えんだーりりーず! ~リリィの秘密の日記帳~   作:ひょうたんふくろう

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8日目 髪の色

 

 もうやだ。今日は疲れた。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 実に、実に疲れる一日だった。本当だったらこの日記を書く気力すらないのだが、リリィがほんの一行とはいえ成したのだ。私がへこたれるわけにもいかないだろう。せっかく続いている日記を途切れさせるのも忍びないし、幸か不幸か、私には休息を必要とする体はもう無いのだから。

 

 今日もまた、昨日に引き続き例の分帰路周辺の探索を行っていた。この国にはお守りの欠片を始めとした魔術の品があちこちに散見されるが、他の場所に比べてこの周辺では明らかに見つかった量が少ない。

 

 初めてここを訪れた頃はまだ私とリリィ、シーグリッドしかいなくて満足に探索できなかったためだろう。頼りになる仲間が増えた今、探索範囲は大きく広がった。今までの例を考えるならば、この周辺に一つか二つは何かその類のものが埋もれている可能性は高く、そう言った意味では私たちの判断は間違っていなかったと思う。

 

 そう、この周辺を探索する──それ自体はよかったのだ。実際、予想通りにお守りの欠片を見つけることもできたのだから。

 

 ただ、そこで欲をかいたのがよろしくなかった。

 

 もっと言えば、リリィから目を離したのが私のミスだ。

 

 崩れかけた家の中。穢者は一掃し、安全だと思っていた。何か面白いものが見つかるかも……と、鼻歌を歌いながら家の探索を始めるリリィ。この状態で何か危険なんてあろうはずもなく、事実として、もう動かなくなった穢者の成れ果てのほかには何もなかったのだ。

 

 だから私たちは、家の外で警戒にあたった──リリィの付き添いをファーデンに任せて。

 

 家から出てきたリリィの髪は、薄汚れた茶色になっていた。元々、目覚めたばかりの頃は純白だったその髪は、穢れをため込みすぎたためにかなり変色が進んでいたが……それでも、僅かに白い部分は残っていたというのに。ほんの少し前までは確かに白かったそこでさえも、もうすっかり茶色くなってしまっていたのだ。

 

 結論から言えば、これは穢れによるものではなかった。リリィの表情はいつも通り……むしろにこにこと上機嫌で、私の前でくるりと回ってそれを見せつけてきたりもしていた。髪の色のことが無ければ、その愛くるしさに私は思わず頭を撫でていたことだろう。

 

 どうやら、リリィとファーデンは家の中で毛染めのための染料(おそらく白髪染めだろう)を見つけたらしい。ただ、この染料が凄まじく劣化していたこと、またリリィもファーデンもこの手の処理の扱いに慣れていなかったために、綺麗に染めることが叶わなかったというだけだ。

 

 思えば私も、少し気にかけるべきだったのかもしれない。まだ子供とはいえ、リリィは立派なレディだ。みすぼらしく中途半端に変色した……それも穢れに染まった髪を気にしないわけがない。

 

 元の純白は難しかろうとも、せめてブラウンとか亜麻色とか……何か一色で均一に染めてあげたほうが可愛いに決まっている。見かけだけでも普通の女の子と同じようにしてあげるべきだった。それくらいの心の支えくらいは、許されるべき──私たちの方から気づいてあげるべきだった。

 

 『いめちぇん!』と彼女ははにかみながら笑っていた。それがきっと、全てを物語っている。そして、唆したのはファーデンだ。

 

 最悪なのは──中途半端に斑に、みすぼらしく髪が染まったリリィをシーグリッドが見てしまったことだ。

 

 おそらくきっと。いいや、間違いなく。シーグリッドはリリィの穢れが最悪の状態になってしまったと勘違いしたのだろう。

 

 この世のものとは思えない大絶叫。耳が潰れるほどの金切り声を上げた彼女は、文字通り発狂して異形化した。

 

 で、それを見たシルヴァも発狂して異形化した。あのシスコンが、耐えられるはずが無かったのだ。

 

 そこからはもう、酷かった。発狂した二人は文字通り狂って見境なく暴れまわり、あっという間に周囲を更地に変えてしまった。敵味方の判別も付いていないようで、騒ぎに群がってきた穢者を瞬殺するだけでは飽き足らず、互いに取っ組み合いでの殴り合いを始めた。

 

 こっちとしては巻き込まれないように逃げ惑うのが精いっぱいだった。わんわん泣いて動けなくなったリリィを小脇に抱えていたヘニールが今日一番の功労者だと思う。今日ほど彼の縄捌きに感謝したことは無い。

 

 最終的に、シーグリッドについてはゲルロッドとユリウスと村長殿で、そしてシルヴァについてはミーリエルで動きを止め、私とイレイェンで意識を刈り取ることで二人の異形化を抑え込んだ。誰か一人でも欠けていたら、被害はもっと大きくなっていたことだろう。

 

 何とかなったあの瞬間、私たちの心は確かに一つになっていた。あれほどまでに安堵したのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。

 

 リリィは泣き疲れて眠っている。イレイェンに抱き着き、彼女の胸に顔を埋めながら。なんだかんだでイレイェンは面倒見がいいし、女連中の中では最もリリィとの距離感が相応しいように思える。優しくリリィの頭をなでる彼女からは、聖母の慈愛が確かに感じられるのだ。

 

 すべてが終わったら、きっと白巫女の役割も無くなるのだろう。その暁には、私は周囲の反対を押し切ってでもリリィを魔術師の道へ進ませようと思う。少なくとも聖職者の道よりはリリィの情操教育に良いは……

 

 ……いや、魔術師にもろくでもない前例がいる。いざと言う時は、私とユリウスでリリィに剣を教えるしかない。この世は本当にままならないものだ。

 

 

 

 ──貴公のその判断は正しい。大なり小なり魔術師はみんなファーデンみたいなやつばかりだ。リリィに剣を教える時は遠慮なく呼んでほしい。

 

 ──聖職者も軍人も、みんな頭が固いったらない! ジョークの一つも理解しないとは!

 

 ──うるせえクソやろう。お前、こうなるかもしれないってわかってたな?

 

 ──ごめんなさい。この人、昔からデリカシーがないんです……。あと、魔術師みんながこうってわけじゃないんです……。一部が凄く悪目立ちしているだけで、ちゃんと探せば普通な人も少しはいるんですよ?

 

 ──ちゃんと探しても少ししかいないのか……。

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