「バブみ」が強いボクっ娘ギャルが、俺の恋路を邪魔してくる件について    作:けるたん

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第13話 春のはじまりパッドエンド事件

「そ、そんなっ!? め、メイちゃぁぁぁんっ!? うわぁぁぁぁっ!?」

「ふひっ♪ や、やった! やった! ザマーみろ、このアバズレッ!」

 

 胸元からザックリと斬られた羊飼の華奢な身体が、力なく後ろへ倒れ込む。

 

 そんな彼女を半狂乱のまま涙をポロポロと流していた古羊が慌てて抱きしめた。

 

 ナイフを持った女子生徒は満足そうな吐息をこぼしながら、耳まで裂けそうなほど唇を邪悪に吊り上げる。

 

「メイちゃん、起きてよメイちゃんッ!? ねぇメイちゃんっ!?」

「……うるさいなオマエ? 静かにしてよ? 静かに出来ないなら――死んでよ?」

 

 1度人を斬りつけた事でタガが外れたのだろう。

 

 もはや正気の瞳をしていない女子生徒が古羊の首元めがけて大きくナイフを振りかぶった。

 

「じゃあね、バイバイ♪」

「テメェがな」

 

 瞬間、女子生徒がナイフを振り下ろすよりも早く、俺の右上段回し蹴りが彼女の顔面を捉えた。

 

 メキョッ! と肉を切り、骨を断つ感触が頭のテッペンからつま先を駆け抜ける。

 

 そんな嫌な感触と共に、悲鳴すらあげることなく横に1回転しながら激しく吹き飛ぶ女子生徒。

 

 ピクリとも動かなくなった女子生徒の姿を確認し、俺は慌てて羊飼の方へと駆け出した。

 

「メイちゃん、返事をしてよメイちゃんっ!?」

「しっかりしろ羊飼っ!? おいっ!」

 

 声をかけるが羊飼から返事はない。

 

 それが余計に俺たちを恐怖のどん底へと叩き落とす。

 

「ど、どうしようオオカミくんっ!? メイちゃんが、メイちゃんがっ!?」

「落ち着け、呼吸はしっかりしているからまだ助かるっ! まずは救急車だ。俺が止血するから、その間に古羊は救急車と警察を呼べ」

「う、うんっ! わかった!」

 

 おぼつかない手つきでポケットからスマホを取り出す古羊を尻目に、俺はザックリと切り裂かれた彼女の胸元へと指先を伸ばす。

 

 見ているコチラが痛々しくなるほど深く切り裂かれたシャツの胸元からは、月明かりの照らされた彼女の眩いばかりの真っ白な肌が目に飛び込んできた。

 

 よほど深く切り裂かれたのか、露わになった紫のブラジャーが視界に入る。

 

 おいおい、流石にコレは不味くないか!?

 

 ブラジャーまで切り裂かれているってことは、それだけ胸の傷が深いということで……クソッ!

 

 斬られてからもう大分時間も経っている。今は1分1秒も無駄には出来ない。

 

 事は一刻を争うほど切羽詰っていた。

 

「クソッたれめ! このままだと出血多量でお陀仏……って、あれ?」

 

 素早く応急処置に入ろうとして、ふと気がつく。

 

 あれ? これだけ深く斬られているのに……出血がない?

 

 えっ、ない? な、なんで?

 

「た、確かに目の前で切られたハズなのに、なんで? 一体何がどうなって……あっ」 

 

 俺が驚き首を傾げるのとほぼ同時に。

 

 

 

 

 ――ボトリッ。

 

 

 

 

 と羊飼のおっぱいが落ちた。

 

 

「「…………」」

 

 

 コロコロ、ポテン、と地面に転げ落ちていく羊飼のおっぱい。

 

 それはまさにおむすびが転がるかの如く、華麗にコロコロと転がっていく。

 

 静寂を切り裂き、こぼれ落ちる羊飼のおっぱい。

 

 やがて俺と古羊は2人して足下に落ちたおっぱいを眺め――って、えっ!?

 

「お、おおお、おっぱいが!?」

「あぁっ!?」

「ひひひ、羊飼のおっぱいが斬り落とされ!? ……って、うん? あれこれ? もしかして……」

 

 一瞬『おっぱいが斬り落とされた!?』と思ってらしくもなく焦ってしまったが、違う。

 

 そうじゃない。そうじゃなかった。

 

 ブラジャーが切り裂かれてこぼれ落ちてきたのは、彼女のおっぱいじゃなかった。

 

 いやまぁ、ある意味おっぱいなのだが、おっぱいではない。

 

 俺の足下、そこには布製の、角の丸い三角形の何か。

 

 俺はこれをよく知っている。

 

 というか、さっき見た。

 

「……胸パッド?」

「ごめん、メイちゃん……」

 

 申し訳なさそうに天を仰ぐ古羊を無視して、俺は地面に落ちたソレを拾い上げた。

 

 それはパッドと呼ぶにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、軽く、そして大雑把すぎた。それはまさに超パッドだった。

 

 混乱のあまり思わず心の中でベル●ルク風のナレーションをしてしまう。

 

 そんな俺に超パッドが、

 

 

 ――やぁ、また会ったね?

 

 

 とバーカウンターでプレイボーイが口にしているような台詞を言ったような気がして、つい超パッドに微笑(ほほえ)んでしまう。

 

 約数分ぶりの再会である。

 

「あのパッド、羊飼のだったんだ……」

 

 俺は超パッドから視線を切り、羊飼の胸元へと意識を向けた。

 

 彼女の胸元には一切の傷はなく、出血なんてしていない。

 

 つまり気を失っているだけ。

 

 それが分かりホッと胸を撫で下ろすが……どうしようかコレ?

 

 とりあえず(えぐ)れた羊飼のお乳を見ながら古羊と現状を確認し合う。

 

「これはつまり、アレかな? 羊飼の巨乳は実は虚乳(きょにゅう)で、冗談みたいにデカイ超パッドでビルド・アップしていたと……そういうことかな?」

「……誰にも言わないであげてね?」

「うん……」

 

 子どものように素直に頷く俺。

 

 いや、言えねぇよ。

 

 だってこんなの言ったらさ、森実高校の全男子高校生が生きる希望を失って非行に走るに決まってるもん。

 

 最悪、明日から男たちの髪型と制服がモヒカンと肩パッドに変わり、世紀末伝説のような学生生活が幕を開けてしまうことになりかねない。

 

 そんなことになってみろ、うちの校長あたりが責任を感じて首を吊るぞ?

 

 俺は今にも戦闘機が着陸しそうなほどまっ平(たいら)な羊飼のお胸を眺めながら、1人納得する。

 

「要するにナイフを持った女子生徒が切り裂いたのは羊飼の虚構(きょこう)おっぱいの方で、本物おっぱいは無傷のまま助かったってことか……うんっ! ここは喜ぶ所だなっ!」

 

 そうだよ、むしろパッドが犠牲になったおかげで一命を取り留めたんだ。

 

 ありがとうパッド! 俺は君を忘れないよっ!

 

 女性ホルモンをどこかに忘れたような胸元を慈愛に満ちた瞳で見ていると、羊飼の唇から「んん……っ?」と艶めかしい吐息がこぼれた。

 

「ぅん……あ、あれ? アタシ、なんで?」

 

 メイちゃんっ! と歓喜の声をあげる古羊の腕の中で、ゆっくりと目を覚ます羊飼。

 

「洋子? ……あぁ、そうか。気を失ってたのかアタシ。大丈夫だった洋子? 無事?」

「うんっ、うんっ! ボクは大丈夫だよ。それより、メイちゃんは?」

「アタシもだいじょう……ぶ……あっ?」

 

 ゆっくりと自分の身体に視線を這わしていた羊飼の表情がビシッ!? と強ばる。

 

 彼女の視線の先、そこには――ザックリ切り裂かれた胸元と、そんな彼女の胸から超パッドがオープン・ゲ●トしている姿だった。

 

「…………」

「め、メイちゃん? め、目が怖いよ?」

 

 スッ、と感情が喪失した瞳でキョロキョロと辺りを見渡す羊飼。

 

 その無機質な瞳が超パッドを握り締めている俺とかち合った。

 

 ヤッベ、気づかれたヤッベ!?

 

「ありがとう洋子、もういいわ」

 

 羊飼はニッコリ♪ と華が綻んだような素敵な笑みを(たた)えながら、古羊をやんわりと押しのけて俺と向かい合う。

 

「大神くん」

「……はい」

「――見たわね?」

 

 おしっこがチビるかと思った。

 

 えっ? ちょっと待って? もう人殺しの目じゃ~ん? 連続殺人鬼の目じゃ~ん?

 

 なんで彼女はニコニコしながらドスの効いた声で殺気を振りまくことが出来るの?

 

 こんなの魔法少女、もしくは学園のアイドルじゃなきゃ出来ない芸当だよコレ?

 

 ふと羊飼の後ろで古羊が『逃げてっ! はやく逃げてっ!』と口をパクパクさせているのが見える。

 

 確かに古羊の言う通り、並みの男だったらここで『逃げる』のコマンドを選ぶだろうが……真の(おとこ)の子である俺、シロウ・オオカミは違う。

 

 俺の灰色の優秀な頭脳はこの危機的状況を打破するべく、冷静に未来をシミュレートしていた。

 

 

 

ケース① とりあえず褒めてみる

 

『羊飼』

『……なんですか?』

『貧乳万歳☆』

 

 殺されるぞ?

 

 

 

ケース② とりあえず笑ってみる

 

『羊飼』

『……なんですか?』 

『……ぷっ(笑)』

 

 殺されるぞ?

 

 

 

ケース③ とりあえず喜んでみる

 

『羊飼』

『……なんですか?』

『胸がニセモノで助かったな。ほんとニセチチでよかった!』

 

 殺されるぞ?

 

 

 

ケース④ とりあえず責任転嫁してみる

 

『羊飼』

『……なんですか?』

『おまえが悪いっ!』

 

 殺されるぞ?

 

 

 

 ……お、おやおやぁ~?

 

 どうあがいても俺がブチ殺される未来しか訪れないんだが?

 

 なにコレ? 狂ってるの? これがシュタインズ・ゲートの選択なの?

 

 俺が普通の男だったらここで『あぴょぴょぴょぴょぴょぴょぴょっ!?』と謎の電波を受信し、ハードにダンスッちまう所だろうが……そうは問屋が卸さない。

 

 そうっ、俺はすでにこの絶望的状況を打破する神の1手を導き出しているっ!

 

 さぁ、括目してみろっ!

 

 これが大神士狼の生き様だぁぁぁぁっ!

 

 

「羊飼」

「……あによ?」

「どんまい♪」

 

 

 ガッ! (俺が羊飼に足払いをされる音)

 

 

 

 ドスッ!(俺が羊飼にマウントを取られる音)

 

 

 

 ゴッゴッゴッゴ!(俺の顔面に羊飼の拳が叩きつけられる音)

 

 

 

「大神くん、『ごめんなさい』は?」

「心の底からごめんなさい……」

 

 なにを選んでも未来は変わらなかった。

 

「お、落ち着いてメイちゃんっ!? こ、これは不可抗力、不可抗力なんだよっ!」

 

 慌てて俺から羊飼を引き剥がそうとする古羊。

 

 おまえほんと良い奴だなぁ。惚れそうだ。

 

 古羊に(たしな)められ、「チッ」と小さく舌打ちをしながら俺から離れる羊飼。

 

 もしかしたら彼女は現代に蘇ったスパルタンなのかもしれない……。

 

 う~ん、やっぱりお茶目に親指を立てながらウィンクしたのがダメだったのだろうか? 

 

 ここは可愛らしく小首を傾げるべきだったな、反省反省♪

 

 と、1人大神反省会を開いている間に、古羊が羊飼に事情を説明してくれていた。

 

「――と、いうワケなんだよ。だ、だからね? オオカミくんを怒らないであげて?」

「……ハァ~、そういうことね。クソッ、アタシとしたことが一生の不覚だわ。まさか大神くんに恩を売られるなんて。これじゃ大神くんの記憶が飛ぶまでしこたまブン殴る計画が実行できないわ。どうしようかしら?」

 

 何か羊飼の方から不穏な言葉が聞こえた気がする。

 

 俺の記憶を昔のドラクエのセーブデータよろしく全て抹消しようする闇の計画が聞こえた気がするんですけど……気のせいだよね? き、気のせいなんだよっ!

 

 羊飼は指先に大神印のケチャップをつけたまま、気だるげに俺の方へと視線をよこした。

 

「洋子から大体のことは聞いたわ。悪かったわね、いきなりぶん殴って。でも大神くんも悪いのよ? 今回は特別に許すけど、次に『まな板』だとか『滑走路』だとか『偽乳(ぎにゅう)特戦隊』だとか『ワコールへの反逆者』とか言ったら……蹴り潰すからね?」

「一言も言ってないないんだよなぁ……」

 

 何故かお股の間がひゅんっ! となった。

 

 一体どこを潰すつもりなのか問い質(ただ)したいコト山の如しだったが、それよりも何よりも、まずこれだけは言っておかなければならないことがある。

 

「なぁ羊飼。色々言いたいことはあるが、とりあえず1つだけいいか?」

「なによ?」

「ほんと胸がニセモノで良かったな。パッド万歳ッ!」

「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」

「お、落ちついてメイちゃんっ!? 石は洒落(しゃれ)にならない、石は洒落にならないよ!?」

 

 一体どこから拾ってきたのか、やたら尖った石を俺に向かって振りかぶってくる羊飼。

 

 その細いウェストにガッシリと腕を回してなんとか親友を落ち着かせようとする古羊。

 

 だが穏やかなおっぱいと突然の怒りによってスーパー地球人となりつつある羊飼を止めるにはいささか腕力が足りないみたいで、ズルズルと羊飼の腰にしがみついたまま俺のもとまで引きずられてくる。

 

 ちょっ、お嬢ちゃん? ケダモノの呼吸でも使ってるの?

 

 と、ツッコムのも忘れて俺は恐怖に震えた。

 

「あ、あばばばばばばっ!?!?」

「ぐるるるるるるるるるっ!!」

「逃げてッ! オオカミくん、早く逃げてッ!」

 

 気がつくと俺は、古羊の言葉に押されるように2人を残してその場を遁走(とんそう)していた。

 

「あっ、コラ待ちなさいッ! 待てやゴルァッ!?」

ステイ(待て)、ステイッ! メイちゃん、ステイッ!」

 

 まるで猛獣使いのように荒ぶる羊飼を窘める古羊。

 

 そんな彼女の努力も(むな)しく、羊飼のチンピラめいた怒声が鼓膜を叩く。

 

 背後で小さくなっていく2人の声を聞きながら、俺は転がるように雑木林を後にした。

 

 今日という日を無かったことにしてくれ、と星に願いながら。

 

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