かと首を傾げる隋川。まあ少なくとも、惚れた相手からお前以外興味ないと言われて慌てない者はいないのである。カウンターとしては成功だったが、対応としてはちょっとズレていた隋川 零斗であった。そしてバースイマジナリーはカウンターに弱いウマ娘である。
「話、戻すぞ」
「あ、ああ……かまわないよ」
「トリプルティアラを狙う以上、OPは勿論……G2やG3じゃあダメだ。ドデカくかます勢いじゃないといけない。つまり、バース。お前が次に走るべきレースは……」
「G1レース、阪神ジュベナイルフィリーズだね?」
「そういうこと、今後対策されるかもとかそういうのは気にするな。実力で黙らせるぐらいはバースならできるだろうしな」
マイルレースでの大差、それは間違いなくレベルが高いことの証だ。多少のマークや妨害程度であればバースイマジナリーなら軽々と回避できるだろう。トレーナーはそう読み、そう信じた。彼女の実力ならば或いはと。
「ふふ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか、トレーナー」
「信じてるよ、お前ならそれぐらいやってのけるって」
「ああ、君のウマ娘は最強だと知らしめてみせるよ」
そんなトレーナーの期待に、バースイマジナリーは答えるように笑った。当然だとそう示すように。
────
阪神ジュベナイルフィリーズは12月の中旬に行われるレースだ。
秋のG1が終わり、年末の最後の4つのG1レースの1つとされている。その中でもティアラ路線に進むウマ娘たちが参加するレースである。
故に、トリプルティアラを目指すウマ娘たちにとって、阪神ジュベナイルフィリーズは登竜門でもあるのだ。故に、ここで勝てなければティアラなど夢のまた夢と考えるウマ娘も多い。
「ふぅ……G1レースとなると、やっぱり緊張するなぁ」
共通で支給されているウマ娘用の勝負服に身を包み、息を整えるバースイマジナリー。
ちなみに共通とは言ったが、バースイマジナリーのそれは特別性だ。彼女専用のサイズに作られており、XLどころではないとかいう話もあるが真相は闇の中である。
「よぉ、随分と暢気そうじゃないか。月姫サマ」
「……シリウス? どうしてここに?」
「ハッ、決まってるだろう? お気楽そうにしてるアンタの様子を見に来ただけだ」
ヒトを小バカにしたような態度を見せながら控え室に入ってきたのはシリウスシンボリ、今年の東京スポーツ杯、ジュニア級G2レースの勝者だ。
あのシンボリルドルフと同じシンボリ家のウマ娘であり、彼女とは犬猿の仲である少女だった。
「随分手厳しいね、僕は君に何か気に障るような事をしてしまったかな?」
「……それだよ、気に入らねえ。あの皇帝サマと同じ目だ。本性を全部しまい込んだその顔が私は気に食わない」
「困ったな、僕のこれは素のつもりなんだが」
「なら尚の事質が悪いな。月姫サマは。その偽った仮面のまま、自分のトレーナーサマとやり取りするってのか?」
「……シリウス」
シリウスシンボリの言葉に、警告するようにバースイマジナリーは睨み付ける。
「おっと、怖い怖い。姫サマの逆鱗に触れると恐ろしいからな」
「なら、噛みつかないことだよ。シリウスシンボリ? 最も……次に噛みつくようなら、その牙ごとへし折るつもりだけどね」
「フン、なら隙を見せないことだ。隙を見せれば容赦なく噛みちぎる。獣ってのはそういうもんだろう?」
「……言いたいことは、それだけかい?」
バースイマジナリーの圧にも屈さず、煽り続けるシリウスシンボリに、彼女は呆れた様子を見せながら視線を合わせる。
「いや、これだけは言っておこうと思ってな。お前は私が倒す。皇帝サマにも紅い怪物にも、あの自由人にも譲らない。その面の皮ごと何もかも剝ぎ取ってやる」
「なら楽しみにしておくよ、シリウス。もっとも……その前に君を潰してしまうかもしれないが」
「そっくりそのまま返してやるよ、月姫サマ。皇帝サマなんぞに負けないことだな」
バチバチと火花を飛び交わせる、シリウスシンボリとバースイマジナリー。そこにやってきてしまったのが……
「バース、そろそろレースの時間……ってあれ、お客さん……シリウスシンボリ!?」
「……ふん、邪魔したな」
隋川 零斗であった。思わぬ乱入者に興が削がれたのか、シリウスシンボリはバースイマジナリーの控え室から去っていった。
その様子を見て、隋川は困惑しつつバースを見つめる。
「何話してたんだ、二人で」
「ふふ、君には負けない。程度のウマ娘らしい話だよ」
「ふーん……そうか」
どこかぼかしたようなバースの言い方に、隋川は何かを察したのか踏み込まなかった。
「それで、トレーナー。僕になにか話が合ったんじゃ?」
「ああ、そうだ。レースの時間そろそろだから準備しろって言いに来たんだった」
「おや、もうそんな時間か。それなら行ってくるよ、トレーナー。今日も刮目してね?」
「はいはい、1秒たりとも見逃したりしないよ」
常套句になりつつあるバースイマジナリーの言葉を適度にあしらいながら、隋川は彼女を見届ける。
────好調そのものだった彼女のレースの結果はもはや、語るまでもないだろう。
『バースイマジナリー1着! バースイマジナリー1着です! なんと2着と6バ身差の圧勝! デビュー戦に続きまたもマイルレースで大きな差を広げました!!』
当然のように1着だった。ただ一つ、語ることがあるとするならば……
「え? レース中に不思議なものを見た?」
「ああ、幻覚の類いか何かだと最初は思ったんだが……その不思議な景色を見てる間だけすっと身体が軽くなったんだよ。そして気付いたら僕はゴール板を通過してたんだ。こんな話眉唾物だろうし、トレーナーに聞くのも変な話だけど……伝えて置くべきと思ってね」
「たしかにレース中の事となると俺じゃあ難しいな……少し詳しく調べてみるよ」
「すまない、助かるよトレーナー。僕も心当たりがありそうな知り合いに聞いてみる」
レース中に、バースイマジナリーは不思議な体験をしていた。夜空と月を真昼なのに見ていたような不思議な幻覚を見た。その間だけ、脚が速くなったような気がしたのだ。事実、彼女は最後の直線で急激な加速をしていたので気のせいではないのだろう。謎が多い現象であったためにトレーナーにも相談したのだ。
彼も心当たりがあるわけではないらしく、2人揃って調べることにしたらしい。この体験は後に、バースイマジナリーにとって大きな武器となるのだが、今はまだ……理解しているはずもなかった。
まあとはいえ、今のバースイマジナリーにはそんな話はどうでもよくて。
「あー……あー……!」
「どうしたの、スマホを見つめて悶々として……なにかあった?」
「なにって……クリスマスだよクリスマス!! 来週は!!! 僕にとっては最重要案件だよ!」
「あ、トレーナーの……そういう……」
バースイマジナリーのその言葉で、事情をなんとなく察したミスターシービーは面倒くさそうに苦笑いを浮かべた。また惚気話聞かされるやつだ。と。
「いや、というかアタシたちにとっては有マ記念の方が重要じゃないの?」
「それは、いつでも見返せるだろう! こっちは、1回しかできないんだよシービー!! 大事なのはこっちに決まってるじゃないか!!」
「あ、うん」
彼女の言葉に気押されて、シービーは頷くほかなかった。というかそれなら……
「はやく誘えばいいじゃん」
「それができたら苦労してないよ! クリスマスデートだよクリスマスデート!! もっとこう、ロマンチックに誘いたいじゃん!!」
「うーん頭メルヘンだね?」
めんどくせー、と思いつつもミスターシービーは彼女との会話を続ける。まあ傍から見ればじれったいのだ。視線の隅でゴロゴロとベッドの上で転がってスマホを見つめてああでもないこうでもないと動く様を見せられるのは少々鬱陶しい。
なので三冠ウマ娘は強硬策に出た。毎度おなじみ掟破りである。
「はーいじゃあスマホ貸してね」
「あ、ちょっとシービー!?」
「『来週末、予定がありますか? なければ、クリスマスデートに行きたいです』と。ハイ送信」
「あ──ッッ!!!??」
バースイマジナリーのスマホを取り上げて、勝手にLANE*1のメッセージをトレーナーに向けて送信したのだ。そんなことをされれば当然メッセージを考えていたバースイマジナリーは発狂したように大声で叫ぶ。
「な、なにをするんだいシービー!? こ、こんな簡素なメッセージでトレーナーが許してくれるわけないじゃないか!? もうちょっとこうロマンチックに!!」
「いやそれ考えてたらいつまで経ってもメッセージ送らないじゃん、バース」
「うぐぅ!?」
ミスターシービーの正論に何も返せなかったバースイマジナリーであった。しょんぼりと落ち込んだ直後、LANEのトレーナーから返答が来る。恐る恐る、バースイマジナリーは内容を確認して素っ頓狂な声を上げた。
「はぇっ!?」
「お? なになに? どうなったの?」
「お……オッケー……出ちゃった……」
バースイマジナリーが見せたLANEには『いいぞ、俺もちょうどクリスマスだしバースと一緒に出かけたかったんだ』というメッセージが記載されていた。
「ね? こういうのは勢いが大事なんだよ」
「う……うん……シービー」
「ん?」
「夢かどうか……頬を抓ってくれない?」
「……はぁ、しょうがないなぁ。えいっ」
「あいたたたたっ!?」
現実だと受け入れられていなかったバースイマジナリーに呆れながら、シービーは思いっきり彼女の頬を抓る。瞬間、バースイマジナリーの頬に激痛が走る。痛い。つまり、現実であった。
「痛い……夢じゃない……! つまり、返事は本物……! や、やった……!!」
「良かったじゃん、楽しんできなよ、トレーナーさんとのデート?」
「ああ! 楽しんでくるよ! ありがとうシービー! 持つべきものはやっぱり親友だ!!」
「わっ!? もう、しょうがないなぁ……バースは」
バースイマジナリーは嬉しさのあまりシービーに抱きつきつつ、自分の世界に入っていく。
そんな様を見ながら……
(一応、来週……アタシとルドルフが走るから見に来てほしかったんだけどなぁ……でも、バースはトレーナーさんのこと大好きだし仕方ないか)
少し、寂しそうに……複雑そうにするミスターシービーが居たことにバースイマジナリーは気付いていなかった。恋は盲目である。