モブウマ娘ーずはスーパーカーをぶち抜きたい   作:唯のかえる

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大体ダービー救済は他がやってるからね。
さぁ(シニアまで)飛ぶわよ!


一等星と流星群

 

 トゥインクル・シリーズ。

 最も重要だと言われる、その最初の三年間。

 ジュニア、クラシック。

 そして、シニア。

 

 一つの世代にとって、ソレが終わりを迎える月。

 

 12月後半。

 年末の中山。

 今日で全てが決まり終わり、また始まる。

 

 地下バ道。

 

 マルゼンスキーは歩みを進める。

 堂々と胸を張って。

 燃えるような深紅の勝負服に身を包んで。

 肩で風を切るように。

 

 久しぶりに会う自身のライバル、大切な友達と対峙するために。

 

 地下バ道の中心を陣取るように、白い小さな背中が深紅を待っていた。

 いつかの対比。

 

 今度の声かけは、マルゼンスキーから。

 

「ハァイ、ハッピーセット。調子はどう?」

「マルゼンスキー久しぶりじゃん。調子は過去最高だよ」

 

 くるり、ふわりと勝負服を踊らせ白い背中を翻しマルゼンスキーを見るウマ娘。

 真っ直ぐに、美しいほど闘志を滾らせながら。

 ハッピーセットというウマ娘が立ち塞がっていた。

 自分が勝利することを微塵も疑っていない、闘志の擬人化。

 

 マルゼンスキーの体がぶるりと震える。

 恐怖ではない、気持ちの高揚による戦意の武者震い。

 

「だいたい半年ぶりかしら」

「そうだね」

 

 半年。

 そう、シニアの四月。

 大阪杯を最後に彼女、ハッピーセットは一度レースから姿を消した。

 消す際に、とんでもない爆弾を解き放って。

 

「貴女のあのインタビューでこっちは大変だったのよ? どの子もどの子も私に挑んできた」

「最高だったでしょ?」

「ええ、もちのロン! 最高にチョベリグよ。併走だって引っ張りだこ! 心無い言葉を言ったと頭を下げにきた子だっていたわ。その皆が闘志を燃やしていた。戦いを避けることをやめて、全員があたしに挑む時代」

 

 とある理由で消える前に、ハッピーセットはマルゼンスキー世代の全員を焚きつけた。

 

「どんな些細な情報でも、僅かなクセでも拾おうとみんながむしゃらになって挑んできた。これを最高と言わずになんていうのかしら?」

 

 ハッピーセットというウマ娘の特徴として、意図せずに他人を焚きつけるセンスがあった。彼女の闘志が発端となって、今やマルゼンスキーの同世代は全員が最強に挑む構図となった。

 だが、それでも。

 

「それでも、君はその挑戦者たちに全て勝ってきた。ただの一度の敗北もしなかった」

「そうよ。あたしはターフを駆けるスーパーカー。ファンもそれを望んで、あたしも最高のレースを望んで挑んでいるのだから。それが、今のあたしを最高に気持ちよく走るための力になるのよ」

 

 絶対に手を抜かない。

 フルスロットルの怪物。

 その姿は、まさしく一つの時代を築いた。

 

「ええ、今が楽しくてたまらないわ」

「──でも、それも今日で終わりだ」

 

 マルゼンスキーが三日月に口元を吊り上げる。

 対峙するハッピーセットも腰に手を当てて、マルゼンスキーの顔を見上げてドヤ顔で宣言をした。

 かつてその獰猛な笑みに怯えたハッピーセットは、今や微塵もそんな様子を見せず同じく獰猛な笑みを返す。

 

「君に最高の『幸せの詰め合わせ』を持ってきた。『敗北』という名の贈り物さ」

「『あなた達』に出来るかしら?」

「やるさ。その為の今日だ」

 

 会話をするハッピーセットとマルゼンスキーの横を、レースに出場するウマ娘たちが通り始める。

 

 見える者全員が闘志をたぎらせていた。

 

 ある者は勝負服の手袋を引き絞り。

 ある者は肩をぐるりと回しながら。

 ある者は優雅に尻尾を振いながら。

 それぞれがレース前のルーチンを行いながら、この地下バ道の先にある栄光。

 ただ一つの栄冠を目指して、極限の集中力でパドックへ消えていく。

 

 集った全員が全身から闘気を立ち上らせてレースに臨む。

 怪物を恐れるものなんて一人も居なかった。

 マルゼンスキーという『一等星』の光に姿をかき消された、限界まで力を高めた『六等星』たちが集った。

 

 ──誰かにとってこれ以上のない最高の幸せな贈り者たちが『有マ記念』に集められた。

 

「君に勝ちたい。マルゼンスキー、僕が君に勝つ」

「いいえ、今回もあたしが勝つの。勝つのはあたしよハッピーセット」

 

 それ以上の会話は要らない。

 二人は肩を並べて、紅白揃ってパドックへと乗り込んでいった。

 

 

 ◇

 

 

 ──『有マ記念』が始まる、約半年前。

 シニアに入り、G1レース大阪杯が終了した。

 その辺りの時間のハッピーセットの話だ。

 

 

 空の色とターフの色が混じってあやふやな世界。

 レース場にいる。

 それだけ分かった僕は不敵な笑みを浮かべた。

 少しだけ引き攣ったような笑みな気もするけど気のせいだ。

 

 ああ、夢だな。

 何度も何度も、最近同じ光景を見た覚えがある。

 頭の中の冷静な部分がそう判断する。

 

 ゲート内で、まだ走り出していないのに心臓が痛い。

 急に変な汗が噴き出してきて、僕の勝負服を湿らせる。

 スタートのために握りしめた拳が汗で滑って気持ち悪い。

 

 ああクソ、またゲートが開く。

 いや、開かないとダメじゃん。

 何考えてるんだ僕は。今回こそ、僕が勝つんだ。

 

 そうだろ? じゃないと──。

 

「──────?」

 

 ガコンッ! ゲートが開いた。

 慌てて大地を蹴って風を切る。

 強い向かい風だ。

 僕の小さな体はその風に吹き飛ばされそうになる。

 でも、勝ちたい。その気持ちだけで地面から決して足を離さないで、前に進む。

 馬鹿の一つ覚えだな。頭の冷静な部分で、僕が僕をせせら笑った。

 

 うるしゃい、これしか知らんもん! 

 

 目指すは、眼前を行く深紅。

 名前はマルゼンスキー。

 僕のライバルの背中。

 ライバル? ライバルだ。

 僕は、かませ犬なんかじゃない! 

 

「────―ちゃん?」

 

 一歩踏み出す。

 真っ赤な背中が遠くなる。

 一生懸命、足を動かす。

 それでもマルゼンスキーが遠くなっていく。

 

 必死で追っていると、僕の後ろから気配がする。

 嘘だろ? 僕は追込で走っているのに、僕の後ろに誰がいるってんだ。

 

 知らない顔、知らない背中が僕を追い越していく。

 向かい風が強くなる。

 ちっぽけな僕は、いつしかジリジリとしか進めなくなる。

 

 知らない奴らが、僕と深紅の間を走り出す。

 そして、真紅の横に並んだ。

 

 驚く。

 ムカつく。

 

 待て、そこは。

 そこは僕だけの! 

 僕たちだけの!! 

 

「────―セットちゃん!」

 

 遠い、足を動かすのは決してやめない。

 僕の足が遅すぎる。先に行ってしまったレースの相手たちはもう豆粒みたいだ。

 マルゼンスキーも、顔も知らない誰かも。

 風だけがどんどん強くなる。

 ジリジリとすら進めなくなる。

 その場で、地に足をつけているだけで精一杯だ。

 

 ふと、思考に魔がさす。

 

 僕は──。

 ────彼女の、マルゼンスキーにとってライバル足り得てるんだろうか? 

 

 ジュニア、クラシックと文字通り共に駆け抜け、一度も勝利できていない事実が重石のようにのしかかる。

 いつも背中に届かない。

 修行した後に挑んだ試合、全てだ。

 ハナ、アタマ、クビ、半バ身。

 大阪杯、一バ身。

 

 一生離され続けるだけなんじゃないか? 

 

 そんなやつ、世間でライバルと呼べるのか? 

 ゾッと、全身が凍りついて冷え込む。

 ついに僕は立ち止まってしまった。

 

 立ち止まってしまったのだった。

 恐る恐る周りを見回す。

 

 もう、周りには誰もいなかった。

 マルゼンスキーも。

 顔も知らない誰かも。

 

 みんな、先に行ってしまった。

 

 一段と強い突風。

 唐突な浮遊感。

 ズドン! と叩きつけられる感触。

 頭部にズキリとした鈍い痛み。

 

 夢がさめる。

 冷めたのか、醒めたのか。

 馬鹿な僕にはよくわからなかったけど。

 

 最近になってようやく分かってきた事は。

 ユメヲカケルのは、凡人にとって途方もないくらい難しいっていう現実だった。

 

 

 ◇

 

 

「……痛い」

「ハッピーセットちゃん!!」

 

 名前を呼ばれて、恐る恐る目を開く。

 薄暗い部屋。寮の自室だ。

 同室のヴァッサゴちゃんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。髪の毛のセットも終わっていないのか、いつものツインテールは見えなかった。

 全身が汗で濡れて、心底気持ちが悪い。

 悪夢が終わり、体が怠い特有の感覚。

 目が覚めてきた僕は現状を把握する。どうやら僕はベッドから落ちて起床したようだ。

 夢の終わりの浮遊感は、ベッドからひっくり返って地面に落ちた時の感覚。

 最後の叩きつけられる感覚は、落ちた時に頭を打ってしまったんだな。

 犬神家の有名な死亡シーンの如く、足を天へ向けるダイナミック起床。

 

「大丈夫? 夢の中でも走ってる犬みたいになってたよ?」

「……あー、えーっと。空飛んでるハンバーガー追いかけてた。フライングスパゲッティ」

「またよくわかんないこと言ってる……。本当に平気?」

「本当はおセンチな気分……な訳あるか!」

「???」

 

 へっ所詮は夢よ! ペッ、数分後には忘れてやるもんね! 

 このポジティブさには、悪夢も裸足で逃げ出すぜ!! 

 消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな! 

 

 僕はポジティブなのがウリなのだ。

 僕のファンも僕のそういうところが好きだからヨシッ! 僕も好きだからヨシッ! 

 現場ウマ娘のポーズをとって、ヴァッサゴちゃんにドン引きされたがヨシ。

 ドン引きしながらも、こちらを気遣ってくれるヴァッサゴちゃんは言葉を続ける。

 

「ねぇ。ここのところちゃんと眠れてないんじゃない? 大丈夫なの?」

「うぅむ……」

 

 実は僕もそう思ってる。なぜか朝までぐっすり寝れてないのだ。

 なんかもうよく覚えてないけど、夢見が悪いみたいなんだよなぁ。

 枕変えてみるか。

 安眠の質は選手生命に関わる。トレーナーにも相談しよう。

 

「ちょっと寝つきが悪いだけだから、ほんとーに平気」

「そう、ならいいんだけど……」

「心配ならさ、今日枕買い替えに行くから付き合ってよ」

「……うん。夜うなされてるみたいだから、いいの買おうね」

「え、まじ!? 僕うなされてるの!? この、僕が!?」

 

 僕ってうなされるとかと無縁な精神してると思ってたんだけどな。やばい、初めての経験でちょっとテンション上がってきた。僕のテンションの機微を感じ取ったのか、心配してくれていたはずのヴァッサゴちゃんがジト目になる。

 

「うん、ハッピーセットちゃんがうなされてたらやばいでしょ? だから私は心配してるの」

「誰の頭がハッピーセットじゃ!?」

「ふふ、言ってないけど察したね。えらいえらい」

「えへへ、褒められちゃった。……ってあれ? それって……うん?」

 

 僕の名前はハッピーセット。

 マルゼンスキーと同期で、最近シニアに上がって二つ名はシルバーコレクター。

 ──マルゼンスキーとの対戦戦績が、6戦0勝の無様な敗北者だ。

 

 そして、一つ人生の転機に差し掛かっているウマ娘。

 転機とは。

 

 ぶっちゃけ、マルゼンスキーに勝てなさすぎてトレセン学園を『休学』するつもりなのである。

 

 

 ◇

 

 

 とある雑誌の取材。

 僕はいまだに劇画調から戻らないトレーナーと共に、素晴らしいです! が口癖の記者と対面してお話をしていた。

 ちょっとだけ普通の取材とは異なる取材。

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 受けてくれてありがとう月刊トゥインクル。

 

 語るのは、これまでの事。

 そして、これからの事だ。

 さぁ、取材を始めようか。

 

 

 一番思い出深いレースと言われると、すぐにあのスプリングステークスが思い浮かぶ。

 あのスプリングステークスから大体一年たったと思うと、とても感慨深いものだ。

 ハナ差とはいえ、敗北は敗北。

 あのレースの後、僕たちは次は勝てると驕らずに、マルゼンスキーへと挑むために僕たちは再び過酷な修行やフォームの勉強を繰り返した。

 

 そして、その修行現場にはマルゼンスキーも一緒にいた。

 ……ちょっと待ってほしい。

 記者さん、そんな得体の知れないものを見る目で僕を見ないでほしいんだ。

 だ、だってしょうがないじゃないか! 

 

 僕が特別なSYUGYOをするぜ!! って言ったらマルゼンスキーが寂しそうに見ていたので、つい誘ってしまったのだ。

 断れるか? 断れないだろう。

 僕は断らなかったぜ! えっへん! 

 その結果、今世紀最大の誤り……とは言いたくないが、同じ修行をしたはずなのに一人だけずば抜けて戦闘力が上がってしまった子が生まれてしまう。

 

 ──そう、マルゼンスキーである。

 

 僕は白目を剥いた。

 読めなかった。このハッピーセットの目をもってしてもその未来は予知できなかったのだ。『モブウマ娘ーず』のみんなは、僕の頭を10tと書かれたピコピコハンマーでピコピコ叩いた。

 みんなには予知できていたらしい。

 この時ばかりは教えて欲しかった。

 いや、でも友達置いていけるわけないだろうが!! 

 心が二つある〜を現実で体験してしまった僕だったのだ。

 

 とにかくだ。

 僕は認めていないが、お前はやっぱ(頭)ハッピーセットだわ。と『モブウマ娘ーず』のみんなにも言葉でもポコポコされてしまった事件である。反省はしているが後悔はしていない。

 どうせマルゼンスキーの事だから勝手に修行して同じ位の力を手に入れてただろうからね。だから、僕は悪くない。……ごめん、ちょっとは悪いかもだけど。

 ちなみに、ポコポコ事件の際マルゼンスキーは微笑ましそうにその様子を見守っていた。

 

 そしてその魔改造マルゼンスキーがこの年の皐月賞を持って行ったよ! 僕も全力を振り絞ったけど、今度はアタマ差で敗北だよ、ちくしょう! 

 ダービーについては……特に語るまい。

 マルゼンスキーが出走を選んだなら僕たちは挑んだし、出走を選ばなかったならラジオNIKKEI賞で僕たちのダービーをやったまでだ。

 どちらにしろ、めちゃくちゃ熱い戦い。ね、そうでしょう? 

 

 そしてここからが本題。

 

 僕たち四人『モブウマ娘ーず』は、いつまでもマルゼンスキーへと一緒に挑めると思ってたんだけど、流石にそうは問屋が卸さなかった。そう、距離適正的なものである。

 元々ヴァッサゴちゃんは皐月賞の2000mでも結構難しかったらしく、スプリンターに転向。今は短距離メインで駆け回っている。

 ジャーマンケーキちゃんとムシャムシャちゃんは逆に距離が短いとスピードに乗り切れないことが発覚。ステイヤー路線で方針を固めている。

 そして、マルゼンスキーは……。

 あの子はなんかもうバグってるよね。全部走ってたよ。

 4月に女神像前でピカーってなって長距離もいける気がしてきたわ! とか言ってたのは流石に乾いた笑いが出てしまったよ。

 それを聞いた僕も女神像を美肌効果のある石鹸でピッカピカになるまで磨き上げたり、目の前の噴水に高い温泉の素とか入れたんだけど何も起きなかった。

 まぁ、僕は全距離適正元からあったからいいんですけどね! その後、たづなさんに追いかけられて予期せぬステータスアップも迎えましたよ、違うそうじゃないんだよ三女神様よ!! もっと厳かにピカー! とかあるじゃん?? 言ってることがわからない? あ、そう。

 

 コホン。と、まぁ。

 そんな感じで、みんなでマルゼンスキーに挑む機会が減ったのだ。

 だけど、距離適正的に僕は『モブウマ娘ーず』の代表としてマルゼンスキーの戦いに全部挑んでいる。

 

 ……結果は、知っての通り惨敗だよ。

 

 僕自身がマルゼンスキーのライバルだと思っていても、世間は一度も勝ったことの無い僕をそう捉えてくれていない。

 ……接戦を演じているからそんなことはない? いや、そんなことはあるさ。

 僕自身が、一度も勝てないでライバルと名乗っていいのか分からないんだよ。複雑なお年頃なんだよ、察してください。

 

 きっとね。

 この後の時代、僕なんかよりも才能のある子が現れる。

 確信がある。いや、もう現れてきてる。

 最近トレセン学園に入学してきたミスター何某とかシンボリのやベー奴とかね。

 でも。

 

 でもそいつらが台頭してきて、ようやくマルゼンスキーのライバルが生まれてきたとか言われるのは違うだろ! 

 

 だってさ、そうだろ? 

 僕たちは、あのマルゼンスキーと同期なんだぜ? 

 これだけで他の世代の奴らが味わえない、最高の戦いが用意されてるんだ。

 

 勝つんだ。

 荒唐無稽の挑戦だ。

 このインタビューを聞いた僕の同期たち。

 

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 心折れてマルゼンスキーから逃げ出した奴らも多いよ。

 無理だと思って、諦めて出走を取りやめる奴も多いよ。

 

 そんな奴らも戻ってこいよ! 

 まだレースは終わってないぜ! 

 

 まだ、間に合うんだ!! 

 

 やってやろうよ、僕たちで! 

 僕たちで最強に勝つんだ!! 

 

 その栄誉をぽっと出の後ろの世代に持ってかれるなんて、絶対に悔しいよ! 

 

 他でもない、僕たちが!! 

『スーパーカー』しか見えてない観客に魅せてやろうぜ! 

 沢山の『モブウマ娘』を目に焼き付けてやるんだ! 

 この世代の名前にマルゼンスキー以外が、ちゃんといたって存在証明をしてやろう! 

 

 僕たちの世代全員で! 

 

 

 ──僕ら『モブウマ娘ーず』が、スーパーカーをぶち抜くんだ!! 

 

 

 だから。

『僕はトレセン学園を休学することに決めた』

 別に怪我とかじゃない。

 でも、今の僕の実力じゃ足りないんだ。

 

 今という一番輝いてる本格化のこの時間を全てかけて、人生を賭けて博打を打ってくる。

 

 学園の方にも、もう話を通してる。

 僕のファンたちにも、申し訳ないけど待っててほしい。

 必ずスーパーカーに追いつく。

 絶対に追い越してやるから待ってて! 

 

 このインタビューを聞いてやる気が出たみんなへ! 

 僕が帰ってくる前に、スーパーカーをぶち抜いといてくれても構わない! 

 その時はスーパーカーと一緒に、勝った『一番星』に挑んでやる!! 

 だって、一着は一人しか手に入れることができないんだから! 

 

 ……逃げたと思われるかもしれない? 

 こんな発破をかけといて? 

 

 ハハハ、確かに僕のレースを見た事ないやつが言いそうだ。

 本当にみんなマルゼンスキーに目を焼かれすぎだよ。

 僕は逃げるのが苦手なんだ。

 自慢じゃないけど、僕の脚質は。

 

 ──最後方から『幸せの詰め合わせ』を届ける追込なんだぜ! 

 

 

 ◇

 

 

『休学』

 この選択をするあたって、結構僕なりに苦悩した。

 少なくともこの僕が悪夢でうなされるレベルで悩んだ。

 まぁ悪夢については、ヴァッサゴちゃんやジャーマンケーキちゃんムシャムシャちゃん、そしてマルゼンスキーと枕を買いに行ったら治ったんだけどね。やっぱくたびれ気味の枕はよくなかったみたいだ。

 

 とにかく、シニアに入って僕は気がついてしまったのだ。

 

 どれだけ体を鍛えても、どれだけフォームを改善しても。

 ──タイムが縮まないのである。

 ウマ娘のくせにもう腹筋はバキバキで、ネフェ○ピトーばりの太腿なのにだ。ごめん嘘、流石にあんな太くはない。でも、ふらふらと吸い寄せられるように沖野なるトレーナーが勝手に僕の太ももを触ったと思ったら、化物を見るような海外のホラー映画ばりの顔で叫んじゃったくらいだ。

 ちなみに大胸筋でバストアップに成功した。それに気がついた時に遠い目をしてしまったのは僕だけの秘密だ。背中に鬼神も宿っちゃったよ。着痩せするタイプでよかったと生まれて初めて思った。でもウマッターのクソリプで筋肉がキレてる系が飛んでくるのは許さない。

 

 嫌な予感がしてトレーナーに相談すると、ウマ娘の個として成長限界が近いらしい。

 流石の僕も涙目になってしまった。

 トレーナーも物凄く悔しそうな顔をしていたから、本当の本当に限界値に来てるんだろう。

 

 そもそもだ。

 ウマ娘とはウマソウルの出力に耐えられる体の作りになっている。

 要は、お馬さんと同じ速度とパワーを出力できる体ということ。

 逆にいえば、宿ったお馬さんよりパワーが出ない。出せないのだ。

 僕に宿っているウマソウルは、まだやれるアイツに勝たせろ! と囁き続けているが、難しすぎる超難問。

 原付のエンジンでは、スーパーカーのエンジンの加速力とスピードは出ないのだ。

 

 ちなみにマルゼンスキーは元気もりもり成長中である。

 ウッソだろおめぇ。前世のお馬さんレジェンドすぎない? レジェンドだったわ。

 

「というわけで、僕休学するんだ!」

「……というわけって、というわけって何さー! この頭ハッピーセット!」

「ご、ごめんって!? 相談するタイミングが、って今頭ハッピーセットって言わなかった!?」

 

 そして現在、僕はまた『モブウマ娘ーず』のみんなにピコハンでポカポカされてる最中である。

 特にヴァッサゴちゃんは怒り心頭なご様子なので、謹んで現状を受け入れてピコピコされておく。

 うん。

 実は相談してなかったんだよね! 

 ごめんってー!! 

 

「ゼェゼェ……。まぁハッピーセットちゃんが考えなしのアホなのはよく知ってるから、もう受け入れるけどさ」

「アホって言った! アホって言った方がアホなんだもん!!」

「特にバーガー屋の店長さんがインタビューの映像を見たときに腰を抜かして大変だったんだからね! ドンガラガッシャーン、って今日び聞かない効果音で大転倒だったんだからね!」

「僕がアホのハッピーセットです!!」

「よろしい。……で、実際に目的は? ここに書いてる博打ってなんなの?」

 

 すまん店長……。今度在庫が余ってるらしいティラミスとナタデココのデザートメニュー頼むからね。案外美味いんだよなあれ。

 呆れ顔のヴァッサゴちゃんは、僕の記事が載っている月刊トゥインクルを指差しながら『休学』の意図を聞いてくる。ジャーマンケーキちゃんとムシャムシャちゃんもジト目で僕を見てくる。

 

『休学』の理由。

 そりゃ当然修行ってのもあるけど、頭打ちになった体の限界をなんとかするという事。

 それは……。

 

「い、言わなきゃダメ?」

 

 僕は低身長から繰り出される上目遣いで、なんとかこの場を誤魔化そうとする。

 ガシリ、頭を掴まれ繰り出されるアイアンクロー。

 ヴァッサゴちゃん握力上がってない!? 

 イダダダダダダ!? だめみたいです!! こめかみがミシミシ言ってるって! 

 

「さ、笹針です! 笹針しに行きます!! とある笹針師を探しに行くの!」

「…………? それだけで休学? ハッピーセットちゃん疲れてるの?」

 

 笹針とは、ウマ娘たちの疲労回復を行う施術の一種である。

 ぶっちゃけ打ったところで、一般的に劇的に体が変化するわけではない。というか、劇的に効果があるならみんな打ってる。毎日毎秒打ちまくりである。

 現代医学的にちゃんとした病院とお医者さんに治療を頼んだ方が疲労回復も効果も期待できるので、日の目を浴びなくなってきてる技術。それが笹針だ。

 

 ──だが、転生者の僕は知っている。

 

 数多のウマ娘を(たぶん)導く救世主の存在を! 

 奇跡の腕を持つ(自称)伝説的笹針師の存在を! 

 その名も!! 

『安心沢刺々美』である!!! 

 

 いや、うーん……。

 救世主……? 

 正直ゲーム的にあまり良い思い出ないんだけど。

 育成を諦めるキッカケになる代表だったし。

 ぶっちゃけ不審者だ。思考もかなりちゃらんぽらん。

 やべーやつ代表なのは間違いない。

 

 でも、決して悪人じゃない。

 ……たぶん悪人ではない。

 ………………おそらく。

 

 とにかく! 

 今の僕の現状を、ぶち抜く手段は彼女しかいないのだ。

 彼女の笹針は、おそらくウマソウルに干渉する。

 システム的な要素といえばそれで終わりだろう。

 だがメタ的に考えよう。

 笹針で劇的にウマ娘が成長する要素とは、そこにしかないのだ。

 

 彼女の超適当なあんし〜ん笹針ブッパで、ウマソウルを刺激。

 成功すればウマソウルが振起して、文字通り一皮剥ける。

 なんならサポートカードイベントでヒトソウルすら笹針で打ち抜き、謎の成長させるやべーやつである。

 

 しかし、世の中都合の良いことばかりではない。

 失敗すればその真逆。

 

 調子は最低最悪になり、実力はものすごいレベルで封印される。五行封印もびっくりである。

 

 博打も博打。

 選手生命をかける大博打。

 おそらく失敗したら、僕はもうマルゼンスキーに追いつけないだろう。

 

 医療行為の延長ではあるが、一種のズルになるんだろうか。

 でも、もう僕にはこの手段しかないのだ。

 転生者のくせに特殊な力も、『領域』もないから。

 

 …………僕には何もない。

 

 とっくに気がついてた。

 才能なんてない。

 根性と負けん気、体の頑丈さは人一倍あるけど、それだけだ。

 

 本当に根性で限界まで体を鍛えようとして、すぐに頭打ちになる。

 頭打ちになった場所からは、どうやっても最強の真紅の背中に手が届かない。

 どんどんどんどん少しずつ離されていく。電光掲示板が物語ってる。

 まさに『モブウマ娘』だ。

 ユメヲカケルのにも才能がいるんだと、生まれて初めて精神的に挫折した。

 

 じゃあどうするか? 

 諦める? 

 僕が、諦めるだって? 

 

 諦めるくらいなら、人生全部賭けてでも一筋の可能性に賭けてやる。 

 マルゼンスキーと一緒のレースを走る、ハッピーセットってウマに。

 この世界で会ったことも噂も聞いたこともない不審者に縋ってやる。

 

 ──これまでと、これからの人生全部を賭ける。

 

 大穴狙いの一点賭けだ。

 僕は好きだぜ、そういう博打。

 失敗した時のことなんて、失敗した時に考えればいいさ。

 

 だから、コイツは僕の中にいるんだ。

 このハッピーセットってウマは、僕より頭が最高にハッピーなんだ。

 

 同世代たちを発破して、失敗した場合の僕がいなくなったレースを、マルゼンスキーに勝利してくれと頼むくらいに。

 僕は、この賭けに本気だ。

 

「それだけそれだけ。ま、あんし〜んして待っててよ!」

 

 にっこりと笑って僕は、『モブウマ娘ーず』のみんなに覚悟を悟られないように強がる。

 でも、付き合いが長い仲間たちには、僕自身が気がつけない怯えと不安が伝わっていたのかもしれない。

 

「怪しい。いつもなら私たちもひっぱって行く癖に」

「ぎくっ」

「…………けど、必要なことなんだよね?」

「うん。みんな、僕はブレないよ。だって僕はマルゼンスキーに勝ちたいんだから」

 

 そう。

 いつだってその言葉に帰結する。

 僕は自分の全てを賭けてでも勝ちたいのだ。

 あの真紅に。

 マルゼンスキーに勝ちたい、その一心だけでここまで来たんだ。

 

 その僕のセリフに集まっていたみんなはやれやれと肩をすくめて、顔を見合わせた。

 

「「「いない間にマルゼンスキーさんに勝ってても文句言わないでよね」」」

「! その時はみんなを追い抜くよ。へへへ、待っててね」

 

 その会話で、僕たちは笑顔で別れた。

 たぶん彼女達も、僕がいない間にマルゼンスキーに挑むのだろう。

 さすがは僕の仲間達だ。

 

 最後に。

 ここに戻ってくるのもいつになるかなとトレセン学園の校門で黄昏れる。

 背中には大きな荷物。

 僕のトレーナーさんも同じように荷物を背負って、後方で腕組みをしていた。好きだねそのポーズ。

 

 少し待つ。

 でも、待ち人は来ない。

 いの一番で駆けつけてくるイメージがあったんだけど、うーむ。

 いや、一番はヴァッサゴちゃん達だけど、さっき一緒に来ていてもおかしくないくらい仲良くなったつもりだったんだけどなー。

 

 なんというか、また自分のせいだとか思ってそうだし、どうせどっか近くに隠れてるだろ。本当に困ったおセンチちゃんだぜ。

 大きく息を吸って、大声で告げる。

 

「マルゼンスキー! 首を洗って待ってるんだな!! 次に勝つのは僕だぜ、ガッーハッハー!!」

 

 シーン。

 下校中の通りすがりの知らないウマ娘たちがびっくりした顔で、こっちを見ている。うん、君らじゃないから。ごめんって驚かせて。

 返事はなかった。

 むむ? マルゼンスキーがその辺で聞いてそうだと思ったんだけどな? 

 

 後何回か声出すか? 

 

 僕はそのまま何回も何回も大声を上げ続けた。

 僕のトレーナーも横に並んで一緒に宣戦布告をする。

 さすがは僕のトレーナーだぜ! 

 

 その後、暗黒微笑を浮かべた駿川たづなさんが校舎からものすごい勢いで駆け抜けてくるのが見えた。

 やばい! 飛び上がった僕とトレーナーは慌ててその場から逃げ出すのだった。

 

 ま、聞こえてなくてもこれだけ騒げば誰かが伝えてくれるだろ! 

 

 そして僕とトレーナーは、困った顔の駿川たづなさんに説教されてから、トレセン学園を去ったのだった。

 

 

 ◇

 

 

 僕はトレーナーと一緒に、十年茶くみに従事している金髪の助手のいる失敗知らずの笹針師を全国探し回った。

 その間、他のウマ娘達にはこなせないような特別なSYUGYOもする。限界まで体を鍛えたのに体がぶっ壊れなかった頑丈さだけを売りにした素敵なトレーニング達である。

 

 基本のスピードトレーニング。

 それはトレーナー考案(?)の小石を蹴りながらの日本縦断である。うん、僕これ漫画で読んだことあるよトレーナー。あれはアメリカ横断だったけど、デビ○バットゴーストでもさせるつもりかな? おいトレーナー、目を逸らすな。

 それでも走る時の足捌きが今まで以上に上手くなってしまって、無性に悔しかった。

 

 続いてのスタミナトレーニング。

 当然のように各海峡を泳がせようとするのは勘弁願いたい。でもスタミナは欲しい。僕は頑張った。その途中、再び鯛にこだわる謎の芦毛ウマ娘に再会。そのままバタフライで追い越されてしまった。あいつマジで何者だよ、ちくしょう! 

 

 体の筋肉を落とさない為のパワートレーニング。

 トレーナーが理事長から餞別として頂いたと言う、四種類のスピスタパワ根とラベルの貼ってあるアンクルを、全て同時に着用して生活することになった。

 たぶん違う、トレーナーこれ使い方違うと思う。

 ひえ、メガホンを振り回すな! というか何種類あるんだよそのメガホンは!

 ああああ、わかったってば! 青汁もケーキも食べるってば!! 

 ちなみに俺も付き合うぜ! とトレーナーも初めは青汁を一緒に飲んでくれていたが、飲んだ瞬間白目を剥いて気絶してしまったので以降控えさせている。僕は一体何を飲まされているんだ……。

 

 極め付けの根性トレーニング。

 頭から釣り竿を下げて、ゴール板手前を走っているマルゼンスキーの写真を常に見せられる拷問をさせられた。根性、根性……? 本当に根性が鍛えられてるんだよねトレーナー? 僕は冷静さを欠こうとしてますよ。

 全国各地でマルゼンスキーのファンからなぜか握手を求められたが、僕の目が血走りすぎてたせいでドン引きされてゆっくりと後ろに下がって逃げられてしまった。熊とか野生動物にする逃げ方なんだよそれは。やはりマルゼンスキーのファンも逃げるのはうまいんだな、僕はそう思った。

 ついでに、僕の有マ記念出走の為の票を各地の僕のファンに依頼をする日々でもあった。

 ……各地で今度こそ勝ってくれ、信じて待ってる。そう言われた。

 想いが背中に乗せられていくのはとっても重たくて、今までにない根性が必要な事だった。

 

 そして最後の賢さトレーニング。

 

 トレーナーは言った。

 これが一番大事なトレーニングだと。

 僕がなんでマルゼンスキーに勝ちたいのか? 

 それを考えるんだ、と。

 それに気がつけば君はもっと強くなれると。

 

 僕が考えたこともなかった問いだった。

 ただ勝ちたい。それだけじゃもうダメなんだ。

 

 僕が、マルゼンスキーに勝ちたい理由。

 その答えは────。 

 

 

 本当に簡単なことで、トレーナーと顔を見合わせて笑い合った。

 

 

 ◇

 

 

 そしてついに見つけた。

 安心沢刺々美を。

 

 本当にぎりぎりのタイミング。

 世間では、火をつけた僕が言うのもアレなんだが、マルゼンスキーを打ち倒そうと皆が血気盛んで、マルゼンスキーの出走するレースは倍率がヤバすぎるのだ。

 安心沢刺々美を見つけたのは、なんとか出走登録を済ませられるギリギリの時間だった。各地のファンにお願いしてなかったら、出走出来なかっただろう。あ、危なかった……。

 

 ちなみに僕のトレーナーは安心沢の人相を見た瞬間速攻で反対した。うん、手を常にワキワキしてる不審者だもんね……。

 だが、限界まで体を鍛えた僕の決断を最後には尊重してくれた。

 

 笹針診療所で主治医じゃなくてお茶くみ係をしていた安心沢に施術を頼むとドン引きされた。

 え? 本当に?? みたいな顔でドン引きされた。

 そして頼まれた安心沢の第一声。

 

「ワォ、あんし〜ん☆」

「やっぱり帰っていいですか! ひえっ!?」

 

 いやまって! やっぱコイツ絶対やばい。

 美人だけど白衣に真っ赤なボディコンスーツだし! 

 ゲームだったから許される怪しさで、現実で目にしちゃうと本当にやばいぞ! 

 僕の辞書に後悔という文字はないはずだけど、今だけ追加したい! 

 本当に成功するよね!? 

 してくれないと困るけど、いや、やっぱやめとけばよかったかな!? 

 

 ちょ、まっ!?

 

 ──────アッー!!!!! 

 

 

ブスッと 大 成 功 !

 

 

 この時に謎の手応えを感じたのか、トレセン学園に仮面をつけた怪しい笹針師が現れるようになるのは近い将来の話であった。

 

 

 ◇

 

 

 そして、訪れる。

 年末の中山。

 

 燃え尽きる覚悟で新たな力を解放した白の星屑が、一等星の真紅の輝きに手を伸ばす。

 

 

 ──その戦いの幕が切って落とされた。

 

 




止まらないハッピーセットBB。
次回、マルゼン視点とレース。

最近ハーメルンでマルゼンスキーの話が増えてきてて最高。
もっと増えてください!
あと今イベのショータイムLv5のマルゼンスキーとCBのステを見てきたのですが、あいつらだけクライマックスしてて笑う。
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