えんだーりりーず! ~リリィの秘密の日記帳~ 作:ひょうたんふくろう
ファーデンのばか。デリカシーの無い人はサイテーってイレイェンも言ってた。
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今日もまた、ファーデンの奴がやらかしてくれた。ひとまず順を追って書いていこうと思う。
前日の日記でも少し触れたが、今日は禁域の探索を行った。禁域はただでさえ穢れが濃く、ただ滞在しているだけでも危険な領域だが、なんとも恐ろしいことに……ほんの僅かばかり足を踏み入れるだけでも、身体に尋常じゃない影響が出るほど穢れが濃い区域も存在している。
幸か不幸か、我々は既に肉体を失った身だ。精神への影響はともかく、朽ち果てる体が無い分、多少は穢れへの耐性を持っている。
しかし、生きているリリィはそうはいかない。故に、この禁域を探索する際はここで研究をしていた連中──もっと言えば、ファーデンが発明した特製のマスクを着用する必要がある。
このマスクと言うのがとにかくひどい。センスの欠片もまるでない。みすぼらしいズタ袋のような見た目をしていて、まるで死刑執行人のような……まぁ、悪趣味でデザイン性が皆無な見た目なのだ。
どこからどう見てもボロ布みたいなそれなのに、穢れから肺を守るという機能だけはしっかり働くというのだからタチが悪い。あんな状態でもしっかり役目を果たせるのなら、なぜもうちょっとマシなデザインにしなかったのかと問い詰めたくなる。いや、デザイン云々以前に、機能性の面から見てもあの形状はよろしくない。頭の上の無駄に余ったあの部分、いったい何の意味があるのだろうか?
ともあれ、禁域の探索に必須となるあのマスクはあまりにもダサい。デザインセンスが壊滅的で、好き好んであんなものを着用する人間はおよそ真っ当じゃないと思う。必要なことだからしょうがないとはいえ、あんなものを被るリリィの姿に何度泣きそうになったことか。
リリィ自身、言葉には出さなかったが嫌そうな顔を隠せていなかった。あのリリィにそんな顔をさせるということが、いったいどれほどのことかわかるか?
前振りが長くなってしまったが、ここからが本番だ。
前述した通り、件のマスクはファーデンが発明したものだ。そして、ファーデンは自身が作ったあのマスクを──あのマスクのデザインを非常に気に入っている。禁域でなくとも着用するくらいで、正直我々全員あのセンスは無いと思ってる。
だけど、本来ならば着ける必要なんてないものだ。マスクである以上、息苦しさは感じるし視界も狭まる。デザインを気に入っていたとしても、四六時中ずっと着けているのは少々異常だと言わざるを得ない。
だから、リリィが寝静まった後……たまたま何かのきっかけで、イレイェンがファーデンに問いかけたのだ。『もうすでに死んで穢者と化しているのに、なんでずっとそのマスクを着け続けているんだよ? 見ていて暑苦しいからたまには外したら?』……と。
なんとも恐ろしいことに、ファーデンの素顔はかなり理知的で整ったものであるらしい。穢者となった今、生前のそれを拝めるはずもないが、しかし面影くらいは残っているのだろう。『私も久しぶりに、あなたの素顔を見たいわ』……だなんて、ミーリエルもイレイェンに乗っかった。
珍しく。本当に珍しく、少しばかり悲しそうな声でファーデンは語った。
『取り外したくとも、もう取り外せないんだよね。穢者になる時も着用していたから、一体化しちゃったんだよ』……と。
これだけだったら。
ここだけだったら、ただの悲しい話だった。普段はひょうひょうとした男が語る、悲劇的な真実だった──という風にこの日記を終わらせることができた。
実際、あのイレイェンでさえ、『あっ、やっべ』みたいな感じで気まずそうな表情をしていたのだ。まさか美的センスが終っていることを煽るために振った話で、あんなことを聞かされるだなんて思いもしなかったのだろう。
だけど、私たちの目の前にいたのは悲劇を語るひょうきん者じゃない。
唯一無二のイカレクソ野郎であることを、私たちはすっかり忘れていたのだ。
あのクソ野郎、まるでこの機会を待っていたかのような手際の良さで──
──『だから、取り外すとしたら肉ごと削ぐしかないんだよね!』と笑いながら自らの顔の皮を剥ぎやがった。
──『だけど、穢者だから剥いだ直後にはもう再生するんだよね!』と腹を抱えてゲラゲラ笑いやがった。
──『でも、こんなに素敵な僕特製のマスクが……ほら! 二枚に増えてお得なんだよね!』と唖然とするイレイェンの手に自らの顔の皮を押し付けやがった。
クソ野郎の奇行はこれだけに留まらない。『良い機会だから、ぜひとも試してみてくれたまえ!』と、ファーデンは笑いながら何度も自らの顔の皮を剥ぎ、呆然とする私達へそれを押し付けていく。『素晴らしいデザインセンスだろう!? 遠慮する必要なんてないんだ!』と、さも私たちが遠慮しているかのようなふるまいで、肉片のこびりついたそれを被せようとしてくる。挙句の果てに、『仲間なのだから、お揃いで決めるのも悪くないね!』などという戯言すら抜かしだす始末。
想像してほしい。笑いながら自分の顔の皮を剥ぐ男が、純粋な善意でそれを周りにプレゼントする光景を。
自分の頭がおかしくなったのか、ファーデンがとうとう狂ってしまったのか、マジで判断に悩んだからな。結果的に言えば、単純にファーデンの頭が元々おかしかったというだけなのだが。
私たちにとって最も不幸だったのは、その騒ぎのせいでリリィが起きてしまったことだろう。可愛そうに、ゲラゲラ笑いながら自らの顔の皮を剥ぐファーデンを見て、リリィは真っ青になってしまっていた。おまけにファーデンがそんなリリィに気づいて、『作りたての一張羅をプレゼントしよう!』などと抜かすものだから……。
ああ、思い出すのも悍ましい。なぜあの時私はノータイムであのクソ野郎を殴り飛ばさなかったのか。本当に、本当に悔やまれる。
結局リリィは、わんわん泣きながらシーグリッドに抱き着いた。『お嬢さんにはまだ早かったかな?』とかほざいたファーデンは、イレイェンとシルヴァにシメられていた。私も何発か殴っておけばよかったと今になって思う。
ふう。これくらいにしておこう。自分で書いておいて何だが、内容があまりにトチ狂っているせいか文章が少し変な気がする。推敲する気力も無いし、別にこのままでもいいか。
最後に、リリィへ。
日記を自分のおなかに抱えて寝るのは本当に反則だろう? 日記帳自体があまり綺麗なものでないというのに、それを服の中に……素肌に当てるのもよろしくない。おまけに寝ぼけて腕に抱き着いてくるし、起こさないようにするのが大変だったぞ。
──これもう言い逃れできないよね?
──お姉ちゃんも加勢するね。
──シメる。
──お供いたします。
──盛り上がってきたねえ!
──ところで僕のマスクのセンスが悪いだなんて、みんな正気かい?
──別に遠慮しなくていいんだよ? すっごくカッコいいだろう?
──うるせえ、クソ野郎。
──少しは反省して。
──照れる必要なんてないさ! さぁ、恥ずかしがらずに一緒に被ろうよ!
──ほら! ほら! ほら!
──めっ!!
──ごめんなさい。
──これが女房の力か。
──私たちはいったい何を見せられたのだ……?